この番組は2006年に放送されたものです。1981年の厚生省による生活保護適正化の通知以降、生活保護の在り方が一変しました。
福祉事務所職員は保護の相談の段階から、資産や働く能力、肉親の経済状況を徹底的に聞き出し、申請を受け付けない対応を強めています。
当番組ではその“適正化”により保護を受けさせてもらえない、または打ち切られた人々の実情が紹介されています。
◆ 退院したら即保護廃止の日常化
京都市在住、当時38歳の男性が餓死するという事件がありました。
男性は九州の高校を卒業後1人で上京し、サラリーマンとして働いていましたが、その後失業しました。収入は途絶え食べることにも事欠くようになり、脱水症状を起こして一時入院。入院先では生活保護を受けることができましたが、退院後保護は打ち切られ、その2か月後餓死した姿で発見されました。
退院後の男性は、後遺症が残っており働けない状態でした。また実家も生活苦で頼ることができませんでした。
この男性のケースに限らず、退院後働けるからという理由で保護を打ち切る対応が日常的に行われていると当番組はいいます。
今更なる支給の厳正化が政策的に進められようとしています。
こうした政治の動きを、不正受給者がいるせいで“本当に必要としている人”に保護がわたらなくなるという主張が支えている現状もあります。
しかし上記のように、働けない状態であっても保護が打ち切られる現状は、生活保護が「気軽に・簡単にもらえる制度」であるかのような一般的な印象とは大きく隔たっています。現に、生活保護のうち不正受給率は件数で1.6%、金額で0.4%(厚生労働省の把握しているデータ)である一方で、最低生活費以下の収入の世帯のうち、生活保護を受けれている世帯は1割~2割と言われています。
番組では入院費を支払えない程困窮していた人が、退院後生活の安定も得られていない状態で保護費が打ち切られる事例も詳細されていました。
これも厳しすぎる(というよりもむしろ不正な)制度運営だといえます。
適正化が進められるほど、“本当に必要としている人”の受給が実質的に制限されてしまうことになっているのではないでしょうか。
◆ 社会保障の運営問題と生活保護
もうひとつの事例は、以前は畳工場の職人でしたが、怪我による入院がきっかけで解雇された65歳男性の場合です。
男性はその後かなりの低収入状態での生活を続けていますが、市役所に行っても、もう何十年も会っていない息子を頼れと言われるだけで、生活保護の申請をさせてもらえません。男性は国民健康保険料を収入の不足から滞納しており、保険証が取り上げられ病院に行くこともできません。
この男性に限らず、低所得者が消費生活への支出で手いっぱいになり、税金や年金、医療保険料の支払いを後回しにせざるを得ないという事態が増えつつあります。
保険証を取り上げられた者は、病院の窓口で医療費の全額を支払わなければならず、後に自治体の窓口で後払いされます。
後払いされるといっても、保険料が支払えないほど追いつめられている人が、一時的でも医療費を全額支払える場合は少ないといえます。
社会保険は保険料を納めている人が加入し運営するものであるという主張から、未納者の保険証を取り上げる運営がなされています。
しかし日本では本来皆保険が約束されているはずであり、そのような運営は普遍的な医療保障の放棄です。
このように防貧の役割を果たす社会保障さえ、最低限の保障を果たすことができない状態にあります。
そのような中、生活保護受給の厳正化を進めても、結局自分たちの最低生活基準をさらに引き下げているに過ぎません。
本来適正化を求めなければならないのは、社会保険料さえ支払えない程に引き下げられている、最低賃金の低さや不安定な労働条件ではないでしょうか。