油屋種吉の独り言

日記や随筆をのせます。

ポケット一杯のラブ。  プロローグ

2024-02-29 23:34:12 | 小説
 公立中学校の二年生になるとほんのわずか
の間だが世の中に出て大人たちの職場で実際
に働いてみる機会がある。

 社会科見学より一歩ふみこんだもので、こ
の学習に対して異論はむろんあった。

 しかし、図書館や郵便局といった公共機関
が選ばれているうえ、思春期をむかえた子ど
もにとって意義あるものらしく、もう数十年
続いている。

 M子は学区内にある小さな郵便局で、この
体験学習に参加した。

 ある日のこと、誰に頼まれたわけでもない
のだが、大人がやっているのだから、自分に
もできそうだと、封筒やら手紙やらの郵便物
が一杯つまった大きな袋を、力まかせに持ち
上げようとした。

 そのとたん、腰の辺りがくきっと鳴った。

 M子にとっては初めて耳にする音で、少し
痛みをともなう。

彼女はその場にへなへなとしゃがみこんだ。

 「おい、誰かみてやれ。ちょっとむちゃな
ことやった子がいるぞ」

 (お父さんの声に似ているわ)
 M子はほっとした気持ちになった。
  

 
 
 
 

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