新歓ブログ第4弾:ブラック企業を支える構造

2013-10-04 00:32:32 | 京都POSSEの活動報告です!

新歓ブログ第4弾
ブラック企業を支える構造


1.はじめに
 ブラック企業の存在は大きな社会問題になってきています。9月からは厚生労働省も調査に乗り出しています。ブラック企業の大量採用・大量離職を繰り返し、利益だけを追い求め、人材を使い潰す行為は非難されるべきです。その一方で、意識的にも無意識的にもブラック企業を支えているアクターも存在します。

 今回は、就職活動・奨学金・ブラック士業から、ブラック企業を支える構造を考えていきます。


2.就職活動
 日本の学生の就職活動は「職」についての評価というより、「コミュニケーション能力」や「協調性」、「積極性」など、曖昧で抽象的な能力が基準になっています。「自由」に、全人格を賭した競争活動が何の規制もなく行われます。また、応募方法もインターネット等で自由に行われるため、最初は人気企業に応募が殺到します。これに落選した学生が中小企業、ブラック企業へとシフトしていきます。

 2011年にPOSSEが行った調査では、就活生は金銭や時間の負担だけではなく、心理的負担も大きいことがわかりました。
まず、金銭的な負担についてですが、就職活動に必要な費用を多くの学生はアルバイト代から捻出しているようです。さらに、全体の15%の学生は奨学金をその費用に充てていました。また、就職活動に有利なようにと資格取得を目指し、100万円以上をつぎ込むケースも存在します。

 次に時間的な負担があります。就活が始まると、企業の面接や説明会を優先するため、学業に支障をきたします。28%の学生が10回以上も授業を休んでいるようです。アルバイトもシフトを減らしたり、辞めたりという影響が出てしまい、金銭的な負担に繋がります。

 労力の負担も大きいものとなっています。ESを一枚書くのも大変な作業です。自分自身を見つめなおして、「自己アピール」をしなければなりません。そのため不採用のとき、学生は自分自身の全てを否定されるという経験をします。何十、何百という選考を繰り返すことにより、次第に不当な労働条件も受け入れる精神改造がなされていきます。「自分が就職活動を失敗した」から「ブラック企業でも仕方がない」と思ってしまう労働者は少なくありません。

 さらに、心理的な負担として、就活生の7人に1人が就職活動中にうつ病と診断される精神状態を経験していました。就職先が見つからないことに対する不安だけではなく、自己の評価基準もわからないまま自分を見失う事態もあります。
 
 また、学生が高望みしているため、中小企業やブラック企業に「マッチング」していないという議論があります。若者が初めから中小企業を選ばないのが悪いのでしょうか。実際には人格競争の末に「マッチング」していると言えます。初めから不当な労働条件で納得できる人はほぼいないでしょう。就職活動を経ることによって、中小企業やブラック企業に入る「心構え」が叩き込まれることが、「マッチング」の実態です。

 自己否定を繰り返し、どんな労働条件でも受け入れることになってしまう就職活動は、ブラック企業を支えている一因ではないでしょうか。


3.奨学金
 「ブラック企業はさっさと辞めてしまえばよいのではないか」と思うことも少なくないでしょう。しかし、実際には辞めにくいことがあります。その理由として、再就職先への不安や雇用保険の乏しさ等もありますが、奨学金も辞められない理由の1つです。

 日本学生支援機構の奨学金の多くは有利子です。親からの仕送りが見込めない場合は更にアルバイトをすることになりますが、前述の就職活動時には、シフトを減らさざるを得ません。そのような状況にも拘らず、スーツ代や交通費など、就職活動の費用は嵩みます。就職できたとしても、新入社員には重い経済負担が圧し掛かります。

