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退屈しないように シニアの暮らし

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さて何をしようか

泣かないで、花を見なさい

2014-10-15 05:54:31 | 韓で遊ぶ

盲導犬
ある貧しい視覚障害者の大学生を主人とする盲導犬がいた。彼の名前はテグ、主人である大学生ミノがつけてくれた名前だ。テグは盲導犬の学校を主席で卒業してミノに贈られた。ミノが通う大学で視覚障害者のための「盲導犬寄贈式」を行った時、テグが正式にミノとカップルになった。
テグは盲導犬の学校でミノとはじめて寝食を共にしながら共同訓練を受けた時、気分があまりよくなかった。内心ではひそかにかわいい女学生を主人にしたらと願った。背も小さくてやせたミノと訓練を受けることになって気が向かなかった。だが、人が犬を選ぶのであって犬が人を選ぶことができないのを彼はよく知っていた。
テグは寄贈式を終えて次の日から背中に「盲導犬」とかかれた服を着てミノと一緒に通った。盲導犬の学校で習った通り、主人の左側で少し前を歩きながら主人を案内してやった。道を歩いていて障害物があれば避けて、避けることができない障害物があると止まって主人に知らせ、段差があるとその前でしばらく止まって建物の出入り口や階段に案内してやった。
多くの人は不思議そうにテグを見た。「あら、あの犬ちょっと見て。」と言って騒ぐ女性を見たら、訓練を受けた時とは違って得意な気分にもなった。
だが、盲導犬の生活は並大抵のことではなかった。地下鉄に乗ろうと電車の中に入っていくと「あら、何で犬が。」と言いながら、半分ぐらいの乗客は驚いて、半分ぐらいの乗客は気分が悪いと言う表情でテグを見た。昼の時間になって何かを食べようと思う時も、犬が入ることができないと言って食堂の前で門前払いを食うことも度々だった。
しかし、こんなことはミノが大学で講義を聴いている間、講義室の床で静かに座って講義が終わるのを、退屈しながら待っているのに比べたら何でもなかった。他の事は皆耐えることができても、これだけは本当に我慢できない仕事だった。「門前の小僧、習わぬ経を読む」と言う諺があるが、いったい何を言っているのか理解できない講義を、主人のために何時間もじっとして座って聞かなければならないということは、本当に大きな苦痛だった。
しかし、何よりもテグを苦しめたのは、盲導犬として本当に主人を愛さなければならないという事実だった。しかし、愛は努力して成るものではなかった。テグはどんなに努力しても主人に対する愛の感情が起こらなかった。愛どころか意地悪をして主人をとんでもない道に引っ張って行かないだけでも幸いだった。
だからテグは時々ミノから離れて遠くに逃げていく夢を見た。どうすればこの退屈この上ない、自分自身のために生きることができず、視覚障害者のためだけに生きなければならない暮らしから抜け出せるのかと言う思いを重ねていた。

