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物理学者,機械学習を使う ー機械学習・深層学習の物理学への応用ー

2019年11月19日 16時17分18秒 | 将棋、AI
物理学者,機械学習を使う ー機械学習・深層学習の物理学への応用ー

内容紹介:
フルカラーで解説。機械学習を使って物理学で何ができるのか。物性、統計物理、量子情報、素粒子・宇宙の4部構成。機械学習、深層学習が物理に何を起こそうとしているか/波動関数の解析/量子アニーリング/中性子星と核物質/超弦理論/他。対象読者:物理学専攻の学部生・院生・研究者。

2019年10月11日刊行、212ページ。

編集者、著者について:
■編集者
橋本幸士
ホームページ、Twitter: @hashimotostringarXiv.org論文
理学博士。1973年生まれ、大阪育ち。1995年京都大学理学部卒業、2000年京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。サンタバーバラ理論物理学研究所、東京大学、理化学研究所などを経て、2012年より、大阪大学大学院理学研究科教授。専門は理論物理学、弦理論。

■著者(執筆順)※所属は執筆当時
橋本幸士(大阪大学)、大槻東巳(上智大学)、真野智裕(上智大学)、斎藤弘樹(電気通信大学)、藤田浩之(東京大学)、安藤康(産業技術総合研究所)、永井佑紀(日本原子力研究開発機構)、青木健一(金沢大学)、藤田達大(金沢大学)、小林玉青(米子工業高等専門学校)、大関真之(東北大学)、久良尚任(東京大学)、福嶋健二(東京大学)、村瀬功一(北京大学)、船井正太郎(沖縄科学技術大学院大学)、柏浩司(福岡工業大学)、富谷昭夫(理化学研究所)


理数系書籍のレビュー記事は本書で432冊目。

6月に刊行された「ディープラーニングと物理学 原理がわかる、応用ができる:田中章詞、富谷昭夫、橋本幸士」の姉妹本が先月刊行されたので読んでみた。表紙の色合いは違うが、デザインが似ているため同じ出版社から刊行されたのだと勘違いしていたため、Kindle版が出るのを待とうと思ったのだが、よく見てみると6月に刊行された本は講談社、今回刊行された姉妹本は朝倉書店からである。しかもフルカラーだというから、おそらく電子書籍にはならない。単行本は品薄だったため地元の書店に注文してから入手するまでしばらく時間がかかった。

6月に刊行された本は3名の著者で、【第I部 物理から見るディープラーニングの原理】 、【第II部 物理学への応用と展開】のように前半が機械学習と深層学習の原理の解説、後半は物理学への応用が7つの分類で8例紹介解説されていた。この本を読んでいたから、今回の本の難易度はおよそ予想ができていた。6月に刊行された本と重複はあるものの、今回の本は物理学への応用が4つの分類で13例紹介、解説されている。応用例を紹介する本だから、機械学習や物理学の基礎は知っていることが前提である。

同じ系統の本の2冊目で内容をある程度予想できたため、ワクワク感は少なくなったが、機械学習、物理学ともに興味がある分野だから、じっくり腰を据えて読むことになった。


6月刊行の本もそうであるが、本書も対象読者は物理学専攻の学部生・院生・研究者である。機械学習しか学んでいない人には読み解けないはずだ。そのような方は「『ディープラーニングと物理学』の参考書籍」という記事で紹介した、物理学と数学の本をあらかじめ学んでおく必要がある。今日現在、Amazonのレビューにコメントが投稿されていないのは、本書の対象読者が限定されているためだと思われる。

カラフルな図版やグラフが使われているため一見やさしそうな印象があった。しかし読み通してみるとかなり難しかった。章によっては図版とグラフがまったくない解説もある。実際にプログラムを動かして、結果を図版とグラフで図示している章のほうがやさしく感じた。

