ヘタリアでトルコが良い!と書いたら、何とトルコを代表するノーベル賞作家、オルハン・パムクの講演会が15日木曜日、青山学院大学で開催されました。
正直、偶然にびびっております。神様も中々粋な計らいをしますね。
開始が午後4時半という微妙な時間だったので早退しましたよ。だってノーベル賞作家、この機会を逃したら、次はいつになるか分からない。
会場は青学正門横に位置する総研ビルの12階の大会議室。聴講者は120人ほどで、研究生、日本在住のトルコ人、外国人、あるいは新聞告知を見てやってきた人など
多彩でした。でも概して、ちょっとひと癖ありそうな人が多かったです。
講演は二部構成で行われました。
第一部はパムクの「最も政治的な作品」とされる長編、「雪」執筆時に行ったグルジア国境近くの町、カルスでの滞在時についての製作ノートの朗読。パムク自らがトルコ語で読み上げ、日本朗読文化協会の方が翻訳を読み上げ、時折パムクの英語注釈が入りました。
通訳機も無料で貸し出されていましたが、パムクの英語は各単語をはっきりと区切るような話し方で、分かりやすかったです。
正直申し上げると、「雪」は未読なのですが、この製作ノート、資料として配布されていたのですが、非常に流麗で雄弁な文体で、パムクがカルスの街で見た人々の屈託なさと発散される世間への不満、街を取り巻く空気の冷たさ、当時(2002年2月)の様相(政治家の汚職のニュース、それまで無かった『政治的イスラーム活動』の陰。)、そして執筆上で、自分の中に出来上がった物語をつむぎだす上でカルスの街の姿を一部なりとも改変してしまった罪悪感、それでもなお小説家としての己の姿勢に忠実であろうとする、平たく言えば頑固な姿勢などが淡々とつづられていました。
ついでに言いますと、上の文体がすでにパムクの猿真似しています。あそこまで綺麗に書けるわけもありませんが、延々と描写が続く長い文章なのですよ。いや、難しい・・・。
そして後半は、国際交流基金理事長司会のもと、作家の辻井喬氏との「対話」。引き続き「雪」に関して、作品から伺えるパムク氏の姿勢、影響を受けた作家との関連性について語ってくれました。
どーしても日本語による質問は、その言語性から枝葉が増えてグダグダしがち(『雪』にはドストエフスキーにも通じるものがあるが、それについてどうなのか?とかとか…)なのですが、パムク氏の返答はシンプルかつストレート。質問を一刀両断していました(ドストエフスキーは好きな作家だから影響があるのは当然。)
そうした中で繰り返し語っていたのが彼の「小説家」という定義でした。たとえ第三者がいかに見ようとも、小説家は基本的に政治問題に追う所は無く、ただ、人の感情を認識し、表すこと、そしてあらゆる社会の声を聞き、社会層を区別して明確化し、その存在を認識して、形にすること。これを繰り返し語っていました。おそらく、事あるごとにトルコ政権側との関係を取り沙汰されるのでうんざりしているのでしょう。
(実際、2005年にトルコ近代史の最大のタブー、「アルメニア人問題」に言及したことで、共和国側から、国家侮辱罪に問われています。その後罪状は取り下げられましたが、未だに緊張は続いています。)
トルコはオスマン帝国時代以降、紆余曲折を経て現在の国家体制を作り上げてきましたが、軍部による民主化、時としては不合理な排斥も辞さない政教分離政策は今、分岐点を迎えています。
ケマル・アタテュルクの成した事には大きな価値があったと思いますが、行き過ぎた神格化(初代大統領の悪い暴露話は法律で厳禁らしいですよ。)は逆に彼の功績を損なうものになるかもしれません。EU加盟問題、クルド人勢力と課題は山積みです。
パムクはそれでもトルコの未来を信じると言い切ります。悲観的になればいくらでも出来るけれど、現に彼の本はまずトルコで出版されていますし、彼もイスタンブルに住んでいます。ついでに、いつかEUに加盟して欲しいそうです。今はムリでも、いつかは。
ただ、それでも小説とその作家の国を結びつける作業ばかりに没頭してほしくないと釘を刺すことを忘れていませんでした。
また、彼はトルコと共通する日本の作家として谷崎潤一郎を例にとり、初期は西洋偏重だった谷崎が源氏物語の訳、及び「陰影礼賛」に行きついた過程を、西洋の衝撃を受けた東洋の過程として語っていたのが印象的でした。
もっとも、調子に乗って「『源氏物語』とパムク氏の著作との根底には共通するものがありますね!」と言い切った辻氏に対して「近代文学はフローベールら以降、150年で進化したもので、『源氏物語』は『アラビアン・ナイト』と同様、古代叙事詩のようなものだから、ここで論じるものではないですよ。」ときっぱり言い切ってくださいましたが
そんな感じであっという間の2時間半でした。
最後は本にサインもいただけてありがたかったです。
