私は葛飾北斎が大好きです。長野県小布施町には北斎美術館もあり何回となく訪れています。北斎「富嶽三十六景」には一図一図に、北斎の意図や見どころがあります。北斎は、LIFE誌が選ぶ「この1000年で最も重要な功績を残した世界の人物100人」に選ばれた唯一の日本人。「富嶽三十六景」及び「北斎漫画」は、世界のゴーギャン、ゴッホ、セザンヌ、モネ、など多くの印象派画家に影響を与えています。まさに世界の「北斎」です。
「凱風快晴」
「イワシ雲たなびく富士の山容は 晴れ渡る空真紅に染まる」
凱風とは、南風のことです。初夏のころ、そよ風が吹いているようです。雄大な富士の山容とたなびくイワシ雲は、気高く臨場感たっぷりです。夏から秋にかけての晴れた日の早朝、富士が赤く染まる一瞬があることを、江戸時代の日記はびっくりしたように記録しています。
北斎は、その瞬間に感動し、描いたものでしょう。それは力強く一日の始まりを告げるかのようです。藍色のぼかし摺で、青い空を背景に赤々と燃焼しているかのように染められた、富士の山頂には雪が残り、立体感を表しています。通称「赤富士」といわれます。
「諸人登山」
静岡県富士宮市・富士山頂
「山頂の情景醸すご来光 しらみはじめた朝焼けの雲」
富士山の山開きは六月一日です。男たちは、ようやく富士山頂にたどり着き、あるいは右に描かれていますように、岩にしがみついて最後のひと踏ん張りに懸命です。左には、頂上に登ってすべての力を使い果たし疲れ切って腰を下ろす人たち、右には岩室の中に無言で身を寄せ合う富士講の人々。しらみはじめた空に朝焼けの雲がたなびいています。御来光はまもなくのようです。富士の全体を描かず、山頂の情景のみ描いているのは、本シリーズ中唯一です。
「駿州江尻」
静岡県静岡市清水区追分
「強風の富士は泰然動と静 見えない風の表現憎し」
江尻宿は江尻津や南方の清水湊とともに東海道の交通の要衝でした。街道は、かなり強い風が吹き荒れ、人々は飛ばされまいと身をかがめ、笠をおさえています。強風は、頭巾姿の女性の懐から懐紙を奪い、天高く何枚も飛ばされていきます。笠が懐紙を先導しているかのようです。直接見えない風を描いています。富士は泰然としています。動と静の対比は、強風にうろたえる人間の小ささを表現しようとしたのでしょうか。道の先には姥が池の水面が白く見えています。
「東海道江尻田子の浦略図」
静岡県静岡市清水区由比・駿河湾沖
「万葉の山部赤人詠んだ地で 弐艘の船が富士と響くも」
田子の浦と言えば、奈良時代の万葉の歌人・山部赤人の名歌「田子の浦 ゆうちい出てみれば ま白にそ 富士の高嶺に 雪は降りける」でも知られる歌枕の地です。二艘の船が波に揺られ、漕ぎ手たちは渾身の力をこめて艪(ろ)を握っています。浜では、人々が田子の浦の名物である「塩焼き」を楽しんでいます。船の孤線が富士の稜線と響きあう様を描いているようです。
参照
https://media.thisisgallery.com/20208048
https://fugaku36.net/free/nihonbasi
※6月3日(土)4日(日)は休みます。
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