即時抗告棄却決定文(1)
即時抗告棄却決定文(2)
即時抗告棄却決定文(3)
即時抗告棄却決定文(4)
4 三宅鑑定書•意見書の明白性-2-本件タイヤ痕及び本件擦過痕群の由来について
(1)争点等
三宅鑑定書•意見書は、本件タイヤ痕及び本件擦過痕群は、現場において、警察官が、前者については液体状の物質を塗布したりし、後者については白墨で描いたりして、ねつ造したものである疑いがあると指摘している。
原決定は、警察官が、事故直後に、衆人環視の下で短時間のうちに物理法則等に整合するように本件タイヤ痕及び多数からなる本件擦過痕群をねつ造するのは不可能であり、三宅鑑定書•意見書の指摘は抽象的な可能性をいうにすぎず、全く現実味のないものであると説示している。
また、原決定は、 画像解析の結果、本件擦過痕群の一部につきアスファルトにえぐれがないことが明らかになった旨の三宅鑑定書・意見書の指摘(後記(3)ア)について、路面のチョークによる記載部分と比較して見れば、一見して「えぐれ」があることは明らかであるなどと説示し、三宅鑑定書•意見書の指摘は、本件夕イヤ痕等が現場でねつ造されたことを疑わせるものではないと判断している。
「えぐれ」があることは明らかであるとの点は必ずしも賛同できないが、現場でのねつ造の疑いを否定した原決定の結論は正当である。
なお、所論は、原決定は、三宅鑑定書•意見書が本件タイヤ痕のねつ造を指摘している点についての判断を欠いており、理由不備の違法があると主張する。しかし、原決定の上記説示は、本件タイヤ痕のねつ造の指摘に対する判断を含んでおり、理由不備の違法はない。
(2)現場でねつ造した現実的可能性について
まず、確定判決及び原決定も指摘するように、警察官が、事故の直後に、 衆人環視の下で、短時間のうちに本件タイヤ痕及び本件擦過痕群をねつ造したとみることは極めて困難である。
すなわち、警察官がこれらをねつ造するためには、現場に到着した後、各車両、路面、破片等の状況を観察し、また市川幸男警察官ら目撃者から事情を聴くなどして、停止中の本件バスに本件白バイが衝突したものと判断した上(もとより、市川警察官はそのような衝突態様は証言していない)、これを、前進中の本件バスに衝突したように偽装することを企て、そのような衝突態様に適合するかのような痕跡群を考案し、液体や刷毛、白墨等を用いて、それらを描画するという段取りが必要となる。また、これには複数の警察官の関与が必要であると考えられる。
しかるに、甲23の130丁表の上段、中段の写真には、本件タイヤ痕中の右前輪分及び本件擦過痕群の一部とともに、本件バスに乗っていた生徒らが降車する様子が写っている。甲23の142丁表の写真3枚には、本件タイヤ痕中の右前輪分及び本件擦過痕群の一部とともに、本件バスの運転席に座っている請求人が写っている。
甲23の130丁表の上段、中段の写真
甲23の142丁表の写真3枚
請求人が本件事故現場付近で逮捕され、警察暑に引致された後、現場に戻ってきたときには、本件バスは路上から撤去されていたこと(旧証拠)からすると、これらの写真が撮影されたのが請求人が逮捕された午後3時4分より前であることは明らかである(これらの写真について、画像の改変が行われたという疑いもない)。そうすると、警察官は、いまだ本件バスに請求人や生徒らが乗車している状況で、かつ、午後2時34分の本件事故発生から30分しか経っていない時期に、上記のような段取りを経て本件タイヤ痕等をねつ造しなければならず、これはほとんど不可能なことである(なお、実況見分調書〔甲2〕では、実況見分の開始は午後2時55分となっている)。
その後についても、請求人は、午後4時15分頃、本件現場に戻って実況見分に立ち会っており、同時刻以後にねつ造をしたとは考えられないところ、請求人が現場に戻るまでの間であっても、本件事故発生から約100分であって、十分な時間があるとはいえない。しかも、その間、本件バスに乗っていた生徒や教員が現場付近の路上ないし建物に残っていたと認められるし、逮捕前後の写真では、一般車両の通行や、野次馬、カメラを持った報道関係者が道路脇にいることも確認できる(甲23の130丁裏中段、131丁表上段下段、134丁表上段、135丁表下段、147丁裏全部、148丁表中段)。こうした衆人環視の状況下で、液体を塗る、白墨で描くなどして本件タイヤ痕等をねつ造したというのは、およそ想定し難い事態である。
甲23の130丁裏中段、131丁表上段下段、134丁表上段、135丁表下段、147丁裏全部、148丁表中段)
また、別の写真(甲23の136丁裏中段下段、137丁表上段)には、本件事故現場において、乗用車に乗った請求人が顔を出して、本件タイヤ痕や本件擦過痕群のほうを手で指し示している姿が写っている(本件現場に戻った後と認められる)。警察官が、液体を塗布したり、白墨で描いたりして 痕跡をねつ造し、それらを請求人に間近で見せたとすれば、あまりに大胆な偽装工作である。
(甲23の136丁裏中段下段、137丁表上段)
そして、新旧全証拠をみても、警察官が路面に不自然な工作をしているのを見たという目撃者の存在はうかがわれない。
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