2月23日(水) 新興プランテック裁判の意義!

2011-02-28 11:35:33 | 京都POSSEの活動報告です!
過労自殺、国を賠償提訴 遺族「月200時間の残業協定は違法」
http://p.tl/WtXY 2011/2/23 日本経済新聞

月に最大200時間の残業を認めた労使間協定と、それを受理した労働基準監督署の対応は違法だとして、過労自殺した男性(当時24)の遺族が22日、国と会社に約1億3千万円の賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。原告側弁護士によると、民間企業での過労自殺を巡って国の行政責任を問う訴訟は初という。

 訴状によると、男性は2007年にプラント補修大手の新興プランテックに入社し、補修工事の監督などを担当。同社は組合と「納期が切迫すれば時間外労働を月200時間まで延長できる」との協定を結んでおり、男性は08年7月には残業時間が月218時間に達し、同8月に精神障害を発症。同11月に自殺した。千葉労基署は10年9月に労災認定した。

 労働基準法は時間外労働を延長する場合、労使間協定を労基署に届け出ることを義務付けている。延長は原則月45時間までだが、建設業など一部業種には上限を設けない「例外規定」がある。

 原告側の川人博弁護士は「月200時間という残業協定は異常で、例外規定自体も違法の疑いが強い。事後に労災を認めてお金を払えばいいという問題ではない」と主張。会社側に是正を求めないまま協定を受理した労基署の責任を問うとともに、訴訟を通じて労働行政の改善を求める考えを強調した。

 千葉労働基準監督署の話 訴えの内容を把握しておらず、コメントできない。

 新興プランテックの話 訴状が届いてから内容を検討したい。



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さて、本件から特に重要だと思われるポイントは以下の2点にまとめられるであろう。

○論点
【1】「特別条項」を使うことで、「過労死ライン」を超えた「36協定」を運用している
【2】その36協定を運用している企業の責任を追求しただけでなく、それを受理した労働基準監督署の責任も追求した

【1】「特別条項」を使うことで、「過労死ライン」を超えた「36協定」を運用
〇「36協定」とは?
 労働基準法では、原則として労働者の労働時間は1日8時間、1週間に40時間までと定めています。この法定労働時間を超え、さらに労働してもらう時(主には残業してもらう時)・法定休日に労働してもらう時などは、従業員の過半数代表者又は労働組合の同意を得、その内容を「時間外労働・休日労働に関する協定」(労働基準法36条をもとにしているため、通称「36協定」と言っています。)をし、「時間外労働・休日労働に関する協定届」を労働基準監督署に提出しておかなければなりません。ただし、厚生労働省の告示で、原則はその時間外労働も月45時間、年間360時間以内にするようにと定められています。月45時間だったら、一日2時間くらいの残業です。

〇「過労死ライン」とは?
 そして、次に「過労死ライン」とは、労働基準監督署が脳出血や心筋梗塞(こうそく)などによる過労死を労災認定する際の基準として、厚生労働省が2001年に定めた時間外労働時間のことです。発症前の1~6カ月間に時間外労働が1カ月あたり約45時間を超える場合は業務と発症との関連性が徐々に強まるとされています。発症前1カ月間に約100時間、または発症前2~6カ月間に1カ月あたり約80時間を超える時間外労働があった場合は「業務と発症との関連性が強い」としています。


つまり、まず本件に関しては、会社と結んでいる36協定自体が、月45時間どころか、1ヶ月の過労死ラインである100時間を2倍ほどオーバーしているという異常なものだと言うことです。

そのような36協定が「合法的に」認められているのはなぜなのでしょうか?それは、36協定には「特別条項」というものを定めることができるからです。これは「特別な事情」のあるときは、告示の限度時間を超えた時間外労働をさせることを可能にするというものです。

〇36協定に定める「特別条項」とは?
 特別条項付き36協定を締結するためには、限度時間を超えて労働時間を延長しなければならない「特別の事情」が生じることが必要になります。平成16年4月1日より、「特別の事情」は「臨時的なものに限る」ことが明確にされました。
 
 基準は次の通りです。
①「臨時的なもの」とは、一時的又は突発的に、時間外労働を行わせる必要のあるものであり、全体として1年の半分を超えないことが見込まれるものを指すことになります。また、「特別の事情」についてできる限り詳細に協定を行い、届け出る必要があります。
 従って、具体的な理由を挙げずに、「業務の都合上必要なとき」又は「業務上やむを得ないとき」と定める等、恒常的な長時間労働を招く恐れがあるもの等については、「臨時的なもの」とは認められません。


②「特別の事情」は、「臨時的なものに限る」ことを徹底する趣旨から、特別条項付き36協定には、1日を超え3箇月以内の一定期間について、原則となる延長時間(36協定で定める労働時間の延長の限度)を超え、特別延長時間まで労働時間を延長することができる回数を協定するものとし、この回数については、特定の労働者について特別条項付き36協定の適用が1年のうち半分を超えないものとします。
 また、労働基準監督署の窓口では、提出された協定に回数の定めがない場合には、「特別の事情」が「臨時的なもの」であることが協定上明らかである場合を除き、限度基準に適合しないものとして必要な助言及び指導の対象となります。



このように、特別条項とは、あくまで「特別」のはずなのです。
しかし、企業の中にはこの「特別な事情」について具体的に定めていなかったり、特別条項なのにそれが恒常化しているという実態があります。このような内容、実態の下での特別条項は本来無効と言えるでしょう。
本件に関しましては、その具体的な36協定の内容というのは記事からだけでは判断できませんが、今後どのような内容であったのか見ていく必要があります。

しかし、そのような36協定が合法的に認められ、実際には運用されている、このようなことがなぜ許されているのでしょうか?
それは、労働行政がそのような36協定を受け入れているからにほかなりません。


【2】そのような36協定を運用している企業の責任を追求しただけでなく、それを受理した労働基準監督署の責任も追求
 このような厚生労働省の定める「過労死ライン」を2倍ほど超えた36協定をなぜ労働基準監督署が受け入れたのか、その責任を問うたというのが、本件の画期的な部分です。

一昨年の4月段階で、日本経団連会長・副会長の出身の企業は全16社あったのですが、そのうち13社で「過労死ライン」である月80時間以上の時間外労働を認める「特別条項」付36協定を定めていました。

このような働かせ方というのは、ひとえに国がそれを認めている故にできることなのです。

年々過労死・過労自殺の問題は深刻さを増していっています。
このような「異常な働き方」をいかに今の社会からなくしていくのか、その1つの鍵はやはり「労働時間規制」と言えるでしょう。
今後この裁判がどのような経過を辿っていくのか、注視していきたいと思います。


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