神社と言えば、通常は長い階段を上がって参拝するというイメージが有るが、宮崎県には石段を下って参拝する珍しい神社がある。
日向灘(ひゅうがなだ)に面した断崖絶壁の洞窟に本殿を構える鵜戸(うど)神宮だ。
参拝者は日向灘の大海原(おおうなばら)を見ながら海に向かって下りて行く様な石段を400段近く下り、岸壁に大きく空いた洞窟へとたどり着く。
まるで竜宮城への入り口を思わせる様な佇まいの理由は、そこに祀られている神様のルーツにある。
鵜戸神宮は、ヒコナギサタケウガヤフキアエズノ尊の生誕の地と言われる聖地だ。
『古事記』によれば、山幸彦の妻になった海神の娘の豊玉琵売(とよたまびめ)がその子のヒコナギサタケウガヤフキアエズノ尊を産み落とした。
ヒコナギサタケウガヤフキアエズノ尊は神日本磐余彦(かむやまといわれひこの)尊は初代の天皇とされる神武天皇の父親だ。
豊玉琵売は、天孫の御子を海原で産み落とす事は出来ないと、海から陸へ上がり、鵜戸の洞窟で出産したのだという。
そして、鵜戸神宮には母が子を思う切ない伝説が残されている。
出産の際に、ワニの姿になったのを夫に見られた豊玉琵売は、子を産むと海へ帰ってしまう。
その時に残していくわが子の為に岩に乳房を押し付けた。
その岩が「お乳岩」となって清水を滴らせ、ヒコナギサタケウガヤフキアエズノ尊はその水で作った飴を母乳代わりに育ったのだった。
今もなお絶え間なく岩清水を滴らせているお乳岩は、国造りの神話の代から変わらない母親の情を参拝者に感じさせる。
その水は今でも自由に飲む事が出来る。
安産や健やかな育児を願う参拝者は、現在も後を絶たない。