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 久しぶりに朝から野鳥の写真を撮ろうと近所を散策したものの、鳥影薄く断念。本書を読み始めることにして、一気読みしてしまいました(^^)

 最終巻でどう決着がつくか気になっていたことは

(1)マーティンとカリスの愛の行方
(2)邪悪なゴドウィン、フィルモン修道院長/副院長をマーティンらはどう抑えていくのか
(3)グウェンダ、ウルフリック夫妻は隷属的な農民から脱出できるのか
(4)今は修道士となったトマスが、20年以上も前に隠した手紙には何が書いてあるのか、また秘密はいつ明かされるのか
(5)すっかり悪人になってしまったマーティンの弟、ラルフ伯爵をどうする(どうなる)のか
(6)ペスト禍はどう収束するのか

 と思いつくままざっと並べてみても数が多い。これに複雑な人間関係や利害関係がからんでくるから頭の中を整理しながら読み進める必要がある。が、何本もの糸を手繰ることになり、意外なところで繋がるのでその面白さは半端じゃないですよ!

 複雑な物語なので、ここでは登場人物をなぞったり筋を追うのはよしましょう。

 前作の『大聖堂』と比較すると、前作は成長期。登場人物それぞれが苦悩するところはいっしょですが、創造に伴う苦しさ、とでも言えばいいのかな。日本でいえば「高度経済成長期」に相当するでしょうか。江戸時代で言うと元禄期(^^;

 一方、本作は成長後の混乱とそれに伴う苦悩が描かれています。大きくなった町を維持し、橋や建物といったインフラ整備を進めなくてはいけない。しかも成長期は終わっている中で資金をどうするか?どこかで聞いた話、そう、まさに現代日本の状況と似ているのです。江戸時代で言うと、文化・文政期←いや、ふつうこの喩えで分からないから(爆)

 日本もバブル崩壊後、「失われた20年」なんていって経済の停滞から抜け出せていません。人間は(一部の人を除いて)成功体験に縛られます。そこから抜け出すには大きな痛みを伴う改革も必要でしょう。ましてや企業や自治体といった組織になればそこに働く慣性は大きなものになるので、方向転換は大変です。それでもやらなくてはならない。

 例えば未だに「円高不況」なんて言ってる企業がある。円高の潮流はここ3年くらい変わってないので、1ドル=90円というラインを想定し、そこへ戻れば利益を出せるなんて経営ではもうダメです。円高基調を織り込んで、1ドル=70円台でも利益が出るような体質に変えていかなければ企業の存続は難しい。現に円高を上手に活用している企業は多く現れています。

 本作ではペストの大流行が産業、特に農業のやり方を変えてしまいます。
 農民が激減したために売り手市場になる。土地を持たない小作人=労働者は流動的になり、より高い賃金を求めて移動します。先見の明に富んだカリスはそういう労働者を上手に活用しようとしますが、当然旧勢力(荘園領主や修道院上層部など)と対立を深めていきます。
 例えば彼女は良い農地のみを耕作させ、斜面などは牧草地にすることで効率的な農業生産を考えるんですが、人的資源が不足する中で非常に理に適っている。
 一方、マーティンも若い時代に抱いた「イングランド一高い塔を建てる」という夢を実現しようとしますが、合意の取り付け方を学んだ彼はいきなり会合でそのことを議題にせず、根回しをし、相手の希望とすり合わせるという準備を怠りません。
 そういう意味では、現代に生きる私たちに様々な示唆を与えてくれる物語になっていますが、それはそうで書き手が現代を代表する作家の一人、ケン・フォレットだから。彼の目を通して様々なことを学べる物語りにもなっているということです。

 ラストで、ほぼ完成した尖塔の頂上付近、いい歳の取り方をしたマーティンとカリスが抱き合い、野望潰えて去っていくフィルモンを見下ろすシーンはいいですねえ!。映画(ドラマ)で視覚化すれば感動的なシーンになると思います。

 が、むしろ個人的に感動したのはグウェンダが長年の宿敵だったアネットと和解する場面。グウェンダの息子デイビッドとアネットの娘アマベルの結婚の宴の席でそのドラマは起こりました。
 今までグウェンダ視点で「頭の足りない、男に媚を売るだけの女」として描かれていたアネットが、実はすでに多くのことを学んでいて、グウェンダに思いの丈を語ります。う~ん、これには本当に意表を突かれました。
 登場人物はみな、読者の気に入ろうが入るまいが血の通った人間なのです。

 著者フォレットの語りの上手さに改めて脱帽。素敵な物語に乾杯(^_-)

 一方、この物語に水を差す解説が・・・そう、あの方です、児玉清氏(^^;
 たぶん私の感覚と合わないだけだと思うのですが、これはまた別のエントリを起こしたいと考えています。マーティンなら、きっとスルーするでしょうけどね(爆)


【関連エントリ】
『大聖堂(上)』ケン・フォレット
『大聖堂(中)』1ケン・フォレット
『大聖堂(中)』2 ケン・フォレット
『大聖堂(下)』ケン・フォレット
『大聖堂ー果てしなき世界(上)』ケン・フォレット
『大聖堂ー果てしなき世界(中)』ケン・フォレット

大聖堂―果てしなき世界 (下) (ソフトバンク文庫)
ケン・フォレット
ソフトバンククリエイティブ


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