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「琥珀のまたたき」ネタバレ感想  小川 洋子

2015-10-18 | 小説・漫画他

静謐でひんやりした美しくも毒のある小川ワールド全開の小説でした。
とても良かった!最近の小川作品の中では、特に素晴らしかったと思います。
他の人には決して書けないであろう小説で、これでこそ小川さん!と思わせられました。
こういう小川さんの作品が大好物です。5つ★

今回の登場人物は、閉鎖された処で過ごす3名の姉兄弟たち。
オパール11才、琥珀8才、瑪瑙(めのう)5才の時に、別荘に籠った生活を開始した。
一般的な目で見ると、過酷で虐待されている可哀想な子供たちなのだけれど、そこにいる彼ら自身は、それが普通の事だと思って生きており、それなりにそこで楽しみを見つけて生きているんですよね。

お話は、2つの時代が交互に描かれます。
現在のお年を召されたアンバー氏(琥珀)と、施設で一緒に暮らしているらしい女性の様子と、まだ幼くて壁の中で生活していた頃のお話と。


今回は以下、全部ネタバレで書いています!!注意です!!




過去のパートは、大部分が塀の中での暮らしがほのぼのと?描かれる。
そして、終了間際になってから、その世界の崩壊が・・。

塀の外に出た後の琥珀が、その後どんな風に生きたのかは具体的には語られませんが、もう高齢になってなお、子供時代から何ら変わりない様子・・。まるで時間が止まったまま、閉じ込められた生活を懐かしむがごとく、今もママの言いつけを守り、ママを姉弟を思う気持ちは変わらない。

末っ子の瑪瑙は、天真爛漫な処もあるし、外に興味が出て羽目を外すところもあるから、新しい環境に徐々に適応する力もあったかもしれない。またオパールはすでに11才で、壁の外の世界もシッカリ記憶しており、ママのことも内心冷静に見れる目も持ち合わせていたに違いない・・。
最後まで読んで思ったのは、琥珀目線ではなく、オパール視点では、どうだっただろうか?と。
琥珀のように、ここまでまっすぐ疑問も感じずに過ごしていたのだろうか・・?琥珀や瑪瑙と違って、オパール目線だったら、かなり違った内容の小説になっていたのかもしれない。

でもなあ・・幼い子供って、こうだよ、って親や大人から言われた事が絶対で、疑わずに信じこむことがあるから・・・。
魔犬が外にいるから、小さな声で話しましょうとか、外に出ちゃいけないとか、良い子はそれをずっと守って、それが普通になってしまう・・・。ある時にそれらの方が異常な事だと知らせれても、それが普通になってしまった子供は、逆に普通の生活の方が難しくなってしまい、適応できなくなる・・。
小川さんの小説には、変わった癖や自分の中での妙なルールに縛られてしまう人がよく登場しますよね。

6年半ほど、監禁されていたわけだけれど、一番末っ子の瑪瑙はいいとして、琥珀は8才って小学校2年生ですよね?もう結構な記憶が残っているお年頃じゃないでしょうか? 8才の割には、ちょっと幼い感じがしたかもしれないですね・・・。

ママはかなりもう精神を病んでいたんでしょうね・・。
我が子を監禁するわ、ボロボロになっても小さい服を着続けさせたり、とんでもない母親ではあるのですが、図鑑のモデル(目立たない事、ありふれた風貌である)として選ばれ、パパと出会ったママ。その後も目立たない様にと気を使って日々生きている。それでも時にそんな生活に耐えられなくなった時は、飛び切りのおめかしをして舞台をやっている劇場の近くに出向いて、でも中には入らず、近くの公園に座り、特別な人オーラを出して、通りすがりの一般人から、サインを求められたり・・という勘違い行動を受けることで、精神のバランスを取っている。解らないでもないけれども・・・。

そして、途中に登場する色々な事柄が、相変わらず小川節炸裂していて、やったら可笑しく面白いんですよね。よくそんな風にアイディアが浮かぶな?っていうのが一杯あって、今回もとっても楽しかったです。
ママがつるはしを毎日しょって仕事に出掛けるって、その様子を思い浮かべただけでも可笑しいし。(大真面目なのが、またより一層)

庭の雑草のために、ロバのボイラーを定期的に借りて来る(背中に一杯荷物をのせたロバ、私も常々、可哀想だなあ・・と思っていたので、結構ツボな部分がありました)

