「過労死」問題を考える(上)

2010-11-12 19:30:41 | 雇用・社会保障のあり方について
「過労死」
メディアなどでもよく聞く言葉ですが、その実態とはどういったものなのでしょうか。
ここでは「過労死」の実態について紹介していきます。

■過労死とは
厚生労働省の用語によると「日常業務に比較してとくに過重な業務に就労し、明らかな過重負荷を発症前に受けたことによる脳・心臓疾患―代表的には脳出血、くも膜下出血、
脳梗塞、虚血性疾患としての心筋梗塞、心不全など―のもたらす死亡。」とされています。

また過労自殺とは、「客観的に精神障害を発症させるおそれのある業務による強い心理的負荷に起因するつよいストレスやうつ病がもたらす自殺である。」とされています。

また、労働時間において過労死ラインというものが定められていて、
「発症前1か月におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働」(時間外労働時間:1週間当たり40時間を超えて労働した時間)というものです。

行政の統計では、近年では年に320~330件の過労死の労災請求がありますが、そのうち認定件数は150件ほどです。しかし過労死には至らなくても、脳・心臓疾患の労災請求は年に1000件ほどありますし、また、実際の過労死者数も行政の統計よりもはるかに多いと考えられます。

以下では、実際に起こった過労死問題について見ていくことにします。

■「大庄」店員過労死事件
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/100525/trl1005251159003-n1.htm

これは、全国チェーンの飲食店「日本海庄や」に勤務していた24歳の男性(Aさん)が過労死した事件です。
なぜ吹上さんは過労死してしまったのか、その問題点を以下で見ていきます。

・問題点
1、長時間労働
 残業時間は平均して1カ月112時間。これは、週5日勤務とすると1日13.6時間働いていた計算になります。Aさんはおよそ9時ごろに出勤し、夜11時まで働くという生活を送っていました。通勤時間などを差し引けば、休める時間や、自分の自由に使える時間はほぼありません。過労死ラインをはるかに超えています。
 
Aさんはいつ死んでもおかしくない労働時間で働いていたことになります。もちろん本件でも労働災害として認定され、十分とは言えませんが所定の保険金が下りています。

2、契約内容
これほどの長時間労働を強いられた背景には、契約に問題がありました。

契約の内容は次のようなものでした。
「新卒者―最低支給額19万4500円
内訳基本給12万3200円,役割給7万1300円
役割給・・・予め給与に組み込まれた固定時間外手当と固定深夜勤務手当であり,設定された時間に達しなかった場合はその時間分を控除し,その時間を超えて勤務した場合は超えた実質分を残業代として支払う。
最低支給額については,時間外労働が役割給に設定された80時間に満たない場合,不足分を控除するため,本来の最低支給額は12万3200円。」(POSSE member’s blogより引用http://blog.goo.ne.jp/posse_blog/e/5df593a3c50ed3e82745faa2a49de868)

第一の問題点は、長時間労働を前提とした契約を結んでいる点です。最低19万4500円と書いておきながら、それは残業80時間を前提とした金額で、残業が80時間以下の場合その分を差し引くと書いてあります。
いつ過労死してもおかしくない残業80時間という過労死水準を、大庄は当然の前提として契約にしていたのです。

第二の問題点は契約を不明確でわかりにくくしている点です。役割給と呼ばれるものは実質残業代のことだったのです。
残業代というのは法律で払わなければいけないと決められたものですから、契約書にこのように書かなくても当然払わなければなりません。
この契約は実質「給料12万3200円」と書いているのと同じです。それを一見して給料が安いと思われないように、残業代に「役割給」という名前を付けて給料が多いかのように見せていたわけです。

基本給をもとに計算すると、時給は770円になります。当時(2007年)の最低賃金は下回っていないものの、極めて低い賃金です。

さらに、裁判所の認定によると吹上さんの就職活動時の大庄HPの求人では営業職月給19万6400円(残業代別途支給)と記載されていました。80時間以上残業しなければ残業代が出ないことや、80時間以下であれば給料が引かれることは全く書いてありません。給料の仕組みについて詳しく説明を受けたのは入社後の研修でした。

就職活動で会社の情報を集めていても、こういった労働環境の実態はなかなか見えてきません。
しかしこの件に限らず、募集要項と実際に入社する時の契約内容が違ったり、サービス残業ばかりだったり、といった労働環境の実態が確かに存在しているのです。

今、過労死をもたらすほどの長時間労働、死に至る労働環境を改善していくために、法的な規制や、しっかりとした労働組合の活動が求められています。

次回「過労死問題を考える(下)」では、長時間労働について詳しく、また外国との比較を見ていきます。

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