 また、奨学金は返済猶予を得ることが大変難しくなっています。その上、返済しなければ、「ブラックリスト化」という厳しいペナルティが待っています。「ブラックリスト」に入れられてしまうと、クレジットカードやローンが使えなくなってしまいます。このようなペナルティを付されてしまうと、返す見込みの少ない低所得の家庭ほど借りにくくなり、返せる見込みのある者だけのものになります。

 このような状況の中、ブラック企業に入ってしまった場合、簡単に辞められるのでしょうか。返済を少しでも怠れば「ブラックリスト」に入ってしまうかもしれません。「返済しなければならない」ように付されたペナルティにより、奨学金は若者がブラック企業から逃れられないような構造を支え、ブラック企業を支援していることになります。


4.ブラック士業
 POSSEでは、ブラック企業の労務管理に関与している法律家を「ブラック士業」と呼んでいます。ブラック企業を擁護し、労使紛争に加担する弁護士や社会保険労務士などを総称しています。パターンは2つあります。

 1つは弁護士や社労士自身がブラック企業の言いなりになっているケースです。彼らはブラック企業の労務管理に積極的に加担し、違法あるいは脱法的な方法を指南します。また、ブラック企業を辞めようとしたり、会社に責任を取らせようとした労働者に対し、脅し行為に加担することもあります。パワハラに耐えかねて退職した人に「突然辞めた」ことを理由に弁護士事務所から損害賠償を求める手紙が届いたことや、残業代を請求したところ弁護士に「請求を取り下げるように」と脅されたことも労働相談活動で報告されています。このようなブラック士業は、ブラック企業の利益を守るためならなんでもする、という法律家たちであり、ブラック企業を支えています。

 もう1つは、弁護士や社労士自身が会社にとっても不利益を与えるような法律家です。この場合、彼らにとって労使紛争は1つのビジネスチャンスです。パターンとして特徴的なのは、とにかく物事を先延ばしにすることです。企業に対し、残業代の請求は裁判を起こされるまで無視し、労働組合との労使交渉もできるだけ先延ばしにし、労働者が諦めるのを待つようにとアドバイスしてきます。しかし、このようなアドバイスは、企業にとっても損害となります。本来であれば労働者の請求通りに残業代を払えば済みましたが、それに加えて、裁判費用を払うことになります。このようなアドバイスをするブラック士業は、タイムチャージ制(実際の作業時間で課金される方式)を採用していると考えられます。つまり、裁判が長くなればなるほど、弁護士費用が多くなる仕組みです。このパターンのブラック士業の目的は、会社の利益を守るのではなく、自分自身に多額の利益が出るようにすることです。労働者にとっては争いが不必要に長期化するので、生活の見通しが不安定になるなど、大きな影響を受けてしまいます。


5.おわりに
 以上のように、ブラック企業を支えているアクターは様々です。今回紹介したアクターだけではなく、ブラック企業を支えているアクターはまだまだ存在します。ブラック企業が蔓延している中で、ブラック企業を無くすためには、このようなブラック企業を支えている構造にも着目し、一つ一つ解きほぐすように全体的な取り組みが必要です。

 もっと知りたい、もっと考えたいという方は、労働・貧困問題研究会へおこしください!
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参考文献
川村遼平「就活に追い詰められる学生たち―就活生の7人に1人がうつ状態―」(2011)『POSSE』10:9-18
POSSE編集部「15分でわかるブラック企業の共犯者たち」(2013)『POSSE』19:118-123

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○NPO法人POSSEとは
POSSEは若者の労働・貧困問題に取り組むNPO法人です。2006年に設立し、現在は東京・京都・仙台の全国3か所に事務所を構えています。会員は 約250人で、10~20代の学生・社会人を中心に運営中。活動内容は幅広く、年間約1000件におよぶ労働相談への対応のほか、調査活動、被災地での復興支援、政策研究、生活困窮に関する生活相談などに取り組んでいます。活動の内容についてもっと詳しく知りたい方はPOSSEのHPにて色々と紹介していますのでぜひご覧ください。
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