ゆらぎつつゆく

添島揺之歌集。ツイッター感覚で毎日つぶやきます。色調主義とコラボ。

かきくらしふる白雪の下ぎえにきえて物思ふころにもあるかな

2018-06-13 03:16:44 | 古今抜粋

かきくらしふる白雪の下ぎえにきえて物思ふころにもあるかな    壬生忠岑



心の底に秘めた恋の歌である。

暗い空から降る白雪の積もった下の雪が解けて消えてゆくように、あなたを思う心が消え入りそうなほど苦しんでいることですよ。

雪の冷たさと白さが恋のつらさを引き立てる。表面上は何でもない顔をしておいて、恋は心の内でうずくものだ。それはなかなかに消すことができない。雪のように春になれば溶けてくれるものであればいいのだが。

恋によっては一生苦しむものもあるのである。



たまゆらの夢もかなはぬ恋なれば雪の降る間に凍てて果てなむ    揺之





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侘び人のわきて立ち寄る木のもとはたのむ蔭なく紅葉散りけり

2018-06-09 03:23:25 | 古今抜粋

侘び人のわきて立ち寄る木のもとはたのむ蔭なく紅葉散りけり    遍照


侘び人は失意の人という意味である。おそらくは歌人本人のことであろう。

何の事情があったのかはわからない。それは立ち入ることのできない聖域であるかもしれない。

だが何かに頼るように人間は木によっていくのだ。紅葉が散る。

散るのを見るだけで、何かがしみじみとわかる。


散りしきるもみぢの色も消えゆけばいづかたとなくゆく我を知る    揺之






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月を待つたかねの雲は晴れにけりこころあるべき初時雨かな

2018-05-27 03:27:21 | 古今抜粋

月を待つたかねの雲は晴れにけりこころあるべき初時雨かな    西行


西行は簡単に句を切る。

それでいて破たんしない。なかなかにこれはできない。

技術というより心というべきだろう。

いいものだが、簡単に真似はしないほうがいい。


雲流れ月を放ちし高空の風の音聞く時雨は去りぬ    揺之





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我が宿の菊の垣根に置く霜の消えかへりてぞ恋しかりける

2018-05-19 03:30:18 | 古今抜粋

我が宿の菊の垣根に置く霜の消えかへりてぞ恋しかりける    紀友則


我が宿の菊の垣根に置く霜の、までは序詞だ。

相手の気持ちが冷めて、その恋心が消えてしまいそうなのに、焦りを感じている。

女の心を押しとどめたい男の、痛い焦りが詠みこまれている。

それを技術でくくるところに、自分の男を見せたいという心があるのだろう。


村雨のすぎてさにはの槙の枝に結ぶ露ほどつれなかりけり    揺之






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明日知らぬ我が身と思へど暮れぬ間のけふは人こそ悲しかりけれ

2018-02-27 03:05:55 | 古今抜粋

明日知らぬ我が身と思へど暮れぬ間のけふは人こそ悲しかりけれ    紀貫之


哀傷歌である。紀友則みまかりにけるときによめる、とある。

たんたんとした描写に返って友を悼む心が見える。

美しい心を読むときには、修辞を衒うのは逆効果だ。

ただ内から生まれてくる静かな感情のままに詠めばよい。


ゆくひとのにほひのこりしかたいほのひなたのまどにそよ風ぞ吹く    揺之





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雪降れば冬ごもりせる草も木も春に知られぬ花ぞ咲きける

2018-02-22 03:05:48 | 古今抜粋

雪降れば冬ごもりせる草も木も春に知られぬ花ぞ咲きける    紀貫之


冬の歌を入れたいと思い、これを出してみた。

雪を花と見るような歌はたくさんあるが、これはかなりよい。

春に知られぬ花というところに、あわい春の夢を見ている。

厳しい冬の中に、雪がかえって春の夢を見させてくれる。

人生で時に味わう厳しいことも、すべてはよきことなのだと、彼は知ったのだろう。


降る雪にとほきおもひでおぼえつついはぬ心の春の夢かな    揺之






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月夜にはそれとも見えず梅の花香を尋ねてぞ知るべかりける

2018-02-12 03:05:55 | 古今抜粋

月夜にはそれとも見えず梅の花香を尋ねてぞ知るべかりける  凡河内躬恒


躬恒はきつい歌人である。すぐれているが容易に正体を現さない。

高い形をつくりつつおそろしく不思議な紗をかけて自分を隠している。

香をさぐっておいかけてもみつからぬ花のようである。


わづかにもそよぐ春風空耳にのがしたりける白梅の声    揺之






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鳴く鹿の声に目ざめてしのぶかな見はてぬ夢の秋の思を

2018-02-07 03:05:43 | 古今抜粋

鳴く鹿の声に目ざめてしのぶかな見はてぬ夢の秋の思を    慈円


慈円は澄んだ憂愁を歌う。

鹿の声は人間の心に何かを投げかけるものだ。

彼らはただ純粋にだれかを恋うている。

さみしいからそばにいてほしいと。

それを聞く時、人間は遠く隔たっている何かへのはげしい郷愁にとらわれ、そこから痛い情動を発し、鹿のように歌を詠うのだ。


鹿のごと鳴かざる人の声ひくくわがみの玉の痛みをぞ打つ    揺之





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海人の刈る藻に住む虫のわれからと音をこそ泣かめ世をば恨みじ

2018-01-28 03:05:49 | 古今抜粋

海人の刈る藻に住む虫のわれからと音をこそ泣かめ世をば恨みじ    藤原直子


序詞の秀逸な例であるが、技術よりも作者の切なさを強く感じる。

恋がかなわぬのは自分のせいなのだ。世間のせいなのではない。

恋してはならぬ人を恋する自分が悪いのだ。

「われから(割殻)」というのは海藻に住む下等なエビ類なのだそうだが、そのようにとるにたらないようなものとも、自分が思えるのだろう。


刈菰の乱れ散りなむこひ衣われからたたむたへがたくとも    揺之






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大空の月の光し清ければ影見し水ぞ先づこほりける

2018-01-25 03:05:40 | 古今抜粋

大空の月の光し清ければ影見し水ぞ先づこほりける    よみ人しらず


古い時代においては夜に明るいものといえば月だけだった。

ゆえにそれを見る時の感性は否が応でも磨かれた。

一筋の影も漏らさないほど見つめたものだ。

その月の光があまりに清らかなので、それを見た水がまず凍りつくほどなのだと。

詠み手は素直に感じたことを詠んだのである。

夜を照らす明るい月の景色が見えるようでもある。


おほぞらにかかる月夜も群雲のかかるまなこは見てもかからず   揺之





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