外国人研修・技能実習制度を考える

2010-08-27 22:30:45 | 雇用・社会保障のあり方について
外国人研修・技能実習制度について、京都POSSEで考えてみたことを報告します。

この制度についての内容を説明する前に、こんな記事が報道されたことをお伝えしたい。

●急死の中国人実習生、労災初認定 「長時間労働が原因」 2010年7月2日 朝日新聞
http://www.asahi.com/national/update/0702/TKY201007020562.html

この労災認定と事実認定は、一般的な労災認定としての意義だけではなく、外国人研修・実習制度を考える上で重要な意味をもった。

それを理解してもらうためにもこの制度の概要と問題点を説明しておこう。

外国人研修制度
研修を通じて技術移転を行うことによって、開発途上国における人材育成に貢献することを目的として創設された制度。研修の対象となる業務は「修得しようとする技術・技能等が同一の作業の反復(単純作業)のみによって修得できるものではないもの、とされている。「研修」の在留資格が必要。労働法上の「労働者」に該当しない。(後述もするが、今は制度が変わり、労働者扱いされるようになっている)現地企業が単独で(企業単独型)、または中小企業団体など(団体監理型)が受け入れる。

技能実習制度
従来の研修制度を拡充させるために創設された。研修成果の評価等をうけて研修終了後に同一企業において雇用関係のもとに実地される。実習可能職種は62種(114作業)で実習期間は当初1年間だったが後に最大二年間に延長され、研修期間と合わせて最大三年間の在留が可能になった。「労働者」に該当し、労働法の適用を受ける。

研修生・実習生たちの現状
研修生の新規入国は07年には約10.2万人に及び、研修生・技能実習生を合わせると約20万人が国内で働いている。研修生の受け入れは団体監理型が圧倒的に多く、受け入れている企業は従業員数が1~19人と規模が小さい企業に集中している。研修生から技能実習生への移行も増加傾向で、07年には約5.4万人である。また、従業員数が20人以下の企業での移行が全体の5割を超え、より零細な企業が技能実習生を利用している。

以上のことが制度の大まかな概要である。この制度を活用している外国人たちは数々の問題を抱えている。いくらかを箇条書きで挙げると、

・毎日労働時間10時間以上、休日は年間でひと桁などの労働環境
・スキルアップにつながらない単純労働に従事させられている→本来禁止
・賃金の未払い→時間外手当がない場合やあっても最賃以下という扱いが横行
・手当や賃金の不当な差し引→「管理費」や「積立貯金」で差し引かれ、手取りはわずか
(例:研修手当は7万円。そこから強制貯金3万円、寮の家賃2万5千円、光熱費5千円が引かれ、手取りが1万円)

とこのような制度の意義の無視や奴隷に近い働かせ方が行われている。実態は「労働者」だが制度上は労働者に当たらない研修生だけでなく、実態も制度上も「労働者」なのに技能実習生たちもこのような環境に置かれていることは往々にしてある。

また、これらの企業による人権を無視した違法行為はなかなか表に出てこない。なぜなら企業側が様々な手段を使い、巧みに隠蔽されているからだ。例を挙げると、以下のことが行われている。

・パスポートの取り上げ
・強制「積立貯金」と、それの通帳、印鑑の取り上げ
・第三者との接触を断つため制約を設ける(携帯電話所持禁止、電話使用禁止など)

これでは自由に動くことなどできない。また、その中でもなんとか抵抗しようとする研修生たちもいるのだが、脅しなどが効かないとなると企業の問題を訴えた研修生たちを強制的に帰国させるなどの強硬手段も企業側は行ってくる。こうして企業側は違法状態を継続してきた。

また、これら企業に対してチェック機関もあるにはある。財団法人国際研修協力機構(通称JITCO)というのがそれだが、この機関は研修生らにとってあまり役には立っていないと思われる。企業への巡回という役割があるが、企業の隠ぺい工作はほとんど見抜けていない。この機能の強化が毎年指摘され続けている事実がその証明である。また、ガイドブックやパンフレットの発行という啓発活動はしているが、使用者側にまず渡しているため、研修生たちに届いていない現状も報告されている。これでは公益法人の役目をきっちり果たしているとはいえないのではないだろうか。


そしてこの制度の本来の役割である国際貢献の技術移転が機能していないことに触れておく。それは、この制度の運用が実質的には中小企業の労働者不足に対応するための短期労働者政策になってしまっているからである。90年代前半の深刻な労働力不足があり。それに対応できるように規制緩和が行われ、直接の労働力として使われるようになってしまっている。

上に述べてきたように、この制度は様々な問題を抱えている。しかしここで一番伝えたいことは、外国人研修生・技能実習生たちが「人間」として扱われていないということだ。研修生は制度上では確かに「労働者」ではない、だからといっていま日本で最低限とされている基準以下で酷使していいわけではないはずだ。技能実習生になった場合でも最低限が守られていない実態もある。しかもただ労働者的な面だけでなく、私生活まで介入し、人権を無視した扱いや、使い捨ても行われている。彼・彼女たちにも権利は認められなくてはならない。そして今回一番上に載せた労災認定の記事は、過労死レベルでの労働がなされていることを認め、彼・彼女らにも権利が認められることをようやく社会的に認めたという記事だった。また、今年の7月から入管法が変わり、この制度も改正されている。
(法務省入国管理局HP http://www.immi-moj.go.jp/newimmiact/newimmiact.html
これにより「研修生」という資格がなくなり、早い時期から労働法の適用が行われるようになったが、効果のほどはまだまだ未知数である。

日本に来る外国人研修生らは多くの問題を抱えていることを知ってもらえたと思う。しかし彼・彼女たちだけがこのような問題を抱えているわけではなく、日本人労働者たちも共通するような問題を抱えている。しかもそれは時に労働者を死に追い詰める。これは景気が回復すればどうにかなる問題ではない。自分たちが苦しまずに生きていけるようにするためには、人間が人間らしく働いて生きていけるような社会を、自分たちで考えていかなければならないだろう。

参考文献・参考資料
外国人研修生 時給300円の労働者 揺れる人権と労働基準 外国人研修生権利ネットワーク
外国人研修生 時給300円の労働者2 使い捨てを許さない社会へ   〃
山陽新聞地域ニュース「社説」2010年7月4日
http://www.sanyo.oni.co.jp/news_s/news/d/2010070409451186/
西日本新聞「社説」2010年8月2日
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/188306
外国人研修生問題弁護士連絡会HP 研修中も「労働」認定 中日新聞2009年3月19日
http://nagoya.cool.ne.jp/kenbenren/yokkaichi.jpg

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