『生活保護「ヤミの北九州方式を糾す 国のモデルとしての棄民政策 』書評

2012-06-26 18:10:57 | 京都POSSEの活動報告です!
藤藪貴治、尾藤廣喜 著『生活保護「ヤミの北九州方式を糾す 国のモデルとしての棄民政策 』

本書は北九州市における生活保護の実態と、行政による生活保護制度の違法な運用のあり方を告発した良書である。今回は、本書のなかにいくつもある事例の中でも特に衝撃的だった事件について紹介したい。

◆「オニギリ食べたい」
小倉北福祉事務所で生活保護を受給していた小倉北区在住の男性が2007年4月に辞退届を提出したとして生活保護が廃止され、その3ヶ月後の7月10日に餓死状態で発見された。残された日記には「オニギリ食べたい」「働けないのに働けと言われた」と記されていたという。何故このような痛ましい事件が起こってしまったのだろうか。

男性はタクシーの運転手として生計を立てていたがアルコール性肝障害や糖尿病、高血圧を患っていたため仕事も休みがちになり退職に追 い込まれる。通院するお金も無い状態で電気・ガス・水道は止まり生活困窮状態に陥ったので、小倉北福祉事務所を訪れ生活保護の申請をした。家庭訪問で面接主査によって「急迫状態である」と判断され生活保護受給が開始された。しかし、生活保護申請後の調査の一環である検診の結果に「軽作業可」と記載されていたため男性は生活保護を受けてまだ1ヶ月で通院中にもかかわらず、就労活動をすることがケースワーカーより義務付けられたのである。

またケースワーカーが男性の主治医から聞き取ったとされる男性の病状に関する記載には「主治医は男性は普通に働けると診断した」としている。この「病状調査」によって小倉北福祉事務所の就労指導は厳しさを増し男性を追い詰め ていく。ケースワーカーは「熱心な求職活動を行わなければ文書指示を行い、保護の停廃止もありうる」という言葉まで用いて強力な就労指導をしている。
しかし、この「病状調査」は実際は主治医が「働ける」と主張してもいない診断の結果として改ざんの疑いが大きな問題となった。

そして男性が書いた日記の「せっかく頑張ろうと思った矢先切りやがった。生活保護困窮者ははよ死ねってことか」「書かされ、印まで押させ、自立指どうしたんか」という記述はケースワーカーから「辞退届を書かせられた」ことを解すると著者は示す。さらに辞退届の提出日であった4月2日は保護費支給日であり、4月10日までの保護費と引き換えの辞退届の提出であった疑いも指摘される 。



これらの問題についてまず、ケースワーカーが男性に対して強力な就労指導を行ったことは男性の自由を尊重せず男性の意に反して指導や指示を強制したとして違法な行為とされる。

また、生活保護廃止は原則として就職や生活保護費以上の収入の安定など客観的に保護の必要が無いと判断されるときのみであるため、ケースワーカーに促されて提出した辞退届は違法であり過去には辞退届の強制提出は無効であると判決された広島高裁判決(石崎生活保護裁判)の判例もある。


◆餓死者を出し続ける殺人的行政
この事件だけではなく、北九州市では過去40年間で生活保護行政での餓死・自殺事件が無数に発生している。市当 局は「生活保護の濫給、漏給を防ぐことを念頭に置いている適正に保護をしてきた結果であり個人のケースワーカーのレベルではなくシステムとして粛々と取り組んだ結果であると考えている」と自信たっぷりに答えるのである。この発言から市が「保護してきた結果」というのは生活困窮者に対してではなく、保護費という金であるように思われる。


北九州市の生活保護行政がこれだけ過酷にもかかわらず自治体は否を認めない理由には本書の題名にある「ヤミの北九州方式」と呼ばれる、国の「指導」の下に北九州市が40年かけて造り上げたシステムがある。国が進めた製鉄業の不況による失業者が増大し、保護率が全国平均の約4倍半という驚くべき高率を示したため、旧厚 生省からの天下り幹部達が生活保護の切り捨てを進め、福祉の世界にあってはならない「数値目標」で職員のノルマ設定をしたのだった。極端に保護率の低下した北九州市は国から第三次適正化の「モデル福祉事務所」として高く評価された。


生活保護に対するバッシングが多く存在する現代で、放っておけば生活困窮者が餓死に追い込まれる「北九州方式」が全国に拡大し、それが「当たり前」になってしまう恐れは十分にある。先日起きた舞鶴市の生活保護の水際作戦も「われわれ」の問題として真剣に取り組まなければ北九州市のような問題に発展するだろう。すべての人々がこの問題に向き合うためにもこの本を読むことを薦める。



◆書誌情報
藤藪貴治、尾藤廣喜 著『生活保護「ヤミの北九州方式を糾す 国のモデルとしての棄民政策 』
出版社:あけび書房
出版年月日:2007年7月
ISBN-10:4871540758
ISBN-13:978-4871540759
ページ数:237ページ
定価 :1680円(税込)


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