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時論公論 「問われる警察」/12.02.06/NHK解説委員室

2012年11月13日 | 【NEWS】
時論公論 「問われる警察」
2012年02月06日 (月) NHK解説委員室

最近、警察が適切な対応をとらずに、問題になるケースが相次いでいます。
なかには、元交際相手からのストーカー被害を訴えていた女性や父親からの捜査の要請に適切に対応せず、女性の母親と祖母が殺害されるという悲惨な事件を防げなかったケースもあります。社会や犯罪の変化に対応しきれず、国民からの要請に応えていない警察のあり方が問われています。
今夜は、今、警察のどこに問題があるのか、何が求められているのかを考えます。

まず、長崎県で二人が殺害された事件についてみてみます。この事件の対応は、今の警察が抱えている様々な問題点を浮き彫りにしています。

事件は去年12月に起きました。筒井郷太容疑者(27歳)が交際していた女性の長崎県西海市の実家で、母親と祖母を殺害したとして逮捕されました。この男は、以前から女性に暴力やストーカー行為を繰り返していて、女性と父親がたびたび、千葉県警察本部に捜査を要請していました。

この事件で千葉県警は、先週、長崎県の遺族のもとを初めて訪れ、事前に繰り返し相談を受けていたにもかかわらず、事件を防げなかったことを謝罪しました。
警察の対応のどこに問題があったのか、事件の経過をもとにみていきます。



逮捕された男は、女性のマンションに押しかけるようにして同居を始め、直後から暴力をふるっていました。去年10月、女性の父親が千葉県警察本部の習志野警察署に相談、警察はマンションに行って女性への暴力を把握し、男に2回、警告をしました。
このあと、男はストーカー行為をエスカレートさせ、マンションから出た女性の同僚らに、「女性の居場所を教えなければ殺す」といった内容のメールを送っていました。この「殺す」という文言を使ったことを把握した時点で、女性の告訴を受けてストーカー規制法に基づく逮捕ができたと専門家は指摘しています。



そして、傷害事件についての捜査も遅れました。
12月6日に、女性と父親が傷害事件についての捜査を要請した際、警察は、「被害届の提出は一週間待ってほしい」と伝え、捜査を始めませんでした。父親によると、警察は「ほかの事件の対応で、いま刑事課が一人もあいていない」と話したということです。
しかし、男はすでに繰り返しストーカー行為をしていたわけで、この時点ですぐに傷害事件での捜査を始めるべきでした。
さらに、その後、つきまといや押し掛けなどのストーカー行為がたびたび続いた際にも、3回目の警告をしただけでした。ストーカー規制法での逮捕ができたはずですし、傷害事件についても捜査の着手を早めるという判断をするべきでした。
警察は、14日になってようやく被害届を受理し、捜査を始めました。
その2日後、家族二人が殺害されてしまったのです。



この事件について、警察に捜査をたびたび要請していた父親は、「誰も助けてくれないと、絶望的な気持ちになりました。警察に対して、なぜと思うことが山ほどあります」と話しています。
警察は、切実な相談や捜査の要請に的確に対応できずに、殺人という新たな事件を防げなかったのです。

こうしたケースはこれまでもたびたびありましたが、それが繰り返されてしまいました。その背景に、今、全国の警察が抱えている共通の課題があります。
次に、今、警察がどんな課題を抱えているのか、警察に何が求められているのかをみていきます。

課題の一つは、社会や犯罪の変化への対応が不十分であることです。
今回の事件のようにストーカー行為が絡んだ事件や男女の間のトラブル、ドメスティックバイオレンス、児童に対する虐待事件などは、犯行が一気にエスカレートして殺人にまで至ってしまうケースが数多くあります。社会の変化とともに、犯罪の姿も変わってきていますが、それに警察の意識や対応が追いついていない部分があります。警察の中に、こうしたケースは、「交際相手や親子など、身内同士のトラブルや出来事」といった認識がまだあるのです。
今回のストーカー事件のように、人の命に危害が加えられる恐れがある事件については、警察が事件の本質をしっかり見極めて、迅速に、積極的な捜査をすすめるべきだと思います。傷害事件といった段階から積極的に捜査し、犯行がエスカレートして新たな事件が起きるのを防ぐことが必要です。
警察は、事件が起きてから捜査するだけでなく、犯罪を未然に防ぐという意識と取り組みを徹底することが求められています。国民の期待は、事件の容疑者を捜査し、検挙することに加えて、犯罪が起きるのをおさえ、安心と安全を確保してほしいということにあります。殺人事件や傷害致死事件に至ってから捜査を始めるのでは遅すぎるのです。



