とね日記

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「宇宙のすべてを支配する数式」をパパに習ってみた: 橋本幸士

2018年04月08日 00時08分49秒 | 物理学、数学
「宇宙のすべてを支配する数式」をパパに習ってみた: 橋本幸士」(Kindle版

内容紹介:
パパが書いた一本の数式が、宇宙のすべてを支配してる!? 身近な現象から「ヒッグス粒子」「重力波」「暗黒物質」までの最先端理論を、物理学者のパパが娘たちに70分かけてガチ語り! 物理はやっぱりオモロいわ!
2018年3月刊行、172ページ。

著者について:
橋本幸士
1973年生まれ、大阪育ち。1995年京都大学理学部卒業、2000年京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。サンタバーバラ理論物理学研究所、東京大学、理化学研究所などを経て、2012年より、大阪大学大学院理学研究科教授。専門は理論物理学、弦理論。


理数系書籍のレビュー記事は本書で362冊目。

前著「超ひも理論をパパに習ってみた: 橋本幸士」と同様、理論物理学者の父と高校生の娘の間で交わされる会話を中心に進行する物理学小説。今回は娘さんの友達の女子高生が加わり、登場人物は3人になった。

理系オンチな人、硬い本、分厚い本は苦手という人にはうってつけの本だなというのが僕の率直な感想。素粒子の標準模型を題材に、これまで刊行された本ではいちばん易しいのではないだろうか。

同じテーマの本であれば理系オンチな人には、これまで「強い力と弱い力:大栗博司」を勧めてきたが、この本であっても難しいと感じる読者は多い。標準模型だと説明しなければならない素粒子が18種類もあるし、4つの力との関係、場の量子論に含まれるいくつもの理論を含めると、どうしたってややこしいものになってしまう。

本書はそのような難解理論を一般人でもわかるように一歩一歩、ていねいに解説した本。。。。いやいや違う。そのように地道なアプローチをとるのではなく「これは大学院レベルのことだから、わからんのは当たり前や」とあっさり捨てて、標準模型の数式をひとつずつ、女子高生の頭でも何となくイメージできるレベルにとどめて解説しながら進む本なのだ。


理系に馴染みのない人、難しい話を長々と聞くのが苦手な人ほど短い説明を期待しているものだ。「~って、ひとことで言うとどんなものですか?」と早急に答を知りたがる。それが本書のタイトル「宇宙のすべてを支配する数式」=「標準模型の数式」だ。本書に書かれている数式はこれだけで、それ以外の数式は一切でてこない。トップダウンのアプローチをとり、数式をひとつずつ分解して説明することで、読者の「手短に」という期待に応えることに成功している。このページ数で論理の整合性を保ちながらくまなく説明するのは無理だから、キーポイントやキーワードの意味を感覚的に伝えられれば十分だというのが本書の基本スタイル。

本のタイトルを「標準模型入門」とか「素粒子物理入門」にせず、「宇宙のすべてを支配する数式」にしたのは上手いなぁと思う。何しろ「掴み」がいいし、どんな理系オンチ、さらに悪く言えばおバカさんでもこのタイトルの意味くらいは理解できるからだ。まず書店で手に取ってもらうこと、「手に取る」という自発的な行為がとても大切なのだ。


なぜこれが宇宙のすべてを支配する数式なのかという解説が素晴らしい。電子をはじめ素粒子はそれぞれ同じ種類だと区別がつかない。(つまり素粒子には個性がないということ。)宇宙のどこにあっても同じ素粒子は同じ法則に従っている。だから宇宙の1か所で成り立つ素粒子の法則を数式であらわすことができれば、宇宙のどこでも成り立っているはずだ、宇宙のすべてを支配しているという意味だ。これなら中学生、高校生でも理解できる。

標準模型から得られる「対称性」や「保存則」、「ネーターの定理」にまで踏み込んで解説していることも素晴らしい。素粒子というミクロの世界の法則から、宇宙という広い世界で成り立つ法則が導かれるのは神秘としか言えないし、読者もそれを感じることができる。

また、複素数やその共役複素数が物質と反物質に対応していること、関数や微分が標準模型の数式に書かれているという説明は、ふだん数学で学んでいる複素数や微積分が、宇宙を支配することに関係しているのだとわかるから、読者の興味は大いに増すのではなかろうか。


