午後五時。
終業を知らせるチャイムが、二階建てのビ
ルの中で鳴り響きだしたとたん、組合内が急
に騒がしくなった。
とりわけ、二階の廊下を、女子職員が、ヒ
ールをはいて歩く。
一階へと、コツコツと音高らかに、階段を
おりてくる。
人によって靴音が違うのだろうか。
総務部のM課長は、いつの頃からか、その
ヒールの音で、だれがのぼりおりしているか、
言い当てるのがうまくなっていた。
しかし、その話を誰にもしない。
変に思われること請け合いだからだ。
だから、そのことは、自分の胸の奥にそっ
としまっておいた。
彼の歳は四十がらみ、未婚。顔立ちは俳優
の中井貴一氏に似ていた。
それは、ただ自認しているに過ぎなかった
けれども、組合内では、けっこう、女子職員
にもてた。
人によっては、階段付近で、用もないのに
うろうろしていると、たちまち女たちに警戒
されてしまう。
やれ、M課長は、だれだれに気があるだの
といった話になり、その噂が、すぐに広がっ
てしまう。
スキャンダルに発展しかねない。
「何ですの一体、課長。変なおじさん役を
わざわざこんなところでやるなんて、チョー
信じらんないわ」
となる。
この某組合、職員はまるで準公務員。
働きぶりがのんびりしていて、預貯金にか
かわる業務や、保険業務においては、時折厳
しいノルマが課せられるだけだった。
二階には、昔から大小の会議室がひとつず
つ、それに社員食堂があった。
しかし時代が進み、仕事の種類が増え、一
階だけでは仕事に支障がきたすようになった。
そのために、会議用のテーブルを十も入れ
ると部屋がいっぱいになってしまう社員食堂
を、人事部に衣替えしようという案が、いと
も簡単に、上層部に受け入れられた。
急ごしらえで、人事課が設けられた。
せっかくの休憩所だったのに、息抜きの場
がなくなったと、一時はひら職員の間から不
満がわいた。
だが、それも時間の経過とともに消え失せ
てしまった。
終業を知らせるチャイムが、二階建てのビ
ルの中で鳴り響きだしたとたん、組合内が急
に騒がしくなった。
とりわけ、二階の廊下を、女子職員が、ヒ
ールをはいて歩く。
一階へと、コツコツと音高らかに、階段を
おりてくる。
人によって靴音が違うのだろうか。
総務部のM課長は、いつの頃からか、その
ヒールの音で、だれがのぼりおりしているか、
言い当てるのがうまくなっていた。
しかし、その話を誰にもしない。
変に思われること請け合いだからだ。
だから、そのことは、自分の胸の奥にそっ
としまっておいた。
彼の歳は四十がらみ、未婚。顔立ちは俳優
の中井貴一氏に似ていた。
それは、ただ自認しているに過ぎなかった
けれども、組合内では、けっこう、女子職員
にもてた。
人によっては、階段付近で、用もないのに
うろうろしていると、たちまち女たちに警戒
されてしまう。
やれ、M課長は、だれだれに気があるだの
といった話になり、その噂が、すぐに広がっ
てしまう。
スキャンダルに発展しかねない。
「何ですの一体、課長。変なおじさん役を
わざわざこんなところでやるなんて、チョー
信じらんないわ」
となる。
この某組合、職員はまるで準公務員。
働きぶりがのんびりしていて、預貯金にか
かわる業務や、保険業務においては、時折厳
しいノルマが課せられるだけだった。
二階には、昔から大小の会議室がひとつず
つ、それに社員食堂があった。
しかし時代が進み、仕事の種類が増え、一
階だけでは仕事に支障がきたすようになった。
そのために、会議用のテーブルを十も入れ
ると部屋がいっぱいになってしまう社員食堂
を、人事部に衣替えしようという案が、いと
も簡単に、上層部に受け入れられた。
急ごしらえで、人事課が設けられた。
せっかくの休憩所だったのに、息抜きの場
がなくなったと、一時はひら職員の間から不
満がわいた。
だが、それも時間の経過とともに消え失せ
てしまった。