そんなある日、テグはミノの一番親しい友人のキョンホの家に地下鉄を2回も乗り換えて訪ねて行くことになった。その家は一度も言ったことがない山里にあった。俗に言う貧民街だった。
町内の入り口に入って行くと、子供たちが群れになってテグにぞろぞろついてきた。子供たちは退屈だったところにいいものが来たと思って、好奇心いっぱいの様子だった。そんな子供たちが、なぜか急にテグに石を投げつけたのは予想もしないことだった。おそらく特別な理由もなかったことだ。ただ、子供らしい単純な遊びに過ぎなかったのだ。しかし、一人の子供が石を投げ始めると皆一緒に石を投げ続けた。
テグは怒ったが1,2度投げれば終わるだろうと思って黙って我慢した。だが、子供たちはテグのそんな心も知らず石を投げるのをやめなかった。テグは石を投げ続けられて、もうこれ以上我慢できず、子供たちに向って目をむいてうなった。
あ、まさにその時だった。鋭い石がテグの右側の目に向って力いっぱい飛んできた。「あ」と叫んだ瞬間、テグの目から血が流れた。テグの悲鳴に驚いたミノが胴輪を離して子供たちを叱った。子供たちはすでにあたふたと逃げた後だった。
テグは一晩中眠ることができなかった。目がひりひり痛いだけでなかった。それは応急処置をしに行った動物病院の医者が主人のミノに言った一言のせいだった。
「もしかしたら失明するかも知れませんね。網膜の傷が深いです。」
この言葉がテグに与えた衝撃は大きかった。テグは寝るどころか食欲もなくしてしまった。普段は好きなソーセージをやっても食べなかった。
結局その衝撃は単純な衝撃として終わらず、テグに失明の傷を負わせた。盲導犬がただの盲犬になってしまったのだ。
見えない世界が息苦しかった。目で見ることのできない世界は暗い、まさにそれだった。この間、主人がこんな暗黒の中で生きていたと思うと、テグは本当の気持ちで主人のために働いてこなかったことを後悔した。しかし、主人の暗闇を推し量っているにはテグの身の上はあまりにも悲惨だった。目の見えない人が暮らしていくにも大変な世の中で、どうして目の見えない犬が生きていけるだろうか、テグはひたすら死んでしまいたい気持ちだった。

歳月は止まることなく流れた。どうすれば死ねるかという思いだけのテグは、一日一日弱っていき、ミノは一人で学校へ通って、いつも怪我をして疲れた体で家に帰ってきた。
ところがある暑い夏の日、ミノがまたどこかで転んでメガネを壊して前歯を1本折って帰った来た。すると酒に酔ったミノの父親が叫んだ。
「やぁ、ミノや。少し注意して歩け。お前そんなことをしていたら歯が1本もなくなってしまう。目の見えない息子を育てることも大変なのに、今は目の見えない犬まで育てるとは。全くあきれてしまう、、、、」
ミノの父親の言葉はテグを悲しくさせた。
「息子をよろしくとよく頼んだのに、お前の目が見えなくなるとは。こいつがこれ以上やせる前に栄養湯の店に売ってしまおう。あ、今日は伏日だから肉の値段も上がっているのじゃないか。」※栄養湯の店:犬の肉を食べさせる店、伏日:夏の土用
テグはしょんぼりと死を覚悟した。この間、自殺でもしようとできなかった自分に対してひどい侮蔑感が感じられた。
その時、服を着替えていたミノが部屋の戸をあけて出てきた。
「父さん、どうしてそんなことを言うんだ。テグが聞いたらどんなに悲しいか。」
すると台所でスイカを切っていたミノのお母さんも出てきて言った。
「あなた、何を言っているの。ひどいじゃないの。あなた、冗談にもそんなことを言ったら罰があたるわ。」
そういいながらミノのお母さんはスイカの一切れをテグに差し出した。
「のどが渇いたでしょ。これ食べなさい。お父さんが酒に酔って言った事だから心配しないで。お前の目が見えないのはお前が悪いんじゃない。皆、家の息子のせいだ。私がみんなわかっているから。この間息子を助けてくれたこと。本当にありがたい。何の心配もしないでお父さんの話は聞かないで耳を塞いでいなさい。」
テグはミノとお母さんの言葉に涙が浮かんだ。彼らがそんなにまで自分を思ってくれているとは考えてもみないことだった。
その日以降、ミノのお母さんが毎日目の見えないテグをつれて散歩に行った。テグはミノのお母さんの案内を受ける度にすまないとも思い、恐縮にも思いもしたがそれも嫌ではなかった。
夏が過ぎていったせいか散歩をする時の風はいつもさわやかだった。道には落葉が落ちる音が聞こえた。
落ちる落葉のせいなのだろうか。ある日テグはこの間盲導犬として生きてきたことが、まさに自分のために生きてきたのだと言う事実をふと悟った。他人のために何かをしなくては決して自分のために何もできないという事実をテグはやっと悟ったのだった。
コメント
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