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ガンジス川の水は飲めても、原発の処理水は飲めるのか?〜ひろゆき氏の言い分と勘違い

2023年09月01日 11時33分44秒 | 腐った政治

 「2ちゃんねる」開設者の”ひろゆき”氏(46)が、福島第一原発処理水の海洋放出への批判について、持論を展開した。
 ”原発の処理水に<問題ないなら飲んでみろ>とか言う人は、海に流してる下水道を飲んだりする育ち方をしてるのかな?”とつづり、エスカレートする反対派の意見に反発。
 更に、”人類は人が飲めるモノ以外も川や海に垂れ流しまくりですよ。ガンジス川とか・・・”とも加え、インドのガンジス川の名前を挙げた。
 これにはフォロワーから”言われてみりゃ確かに”とか”ごもっともですね。海に流せるから人が飲める訳じゃない”とか”問題無い=飲めるという考えの人いるのか”などのコメントが相次いでいる(中日スポーツ)。


安全なら飲めるのか?

 ひろゆき氏らしいトンチの効いた発言だが、彼は根本的な所で勘違いしてると思う。
 つまり、ガンジス川の汚水と原発の汚染水を濾過した処理水は独立して考えるべきである事に、彼も彼のファンも気付いてはいない。
 これは高等数学を理解できれば何て事はないが、”無矛盾性”を”矛盾がないから正しい”と履き違えてる様なものである。つまり、”矛盾がない”と”正しい”は(異なる)独立した問題なのである。

 安全だから基準値以下だから飲めるとはいっても、元は放射線(核種)が混じった汚染水である。基準値以下と言っても、万が一大人では大丈夫だとしても、幼児では大丈夫なのか?勿論、そうでなくとも飲む人はまずいないだろうが・・
 ”安全なら飲んでみろ”という反対派の発言は極端すぎるが、麻生氏の”飲んでも何て事はない”との発言は国民への冒涜である。つまり、”安全だ”と”飲める”は全くの別次元の問題である。

 (先に述べた)汚水と汚染水の違いだが、前者は大腸菌の濃度が、後者は放射能の濃度が問題になる。勿論、(処理をして基準値以下にすれば)両者共に”海に流せるが人が飲める水じゃない”事は明らかである。
 しかし、両者共に同じ濃度だとして、どちらがより毒性が強く、より深刻な被害をもたらすかは明白であろう。つまり、大腸菌と放射能、汚水と汚染水、感染と被爆は独立して考える必要がある。

 そういう私は小学生の頃、プール開きで使う塩素消毒の塊をそのまま飲み込んだ事がある。その時は死ぬかと思ったが、その後は何ともないまま今に至る。しかし、これがトリチウム水なら今頃はどうなってたろうか?
 少なくとも、水俣病災害の様な致命的な後遺症に悩まされてたろうか。動物実験で報告される様に染色体異常や生殖器異常で一生苦しむのだろうか?
 確実なのは、(麻生氏が言う様に)安全とされる処理水を実際に飲んで健康被害を調べる事だが、(海洋放出賛成派でも)そんな危険な人体実験に参加する人なんて1人もいない筈だ。


トリチウムを減らすには

 一方で、日本政府がIAEA(国際原子力委員会)がOKだと言うんだから、”トリチウム水もOKだろう”と思った国民が多かったのではないだろうか。とても愚かな事だが、私もその1人だった。
 政府が(専門家と何年も議論して)OKと言うんだから、我ら国民はそれを信じようじゃないかと。
 しかし少し調べただけでも、私達が思う以上に危険な物質である事が明らかになっていく。

 一方で、日本はトリチウムを取り出す技術は世界でも有数のレベルにある。
 「処理水の嘘とホント」に寄せられたコメントに白金触媒を使い、トリチウム水を濃縮し、分離する技術が紹介されていた。
 ま、ひろゆき氏の言葉を否定するには、ここまで突っ込まないと国民は納得しないであろう。そこで、2015年と少し古いですが、日本原子力研究開発機構(JAEA)の資料から一部抜粋します。

