『POSSE vol.18』 田畑博邦「海外に学ぶ労働時間規制」

2013-05-15 17:09:06 | 雇用・社会保障のあり方について

 ブラック企業問題や過労死問題の中心には、日本の労働者が極めて長時間の労働を強いられている現実があります。なぜ日本では、命や健康、そして人間らしい生活を脅かすような長時間労働が蔓延しているのでしょうか。他の国でもこうした状況は同様なのかと思えば、どうもそうではないようです。

 雑誌『POSSE vol.18』[特集:ブラック企業対策会議]では、「海外に学ぶ労働時間規制」と題して、東京大学名誉教授・田畑博邦先生にお話を伺っています。海外における労働時間の現状とこれに関する法制度との比較を通して、日本の問題点とその改善策を探る内容となっています。以下、要旨をまとめた上でレビューしたいと思います。


◆海外の労働時間の現状と労働時間規制
 労働時間ならびに労働時間規制を国際比較すると、特にヨーロッパ大陸諸国(代表としてドイツ、フランス)は、日本とは大きく異なる特徴をみせています。

 まずは労働時間について。統計によると、日本の年数総労働時間はフルタイム労働者で平均約1972時間で、ヨーロッパ諸国と比べるとかなり多く、ドイツ、フランスとは実質的には400~600時間くらいの差があるということです。

 そして労働時間を規制する仕組みとして、ドイツでは労働組合が大きな役割を果たしています。ドイツをはじめとするヨーロッパでは、労働組合は産業別に組織され、こうした組合の交渉の結果として産業別の労働協約が締結されます。この労働協約によって、労働時間の上限が規定されており、大体どの業種も週40時間に決まっているということです。

 これに対してフランスでは、大体週40時間程度と、法律制度による規制がなされています。

 もっともこれらの仕組みについては、近年のグローバリゼーションやネオリベラリズムという世界的な流れを背景に、規制緩和が進んでいる側面もあります。しかし、ドイツの労働協約、フランスの法律制度は、依然、規制緩和の大きな歯止めとなっているといえます。
 
 また、EU指令では「休息時間」についての規定が存在します。これは、仕事が終わってから次の始業まで11時間は空けなければならない、それから週に24時間の休息を与えなければならないというものです。そして、有給休暇については、ドイツ、フランスなどではほとんど5週間と長期にわたって確保されます。

 これらの国における労働時間規制の大きなポイントは、労働条件を企業間競争の手段にはしないという考え方がベースにある点です。つまり、労働者の生活、健康、安全は競争以前の話であって、公正な基準としてどの企業も守らなければならないと考えられているのです。ここでは企業間競争とは、独自の技術開発やサービス等、いわば本来の経営の能力によって行うものだということです。また労働者側も、まずは人間としての生活を送ることが第一で、仕事はその糧という意識を持っています。会社のために生活を犠牲にするという発想はありえません。こうしたことから、ヨーロッパの国々では過労死は基本的には存在しないのです。

◆日本の長時間労働の背景
 日本では、法律・制度的に時間外労働の上限基準が設定されていないため、使用者は、協定さえ結べばいくらでも労働時間を延長することができます。

 また、労働組合は企業別組合が中心のため、時間短縮をすることが難しい構造になっています。すなわち、同業のライバル企業がいる状態では、競争力が落ちるおそれがあるため自分の所だけ労働時間を短縮するわけにはいかない、という横並びの発想に陥るからです。こうして、労働側の勢力は、同じ産業の中でも企業別に分断されてしまい、ヨーロッパに比すると非常に弱いものになってしまうのです。

 日本のこのような仕組みのもとでは、労働者の生活条件や労働条件が、コスト削減の対象として企業間競争の一要素に取り込まれているといえます。

◆日本における労働時間規制の手段
 労働組合による交渉によって労働時間を短縮・規制することは非常に可能性が低いため、もっとも有効なのは法律によって規制を強化する道です。

 具体的には、�時間外労働の上限基準を一日または週単位で設定すること、�休息時間を導入すること、�有給休暇の期間を増やしこれを確実に取ることができるようにすること。これが労働時間規制の3つの柱となります。

 また、こうした法による規制と併せて、これが守られているかどうかをチェックする仕組みが存在することが不可欠です。これを担うのは、労働組合、労基署、そして司法が考えられますが、監視力・解決力のいずれも、日本はヨーロッパの制度や現状にかなり劣後しているのが現実です。これら諸国に学び、チェック機能の強化が求められます。


 以上、簡単に記事の要旨を記しました。海外と日本が、労働時間についてここまで大きく異なっていることをどう捉えたらよいでしょうか。

 労働は人間の人生において大きな位置を占める営みであり、生活の糧や社会的意義を得られるというプラスの面がある一方で、劣悪な労働条件のもとでは命や心身の健康、生活自体を脅かされる危険をはらんでいます。これら生命や健康、人間らしい生活といった価値は、市場原理や自由競争という名のもとの果てしない切り下げ合戦にさらすべき性質のものではなく、個人に絶対的に保障されるべきものであるはずです。むしろ国家はこれらの価値を守るために、労働条件の切り下げに法律によって規制をかけるべきです。

 このような考えをベースとしたヨーロッパ諸国の労働時間規制に日本が学ぶべき点は多く、私たちは無法地帯と化しているわが国の労働時間にまつわる特異性を認識し、労働時間の短縮と規制の制定を求めて国や社会に働きかけていく必要があると思いました。
(京都POSSE ボランティアスタッフN)

____________________________________________________
○NPO法人POSSEとは
POSSEは若者の労働・貧困問題に取り組むNPO法人です。2006年に設立し、現在は東京・京都・仙台の全国3か所に事務所を構えています。会員は 約250人で、10~20代の学生・社会人を中心に運営中。活動内容は幅広く、年間約400件におよぶ労働相談への対応のほか、調査活動、被災地での復興支援、政策研究、生活困窮に関する生活相談などに取り組んでいます。活動の内容についてもっと詳しく知りたい方はPOSSEのHPにて色々と紹介していますのでぜひご覧ください。
http://www.npoposse.jp/

また、仙台で行っている復興支援活動のためにご寄付を受け付けております。皆様のご協力よろしくお願いいたします。
http://www.npoposse.jp/kifu/kifu.html
____________________________________________________
○NPO法人POSSE
所在地:東京都世田谷区北沢4-17-15ローゼンハイム下北沢201号
TEL:03-6699-9359
FAX:03-6699-9374
E-mail:info@npoposse.jp
HP:http://www.npoposse.jp/

○NPO法人POSSE 京都支部(京都POSSE)
所在地:京都市東山区花見小路通古門前上る巽町450番地 東山いきいき市民活動センター内
TEL:075-541-9760
FAX:075-541-9761
E-mail:kyoto@npoposse.jp
Blog:http://blog.goo.ne.jp/kyotoposse

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。