また、図鑑をオパールが棚の左の方から順に読んでいって、琥珀は右側から読んでいって、いつかトンネルが貫通するがごとく、2人のルートが交わる瞬間^^とかね。

オリンピック競技遊び、事情遊びとか、色々な図鑑のタイトルとか・・。

そんな塀の中の、静かで安定した毎日が壊れてしまうようになった一つのきっかけが、よろずやジョーの登場でした。
奇数の水曜日に現れて、色々な品物を見せてくれる青年を、兄弟たちは楽しみに待つようになります。
特にオパールは特別で・・・、そのうち2人が良い感じになって、出て行ってしまうのも、想像がつかないでもない。
でもね、ちょっと気になるのはオパールは幼い兄弟のことを、絶対忘れてなかったと思うんですよ。凄く気にしていたと思うのに、何故オパールは兄弟に連絡をしなかったのか? 連絡を取らないわけがないと思うんですよ。それなのに無しのつぶてってことは、まさかオパールも壁の外に出た後、何らかで死んでしまっていたんではないだろうか・・?

オパールたちが出て行ってしまった日、瑪瑙もレンガの壁にはさまってしまった猫のカエサルの様子を見るために、ちょっと外に出た時に、ガスの検針のおばちゃんに目撃されてしまう。運悪く同じ日に2人の姉弟がいなくなり、一人残された琥珀。
ママがいつものように帰宅すると、子供たちがいない。やっきになってママは探し、大声をあげて名を呼ぶが、琥珀は返答しなかった。
外から呼び鈴のブザーが何度も鳴り、ママは階段の手すりで首をつって自殺してしまう。そんな時も琥珀は一人集中して、いなくなってしまった姉弟、瑪瑙とオパールをしっかりと図鑑の中の絵に残そうと、描いていたのだった。アウウウ・・・(T_T)

ところで、一番末っ子の妹が犬になめられた次の日、謎の病気で死んでしまった、というのは琥珀の記憶違いなのだろうか? でもなーお花に包まれた棺の様子まで記憶に残っているから真実なのかな。それじゃあオパールが言った、ママが末っ子を選んで差し出した、の意味はなんぞな?もしや正妻の家に養子としてあげてしまったのだろうか?とも思ったり・・・。

また小川さんの小説が楽しみです!
これからも、新刊が出るたびに、ずっと読み続けたいなーと思う、特別なお気に入りの小説家さんです^^

琥珀のまたたき 小川洋子 2015/9/10
魔犬の呪いで妹を失った三姉弟は、ママと一緒にパパが残してくれた別荘に移り住む。
そこで彼らはオパール、琥珀、瑪瑙という新しい名前になる。閉ざされた家の中、三人だけで独自に編み出した遊びに興じるなか、琥珀の左目にある異変が生じる。それはやがて、亡き妹と家族を不思議なかたちで結びつけ始めるのだが……。

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4 コメント

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こにさん☆ (latifa)
2021-05-27 15:28:33
こにさん、こんにちは!
こにさんは、久しぶりの小川さんの小説だったんですね。
本作は長編だし、小川節というか小川さんらしさが、とりわけ濃厚でしたもんね。

そういえば、私、最近小川さんの作品読んでいないなあ・・・
先日読んだのは、古い作品だったし(アンネの)。
新作をコンスタントに発表されている作家さんだから、新作出しているか、ちょっと調べてみなくちゃ。
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遅まきながら (こに)
2021-05-27 08:10:41
読みました。
ホント、よくこんなアイデアが浮かぶな、の連続でしたね。
よろずやとオパールはどうなったのかなぁ。
残される2人の弟のことは諦めたのかなぁ。色々と想像が広がりました。
でも、久しぶりの小川さんだったのもあったのか圧倒されまくりで降参。
調子の良いときに再読したいです。
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Todo23さん☆ (latifa)
2019-10-29 16:16:51
こんにちは、Todo23さん
うわ、、こんなに長い文章のをアップしていたんですね・・。
我ながら、恐ろしい・・。
グーグルで上位に出て来てたんですか?
いやー、なんかお恥ずかしいです・・。

でも、確かにこの作品は、近年の小川作品の中でも、一番な気がします!
小川さんの小説は、いつも安定していて、大好きなんですけれども。
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読みました (Todo23)
2019-10-28 14:32:13
感想を書きながら、googleでほかの人の感想を見ていたら、この記事が随分上位(1ページ目)に出てきました。うん、熱の入った感想ですね。

latifaさんが書かれている通り
>静謐でひんやりした美しくも毒のある小川ワールド全開の小説でした

小川さん、何を書いてもたいてい小川さんなのだけど(笑)、今回はより一層という気がします。
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