真面目に話しているのだけれど、可笑しみがあって真面目っぽく聞こえない橋本先生の飄々とした大阪弁が、本書をとても読みやすく、親しみやすいものにしている。これならどう転んでも「硬い本」にはなりえない。超一流の物理学者なのに、雰囲気や語り口は「近所のどこにでもいそうなお兄さん」である。

このようにやわらかく、ざっくりと書かれた物理学書が世間に受け入れられるようになったのは、とてもよいことだと思う。ひと昔、ふた昔前だと、教養書であっても物理学の本は厳密、正確でなければならず、少しでも曖昧なことが書かれていると、専門家から批判されたり、学者としての資質を問われたりすることがあったからだ。

このページ数で、すべてを説明しつくすのはどうしたって無理なのはわかっているから、専門用語がでてきて難しいところは、「そんなもんや。」とパパが娘に言ってあっさりとすませてしまう。これは大阪弁だから許されるのだと思う。

でも、理解できないところがあっても不思議ともやもやしてこないのはなぜだろう?それは、読者が難しいと思うところはすべて本書に登場する2人の女の子が代弁しているからだ。パパには不思議なところがいっぱいあるけど、なんだかすごい研究をしているのだと娘に一目置かれていることで、謎が自然に「繰り込まれて」しまっているからだと僕は思う。

現在の形の宇宙のすべてを支配する数式が完全ではないことを紹介している点もよい。暗黒物質、超対称性、超弦理論など、複数の可能性があること、研究にはまだまだ終わりがないことが述べられている。

少し難しい解説は、各章に設けられた「さらに深く知りたい方へ」というパートで(数式抜きで)語られている。とは言っても本書は全体的に「超ひも理論をパパに習ってみた: 橋本幸士」より易しい。


また昨年10月には橋本先生みずから出演するNHKのテレビ番組が放送された。パパ役はもちろん橋本先生で、娘役は女優の松本穂香さんである。

コズミック フロント☆NEXT▽宇宙が真空崩壊!?宇宙の未来をパパに習ってみた
https://hh.pid.nhk.or.jp/pidh07/ProgramIntro/Show.do?pkey=001-20171005-10-08319


今回紹介した「「宇宙のすべてを支配する数式」をパパに習ってみた: 橋本幸士」もテレビ番組を作ってほしい。女子高生役がもう一人必要だから誰がいいだろう?僕としては橋本愛さんあたりが似合うのではないかと思っている。


橋本先生には昨年秋、「橋本幸士×板倉龍「Newton超ひもナイト」@ 下北沢」というイベントでお会いし、ご挨拶させていただいた。相変わらずお元気そうだなぁとうれしく思うと同時に、もう半年も経ってしまったのだなぁと、相対論効果はないはずなのに時の流れをますます早く感じている自分が少しだけ寂しく思えた。


物理学書を読み慣れている人なら2~3時間で読める本だ。「超ひも理論をパパに習ってみた: 橋本幸士」と合わせてこの楽しい本をぜひお読みいただきたい。


関連記事:

超ひも理論をパパに習ってみた: 橋本幸士
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/05d22e7299a4b30b24efb05cf01176a2

Dブレーン―超弦理論の高次元物体が描く世界像:橋本幸士
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e18ed1e00f1c877cf3e7926a564f01ae

橋本幸士×板倉龍「Newton超ひもナイト」@ 下北沢
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/567088304d1f2dca5349826c561adb3e

強い力と弱い力:大栗博司
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/06c3fdc3ed4e0908c75e3d7f20dd7177


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「宇宙のすべてを支配する数式」をパパに習ってみた: 橋本幸士」(Kindle版




【予習】 宇宙を支配するパパ
【第0講義】 この宇宙のすべてを記述する数式がある!
【第1講義】 数式は長いけど、たった一つ
【第2講義】 項の一つ一つは、天才物理学者たち
【第3講義】 式を読もう! その1 記号は、素粒子
【第4講義】 式を読もう! その2 項は素粒子の運動
【休憩】 科学者の議論をのぞいてみた
【第5講義】 式を読もう! その3 記号のかけ算は、力
【第6講義】 絶対あるはずの、足りない「暗黒」項
【第7講義】 宇宙の謎リストと未来の数式
【復習】 そもそも、なぜ、たった一つの式?
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