 トリチウム水の濃縮に使用する触媒だが、疎水性高分子から作製されたものが世界でも過去に数例だけ開発され、日本では新型転換炉(ふげん)の重水精製に使用した実績がある。
 トリチウム水は、軽水素と水蒸気−水素間の水素同位体の交換を可能にする触媒に接触させ、減容・濃縮する。一般の触媒では、水蒸気(雰囲気)下での触媒性能が失われる為、触媒には高度な疎水性(水に溶けにくい性質)が必要となる。
 故に、トリチウム水からのトリチウム回収は、その技術的難易度が触媒開発の大きなハードルとなっていた。更に、弱い高分子から作製された従来の触媒は、放射線の影響や耐熱性の問題点があり、コストも高く付く。
 そこで新たに、触媒の元となる無機材料(セラミック)を疎水化させた後に触媒化する技術が登場した。一方で、触媒となる白金の担持量(無機材料の表面に乗せる白金の量)や無機材料の表面状態や細孔径(細かいほど白金触媒の表面積が大きくなる)など、多岐に渡るパラメータが触媒性能に大きな影響を与える事が判っている。
 そこで、トリチウムと水素の同位体を交換する効率の評価を数理モデルで行い、製造パラメータの最適化を実施し、高性能な白金触媒開発の成功に至ったという。
 こうした新たな触媒技術では、耐熱温度も従来の70度を大きく超える600度超を実現し、(触媒体積辺りの)交換効率も1.3倍に向上し、世界最高を実現。また、触媒が無機材料で出来てる為に製造コストも低減でき、大量の触媒を必要とするトリチウム回収に対しても有利とされる。但し、実用化に向けては、長期的に見た触媒の性能安定性などが当面の課題だという。
 以上は、日本原子力機構と(株)田中貴金属工業の触媒技術で、特許も請願済である。

 原理としては、ウィスキーの蒸留装置と同じである。ウイスキーの場合は発酵させてアルコールを取り出すが、トリチウム水の場合は高分子の金属(白金)触媒を使い、トリチウムを引きつける。
 しかし、従来は耐熱温度が70度と低く、すぐに触媒が焼き付いたが、600度超となると理論上は何度でも繰り返し使える。それに、元々はトリチウムを取り出して核燃料として再利用する技術だったが、今回は濃縮するだけでいい。故に、ハードルは少し低くなる。
 2015年の時点で、世界一高度な触媒技術を有してた日本の技術力の凄さには、只々脱帽するしかない。


最後に〜何を信じればいい?

 一方で、政府もこうした高度な技術を知ってながら、時代遅れの濾過システムに拘ったが故に、海洋放出という安易で安価なシステムを採用したのだろうか。勿論、セシウムやストロンチウムなど結晶化できる核種であれば、濾過システムでも対応できるが、トリチウムは結晶化しにくい。

 見方を変えれば、こうした日本の技術の裏付けがあるからこそ”海洋放出”に対しても政府は強気でいられるのだろうか。
 更に、日本のALPS(核種除去)の技術は世界でもトップクラスだという信頼もあるから、問題が起きない限りは、IAEAも黙っている。
 日本は元々技術立国である。政府や企業幹部が無能でも、技術は裏切らないし、汚職に染まる事もない。
 IAEAは日本政府や東電ではなく、こうした世界トップレベルの日本の技術に信頼を置いてるのだろう。確かに、政治や企業は嘘をつくし、すぐに腐れるけど、技術と理論は腐れないし、嘘はつかないからだ。

 少なくとも、ひろゆき氏が揶揄する様に、処理水の問題は”海に流す下水道(汚水)を飲む”レベルではないし、ガンジス川の水質汚染とトリチウム水の危険性を同じ土俵で考えるべきではない。
 勿論、そんな単純な問題でもない筈だが、”自分の糞尿は飲めても、トリチウム水だけは飲めない”という日本政府の本音がここまで聞こえてきそうだ。

 しかし悲しいかな、処理水の海洋放出は既に始まっている。中国政府は嫌がらせをしてでも、これを食い止めようとしている。
 我々に出来る事は、以上で述べた様な世界最高峰の技術が今回の処理水に施されてる事を只々祈るばかりである。
 腐った政府や無能な東電幹部を信用する事は勿論できないが、技術や理論は嘘をつかないし、裏切らない。
 いや、そう思わないと、とてもやってられない。



10 コメント

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Unknown (1948219suisen)
2023-09-01 12:23:41
政府がくさっていることや東電が嘘をつくことは残念ながら本当だと思いますが、しかし汚染水を排水する危険性については、二通りの意見があるようですね。私は未だにどちらを信じてよいかが分からずにいます。私は中国の言い分は信じられません。それはこれまでの彼の国のしてきたことを見て、そう思うのです。中国は日本の汚染水の排水を激しく責め立てますが、その後、私が知り得た情報では、中国は今回日本の排出する汚染水よりずっと濃い汚染水を既に垂れ流しているというではありませんか。それも偽情報かもしれませんが、私は今までの経緯から中国は信じられないのです。

転象さんの言われる通り汚染水がそれほど危ないものであれば、これは日本だけでなく地球全体が危うくなるということではないでしょうか?