カラーのサンプルページはこちらである。

拡大


また、全体は「物性」、「統計」、「量子情報」、「素粒子・宇宙」の4部に分けられている。それぞれの領域に対する僕の好き嫌い、モチベーションが違う。これも理解のしやすさに影響していた。つまり、僕が勉強不足で苦手意識をもっている「物性」の例は難しく感じ、興味がある「統計」と「素粒子・宇宙」の例は面白いから理解が進み、関心がとても強いのに勉強が追いついていない「量子情報」は難しく感じた。量子コンピュータ、量子アニーリングは6月刊行の本では取り上げられていなかったテーマだ。


全体の章立てとともに、僕が感じた関心度1~3、理解度を1~3(1が関心度、理解度がいちばん高い)で示しておこう。理解度が1といっても、難しいことには変わりなく、易しいという意味ではない。理解度が低いものは解説のしかたが悪いということではなく、僕の学習進度や理解力が追いついていないためである。すなわち関心度と理解度は相対的、主観的な指標だ。

0. 機械学習,深層学習が物理に何を起こそうとしているか [橋本幸士]:関心度1、理解度1

第1部 物 性
1. 深層学習による波動関数の解析 [大槻東巳・真野智裕]:関心度2、理解度2
2. 量子多体系とニューラルネットワーク [斎藤弘樹]:関心度2、理解度2
3. 機械学習でハミルトニアンを推定する [藤田浩之]:関心度2、理解度3
4. 深層学習とポテンシャルフィッティング [安藤康伸]:関心度3、理解度3

第2部 統 計
5. 自己学習モンテカルロ法 [永井佑紀]:関心度1、理解度3
6. 深層学習は統計系の配位から何をどう学ぶのか [青木健一・藤田達大・小林玉青]:関心度1、理解度1

第3部 量子情報
7. 量子アニーリングが拓く機械学習の新時代 [大関真之]:関心度1、理解度3
8. 量子計測と量子的な機械学習 [久良尚任]:関心度1、理解度2

第4部 素粒子・宇宙
9. 深層学習による中性子星と核物質 [福嶋健二・村瀬功一]:関心度1、理解度1
10. 機械学習と繰り込み群 [船井正太郎]:関心度1、理解度2
11. 量子色力学の符号問題への機械学習的アプローチ [柏浩司]:関心度1、理解度1
12. 格子場の理論と機械学習 [富谷昭夫]:関心度1、理解度2
13. 深層学習と超弦理論 [橋本幸士]:関心度1、理解度2

ちなみにもともと天文学が好きな僕の心を大きく揺さぶったのは「9. 深層学習による中性子星と核物質」の章だった。中性子星の質量限界を0.7太陽質量と計算したオッペンハイマー博士とヴォルコフ博士、トルマン博士がもしご存命ならば、教えてあげたくなる内容だ。そして中性子性の質量限界はその後、中性子間に働く強い相互作用による斥力が考慮に入れられたことでより大きい値が得られ、現在ではおよそ1.5から3.0太陽質量とされている。(参考:トルマン・オッペンハイマー・ヴォルコフ限界


学生や研究者はともかく、一般の読者は高性能の計算環境をもっていない。そのため機械学習は自分には手が届かないものだと思っている人がいるはずだ。けれども本書には各事例について計算に使用したハードウェアやソフトウェア(AIのライブラリやプログラミング言語)など、実行環境が紹介されている。もちろん一般人には利用不可能な環境もあるが、試しにやってみたいと思える環境での事例がいくつかあった。実行環境を紹介することで、読者のモチベーションアップに役立っていると感じた。

また、本書は対象読者が物理学専攻の学部生・院生・研究者ということがあるから、各章末には参考文献として、とてもたくさんの論文が紹介されている。僕には読むことができないが、研究者の方には大いに役立つことだろう。

本書は解説書というよりも、日本語でやさしく書かれた論文集という印象の本だった。興味のある方は、書店で立ち読みしてからお買い求めになるとよい。


関連書籍は、もちろん6月に刊行されたこの本である。機械学習に不慣れな方は、今日紹介した本をお読みになる前に目を通しておくことをお勧めする。

ディープラーニングと物理学 原理がわかる、応用ができる:田中章詞、富谷昭夫、橋本幸士」(Kindle版)(参考書籍)(紹介記事



関連記事:

