表紙から受けるイメージから、ほんわかした内容なのかな?って思うけれど、設定がかなりすごい。ある異国で2ヶ月間人質になった末、爆死してしまう8人の日本人が、監禁されている間に語ったお話を集めた・・という小説。そんな緊迫した状態なのにもかかわらず、語られるお話というのが、随分まったりしているんですよね・・。
3月の地震の後、この本を読むと、また色々考えさせられるというか、かなり悲惨な状況の中におかれても、冷静さを失わずに淡々と生きる傾向のある日本人・・を感じさせられるところがありました。
「中央公論」2008年9月号~2010年9月号に掲載された9つの物語
「杖」「やまびこビスケット」「B談話室」「冬眠中のヤマネ」「コンソメスープ名人」「槍投げの青年」「死んだおばあさん」「花束」「ハキリアリ」
最後の「ハキリアリ」だけは、日本人ではなく、現地の盗聴していた政府軍兵士の語りです。
どのお話も、小川洋子さんらしいお話ばかり。
私が特に大好きだったのは、なんといっても「やまびこビスケット」アルファベットの文字のビスケットを作る工場で働いている女性。ベルトコンベアから流れてくるビスケットのうち、欠けたものなどをよけるのですが、その出来損ないのビスケットへの愛情ぶりが、凄くツボでした。そしてその不良品のビスケットを持ち帰り、感じの悪いアパートの大家さんと、文字を並べて遊んで食べる・・という不思議な習慣が出来・・というのも、妙に物悲しいんですよ。
「杖」
子供の頃、近所の鉄工所で、足に怪我をした工員さんを助けようと、一生懸命杖を探す女の子。大人になって怪我をした時、夢か幻にあの工員さんが出て来て・・・
その他印象的だった短編は
「冬眠中のヤマネ」
変なぬいぐるみを売っている片目が不自由なおじいさんと親しくなったボク・・。
「B談話室」
運針、クモの巣愛好会、危機言語を救う友の会・・・など、妙な集まりに、そっと参加する。
「コンソメスープ名人」
すぐご近所に住む謎の娘さんが、死にそうなお母さんの為にスープを作るために、キッチンを貸してくれと留守番しているボクに頼んで来た。ぐちゃぐちゃの不気味な鍋から、透き通ったスープが出来る様子が素晴らしく、一度飲んでみたくなる。
「花束」
紳士服店でバイトしていたボクが辞める日、お得意さまから花束をもらった。
ボクには妹がいて、妹には溺愛している人形がいた。ボクはその人形を高い処から落とし人形はぐちゃぐちゃになって死んだとみなしていた。ある日その場所で本当にある人が飛び降り自殺をした・・。
ラストの短編「ハキリアリ」
私が7歳で、産まれて初めて目にした外国人は日本人だった。昆虫の研究者達が、ラジオを聞かせてくれないか?とお願いしてきたのだった。
日本人の人質に投影される「ハキリアリ」の姿。
「各々、自らの体には明らかに余るものを掲げながら、苦心する素振りは微塵も見せず、むしろ、平気です、どうぞご心配なく、とでもいうように進んでゆく、余所見をしたり、自慢げにしたり、誰かを出し抜いたりしようとするものはいない。これが当然の役目であると、皆がよく知っている。」
最後に語り手の職業とかのプロフィールが書かれているのがツボでした!