フランスも日本よりずっと濃い汚染水を垂れ流していると聞けば、もはやこれは地球規模の問題になってくると思うのですが…。

それじゃどうすれば良いかということになりますが、われわれが電気を使わない原始的な生活に逆戻りするしかないのかもしれません。私はクーラーがないと生きていけないほどの暑がりですから死ぬしかありません。
ビコさん (象が転んだ)
2023-09-01 13:14:29
今回の件に関しては
中国の言い分も理解出来ます。
ただ、中国がフランスがもっと濃い汚染水を垂れ流してるという情報は偽善ぽく、少なくとも彼らが流してるのは処理水であって、日本はメルトダウンを引き起こした汚染水です。”濃い”という次元では、日本の方がずっと危険です。
勿論、アメリカの圧力が掛かってるのも確かですが、ここは公平に評価すべきだと思う。

反対派は、海洋放出を許せば最悪日本で取れた魚が食えなくなり、日本の漁業が壊滅状態になるだけでなく、水俣の二の舞になるのでは?という現実の恐怖から来るものです。
一方で賛成派は、全てにおいて”中国が悪い”という幼稚で安直な政治的なスタンスで、日本政府もアメリカにも都合がいい。
過去、日本は中国に対し、日清戦争でも日中戦争(満州事変を含む)でも残虐行為を犯してきました。今は逆に中国が同じ事をやろうとしてます。
故に、全てを中国のせいにすれば国民は納得すると日本政府は考えてるフシがある

ただ、日本政府が中国や日本国民に対し、正確な情報を伝えないのは、世界でもトップレベルの核種除去の技術を漏らしたくないのでは?とも勘ぐる所もあります。
中国からすれば、日本から水産物輸入を一切禁止してもダメージは殆どなく、逆に日本は大きな損害を受ける。
結局、海流放出は中国ではなく日本に跳ね返る。これは中国を批判すればする程に、過去の旧日本軍の虐殺行為が明らかにされると同じ事ですね。

つまり、世界に誇る日本の技術力で何とか乗り切ってほしい所です。が、日本の平和ボンボンな国民性からすれば、余り期待は出来ないようですが・・・
Unknown (1948219suisen)
2023-09-01 14:20:06
汚染水と言っても一筋縄ではいかないのですね。

そんな危ないものが発生する原子力発電所は元々作ってはいけなかったのですね。かと言って、需要の増えている電力を火力発電や水力発電だけに戻すことも最近の風力発電、太陽光発電に替えてしまっても解決できないのですね。

私も、もっと勉強しないといけませんが、もはやついていけません。

中国については、たしかに日本も悪いこともしたかもしれませんが、中国にしろ、韓国にしろ、北朝鮮にしろ、いつまでも補償補償とたかりすぎるのではないかと思っています。私は朝日新聞などが自虐史を国民に植え付けすぎたけれど、実際はそれほど悪いことはしていないと思いたいです。

中国も国同士ではそうですが、実際向こうの国に行くと、国民は案外親日的であったりします。

それは25年前に行った上海などでもそうでしたし、数年前に行った大連でもそうてした。
ビコさん (象が転んだ)
2023-09-01 15:18:17
アホな旧日本陸軍幹部がしでかした事ですから、どんな残虐行為をしたのかは容易に想像できますが、今になってグタグタ言われるのも腹が立ちますよね。

元々、日本の原子力発電もアメリカの圧力に屈する形で、質の悪い原発を無理やり輸入させられ、今に至ります。
原発エネルギー王国と有頂天になった日本も悪いんですが、アメリカも汚いですよね。少なくとも原爆投下は謝れと言いたいです。

ビコさんだけでなく、私ももっと勉強する必要がありますが、若い人たちもこうした問題は真剣に考えてほしいと思います。
水俣の惨劇もそうですが、起きた後じゃ遅すぎますから・・・
言われる通り、中国には親日家も多くいて、彼ら彼女らは大体において勤勉で賢いです。
そう考えると、やはり隣国中国との関係は(アメリカ以上に)大切にしたいですよね。

