たつのこ半畳記 350

坐禅会情報・四季折々の様子を伝えるときどき日記。
令和3年に開創360年を迎えている起雲山大龍寺のブログです。

★何よりのお薬 《看取りの話2》

2021年03月23日 | おはなし
★半年後の予約 《看取りの話1》




遠くにある病院の診察に車で同行した翌朝、彼女の自宅から電話がありました。

薬で抑えていた痛みが未明から耐えられなくなり、
ガンの主治医に電話で相談したらすぐ診察、場合によっては即入院になるかも。
との見立てに、彼女は全部一人で自宅の片付け、診察・入院の準備、
郵便や宅食停止の連絡をし、マンション管理人さんへの挨拶も済ませたそうです。

彼女の連絡手段は、今では珍しい黒電話一本と郵便だけ。
留守電、FAX、携帯・スマホ、いずれも持っていなかったため、
すぐに診察、そのまま入院なるかもという状況を誰かに伝えておかないと、
場合によっては自宅での突然死が疑われかねないという事情もあります。
これから病院に向けて出発するという間際に電話をくれたのです。




翌日、入院している病院から電話がありました。
病状的にはあまり良いとは言えず即入院となったが、
いまは痛み止めが奏功していて、身心共に落ち着いているとのことでした。
当時の病院はコロナ対応のため通常のお見舞いはできない状況でしたが、
保証人として「入院申込書」に記名をするという名目でお見舞いに行きました。

そして、今後は在宅診療、介護保険、緩和ケアに対応した病院のことや、
独り住まいの彼女が、今後いかにして自宅での日々を過ごすか、
そしていかにして“最期”を迎えるかという話を、
具体的に詰めておく必要があることもわかりました。




彼女の退院を待って、様々な約束事を明文化する作業が始まりました。
財産的なことは行政書士の先生との間で話し合いが持たれ、
私は、彼女が仏事に関連して気にしているいくつかのこと
  自分が亡くなった時のご葬儀などのお勤めのこと
  その後の両親を含む先祖代々の供養のこと
  拙寺にある先祖代々の墓地のこと
  彼女の自宅にあるお仏壇のこと
などについてその思いを聞き、文書にまとめていきました。
拙寺へのお布施の奉納や石材店さんへの支払いが生じるものもありました。

通常、お布施についてはその意義について言葉を尽くして説明をし、
できるだけ具体的な金額の提示についてはしないようにしています。
けれども彼女のような状況では、いつも通りというわけにはいかないと思い、
具体的な金額についても、一緒に考えていきました。

幸い、彼女が癌を患うずっと前から、様々な想いを聞いてきましたので、
万が一の際の取り決めについては、何回かの話し合いでほとんど固まりました。
彼女はホッとしてましたが、私にはもう一つ話したいことが心にありました。




彼女の診察のほとんどは、車で送り迎えをしつつ同行させてもらいました。
診察後には体調が良いようだったので、時間的にもお昼ご飯を食べることになりましたが、
せっかく車なのだからと、病院から横浜の中華街へ足を伸ばすことになりました。

病院での診察を受けるため、彼女は痛み止めを飲んではいましたが、
中華街に行くことを心から喜んでくれて、車中の彼女はずっと喋りっぱなしでした。
楽しく過ごすことは何よりのお薬だったのかもしれません。

「いまかなあ…」

私は、タイミングを窺っていたことを話そうかと思いました。





★できることをする 《看取りのはなし3》
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