ああ、あの子は大きくなって、こんな職業に就いたのね・・と感慨深いんです。
4つ★半
人質の朗読会 小川 洋子 / 2011-02
妄想気分
原稿零枚日記」
「ホテル・アイリス」「まぶた」「やさしい訴え」
「カラーひよことコーヒー豆」
小川洋子の偏愛短篇箱
猫を抱いて象と泳ぐ
「偶然の祝福」「博士の本棚」感想
妊娠カレンダー、貴婦人Aの蘇生、寡黙な死骸 みだらな弔い
薬指の標本 5つ☆ +ブラフマンの埋葬
「おとぎ話の忘れ物」と、「凍りついた香り」、「海」
「ミーナの行進」「完璧な病室・冷めない紅茶」感想
小川さんの新作が出ていたんですね。
最近「密やかな結晶」を震災後に読んでいました。津波の話が出てきてとても驚いたんですが、この長編はとても静かな小川ワールドで、アンネの日記を読破された彼女らしいものでした。
彼女の作品はとても楽しみなのですが、有名な代表作はまだ読んでなかったりします。(読むのがもったいないような・・・)
そうなんですか?密やかな結晶、お読みになられていたんですね。
ブログに記事は確かアップされていらっしゃいませんでしたよね?
実は私は、アンネの日記って教科書で一部分読んだだけで、ちゃんと読んだ事がないんです。
小川さんは、アンネの日記に特別な思い入れがあるようなので、いつか読もうとは思っているんですけれど・・・。
有名な代表作
やっぱり有名になるだけあって、面白いものが多い気がします
ミーナの行進は、特に面白いですよ
お薦め有難うございまーす♪
次は「ミーナの行進」にするかアンネの日記のことも書いたエッセイ集にするか。と本屋で迷って買わずに帰ってきました。そのうち両方とも読むつもりです。
「やまびこビスケット」ではじかれたビスケットを使って、黙々とローマ字を綴る2人の姿が目に浮かんできますよね。
最後のプロフィール、それを読むと今までの物語が急にリアルになるような気がして(実際は全てフィクションなんだけど)すごく効果的だったなぁって思いました。
「密やかな結晶」のレビューアップされてなかったんですね^^
私もまだ読んでいないんですよ。
小川さんのファンではありますが、まだ全部読めてなくて、徐々に読んで行こうと思ってます。
確かに!GW中は、ご飯の用意が普段よりも多かったり、色々家族の世話?などで、日常より疲れたりもして・・
>はじかれたビスケットを使って、黙々とローマ字を綴る2人の姿
子供の頃、アルファベットの形だか、ひらがなの形をしたクッキーだか・・・があったと記憶しているんですが、やっぱり、そんな風に並べた遊んだ記憶があるんです。
でも子供の頃だと、英語の綴りなんて、全然知らなかったから、私の記憶違いかな・・。
この本、図書館で借りたんだけど読む時間なくて返してしまった(泣)。
小川さんの本って、人気でいつも予約待ち行列ができてるよ。
ほとぼりが冷めた頃に、また借りて読んでみるね。
で、この作品の表紙(カバー)、『こちらあみ子』に似てるでしょう?
調べたら、同じ作家さんの彫刻(?)作品だったわ。
私も、なんか印象的なカバーだな、、と思っていたよ。
『~あみ子』はね、ちょっと川上未映子さんちっくかな。
latifaさんどう感じられるかな~、うふふふふ。機会があったら、読んでみてね!
取り急ぎ今日はこれで。また来るね~♪
そーーーなのよ!!先日、こちらあみ子の処で、よっぽど、この小川さんの本の表紙のオブジェと似てるので・・・って書こうかと思ったんだよ。というか、今真紅さんから聞いて初めて、やっぱり同じアーティストさんだったんだ!って解って、すごくスッキリしてる。
調べようと思って、そのまんまになっちゃっていたから。ありがとうー。
時間がなくて返却しちゃったのね?残念!かなり面白かったんだけどなー。でも短編が入っているし、凄い絶対読まねばならん!って程じゃないかもしれない。
唯一人、今も生きている政府軍兵士の物語で切なさが和らぐような、余計に切なくなるような
これもまた小川さんらしい作品でしたね
そうですね・・・。出版されたのは、震災前だから、小川さんも、震災の事を意識せずに書いたのに、不思議ですね。
他のお話は、みなさんもうこの世にいらっしゃらないのに、一つだけの例外。
こういうアクセントの付け方とか、良いですよね。
私は今年読んだ本の中で、ベスト5に入る好きな小説です。