ゆらぎつつゆく

添島揺之歌集。ツイッター感覚で毎日つぶやきます。色調主義とコラボ。

雪炎

2018-06-20 03:29:09 | 資料


土手の片蔭に雪が残ってゐる、雪の上を月が照らしてゐる。
月にも色はない、雪にも色はない。
月の光と、雪の息とが縺れ合って、冷たい陽炎が立つ。
ちらちらとまぶしい、白いやうな、青いやうな、紅いやうな繊い炎が燃ゆる。
北国に行くと、雪の炎の間から白い女の顔が見えるさうだ。


河井酔茗の詩である。

雪が炎のようであるとは鋭い感性だ。

どちらもたしかに触ると痛い。

女の顔が見えるというは、人間の奥の深い記憶に根差したものであろう。


白雪のもゆる影にも指さしてあつきといひし冬の朝かな    揺之





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月は消えゆくみちもなきおほぞらを見つつしのべばなみだもこほる

2018-06-19 03:24:59 | 

月は消えゆくみちもなきおほぞらを見つつしのべばなみだもこほる    揺之



地震がありましたね。お見舞い申し上げます。





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夕映え

2018-06-18 03:19:28 | 絵画


ジョージ・イネス(1825-1894)、アメリカ。


黒い立木の影の向こうに、空が燃えている。

実際はここまであざやかにはならないだろうが、人の心にはこう映るのだ。

永遠なるものへのあくなきあこがれが、そう感じさせるのである。

世界というものは、感じる者の中にある、という気がする。


空は燃えしづかに落つるあまつ日のことやはらかに三界を去る    揺之





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耶蘇は死にむくろを石にかたかけて何をうれふる群鳥の声

2018-06-17 03:16:57 | 

耶蘇は死にむくろを石にかたかけて何をうれふる群鳥の声    揺之






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砂の道

2018-06-16 03:26:34 | 絵画


ジョン・ジョゼフ・エネキング(1841-1916)、アメリカ。


明るい日向の中を、ひとすじの道が通っている。

記憶の中にある光景だ。

遠い昔、こんなところを通ったことがある。

だれか、なつかしい人に会いに行ったのだ。

それはおそらく、もう二度と会えない人なのだ。


ひかり散る昼のしづけさひとすぢの砂の道ゆくきみにあふため    揺之






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悲しき朝

2018-06-15 03:27:27 | 資料


河瀬の音が山に来る、
春の光は、石のようだ。
筧の水は、物語る
白髪の嫗にさも肖てる。
雲母の口して歌ったよ、
背ろに倒れ、歌ったよ、
心は涸れて皺枯れて、
巌の上の、綱渡り。
知れざる炎、空にゆき!
響の雨は、濡れ冠る!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
われかにかくに手を拍く……


今日は中也である。
春の光が石のようだということばに心惹かれる。

思い浮かぶのは風もない静かな風景だ。
こおりついたような春の朝だ。
それは容易に自分を受け入れてくれない世界の、冷たさでもあるだろう。
鳥の声すら詩人には聞こえないのか。
その絶望の深さはどのくらいだろう。


朝は来てとりさへなかぬさとやまをあふぎて浴むるしづかなひかり    揺之






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ちぎれ雲

2018-06-14 03:23:36 | 資料

今日は賢治である。


ちぎれ雲ちいさき紺の甲虫のせなかにうつる山かひのそら    宮沢賢治


「ちいさき」は古文では「ちひさき」であろう。資料の編集者が間違ったのかもしれないが、わたしはこれを賢治自身の表現ととりたい。

「ちひさき」とするより、「ちいさき」がより甲虫の小ささ、愛らしさを感じさせる。小さな甲虫の背に映る、大きな山間の空。

古いものにこだわりながら、新しい時代を呼ぶ風に、人類の希望を見出そうとしていた賢治の高き願いも感じるのである。


ゆきすぎて振り向く風をあふぐ身の目にも映らむ明日の大空    揺之





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かきくらしふる白雪の下ぎえにきえて物思ふころにもあるかな

2018-06-13 03:16:44 | 古今抜粋

かきくらしふる白雪の下ぎえにきえて物思ふころにもあるかな    壬生忠岑



心の底に秘めた恋の歌である。

暗い空から降る白雪の積もった下の雪が解けて消えてゆくように、あなたを思う心が消え入りそうなほど苦しんでいることですよ。

雪の冷たさと白さが恋のつらさを引き立てる。表面上は何でもない顔をしておいて、恋は心の内でうずくものだ。それはなかなかに消すことができない。雪のように春になれば溶けてくれるものであればいいのだが。

恋によっては一生苦しむものもあるのである。



たまゆらの夢もかなはぬ恋なれば雪の降る間に凍てて果てなむ    揺之





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荒野ゆく身のまぼろしを夢にみてゆくべき朝の真木戸にふれぬ

2018-06-12 03:19:52 | 

荒野ゆく身のまぼろしを夢にみてゆくべき朝の真木戸にふれぬ    揺之






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パンドラ

2018-06-11 03:24:40 | 絵画


トーマス・ウィルマー・デューイング(1851-1938)、アメリカ。


テーブルの上に箱が置かれている。それでこの女性像をパンドラに見立てたものだろう。

箱と一緒にならんだ陶器の壺は子宮を隠喩しているかのようにも見える。

イヴとパンドラは冤罪だという説は正しい。

男が女性に自分の罪を押し付けてきたのである。女性が真っ白だと言うわけではないが、すべてが女性のせいだというのはおかしい。

戦争も殺戮も、男がやってきたことだからだ。

人物は背景の色と響きあい、壁に埋もれていくかのようである。

あるいは画家の罪の意識が、何かをもみ消そうとしているのかもしれない。


玉くしげあけて世に吹く風を聞き罪のありかを影に落としき    揺之






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