薄紅のさうび咲き群れ風に揺れこひのうらみは忘れよといふ

薄紅のさうび咲き群れ風に揺れこひのうらみは忘れよといふ　　　　揺之

逃げることを自分に許し混沌の谷を落ちゆく魂の闇

逃げることを自分に許し混沌の谷を落ちゆく魂の闇　　　　揺之

春の野に身をよこたへてわれを呼ぶ母の声をぞ空耳に聞く

春の野に身をよこたへてわれを呼ぶ母の声をぞ空耳に聞く　　　　揺之

ゆりかごの中に二匹のてふを入れしづかに揺らすまぼろしの家

ゆりかごの中に二匹のてふを入れしづかに揺らすまぼろしの家　　　　揺之

あひたきとちひさく語ることのはを風をたのみてささやき放つ

あひたきとちひさく語ることのはを風をたのみてささやき放つ　　　　揺之

花を見てとほきちぎりを思ひ出し君を探して野をさまよひぬ

花を見てとほきちぎりを思ひ出し君を探して野をさまよひぬ　　　　揺之

あしひきの山路の端に咲く花の見る人なきに風にうなづく

あしひきの山路の端に咲く花の見る人なきに風にうなづく　　　　揺之

飛ぶ鳥のよぎる窓辺を振り向きて身によみがへるとほき思ひ出

飛ぶ鳥のよぎる窓辺を振り向きて身によみがへるとほき思ひ出　　　　揺之

やがて散るものと思ひて花を見ぬ人はこの世のまことを知らず

やがて散るものと思ひて花を見ぬ人はこの世のまことを知らず　　　　揺之

月影にまなこを濡らしかたこひの憂きを清めてしばし忘れむ

月影にまなこを濡らしかたこひの憂きを清めてしばし忘れむ　　　　揺之