シリアスなテーマに敢えて付き合いくださって、こちらこそ勉強になります。
悲しい日本の未来予想図 (paulkuroneko)
2023-09-01 20:23:05
こうした事は調べれば調べるほどに
色んな事が明らかになってきます。
当時の管政権が海洋放出のプランを出してから2年以上、専門家を招いて6年以上の議論をしたと言いますが、結局は”結論ありき”の議論で終始しました。
新たな解決策を出すことをせずに、相手の顔色ばかり見ている。忖度と改ざんの繰り返しが有識者会議の中でも平然と行われる。

”既に決めたことだ”とか”上には逆らえない”とか、”昔からやってるし他の国もやってる”とかで曖昧にしてしまう。
”今だけカネだけ自分だけ”という幼稚な論理が堂々とまかり通る日本に、明るい日差しは差し込みそうにもないですね。 
paulさん (象が転んだ)
2023-09-02 01:04:48
言われる通り
”昔からやってる”とか、
”他の国もやってるから”とかが理由なら
最初から議論はいらないんですよね。
日本で議論が無駄に終わるのは、問題提起すら起きず、”結論ありき”の議論に終止するからで、そんな農耕島民に技術はあってもそれを活かす事が出来なければ、未来なんてある筈もない。
つまり、未来とは受け継ぐものではなく、新たに切り開くものなんですが、政府にはそんな気はサラサラないみたいです。
全く悲しい限りです。
ひろゆき氏 (腹打て)
2023-09-02 08:52:35
本人はユーモアを交えていったつもりだが
うっかり本質を取り違えたんだよ。
つまり、<海に流しても安全か?>という議論が<飲めるのか?>という極論に転じた。
それに<中国が反対したから日本は正しい>と決めつける。どの国が反対しようが、海洋放出の是非は別問題で、反対派と賛成派で議論の本質が異なる。

麻生が、<飲んでも問題はない>なんてこと言っちゃったから、反対派は<だったらテメエが飲んでみろ>ってなる。
それを2ちゃん風に捩ったら”汚水だって海に流されてるよ”ってなる。
事実、政府や東電幹部内でもこんなチャラけた会話がなされたんだろう。 
腹打てサン (象が転んだ)
2023-09-02 12:08:20
非常に頭の回転がいい人だけに
思わずウッカリと口にしてしまったんでしょうか。
でもガンジス川の水質汚染に関しては、沢木耕太郎さんの「深夜特急」でも詳しく紹介されてますが、これはこれで汚水の極地にあるような気もします。

汚水垂れ流しという点では、我が柳川市も負けてはいません。今は浄化水槽で処理した処理水を流してるようですが、基本的には何も変わってはいません。 
それでいて水郷の街ですから、日本は伝統的に垂れ流しが好きな民族なんでしょう。

コメントとても爽快で面白かったです。
では・・・
モニタリングか科学的根拠か (paulkuroneko)
2023-09-05 10:18:30
外務省は中国に対し、日本産水産物の全面輸入停止の即時撤廃を求める書面をWTOに提出しました。
一部メディアには興奮気味に”WTOに提訴”と書いたものもありますが、正確には”撤廃の要望書”です。
中国政府はSPS協定に基づいた緊急措置だと主張しますが、SPS協定では”安全性において科学的証拠が不十分な場合は暫定的措置をとる事ができる”と規定してます。

つまり、日本は中国政府を納得させるだけの科学的根拠を提出すればいいのですが、”処理水の安全性はモニタリングで万全を期している”と反論する。
この科学的証拠は国民にも知らされていません。政府は只々”モニタリングをしてるから安全”と繰り返すだけ。
つまり、銭湯の水質検査のようなモニタリングではなく、処理水の安全性を証明する科学的根拠をきちんと示す必要がある。

ただでさえ、台湾問題や半導体製造装置の輸出規制等で日中関係は冷え込んでます。処理水の海洋放出も含め、アメリカの圧力が掛かってるのは明らかですが、米中両国に対しても、日本の立場をきちんと説明する必要がありますね。
”アメリカありき”の議論では何もいいことはないでしょうから。
paulさん (象が転んだ)
2023-09-05 18:27:38
言われる通り
アメリカの圧力も無視できないですね。
世界有数の技術力があるんだから、もっと様々な方向から議論を重ねてほしかった。
モニタリング結果を公表するから大丈夫というのは、単純な水質検査と同じレベルです。

IAEAもアメリカの圧力に屈した形とも言えますが、日本は今や中国ではなく、アメリカに対し言うべき事はきちんというべきです。
一番の悪玉は海洋放出でも中国でも北朝鮮でもなく、アメリカかもしれません。
コメントとても勉強になります。

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