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ギョンスの秘密

2015-02-25 | Fairy tale

 

 

それは、月の光が辺りを青く照らす夜でした。

僕が夜道を歩いていると、その人は、ちょうど羽根をたたんでこちらを振り返ったところでした。

 

  ものすごく  白い。

 それも、青に近い 白さ。

 

そんな風に僕がその人に見とれていると、

何事もなかったようにその人が微笑んで、

今日から此処で暮らしてゆくので、泊まる処など世話してほしい。

と、しごく当然のように僕に向かって云うのです。

僕はちょっと戸惑いましたが、

承知しました、と、応えました。

 

それからです。

 

僕らは、ずっと、一緒です。

 

「名前は?」と訊かれたので、

「ギョンスです」とこたえました。

 

「あなたは?」と訊くと、

「昔、呼ばれていた名前もあるにはあったけど、ここでは君がつけてくれていいよ」

そう言って微笑むあなたを見ていると、おのずと「昔呼ばれていた名前」が容易に想像がつきました。

 

けれど、言わない。

その昔の名前では、決して呼ばない。

 

あなたが、いま、ここにいることを、僕は大切にしようと思うから。

昔のことは、詮索もしないし、その背中に隠したものを問いただすこともしない。

 

 

時々あの人は、背中の翼をゆっくり広げ、

まるで毛づくろいする猫のように、羽根の手入れをするのです。

僕は、それを黙って見ているのも、そっと手伝うことも、

どちらも好きでたまらない。

 

でも、

ふと、

恐くなる瞬間があります。

 

それは、

いつか、

この人が、

この翼を広げて、あの天の向こうに、帰っていってしまうのではないかということ…

 

…なので僕は、

あの人の翼の手入れを手伝う振りをして、

そっと…

 

一枚一枚、羽根を、そっと…

 

そっと、抜いているのです。

 

 

 



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