【新刊紹介】藤田孝典『ひとりも殺させない』を紹介します

2013-04-12 13:23:45 | 雇用・社会保障のあり方について

 本書は生活困窮者の支援を第一線から実践し続けている著者が、自ら見届けてきた「死」と、「自立」の具体例をもとにしながら、生活保護バッシングに対抗し、新しい生活保護・社会福祉のあり方を提言している一冊です。


 「生活保護バッシング」により、「扶養義務の強化」や「生活保護基準の切り下げ」が国の議論で出てくるようになりました。しかし、「扶養義務の強化」は家族の絆を破壊し、「生活保護基準の切り下げ」は国民全体の生活を苦しめることになります。

 本書ではある一人暮らしの60代の女性のケースが紹介されています。彼女はがんを患ってしまい、治療費が嵩みます。たちまち生活が困窮し、生活保護を受給しようとしましたが、申請を拒まれてしまいました。その理由は、彼女には仲のいい妹がいたからです。窓口の職員は「妹の旦那さんに頼ってくれ」と一言投げて、追い返してしまいました。

 しかし、妹夫婦も決して豊かな生活ではありませんでした。妹夫婦は彼女のお願いに「治療費を払い、生活の面倒を見ることはできない。」と答え、さらには支援しなければいけないなら、姉妹の縁を切る。」と彼女に言ったようです。それまで精神的な支えになっていた姉妹の絆が、金銭的な支えの話により断たれてしまいました。

 その後、著者のもとに相談に行き、著者らが生活保護の窓口に同行しました。「扶養義務をそんなに広く捉えるべきではない。精神的な支えになっているだけで十分じゃないか」という話をし、結果として彼女は生活保護を受給できることになりましたが、妹夫婦との関係修復には時間がかかっているようです。

 扶養義務を原則とするならば、姉妹の愛が足りない等、妹夫婦が非難されるかもしれません。しかし、がんの治療費や生活の面倒を高齢の妹夫婦が負担するのは、本当にあるべき親族の姿なのか、と筆者は問いかけています。それから、生活保護を受給している人の中には、DVから逃げてきた人や虐待を受けていた人もいます。かつて自分を追い詰めていた人から支援してもらうことが果たして可能でしょうか。こうした問題がある中で、扶養義務の強化は意味があることとは思えません。


 また、生活保護基準を切り下げると、連動して多くの社会保障の基準が引き下げられます。ほとんどの自治体は減免措置制度を、生活保護を基準に作っているからです。最低賃金も生活保護制度を基準に作られているので、最低賃金も切り下げられます。こうした状況は「ブラック企業」を支援する事にもなります。

 本書に書かれているような貧困の問題に立ち向かう為に、著者は「ソーシャルアクションなき支援はいらない」と言っています。「『ソーシャルアクション』とは、現場の支援だけでなく、社会に対する社会変革を連動させて、一緒にやっていくことです。」(167頁)現場の支援も重要ですが、現行制度では限界があるので、社会変革にも取り組む必要があります。

 本書は多くの方に読んでほしい一冊ですが、とりわけ学生など若者に読んでほしいと思います。あたかも「生活保護は悪」というかのような報道に疑問を持つ方や、奨学金問題など生きづらさを感じている方がいるかもしれません。また、卒業後に就職しても、ブラック企業や過労死の可能性もあります。「ふつう」に生活するために何が必要か、どうしたら「ふつう」に生きられる社会になるのか、考えられる契機になる一冊です。
 

 また、貧困の現場をなんとかしたいと思っている方・困っている人を助けたいと思う方は、POSSEで活動してみませんか?下記の連絡先にご連絡を頂けたら、個別にスタッフが対応し、POSSEの説明会をします。是非、お気軽にご連絡ください。お待ちしています。

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POSSEは若者の労働・貧困問題に取り組むNPO法人です。2006年に設立し、現在は東京・京都・仙台の全国3か所に事務所を構えています。会員は 約250人で、10~20代の学生・社会人を中心に運営中。活動内容は幅広く、年間約400件におよぶ労働相談への対応のほか、調査活動、被災地での復興支援、政策研究、生活困窮に関する生活相談などに取り組んでいます。活動の内容についてもっと詳しく知りたい方はPOSSEのHPにて色々と紹介していますのでぜひご覧ください。
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