そして、二つ目の課題は、警察の内部の連携不足です。
今回の事件で、習志野警察署では、女性や父親からの相談について、最初、ストーカー事件などを担当する生活安全課が関わり、その後、傷害事件などの捜査を担当する刑事課が関わりました。しかし、双方の間でそれまでの男の言動や、女性や父親の相談の内容などについて、十分、情報が共有されていたとは言えません。
また、事件の2日前、男の行方がわからなくなったという情報が、千葉県警から女性の実家がある長崎県警に伝えられておらず、結果として家族を守ることができませんでした。
警察は、部署ごとに担当する分野や事件などが分かれていて、「縦割り」になっているのが実状です。また、都道府県ごとの組織で、「垣根」が少なからずあるのが現実です。
警察署のなかのそれぞれの課や警察本部との間、ほかの都道府県の警察との間などで、情報の共有と連携の徹底を図り、「縦割り」や「垣根」の弊害をなくすことがあらためて求められています。

また、この点については、警察の幹部が指揮する力を向上させることも必要だと思います。先ほど述べたように、女性の父親によると、今回の事件で習志野警察署は、「刑事課が一人もあいていないので被害届の提出は一週間待ってほしい」と言って、捜査の着手を先送りしました。
警察署長など警察幹部が、署内の各課の情報共有と連携を徹底させ、優先して取り組む事件を判断すること。そして、応援を出させたり、合同のチームを作らせたりして、緊急性を要する事件に対応する態勢を作ることが必要です。
警察の幹部が組織を指揮する力が問われているのです。



そして、三つ目の課題は、警察官のプロ意識が不足してきていることです。
その一例が、最近、警察の不適切な対応の一つとして問題になった、オウム真理教の元幹部・平田信容疑者の出頭をめぐる対応でした。去年の暮、警察が特別手配をして行方を追っていた平田容疑者が、警視庁の正面に出頭してきたのに、警備にあたっていた警察官が本人と思わずに、いわば門前払いをしたケースです。
警備という役目以外には気が回らなかったもので、警察が組織を挙げて取り組んでいるはずの問題を意識していれば、「もしかしたら」と思って対応が違っていたはずです。これは単に個人の問題ではなく、警察の組織全体でプロ意識が薄らいでいることを象徴するものだといえます。

こうした背景に、警察が今、「大量退職」の時期を迎えていることがあります。警察官は全国で25万人余りいますが、いわゆる団塊世代の退職が続き、毎年、およそ1万人が退職し新たに新人が採用されるという世代交代が続いています。一方で、中堅層が少ない現実があり、警察全体の技能やプロ意識も弱まってきているといわれています。今、大量に退職していくベテランの捜査などの技術や意識が若手に継承されないと、警察の力が弱まっていくとされています。
大量退職の中で、若手への継承を着実に進めるなどして、プロ意識などを徹底していくことが必要です。
そして、社会や国民の要請に応える警察を作り、警察に寄せられる相談や捜査の要請にも的確に対応していくことが求められています。



かつて平成11年から翌年にかけて、神奈川県警察本部の本部長までもが逮捕された犯人隠避事件など、警察活動の根幹を揺るがす様々な不祥事が相次ぎました。
これを受けて、国家公安委員会と警察庁が平成12年に「警察改革要綱」を定め、「国民のための警察の確立」や、「新たな時代の要請にこたえる警察の構築」などを掲げました。
これを元に、全国の警察が取り組みをすすめているはずですが、最近また、警察の不適切な対応が問題になるケースが相次いでいるのです。
全国の警察は、今、あらためて、「警察改革」の精神を徹底し、不断の努力を続けていくことが求められていると思います。
 
(渥美 哲 解説委員)

(C)NHK