ディープラーニングと物理学 原理がわかる、応用ができる:田中章詞、富谷昭夫、橋本幸士
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5edea35c359ead77cf30915e9dd28bce

『ディープラーニングと物理学』の参考書籍
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/da7337791b63e739bd77c8fe6d9bda41

「AI(人工知能)と物理学」:1日目
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c8bc23afafd9e9b3d7eff92b781d1f8b

「AI(人工知能)と物理学」:2日目
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e8c08583785cfd8237966389e92c362e

深層学習と時空:橋本幸士先生 #MathPower
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bf7e7e661246866943c765bdd371248f


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物理学者,機械学習を使う ー機械学習・深層学習の物理学への応用ー


0. 機械学習,深層学習が物理に何を起こそうとしているか [橋本幸士]
- 機械学習とは
- 深層学習のフレームワーク
- 機械学習と物理
- 学習は物理に何を起こそうとしているか

第1部 物 性
1. 深層学習による波動関数の解析 [大槻東巳・真野智裕]
- はじめに
- モデル
- 手法
- ニューラルネットワークが示した相図(2次元系、3次元系)
- ランダムなトポロジカル絶縁体
- この章を終えるに当たって

2. 量子多体系とニューラルネットワーク [斎藤弘樹]
- 量子多体問題の難しさ
- ニューラルネットワークをどう使うか
- ニューラルネットワークで基底状態を求める
- 具体的な応用

3. 機械学習でハミルトニアンを推定する [藤田浩之]
- イントロダクション
- 有効模型の構成
- 応用
- おわりに

4. 深層学習とポテンシャルフィッティング [安藤康伸]
- 物質・材料をシミュレーションする
- 代表的なポテンシャルとその背景
- フィッティングによるパラメータ決定
- ベーラー・パリネロの方法
- ニューラルネットワークポテンシャルを応用する際の課題
- アモルファス物質シミュレーション

第2部 統 計
5. 自己学習モンテカルロ法 [永井佑紀]
- はじめに:機械学習を用いたシミュレーションの高速化
- マルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC法)
- 自己学習モンテカルロ法(SLMC法)
- SLMC法の有効模型の例
- 今後の展望とまとめ

6. 深層学習は統計系の配位から何をどう学ぶのか [青木健一・藤田達大・小林玉青]
- 統計系を深層学習する
- 正答率競争の行方と正答率の理論的上限
- 最適化された機械はエネルギー分析器となる
- 最適化された機械パラメータの解
- 機械は自由エネルギーを確かに記憶した
- エピローグ:南京玉すだれ

第3部 量子情報
7. 量子アニーリングが拓く機械学習の新時代 [大関真之]
- 機械学習のブレークスルーの裏側
- 量子アニーリングの概要
- ボルツマン機械学習
- 量子アニーリングマシンの使い方

8. 量子計測と量子的な機械学習 [久良尚任]
- 量子計測
- 量子計算における量子計測
- 機械学習における量子計測

第4部 素粒子・宇宙
9. 深層学習による中性子星と核物質 [福嶋健二・村瀬功一]
- 超高密度物質の研究は現代物理学の未解決問題
- 観測される物理量と理論計算をつなぐ
- 仮定をせずにどこまで遡れるのか?
- 機械学習なら簡単です
- まとめ

10. 機械学習と繰り込み群 [船井正太郎]
- 特徴の抽出
- イジング模型
- 機械学習とその結果
- 繰り込み群との関係

11. 量子色力学の符号問題への機械学習的アプローチ [柏浩司]
- 量子色力学とは何だろうか?
- 符号問題とは何だろうか?
- 積分経路の複素化による符号問題へのアプローチ
- 経路最適化法での機械学習による“よい”積分経路の探索
- まとめと展望

12. 格子場の理論と機械学習 [富谷昭夫]
- 格子場の理論と格子QCD、モンテカルロ
- 制限ボルツマンマシン
- ボルツマンHMC法
- まとめ

13. 深層学習と超弦理論 [橋本幸士]
- 逆問題と超弦理論のホログラフィー原理
- ニューラルネットワークを時空と考えられるか
- 学習によって創発する時空

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