マイケル・ムーア監督「シッコ」

「華氏９１１」で有名なマイケル・ムーア監督の最新作「シッコ」
を観ました。とても面白くて、実力を感じる映画でした！！

少しネタばれかもしれませんが、たぶん多少ネタばれな
感想読んで行っても十二分に楽しめる映画だと思います。

医療保険会社や製薬会社が儲けて、貧しい人は十分な医療が
受けられないというアメリカの医療の矛盾点を描く映画だろうなと
なんとなく思っていましたが、軽妙洒脱ながら、もっと
奥行きのある映画でした。

医療保険会社から病院受診の指図を待っているうちに
手遅れになってしまったり、検査や治療を拒否されるという
事例がぞくぞくと出てくる中、国民皆保険の制度にすると
それが端緒となって悪しき社会主義国になっていくという
被害妄想のようなアメリカ人意識が痛烈に批判されます。

でも、ムーア監督自身、困った時、助け合うという保険の制度は
どうしても信じられないという意識も最初は持っています。
そんな彼が皆保険制度を持つカナダ、イギリス、フランスへと
ルポに回り、どこかに矛盾を暴き出そうとして回る姿が
コミカルに描き出され、ついには、「アメリカ政府がフランスを
悪く言うのは、フランス人がこんな豊かな生活をしているのを
アメリカ人に知られないようにするため」という結論に至ったり
するのです。おきまりのパターンかもしれませんが、アメリカの
生命保険会社などからは政治家に多額の献金が渡っているという
批判もしっかりとなされます。

全編にわたってチャップリンの「モダンタイムズ」を
彷彿とさせるような映画でもありました。医療だけでなく、
「民主主義とは何なのか」という点もアメリカとフランスの
対比の中でユーモアを交えて描かれます。

もちろん、各国の事情の中には極端に描かれ過ぎているところも
あるように感じますが、これぐらい誇張しても誇張とは言えない
現実の矛盾がアメリカにはあるのでしょう。

そして、たぶん、最も寒々とした気持ちになるのは、
ムーア監督の批判の内容は、長寿国ではあるものの本当の豊かさから
ほど遠い状況にある日本人にそのまま向かってくる点です。
医療にしても、生活環境にしても・・・。