油屋種吉の独り言

日記や随筆をのせます。

受験の季節。

2024-02-22 21:09:18 | 随筆
 T県の高校受験。
 私学の場合、すでに昨年12月から始まる。

 著名なプロ野球投手を輩出したことのあるS高などは、
県立高の結果をも踏まえたうえで、第一第二そして第三
と生徒を募る。

 今年の県立高の入学試験は3月6日。
 結果発表は12日である。

 現時点では、ほとんどの受験生はひとつやふたつのす
べり止めとして、私学への切符を手にしている。

 今月中旬には県立高の特色選抜制度に基づく試験があ
り、各校の定員の何パーセントかの合格者が内定してい
る。しかし彼らの合格の喜びはごく控えめなものだ。

 選抜で志望校に合格するには、中学校の成績優
良はもちろんだが、推薦が必要。それにもれた受験生は、
あと12日間、一般入試での合格をめざし、主要五科目の
苦手分野克服に大わらわとなる。

 あと一点、いや、あと二点採れば、と、家庭や塾で補
習に力がこもる。
 「Yちゃん、なに、いつまでのんきにポテトチップな
んてつまんで、テレビを観てるの」
 「いいじゃん。ちゃんと計算してるし」

 M家の次男坊はいたってのんきな性格で、あとひと踏
ん張りと口酸っぱく言われても、鷹揚としたもの。
 「お母さん、いちいちそんなにY男に、うるさくいわ
ないでいいよ。ちゃんとわかってるよ。時計を観ながら
休んでるようだし」
 Y男の兄、高校二年生が助け舟を出す。

 「もうだめよ。じいちゃんが来る時間だし」
 台所で食後の食器洗いに精出していたY男の母が前掛
けで自分の両手をふきふき、茶の間に上がり込んでくる。
 すかさずY男は、上体を起こし、自身の個室に上がっ
て行った。

 しばらくして、Y男の祖父が到着。
 「こんばんは。もうそろそろ塾の始まる時刻だね。う
ちの受験生はどうしてる?出かける準備はできてるかな」
 「あっ、お父さん、寒いところ、今晩もお世話
かけます」

 祖父の住まいはすぐ近く、あっと言う間に彼の孫宅ま
で着いてしまう距離だ。
 Y男の塾通いの力強い助っ人である。

 塾への送迎を彼が一手に担っている。夕刻、Y男を塾
へ送りとどけたら、22時30分の終業まで。
 彼の長男のアパートに待機となる。

 Y男の母親のみならず、祖父まで。一丸となってY男
の志望校合格をめざす。
 
 大学受験と違い、T県の高校受験は厳しい。
 首都圏の子らは、すでに小学生の内から私立中学受験
に大忙しだ。

 しかし、T県の場合、一部の生徒をのぞき、ほとんど
が県立高合格をめざす。

 「十五の春を泣かせない」
 わたしも長年、学習塾の講師を務めてきたからその言
葉の重みがよくわかる。
 一発勝負のところがある。

 わたしは奈良市の一条高校を受験した。受験番号269。
 六十年経つのに、いまだに憶えている。

 折しも、この春先のお天気不順である。
 あったかくなるかと思いきや、一転、雪のちらつく空
模様がつづく。

 夜遅くまで、寒い中、塾の駐車場で、塾の建物から退
出してくるお孫さんを、首を長くしてお待ちの同年輩の
みなさん、あなたのご健康とご多幸を祈ってやみません。
 
 
 

 
 
 
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1 コメント

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Unknown (sunnylake279)
2024-02-23 14:01:43
こんにちは。
高校受験、懐かしいです。
受験生を抱える親は、子どもと同じように気が重いものですよね。
私の子どもも塾に行っていました。
今は、祖父や祖母が孫の塾送り迎えをすることが多いのでしょうか。
種吉さんは、高校の受験番号をまだ覚えているなんてすごいですね。
私は全く覚えていないです。
行けると思っていなかった公立高校に合格したのはとても意外でした。
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