泉を聴く

徹底的に、個性にこだわります。銘々の個が、普遍に至ることを信じて。

戦争は、

2024-08-03 17:58:35 | 読書
「戦争は、」というタイトルの絵本です。
「戦争は、」で始まる短文と、戦争を表現した象徴的な絵で構成されています。
 読んで感じていくと、「戦争とは何か」が、読む人の心に形成されていく仕掛けです。大人が読んでもちろんいいのですが、子どもと一緒に読むと、いろんな質問が飛んできそうです。「知らないこと」「無垢であること」が、戦争の忍び込んでいく「余地」になります。読んで質問して対話して、「戦争は、」と自ら語れるようになることが「反戦争」を育むことにつながっていきます。
「戦争」が好むものは何でしょうか?
 逆に「戦争」が嫌うものは何でしょうか?
 この絵本を読むと、「戦争」は生き物だと感じます。
 確かにそうでしょう。どんな人にも忍び込むことができるウィルスのようなもの。
「戦争は、」で始まる短文が、読むものの想像を刺激します。
 一つだけ紹介します。私が最もずしんと来たところです。
「戦争は、物語を語れたことがない」と書かれています。山積みにされた本が燃やされそうとしています。
 何度か読むうちに、私の中にも「戦争は、」の続きが生まれました。
「戦争は、嘘で塗り固められた正義。自らの失敗を全て他人のせいにする」
 たったの79年前まで戦中だった日本が、また戦争をしない保障は、一人一人の心にしかありません。心は、それぞれの異なる物語でできている、と言ってもいいのではないでしょうか。
 一つの出版物に心を込めて世界に送り出す。受け止めた人が、私に必要だったものとして大事に自分のものとする。そのとき、新しい絵と言葉が、その人に宿ります。
 自分に宿った絵と言葉が、その人を守り、育て、または導く。自分の中にどんな世界を作っていくのか、それは実に何に接したか、何を取り入れてきたかによるでしょう。
 良くも悪くも、です。人は弱く、一人では生きられず、人からの影響を受けないわけにはいきません。
 地道な営みの継続しかないのだ、と思います。
 平和を維持するのは、当たり前に誰かがしてくれているのではなく、一人一人が意識して作っていくものだということ。平和であることはものすごく大変なことだからこそ、実現する価値があるということ。
 夏に花火があり、祭りがあるのは、死者と交わり弔うためであり、また魔除けのためでもあります。食べ物も傷みやすく、酷暑で人も疲弊しています。人が集まるイベントは自然発生的に生まれたのかもしれません。他者と何かを共有し協力すれば、生きる活力も自ずと湧いてくる。
 孤立もまた古代から続く人の抱える魔の一つ。本は、物語は、人と人を結びます。
「戦争は、」どうでしょうか?
 この夏、読んでほしい一冊の絵本です。

ジョゼ・ジョルジェ・レトリア 文/アンドレ・レトリア 絵/木下眞穂 訳/岩波書店/2024
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