とりあえず、「雪」読みます、たぶん。
正直、偶然にびびっております。神様も中々粋な計らいをしますね。
開始が午後4時半という微妙な時間だったので早退しましたよ。だってノーベル賞作家、この機会を逃したら、次はいつになるか分からない。
会場は青学正門横に位置する総研ビルの12階の大会議室。聴講者は120人ほどで、研究生、日本在住のトルコ人、外国人、あるいは新聞告知を見てやってきた人など
多彩でした。でも概して、ちょっとひと癖ありそうな人が多かったです。
講演は二部構成で行われました。
第一部はパムクの「最も政治的な作品」とされる長編、「雪」執筆時に行ったグルジア国境近くの町、カルスでの滞在時についての製作ノートの朗読。パムク自らがトルコ語で読み上げ、日本朗読文化協会の方が翻訳を読み上げ、時折パムクの英語注釈が入りました。
通訳機も無料で貸し出されていましたが、パムクの英語は各単語をはっきりと区切るような話し方で、分かりやすかったです。
正直申し上げると、「雪」は未読なのですが、この製作ノート、資料として配布されていたのですが、非常に流麗で雄弁な文体で、パムクがカルスの街で見た人々の屈託なさと発散される世間への不満、街を取り巻く空気の冷たさ、当時(2002年2月)の様相(政治家の汚職のニュース、それまで無かった『政治的イスラーム活動』の陰。)、そして執筆上で、自分の中に出来上がった物語をつむぎだす上でカルスの街の姿を一部なりとも改変してしまった罪悪感、それでもなお小説家としての己の姿勢に忠実であろうとする、平たく言えば頑固な姿勢などが淡々とつづられていました。
ついでに言いますと、上の文体がすでにパムクの猿真似しています。あそこまで綺麗に書けるわけもありませんが、延々と描写が続く長い文章なのですよ。いや、難しい・・・。
そして後半は、国際交流基金理事長司会のもと、作家の辻井喬氏との「対話」。引き続き「雪」に関して、作品から伺えるパムク氏の姿勢、影響を受けた作家との関連性について語ってくれました。
どーしても日本語による質問は、その言語性から枝葉が増えてグダグダしがち(『雪』にはドストエフスキーにも通じるものがあるが、それについてどうなのか?とかとか…)なのですが、パムク氏の返答はシンプルかつストレート。質問を一刀両断していました(ドストエフスキーは好きな作家だから影響があるのは当然。)
そうした中で繰り返し語っていたのが彼の「小説家」という定義でした。たとえ第三者がいかに見ようとも、小説家は基本的に政治問題に追う所は無く、ただ、人の感情を認識し、表すこと、そしてあらゆる社会の声を聞き、社会層を区別して明確化し、その存在を認識して、形にすること。これを繰り返し語っていました。おそらく、事あるごとにトルコ政権側との関係を取り沙汰されるのでうんざりしているのでしょう。
(実際、2005年にトルコ近代史の最大のタブー、「アルメニア人問題」に言及したことで、共和国側から、国家侮辱罪に問われています。その後罪状は取り下げられましたが、未だに緊張は続いています。)
トルコはオスマン帝国時代以降、紆余曲折を経て現在の国家体制を作り上げてきましたが、軍部による民主化、時としては不合理な排斥も辞さない政教分離政策は今、分岐点を迎えています。
ケマル・アタテュルクの成した事には大きな価値があったと思いますが、行き過ぎた神格化(初代大統領の悪い暴露話は法律で厳禁らしいですよ。)は逆に彼の功績を損なうものになるかもしれません。EU加盟問題、クルド人勢力と課題は山積みです。
パムクはそれでもトルコの未来を信じると言い切ります。悲観的になればいくらでも出来るけれど、現に彼の本はまずトルコで出版されていますし、彼もイスタンブルに住んでいます。ついでに、いつかEUに加盟して欲しいそうです。今はムリでも、いつかは。
ただ、それでも小説とその作家の国を結びつける作業ばかりに没頭してほしくないと釘を刺すことを忘れていませんでした。
また、彼はトルコと共通する日本の作家として谷崎潤一郎を例にとり、初期は西洋偏重だった谷崎が源氏物語の訳、及び「陰影礼賛」に行きついた過程を、西洋の衝撃を受けた東洋の過程として語っていたのが印象的でした。
もっとも、調子に乗って「『源氏物語』とパムク氏の著作との根底には共通するものがありますね!」と言い切った辻氏に対して「近代文学はフローベールら以降、150年で進化したもので、『源氏物語』は『アラビアン・ナイト』と同様、古代叙事詩のようなものだから、ここで論じるものではないですよ。」ときっぱり言い切ってくださいましたが
そんな感じであっという間の2時間半でした。
最後は本にサインもいただけてありがたかったです。
とりあえず、「雪」読みます、たぶん。
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