とね日記

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物理学者のすごい思考法: 橋本幸士

2021年02月20日 17時12分21秒 | 物理学、数学
物理学者のすごい思考法: 橋本幸士」(Kindle版

内容紹介:
物理学者の頭のなかは、どうなっているの?
物理学者は研究だけでなく、日常生活でも独自の視点でものごとを考える。著者の「物理学的思考法」の矛先は、日々の身近な問題へと向けられた。
通勤やスーパーマーケットでの最適ルート。ギョーザの適切な作り方、エスカレーターの安全性、調理可能な料理の数…。
超ひも理論、素粒子論という物理学の最先端を研究する著者は、何を考えて学者になったのか? レゴを愛し、迷路づくりに勤しむ少年時代。数学の才能の無さに絶望し、物理学の面白さに開眼した大学時代。思考に集中すると他のことが目に入らず、奇人扱いされる研究者人生…。
超ひも理論、素粒子論という物理学の最先端を研究する学者の発想は、日常をまさに異次元のものにしてしまう。
面白く読み進めながら物理学の本質に迫る、スーパー科学エッセイ。

2021年2月5日刊行、224ページ。

著者について:
橋本幸士(はしもと こうじ)
HP: http://kabuto.phys.sci.osaka-u.ac.jp/~koji/welcome.html
Twitter: @hashimotostring
大阪大学大学院理学研究科教授。1973年生まれ、大阪育ち。専門は理論物理学、超ひも理論、素粒子論。1995年京都大学理学部卒業、2000年京都大学院理学研究科修了、理学博士。東京大学、理化学研究所などを経て現職。著書に『超ひも理論をパパに習ってみた』『「宇宙のすべてを支配する数式」をパパに習ってみた』、共著に『ディープランニングと物理学』(すべて講談社)など。


理数系書籍のレビュー記事は本書で451冊目。

絶賛発売中の人気本の紹介記事。一般の人には想像ができない理論物理学という超難解な研究を仕事にしている人が書いた本であるにもかかわらず、今日現在Amazonでは総合部門で229位という人気ぶりである。



気軽に読める新書版のエッセイ集。コロナ禍で鬱々と過ごしている理系人に清涼感を与えてくれる楽しい本だ。著者は素粒子論、超弦理論研究の第一人者のおひとりの橋本幸士先生だ。書き溜めていたエッセイを本書で一気に放出された。

「物理学者のすごい思考法」というタイトルは、理系人である先生が日ごろ感じ、考えていらっしゃることを内側から紹介したものであることがわかる。それを外側から観察して書けば「理系男性のココが面白い」や「理系クン (文春文庫):高世えり子」ということになるのだろう。

本編は3章で構成されている。

第1章 物理学者の頭の中
第2章 物理学者のつくり方
第3章 物理学者の変な生態

楽しい話ばかりであるが、自分の思い出話を交えつつ、特に気に入ったエピソードにフォーカスして感想を書いておきたい。

「肉」の文字の美

左右対称の形をした漢字が多いことは知っていたが、それが地球上に重力があるためだという発想に脱帽した。「木」や「林」、「森」などは象形文字だから特に「重力説」がうなづける。象形文字を起源とせず、左右対称の漢字にまで無意識に重力の影響が及んでいるのかなと思った。

磁性と人生

出発地と目的地が決まっていると最短ルートはひとつに決まる。ところが行きと帰りでは違う道筋を通っていることに気づいた先生は、それは磁性のもつヒステリシス的な行動現象ではないかと発想された。僕も家から地元のバス停まで行き来するとき、行きと帰りでは違う道を通っている。それはいびつなヒステリシス曲線の形をしていた。考えてみたところ行と帰りのルートが違う理由は2つあることがわかった。ひとつめの理由は行き道の道筋は幼稚園児だったころの通園路であり、無意識にその方向へ歩いていたこと。そしてふたつめの理由は行き道をそのルートに選べばバス通りに沿って歩かなくてすむからだ。帰り道として選んでいる道はバス通りに沿っている。その道を行き道で歩くとすぐ横をバスが通り、バスに追いつけずに乗り遅れる悔しさを感じることがたびたびあったからだ。帰り道であれば、バス通り沿いを歩いてもバスの運行を意識せず、最短距離で帰宅できる。このエッセイを読んでそのようなことを考えた。

たこやき半径の上限と、カブトムシについて

このエッセイ、オチが最高に面白かった。どのようなオチかは、書かないでおこう。「オチが面白かった」とツイートしたところ、橋本先生から「とねさん @ktonegaw は「直径」派ではなく「半径」派と見ました」という返信をいただいた。なるほど、そうである。そして直径を意識するのは、モノの差し渡しを考えるときであり何か実体があるときだ。工学系、機械系でよく使う。それに対して半径は実体がないものについて考えるときにも使う。物理学や数学では半径を意識することが多いのは実体がない対象を扱うとき、実体としては存在しない円の中心からの距離を考えるときが多いからだと思った。

レゴと素粒子物理

子供の頃のことを懐かしく思い出した。1ドル360円の固定相場制から変動相場制に移行したのは1971年、僕が小学3年のときである。そのころ、外国製品はとても高価でレゴも高級品だった。だから庶民は日本製のダイヤブロックしか買えなかったのである。僕もダイヤブロックで遊んだうちのひとりだ。

役に立ちますか?

