この本は、NHK教育番組「100分で名著」で紹介されていて知りました。
その番組を見たわけではないのですが、お勧めしてたのが心理学者の河合俊雄さんで、なんかそれだけで気になっていました。
河合さんは、私が大きな影響を受けた河合隼雄さんのご子息。なのでその人が大事にしてきた本なら、私にも刺さるだろうと。
その予感はやはり当たっていました。
ものすごく面白かったです。
10年ほど前にジブリでも映画化されたそうです。そちらも観ていませんが観てみたくなりました。
内容ですが、アンナという小学校高学年くらいでしょうか、女の子が主人公です。
ある夏、海辺の町で暮らすことになりました。その一夏の忘れられない体験が描かれています。
アンナは複雑な環境で過ごしていました。両親は若くして離婚し、母は再婚しましたが自動車事故で亡くなってしまいます。
母の母、アンナの祖母が大事に育てていましたが、祖母も病のため亡くなってしまいます。
孤児院に預けられ、養父母に引き取られましたが、アンナはそれまでの体験で「裏切られた感」を深めており、「ふつう」を装って心を開くことができずにいました。
自分から何かしたいとは一切言わず、人を(自分を)信じることができません。その心構えがトラブルを引き寄せ、だからまた殻に閉じこもる。そんな鬱屈した日々でした。
海辺の町でアンナを受け入れてくれたのはペグおばさんとサムおじさん。二人はアンナを歓待し、心配はしますが強制は一切しません。
ふらふらと潮の引いた海を歩くアンナはマーニーと出会います。マーニーは「湿っち屋敷」に住む女の子。二人は意気投合し、ボートに乗ったり、砂浜で城を作ったりして遊びます。お互いに相手のことを知りたがり、少しずつ距離を縮め、やがて無二の親友になっていきます。
マーニーは大きな屋敷に住み、一見恵まれているように見えましたが、海軍に所属する父はほとんど帰らず、若くて美しい母は、マーニーを粗野なばあやと召使に預けてほとんど家にはいませんでした。言ってみればネグレクト。マーニーの不幸せを、アンナは鋭く理解し、共鳴もしていました。
マーニーは風車小屋を恐れていました。ばあやと召使に、言うことを聞かないとあそこに閉じ込めると脅かされて。そんなマーニーの恐れを解きたくて、アンナは風車小屋に行きました。しかし先にマーニーが風車小屋にいて、恐れのあまりパニックに陥っていました。なんとかアンナは救出しようとするのですが、マーニーはそのまま眠ってしまい、アンナも仕方なく風車小屋で一晩を明かしました。
翌朝、アンナが目覚めるとマーニーはいなくなっていました。マーニーの知り合いの男子が助けに来ていました。
アンナは怒ります。私だけを置いて行った、と。これまでも繰り返されてきた「裏切り」をまたしてもされて。
アンナはマーニーを許せない。だけど、アンナはマーニーに会いに行きました。
マーニーは部屋に閉じ込められ、でもそこで泣き叫んでいるのがアンナには聞こえました。アンナはマーニーを許します。
その後、アンナは寝込んでしまい、その間にマーニーもいなくなってしまうのですが、そのマーニーを、ペグもサムもその他の人たちも見たことがないと言います。
アンナとマーニーのことは二人だけの秘密ではあったのですが、それが本当にあったことなのか、アンナ自身もわからなくなってきていました。
「湿っち屋敷」を買って移り住んできたリンゼー家とアンナは知り合いになります。
リンゼー家には子供が5人おり、その一人が改修工事中の屋敷からノートを見つけます。それはマーニーの日記でした。
日記を読みながらアンナは記憶を取り戻していきます。マーニーのボートも発見されます。
最終的にはマーニーの古くからの友人がやってきて、その後のマーニーのことを教えてくれます。
で、マーニーとは誰だったのか、わかるわけですが、それは読んでのお楽しみということで。
前半は、ぼやっとして「?」が多く、読みづらいと思われるかもしれません。「?」が読み進めるエンジンにもなるのですが、どうか前半で読むのを諦めないで欲しいと思います。後半、怒涛の伏線回収がありますから。それはアンナとは誰なのか、にも通じていて、全て明らかになったときのアンナの喜びは私にも伝わってうるっと来ました。
マーニーは実在の人物です。しかし、アンナが体験したのは時を越えて、その土地の持つ力と人々の温かく支持的な関係が呼び水となって生まれたものです。アンナにはマーニーを体験する種は植っていた。でも、発芽する土と水と太陽が十分ではなかったという感じでしょうか。
人を憎んですらいたアンナ。愛されることに飢えていたマーニー。二人は出会って、一生懸命に支え合って、アンナはマーニーの至らないところを許すことができました。
大事にされている実感の貯金が、人の至らなさを許す元手となっていました。
健全な自己肯定感を積み上げるのが難しくなってしまった今こそ読んで欲しい物語になりました。
大人も、改めて、自分はどのようにして自分になれたのか、読み直す時間もあってはいいのではないでしょうか?
マーニーは、本でもあり小説でもあるなあと思います。
私にとってのマーニーは誰かな? どの本かな?
