泉を聴く

徹底的に、個性にこだわります。銘々の個が、普遍に至ることを信じて。

走り続ける力

2019-01-10 14:57:21 | 読書
 

 新年一冊目。
 著者の山中伸弥さんは、言わずもがなのiPS細胞の生みの親。
 かつ、マラソンランナーでもあります。
 タイトルに引かれて買った。マラソンつながりで、学ぶこともあるだろうと。
 読んで心に残るのは、VW(Vision & Workhard)という、山中さんが留学先の先生から教えられたこと。
 ビジョンだけでもだめだし、ワークハードだけでも足りない。
 ビジョンには、視力、先見の明、心に描く未来、想像力の他に、幻という意味もある。
 必死に働くだけでそこに意味がなければ空しく消耗するだけです。
 山中さんは、自分を医者にしてくれた父親の病を治すことができなかった。
 整形外科医になっても「じゃまなか」と言われるほど不器用で手術が下手だった。リウマチの患者さんたちを治すこともできなかった。
 無力感が根底にあるそうです。
 基礎研究に進路を変えたのは、何が起きるかわからないワクワク感に引かれて。
 実験の九割は失敗する。思うようにはならない。そんな数え切れないほどの失敗をチャンスだと思えるかどうか。
 手術では、失敗は許されない。でも、研究では、失敗が新しい道を切り開く。
 人間万事塞翁が馬。山中さんが好きなことわざ。
 音楽家やスポーツ選手との意外な交流もあったりして、納得のいくことばかりだった。
 iPS細胞についても学習。
 細胞は、一つの受精卵から分化を続け、皮膚や筋肉や心臓などになっていく。
 逆に、それぞれの組織の一つとなった細胞は、元に戻らないように鍵がかかっている。
 その鍵を開けるのが四つの遺伝子で、山中四因子と言われている。
 細胞が初期化してしまうわけです。
 それをiPS細胞と言う。
 iPS細胞の役目は二つ。
 一つは、患者さん由来の細胞から、病気ではない細胞組織を再生して移植する。
 もう一つは、創薬。体の外で、体の中の病気を再現し、何が効くのか実験できるから。
 すごい勢いで治験は進んでいる。
 だからといって万能じゃない。時間もかかる。
 患者さんを持ち上げておいて落としてはならない。
 無力感が根底にあってこその謙虚さ。誠実さ。
 しっかり、私も身に着けたい。
 iPS細胞は、山中さんが行き着いた芸術作品でもあるわけです。
 作品が、多くの人たちの命に喜ばれて受け入れられる。
 そのビジョンは、私が抱く小説という作品にも当てはまります。
 &ワークハードで。たくさんの人たちが応援し、心待ちにしている。
 だから走り続ける。走り続けることができる。
 走り続けるために、山中さんは寄付を募ってもいます。
「iPS基金」で検索するとページが出ます。
 失敗に不寛容であることと寄付文化が根付いていないことは、改めるべきことだと私も思っています。
 寄付しましょう。私は、しました。

 山中伸弥 著/毎日新聞社/2018

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