理論物理学上の発見が人類の生活に役立つまでには、たいてい数十年から数百年かかるものだ。まったく役に立たずに終わってしまうものだってある。このエッセイはオチが気に入ったうちのひとつ。古典物理の中には生活の役に立つものがいくつもあるのだと気づかせられた。

別人格の自分に出会う

日本語で聞かれたときと英語で聞かれたときでは、違う返事やリアクションをすることに先生は気づかれた。日本文化と英語圏の文化の違いがその理由として考えられる。これは僕にも言えることだと思った。英語で返事をするとき、話すときのほうがより積極的になっていることを日ごろから感じている。

危険な物理

何の話かと思ったら、運転中に渋滞に巻き込まれたとき「この渋滞はなぜなのか」とつい考えに気を取られてしまうから危ないという話だった。空想や思考に耽りがちなのが物理学者、理系人である。僕もそれは同じで、運転中に他のことに気を取られてしまうことがたまにある。よほど注意していても、避けられない事故はあるわけだし、自分で運転するのはやめようと思った。すでに6年前、車は手放している。

ニンニクの微分

ニンニクに限らず、丸いものの皮むきは微分なのだという発想が面白いと思った。皮をむいたニンニクを右に置き、むいた皮は左に置く。すると右側のニンニクの山に比べて、左側の皮の山は、大きさがほぼ3倍になる。それはどうしてか?からくりを理解したとき、目から鱗が落ちた。

読む人によって、ハマるツボはそれぞれだと思う。ぜひ、お読みになってご自身の発想と重なる部分、当てはまらない部分を確認してみてほしい。

【本文より】
皆さんの周りでは、いろいろな問題が日々発生しているでしょう。そして、解決に頭を悩ませているかもしれません。物理学は、現象に現れる問題の原因を見つけ、問題が起こる仕組みを論理的に考え、そして問題のないシステムを提案する学問です。ですから、物理学でふんだんに用いられる物理学的思考法が、皆さんのお役に立つかもしれないのです。
皆さんは、発想の転換を必要としているかもしれません。物理学的思考法は、現象をまったく異なる視点から見る、ということを含みます。この本で取り扱っている「異次元の視点」が生む発想の転換は、皆さんの人生を豊かにしてくれるかもしれません。
皆さんが教育に関心をお持ちなら、お子さんの論理力や理系力を教育しこれからのビッグデータの時代を生き抜いてほしいと思われるでしょう。科学者になりたいと希望する小学生も大変多いようです。この本には、私個人がどうやって科学者になったか、つまり物理学的思考をどう培ってきたか、が書かれています。


橋本幸士先生が出演されている動画:

物理学者はいかにして世界とつながるのか


高校理科から最先端研究へ~つながるサイエンス~「物理-素粒子編」

PART2: 超ひも理論: YouTubeで再生
PART3: 理論物理学者の真剣議論: YouTubeで再生

コズミック フロント☆NEXT 「宇宙が“真空崩壊”!?宇宙の未来をパパに習ってみた」

出演:松本穂香、橋本幸士
語り(語り手):萩原聖人 、中條誠子
声の出演:植竹香菜 、宗矢樹頼
2017年10月5日放送
https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017077922SA000/


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理系バカと文系バカ: 竹内薫著
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理系クン (文春文庫):高世えり子
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理系男性のココが面白い
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/570beb9d2db2dd05647d5006e654fad5


関連記事:橋本幸士先生の著書と記事

深層学習と時空:橋本幸士先生 #MathPower
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橋本幸士×板倉龍「Newton超ひもナイト」@ 下北沢
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https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e18ed1e00f1c877cf3e7926a564f01ae


 

 


物理学者のすごい思考法: 橋本幸士」(Kindle版


はじめに

第1章 物理学者の頭の中
エスカレーター問題の解/無限の可能性
数字の魔力/ギョーザの定理
経路積分と徒歩通勤/スーパーマーケットの攻略
時間は2次元?/近似病
「肉」の文字の美/磁性と人生
かっこいい専門用語/グネグネの建物
カオス的人生/玄米とカニ
たこやき半径の上限と、カブトムシについて
物理学者の思考法の奥義

第2章 物理学者のつくり方
数学は数学ではなかった/レゴと素粒子物理
迷路を書き続ける/近眼の恩恵
人生のおける数字/黒板の宇宙
神と触れ合う時/役に立ちますか?
孤独からの世界/シャーロック・ホームズ
鉄道から宇宙へ/視覚を操って宇宙を感じる
パイソンとのお付き合い/科学は美しいのか?
幾何を感じたい欲求/別人格の自分に出会う

第3章 物理学者の変な生態
奇人変人の集合体/理学部語
雲/かな漢字変換
歩数計を欺く/踊る数式
危険な物理/ニンニクの微分
提灯の物理/20年ぶりのパズル
古代文明と時間旅行/ハンカチのありか
整理整頓をしてしまう/緑の散歩道と科学
研究という名の麻薬

コラム1 素数の見分け方
コラム2 経路積分
コラム3 17種類の素粒子
コラム4 素粒子論とファインマン図

問診表
さらに思考法を深めたい方へ
おわりに

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