そんな思いを巡らすのも楽しいです。
またこの本が、もちろん大事なマーニーになる力を秘めています。
この夏、お勧めです。ぜひ、お手に取ってみてください。
ジョーン・G・ロビンソン 作/松野正子 訳/岩波少年文庫/1980
その番組を見たわけではないのですが、お勧めしてたのが心理学者の河合俊雄さんで、なんかそれだけで気になっていました。
河合さんは、私が大きな影響を受けた河合隼雄さんのご子息。なのでその人が大事にしてきた本なら、私にも刺さるだろうと。
その予感はやはり当たっていました。
ものすごく面白かったです。
10年ほど前にジブリでも映画化されたそうです。そちらも観ていませんが観てみたくなりました。
内容ですが、アンナという小学校高学年くらいでしょうか、女の子が主人公です。
ある夏、海辺の町で暮らすことになりました。その一夏の忘れられない体験が描かれています。
アンナは複雑な環境で過ごしていました。両親は若くして離婚し、母は再婚しましたが自動車事故で亡くなってしまいます。
母の母、アンナの祖母が大事に育てていましたが、祖母も病のため亡くなってしまいます。
孤児院に預けられ、養父母に引き取られましたが、アンナはそれまでの体験で「裏切られた感」を深めており、「ふつう」を装って心を開くことができずにいました。
自分から何かしたいとは一切言わず、人を(自分を)信じることができません。その心構えがトラブルを引き寄せ、だからまた殻に閉じこもる。そんな鬱屈した日々でした。
海辺の町でアンナを受け入れてくれたのはペグおばさんとサムおじさん。二人はアンナを歓待し、心配はしますが強制は一切しません。
ふらふらと潮の引いた海を歩くアンナはマーニーと出会います。マーニーは「湿っち屋敷」に住む女の子。二人は意気投合し、ボートに乗ったり、砂浜で城を作ったりして遊びます。お互いに相手のことを知りたがり、少しずつ距離を縮め、やがて無二の親友になっていきます。
マーニーは大きな屋敷に住み、一見恵まれているように見えましたが、海軍に所属する父はほとんど帰らず、若くて美しい母は、マーニーを粗野なばあやと召使に預けてほとんど家にはいませんでした。言ってみればネグレクト。マーニーの不幸せを、アンナは鋭く理解し、共鳴もしていました。
マーニーは風車小屋を恐れていました。ばあやと召使に、言うことを聞かないとあそこに閉じ込めると脅かされて。そんなマーニーの恐れを解きたくて、アンナは風車小屋に行きました。しかし先にマーニーが風車小屋にいて、恐れのあまりパニックに陥っていました。なんとかアンナは救出しようとするのですが、マーニーはそのまま眠ってしまい、アンナも仕方なく風車小屋で一晩を明かしました。
翌朝、アンナが目覚めるとマーニーはいなくなっていました。マーニーの知り合いの男子が助けに来ていました。
アンナは怒ります。私だけを置いて行った、と。これまでも繰り返されてきた「裏切り」をまたしてもされて。
アンナはマーニーを許せない。だけど、アンナはマーニーに会いに行きました。
マーニーは部屋に閉じ込められ、でもそこで泣き叫んでいるのがアンナには聞こえました。アンナはマーニーを許します。
その後、アンナは寝込んでしまい、その間にマーニーもいなくなってしまうのですが、そのマーニーを、ペグもサムもその他の人たちも見たことがないと言います。
アンナとマーニーのことは二人だけの秘密ではあったのですが、それが本当にあったことなのか、アンナ自身もわからなくなってきていました。
「湿っち屋敷」を買って移り住んできたリンゼー家とアンナは知り合いになります。
リンゼー家には子供が5人おり、その一人が改修工事中の屋敷からノートを見つけます。それはマーニーの日記でした。
日記を読みながらアンナは記憶を取り戻していきます。マーニーのボートも発見されます。
最終的にはマーニーの古くからの友人がやってきて、その後のマーニーのことを教えてくれます。
で、マーニーとは誰だったのか、わかるわけですが、それは読んでのお楽しみということで。
前半は、ぼやっとして「?」が多く、読みづらいと思われるかもしれません。「?」が読み進めるエンジンにもなるのですが、どうか前半で読むのを諦めないで欲しいと思います。後半、怒涛の伏線回収がありますから。それはアンナとは誰なのか、にも通じていて、全て明らかになったときのアンナの喜びは私にも伝わってうるっと来ました。
マーニーは実在の人物です。しかし、アンナが体験したのは時を越えて、その土地の持つ力と人々の温かく支持的な関係が呼び水となって生まれたものです。アンナにはマーニーを体験する種は植っていた。でも、発芽する土と水と太陽が十分ではなかったという感じでしょうか。
人を憎んですらいたアンナ。愛されることに飢えていたマーニー。二人は出会って、一生懸命に支え合って、アンナはマーニーの至らないところを許すことができました。
大事にされている実感の貯金が、人の至らなさを許す元手となっていました。
健全な自己肯定感を積み上げるのが難しくなってしまった今こそ読んで欲しい物語になりました。
大人も、改めて、自分はどのようにして自分になれたのか、読み直す時間もあってはいいのではないでしょうか?
マーニーは、本でもあり小説でもあるなあと思います。
私にとってのマーニーは誰かな? どの本かな?
そんな思いを巡らすのも楽しいです。
またこの本が、もちろん大事なマーニーになる力を秘めています。
この夏、お勧めです。ぜひ、お手に取ってみてください。
ジョーン・G・ロビンソン 作/松野正子 訳/岩波少年文庫/1980
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