母子家庭の貧困をめぐる最近のニュース~京都地裁の判決から厚労省の研究会まで~

2009-12-19 09:22:40 | 雇用・社会保障のあり方について
●働いている母子家庭のほうが貧しいから母子加算廃止?

今週14日、京都地裁で生活保護に関する裁判の判決がありました。
老齢加算と母子加算の減額・廃止は生存権を保障した憲法25条や生活保護法に違反するとして、京都市と城陽市に処分取り消しを求めた裁判でしたが、原告の請求は棄却されました。

民主党政権下で母子加算は12月から復活こそしましたが、今後また削減されることを防ぐためにも、こうした裁判の意義は重要になるはずです。
しかし、この判決では、母子加算が廃止された根拠として「子どもが1~2人の場合、母子加算を除いた生活保護費は、所得が下位60%の働いている母子家庭の消費支出額より高いか均衡」という厚労省の報告書があげられていることについて、「不合理ではない」とされたとのことです。

ここでまず問題にするべきなのは、生活保護を受給している母子家庭と、受給せずに働いている母子家庭とを比較していることではないでしょうか。

11月の厚労省の発表であったように、日本では07年の一人親の相対的貧困率が54%ということで、過半数を切っています。OECDの2000年代半ばを対象としたデータでも、OECD加盟30国(平均30.8%)の中で日本の一人親世帯の貧困率は加盟国中最悪の58.7%です。
相対的貧困率自体はいろいろ限界もあるのですが、この数字から、日本では母子家庭であることじたいがそもそも貧困であると言えるのではないでしょうか。シングルマザーは就職したとしても、多くの場合その仕事自体が低賃金であるなど労働条件が悪く、ワーキングプアが多いということです。

ですから、働いている母子家庭よりより生活保護受給者の消費支出が高くなるのであれば、そもそも最低賃金を切り上げるなりして労働条件のほうを改善するべきであって、生活保護を切り下げるのは見当違いでしょう。


●生活保護を受ける母子家庭が特殊なのか?

この問題についてさらに話を進めてみたいと思います。
こうした母子家庭の貧困については、厚生労働省では、11日にナショナルミニマム研究会が発足しています。厚労省で生活保護を受ける母子家庭の生活実態調査を実施しており、その報告がなされました。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r985200000033ax.html
この研究会には、雑誌『POSSE』にも登場していただいた岩田正美さんや雨宮処凛さんも参加されています。

この「生活保護を受ける母子家庭の生活実態調査」というところにはやや疑問があります。
この説明には「母子世帯の生活扶助基準の妥当性を検証するため」の調査であり、「消費支出に重点を置いた懸賞だけでなく、生活実態に着目することにより、母子世帯特有のニーズの有無を検証する」とあり、生活保護を受給している母子世帯の母親の「こころの状態」、健康状態や子どもの健康状態などについて調べています。

もちろん、現在保護を受給している母子家庭のほうがより生活や就労に困難な事情を抱えているという実態はあるでしょう。しかし、そもそも母子家庭の貧困について問題にすべきなのは、病気であってもなくても貧困である母子家庭の労働や生活の実態であり、生活保護受給者個人の特殊性を調べることではないと思います。(配布資料3として前述の相対的貧困率の数字も出ているのですが…)


●生活保護の「就労支援員6倍」は評価できるのか?

このように、母子家庭が働ける仕事の中身が重要であるはずですが、そこが曖昧なまま、生活保護の就職支援を充実していこうという動きもあります。

12日に長妻厚労大臣が、事業仕分けの結果を受けて、生活保護の就労支援員の増員を6倍(約500人から約3000人)にするという発言をしていました。もちろん、福祉事務所の人員はただでさえ不足しており、それが生活保護の受給を難しくしているというのは事実です。
しかし、就労支援に携わる事務員の増加と言われると、評価はまだ難しいところです。公的な職業訓練制度の紹介など、労働条件のしっかりとした仕事に就くためのサポートをしてくれるのなら評価できます。しかし、生活保護受給者に、劣悪な仕事でもいいから就職を迫って受給を打ち切らせようとする労働を強制するワークフェアの政策になってしまう可能性もあります。

日本では女性、特にシングルマザーで正社員になることは非常に難しい状態です。本来は正社員でも非正規でも均等待遇を導入すべきであり、最低賃金の引き上げも含めて、非正規の労働条件を引き上げる必要があります。しかし現状では非正規、特に子どもを一人で育てながら安心して働ける仕事は多くないため、そうした仕事に対する就労支援をしても、やはり根本的な限界があります。


●就労だけでなく、生活に必要な公共サービスの無償化の保障を

さらに、就労の強制だけでなく、子育ての出費が増大するという動きすらあります。
母子加算復活の一方で、その財源確保のために生活保護から高校就学費、学習支援費が廃止するという案も財務省から提案されています。
高校就学費は生活保護費から高校の入学料・授業料・通学費・教材代・PTA会費などを支給される制度で、約1万5千円が支給されています。学習支援費は家庭学習やクラブ活動を使途として小学生2560円、中学生4330円、高校生5010円が支給されています。これらが削減されてしまうと、生活保護受給者の母子家庭における教育のための出費が増えてしまうことになります。

もちろん、高校就学費、学習支援費に関しては当面廃止すべきではないと思います。ただ本来は、来年度から高校無償化は導入されますが、そもそも授業料だけではなく、教育に関する出費すべてを無償にしていく必要があるのではないでしょうか。文科省の調査では、授業料以外の教材費や学校活動費は学校教育費の約6~7割を占めているそうです。OECDの調査でも、加盟国の中で日本がもっとも教育費が高額だそうです。

こうした教育をはじめてとして、医療、介護、介護などの公的サービスの無償化、右図(前述の研究会の相対的貧困率についての配布資料より)で言うところの現物給付という問題は、相対的貧困率の限界の一つでもあります。相対的貧困率は、「可処分所得」のみが対称のため、現物支給については含まれません。
そして、これは母子家庭の貧困、引いては現在の日本で露呈されている貧困の大きな原因の一つでもあります。

この「現物給付」が大きければ、相対的貧困率がたとえ高くても、つまり可処分所得が少なくても何とか生活できるはずです。
ところが、日本では可処分所得が低いうえに、現物給付も多くはありません。OECD諸国の中でも公共サービスに対する行政の支出はかなり低いほうです。相対的貧困率でわかる以上に貧困な生活を送らざるを得ない状態なのです。

これには、日本では大企業の正社員に与えられる企業福利に依存していたため、行政が現物給付の公共サービスを少なく抑制してきたという背景があります。
非正規雇用の労働条件の低さと福祉国家の不足。いずれも「企業主義社会」に端を発する問題ですが、これこそが大企業の正社員にもなれず、その扶養家族からも外れてしまったシングルマザーの世帯の貧困の原因でもあります。
そして、企業主義社会が崩れる中で、これまでならその枠組みに入れたはずの世帯までもが貧困に陥るようになってしまっているわけです。

正社員にしても非正規雇用にしても、労働条件がしっかりとした仕事が見つかるまでは、生活保護、あるいは失業手当なり第二のセーフティネットが十分に機能しなければいけないし、誰に対しても最低限必要な公共サービスは無償で与えられるようにする必要があるということ。
これが、生活保護を考えていくときに大前提のポイントになるのではないでしょうか。


最後に生活保護に関連して一曲紹介します。雑誌『POSSE Vol.5』の「ゼロ年代の労働歌50選」でも紹介しているヒップホップです。

「ホントなら生活保護確定で どうみたってよそより貧乏」

K DUB SHINE「今なら」


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