【問題提起】不正受給対策には専門性を持ったケースワーカーの増員を!

2013-03-09 17:22:13 | 京都POSSEの活動報告です!

昨年から、生活保護問題が注目されています。しかしメディアでは「不正受給」ばかりが問題として流布され、自治体も警察と協力してまで「不正受給」の摘発に躍起になっています。(生活保護の不正許さん!京都市と京都府警が全国初のホットラインで連携へ-msn産経ニュース

 生活保護受給者はあたかも犯罪者予備軍かのような視線が向けられ、受給者のモラルを疑うような議論が盛んに展開されています。


・「不正受給」はモラルの問題ではない

 一般的に「不正受給」といえば生活保護受給者のモラルの問題と思われがちです。しかし、実際は高校生の子どものアルバイト代など申告義務があることを認識していなかったがために申告を怠っていた等、意図的でも悪質でもない収入未申告がほとんどです。(【問題提起】「不正受給」の中身-京都POSSEブログ)
 
 私たちが記者会見で取り上げた天王寺区の案件では、本来なら生活保護制度から支給されるはずの転居費用が支給されていない(その説明すらされていない)にもかかわらず「不正受給」だとして扱われていました。(詳しくは【共同記者会見の報告】「不正受給」の実態について-京都POSSEブログ)

 以上のことから、「不正受給」を生み出す主たる原因は受給者のモラルではなく、行政の不手際や怠慢であることは明らかです。しかし、不正受給に対する行政の取り組みは、これらの実態を考慮していない的外れな政策ばかりです。


・不正受給対策?

 京都市では「適正化推進支援委員」を新たに配置しました。主な業務内容として、「市民から寄せられる不正受給通報への対応」とあり、実際に市が発行している広報紙にもその内容が掲載されています。

 同じような措置として、大阪では全国に先駆けて不正受給を取り締まる適正化チームを設け、マニュアルの作成や、警察OBを配置するなどの対応を講じています。

 適正化チームは、適正化担当・ケースワーカーOB・警察官OBの3者が1つのチームをつくって、調査活動を行っています。天王寺区の件では、区の適正化チームは居住実態の把握のために、数日間にわたる自転車の確認と、電気・ガス使用量の確認を行っていました。不正ではない状況の本人を不正と判断したのもこの適正化チームです。

 警察官OBは現在全国の94の自治体の福祉事務所に配置されていることが分かっています。

 生活保護の相談業務に従事するには社会福祉主事という資格が必要ですが、警察官OBを採用した自治体のうち8自治体でこの資格を持たずに相談に対応していたことが去年問題になりました。警察官OBの役割とは、申請に来た生活困窮者を相談の場で威圧して追い返すことでしょう。2008年には大阪府豊中市で警察官OBの職員が,生活保護の支給が遅れていることについて抗議をした被保護者に対し、「虫けら」「ヤカラ(理不尽な要求をするチンピラなどタチの悪い人物を意味する関西弁)」等の暴言を発言して問題になりました。この件を受けて大阪弁護士会から、二度と同様の人格権侵害が生じないようにすることと、社会福祉主事でない警察官OBが現業を行わないことを求める人権救済の勧告が発せられました。

 このような問題があるにもかかわらず、国は警察OBを雇用した自治体に対しその人件費を全額助成するなどして、積極的に警察OBの窓口配置を推進しています。

 これでは生活保護の不正受給件数削減に取り組んでいるというよりは、むしろ必要な受給件数そのものを「不正」に削減しようとしているように思えます。


・ケースワーカーの疲弊

 以上みてきたように、不正受給対策として警察OBの配置が国の補助金によって推進されています。

 しかし一方で近年の公的財政支出削減や民営化、それらを後押しする世間の公務員バッシングの影響で自治体職員の数は減らされる傾向にあります。そのため本来生活保護の業務を担当するケースワーカー(以下CW)は疲弊しています。『世界』5月号に掲載されていた藤田和恵さんの『ルポ 非正規雇用』では次のように紹介されています。

 申請相談や家庭訪問などでストレスも多いCWだが、大阪市保護課によると、現在、市内CWの約980人のうち、約280人は三年契約の任期付職員だ。フルタイムで月の手取りは13万円ほど、仕事の内容は正規社員とまったく同じだという。

 これに対し、任期付CWのエミさん(42歳、仮名)が反論する。「同じどころじゃないですよ。正規の担当は7、80件ですが、私は100件近く受け持っていますから」


 このように、現在CWが不安定な労働条件の下、人員不足であるために過大な業務量を受け持っています。これではとても増え続ける生活保護の各案件を適切に対応するのは困難でしょう。


・警察OBではなく、専門性を持ったCWの増員を!

 生活保護受給者の多くは高齢者、障碍者、シングルマザーや精神疾患を抱える方など、日本では社会的に困難な立場に置かれてしまいがちな人々です。そのため、生活保護の業務を適切に運営するために本来CWには高い専門性が要求されます。

 先に「不正受給」の多くは意図的でも悪質でもない収入未申告であり、不正受給の主たる原因は行政の不手際や怠慢であると述べましたが、低賃金、過密労働の上に細切れ雇用では、CWとしての専門性を発揮するのには限界があります。

 「不正」受給をなくすためには、CWがきめ細やかなケースワークの中で,世帯主のみならず世帯員全員に収入の申告義務があることを被保護者に十分に理解させるなど、それぞれのケースに対して時間をかけて対応することが不可欠です。そのためにも不安定な労働条件の改善を行い、受給者の増加に見合ったCWの増員を図ることこそが必要に思われます。これが十分になされれば、「不正受給」件数は減少するはずです。


最後に

 冒頭で行政は「不正受給」探しばかりに躍起になっていると述べましたが、不正受給は金額ベースで0.4%しかありません。一方で、捕捉率はたった1割程度しかなく、翻せば生活困窮者の9割が生活保護の制度にたどり着くことなく貧困のまま放置されていることになります。行政は困窮者を生活保護につなぐことこそ早急に取り組むべきでしょう。

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