左:CASIO fx-15 (1975)、右:National製 Panac S-1 (1975)
以前紹介したように世界初の関数電卓はヒューレット・パッカード社のHP-35(ポケット型)、日本初の関数電卓はCASIO fx-1 (卓上型)で、ともに1972年に発売されたわけだが、今日紹介する2台はそれから3年経って発表された日本製のモデルである。どれくらい進化していたかを動画で紹介しよう。どちらも各社の1975年時点の最上位機種だ。CASIO fx-15 (1975)は16,500円で、National製 Panac S-1 (1975)は19,800円で販売されていた。
どちらも単三電池4本で動作するので厚さはこの程度。ポケット型関数電卓がヒット商品になるきっかけとなった機種である。
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実際の動作をお見せしよう。それぞれの電卓で同じ計算をして様子を見ていただきたい。
1)sin 35°を計算し、その逆(arcsin)を計算して35°に戻るかを確認。
2)cos 35°を計算し、その逆(arccos)を計算して35°に戻るかを確認。
3)tan 35°を計算し、その逆(arctan)を計算して35°に戻るかを確認。
4)10の平方根を計算。
5)10の立方根を計算し、その結果を3乗して10に戻るかを確認。
CASIO fx-15での計算例:
まず気がつくのは計算速度の遅さだ。蛍光管がチカチカと点滅しているのが(今となっては)めずらしい。それでも手で入力するのであれば十分なレスポンスである。
関数の計算精度(有効桁数)も6桁止まり。そしてゼロの表示が「o」になっているのがCASIO初期型の特徴。ゼロを判別しやすくするためか、あるいは少しでも光る蛍光管の本数を減らして電池の消耗を抑えるためなのだろうと僕は思っている。
10の立方根を3乗しても元の10には戻らない。双曲関数(sinh、cosh、tanh)がない。そして何より角度が「度」しかサポートされていないのだ。ラジアンやグラジアンで計算したいときはいちいち変換しなければならない。
Panac S-1での計算例:
僕は知らなかったのだが、当時はナショナル(現在パナソニック)も数多くの電卓を製造、販売していたようだ。
松下通信工業 ポケット電卓 (JE Series)
http://www.dentaku-museum.com/calc/calc/7-matsusita/je/je.html
Panac S-1はナショナルが初めて出した関数電卓でCASIO fx-15よりさらに遅い!一生懸命計算しているのがいじらしい。関数の計算精度(有効桁数)も6桁止まり。
10の立方根を3乗しても元の10には戻らないのもfx-15と同じ。ただこちらに双曲関数(sinh、cosh、tanh)がついている。統計機能(平均、2乗平均、標準偏差)もある。
そして重要な点なのだがラジアンとグラジアンも使えるのがよい。CASIO電卓でラジアン、グラジアンが使えるようになるのは1年後に発売されるCASIO fx-19からである。
これが1975年頃の関数電卓である。現在のものと比較するととても完成品とは思えない。1972年発売のHP-35のJavaアプレットでご覧いただけるように、この機種の精度(有効桁数)は10桁もあった。値段の差こそあれ、当時の日本の関数電卓はアメリカ製に3年以上の遅れをとっていたわけである。
もしこの2つしか選択肢がなかったとしたら、あなたはどちらを選ぶだろうか?
上と同じ計算を4年後の1979年に発売されたプログラム関数電卓CASIO fx-502Pでも試してみた。
CASIO fx-502Pでの計算例:
この4年間の進化にはめざましいものがある。fx-502Pは関数電卓としてはほぼ完成していると言える。ただ関数値が表示されるまでに1拍くらいの間がかかっているので、繰り返し計算が必要なプログラムだと実行時間に影響がでてきてしまう。これ以降のプログラム電卓の進化は計算速度向上を目指して商品開発が行われた。
関数電卓、プログラム電卓を含めて1970年代から80年代にかけての「電卓戦争」では、各社しのぎを削ってより低価格、コンパクト、高性能、多機能、省電力、優れたデザインの製品を開発し、次々と新しい製品が発表されていた。
当時のCMをご覧いただき、この時代の様子を振り返ってみよう。
一般用として初めて爆発的にヒットしたポケット型電卓。カシオミニの最初のモデルがこちら。1972年のことだ。6桁しか計算できない。
その2年後の1974年、カシオミニのシリーズでは4代目にあたる機種のコマーシャル。これも6桁電卓。
さらに4年後、1978年のカシオミニはこんなに薄くなっていた。この動画では1978年から1991年にかけてのCMがまとめてご覧いただける。登場している俳優のみなさんが若い!
1978 カシオミニ (オリジナルソング3より再)
1978 シャープ エルシーメイト (ksoikより再)
1979 シャープ エルシーメイト×2
1979 キヤノン カード 西田敏行
1980 キヤノン ミニプリンター
1980 シャープ ポケット電訳機
1981 キヤノン 電子漢字字典
1982 シャープ エルシーメイト 浅野ゆう子 (ksoikより再)
1982 エプソン HC-20
1982 シャープ 電子辞書
1982 カシオ パソコン
1982 カシオ ゲーム電卓トライスリー 篠沢秀夫
1982 キヤノン 電子漢字字典 遠藤周作
1988 シャープ 電子システム手帳 伊原剛志
1989 シャープ 電子システム手帳×2 景山民夫
1989 カシオ ワイド電子手帳 唄:植木等
1989 カシオ スーパー電子手帳×2 石田純一
1990 カシオ ハイパー電子手帳
1991 シャープ 電子システム手帳 吉田栄作
1991富士通 オアシスポケット 山瀬まみ
YouTubeを検索しているうちに、とても古い時代のCASIOの卓上電卓AL-1000の動画を見つけた。IC(集積回路)はまだなく、トランジスタやコンデンサなどの電子部品を使って作られていた頃のものだ。表示は14桁のニキシー管であるにもかかあわらず、なんとプログラム電卓だという。平方根の計算が速いのにも驚かされた。世界初のプログラム電卓で431個のトランジスタ、1530個のダイオードが使われている。プログラミングは30ステップまで。
CASIO AL-1000 (1967):技術仕様概要 技術仕様詳細(全回路図も見れる)
CASIO AL-1000 (1967) クリーニング後に起動する様子
関連ページ:
FX Series (Casio)
http://www.dentaku-museum.com/calc/calc/2-casio/5-casiofx/casiofx.html
関数電卓マニアの部屋
http://teamcoil.sp.u-tokai.ac.jp/calculator/index.html
歴代のCASIOパーソナル電卓
http://www.epocalc.net/pages/mes_calcs_03.htm
カシオ電卓の歴史(カシオのサイト内)
http://casio.jp/dentaku/info/history/beginning/
液晶電卓開発物語(シャープのサイト内)
http://www.sharp.co.jp/products/lcd/tech/dentaku/story.html
電卓博物館
http://www.dentaku-museum.com/
電卓の歴史
http://www.kogures.com/hitoshi/history/dentaku/index.html
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