宇治市の生活保護誓約書事件にみるケースワーカーのパワハラ問題

2012-03-14 10:07:03 | 京都の雇用・社会保障ニュース

POSSEでは労働相談だけではなく、生活保護関係の相談も受け付けています。

昨日報じられた、宇治市の行政による生活保護の不正運用事件では、私たちに寄せられている「ケースワーカーによる受給者へのパワハラ」の相談でもよく見かける手法が用いられていました。今回はこのニュースを題材に、生活保護のパワハラ問題について考えてみたいと思います。


〈事件の概要〉
京都府宇治市が生活保護の申請者に対し、母子世帯には異性と生活することを禁じたり、妊娠出産した場合は生活保護打ち切りを強いる誓約書に署名させていたことがわかりました。市は人権を侵害する不当な内容として職員を処分する方針で、関係者に謝罪するとしています。
(参考:京都新聞テレビ朝日

報道によると、誓約書はA4判3枚つづり(写真参照)で、署名させたケースは少なくとも今年2件確認されています。今年の1月と3月に、高齢夫婦と母子家庭の女性に対し、生活支援課の30代の男性ケースワーカーがこの誓約書を示して署名・押印させました。

誓約書は、約束を守れないと保護打ち切りの判断を担当者に一任するとの趣旨で、「受給中はぜいたくや無駄遣いをせず、社会的モラルを守り、節度ある生活をすることを誓う」「生活保護費削減のため、子供の養育費を獲得することを誓う」などと私生活に踏み込んだ約束を強いる内容です。

また、生活保護の再支給や治療費について「認められない」との誤った説明をしてそれを確認させたり、市が相談記録を他機関に提出することを強いているほか、外国籍の人らに「日本語を話せないのは自己責任。日本語が分からないから仕事が見つからないなどの言い逃れは認められない」との差別的な記述もあったようです。

この誓約書はケースワーカーの男性が個人的に作成したものとされています。市は生活保護を申請する際に誓約書の提出は求めておらず、ケースワーカーは「不正受給を防ごうと思って作った」と説明しているそうです。

西村公男宇治市生活支援課長は「不適切な内容で、誓約書に効力はない。関係者に謝罪するとともに、職員には人権尊重と市民の気持ちに配慮した業務徹底を指導したい」と話しています。また厚生労働省は「口頭での指導はあり得るが、誓約書をとるのは行き過ぎ」とコメントしています。

〈ケースワーカーによるパワハラ〉

ケースワーカーは「不正受給を防ごうと思って作った」と言っていますが、妊娠や生活保護法に定められた医療扶助を受け取ることも不正受給に入るという見解なのでしょうか。この誓約書の内容は端的に生活保護法やその実施要綱に反しており、不正な行為です。このような行為は、法律から逸脱した内容の指導を権力関係を背景に脱法的に実行している点で、ケースワーカーによるパワハラと言えます。

今回の件で気になるのは、厚生労働省が「口頭での指導はあり得る」としていることです。誓約書を書かせたことはもちろん問題ですが、そもそも上記の内容を口頭で指導していたとしても問題の本質は変わらないはずです。生活保護行政のトップがこのようなコメントをしている背景には、すでにこのようなパワハラがそれほど珍しいものではなくなっていることがあるのではないかと危惧してしまいます。

というのは、POSSEに寄せられた相談やいくつかの報道からも、ケースワーカーや就労支援係によるパワハラが今回の事件に限ったものではないことが分かるからです。POSSE発行の雑誌『POSSE vol.14』では、「生活保護受給者の就労支援を妨げるケースワーカーのパワハラ問題」というルポでこのような問題についてまとめています。ルポに挙げたいくつものPOSSEへの相談事例からは、数人のケースワーカーや市職員の言動が問題だというよりは、生活保護の申請に対する行政全体の姿勢に問題があることが見えてきます。

たとえばPOSSEに寄せられた相談では、「就労支援に従い、異議申し立てをしない。違反があった場合は保護を打ち切ることに同意する」という内容の書類にサインすることを命じられ、就労支援係に「ブラック企業」を紹介された方や、子供を孤児院に入れるなら受給してもよいという「指導」を受けた千葉県のシングルファザーの方がいます。東日本大震災の被災地からは、義援金を「収入」とみなされ、生活保護を打ち切られたというケースも複数みています。

また最近のニュースでは、京都市で反物に手書きで柄をつける仕事をしながら生活保護を受給している男性に対して市が収入倍増という不可能なノルマを課し、達成できなかったことを理由に保護を打ち切るという事件も報じられています。

〈問題の背景と課題〉
このようなパワハラの背景には、生活保護受給者を減らしたい行政の意図があります。窓口で生活保護の申請を抑制する「水際作戦」もその意図によるものです。申請前の「水際作戦」にも、申請後のケースワーカーによるパワハラにも、生活保護法で保障されている受給者の様々な権利をうそをついて隠したり、受給者の私生活に口出しをしたり、国籍で差別をしたりといった手法がよく用いられています。

そして、自治体にお金がないという理由で、法律を破っている・人権を侵害しているという事実がいとも簡単に容認されてしまっています。とくに京都府は生活保護率が20%近くあり、全国的にも有数の高さとなっていることが行政の不正な対応の背景にあるのかもしれません。

しかし、生活保護は打ち切られれば生きていけなくなるものです。財政のためだからといって、このような対応は正当化できません。生活保護法の実施要領には「申請権の侵害を疑われるような行為は慎むこと」と定められています。
また生活保護法の第27条にも、指導は本人の意思に反せず必要最小限のものに留める必要があると書かれています。生活保護を一度受給してしまえばブラックボックスに入ったように社会からその実態が見えなくなってしまっています。

今回紹介した事件も含め、全国規模での実態解明と、きちんとした改善を行う必要があるのではないでしょうか。


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