酔いどれ烏の夢物語

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酔いどれ烏の夢物語 雪の日

2022-12-29 19:39:59 | ポエム

       

       雪の日

舞い落ちる雪を見ていると 心が落ち着いてくる

昨夜から降り続いている雪は この街を白く塗り替えている様だ

昨日別れ際に小さな喧嘩をした 別に珍しくも無いが気にかかる

お互いに意地っ張りな性格だから 素直に謝ることが出来ない

出逢ったのも雪の日だった お洒落なカフェを見つけたので入ってみた

微かに流れるBGMが良い感じだ 窓辺の席が空いていたので座った

注文を取りに来たのが彼だった 大人ぽくって優しそうな人

声は少し低くて聞き取りやすかった 僕はミルクティーを注文した

鞄から最近買ったばかりの本を取り出して読んでいた

ミルクティーを運んできた彼はそっとテーブルに置き

 その本面白いですか? と訊いた

 はい、まだ読み始めたばかりですが面白いですよ と答えると

 それではごゆっくり、読書を楽しんでください と言った

とてもスマートな物言いだなと僕は思った

 

彼の働いているカフェは年末30日まで営業している

クリスマスには時間を延長して夜11時まで営業する

ツリーの飾り付けを手伝った事もある

窓の外は段々と暗くなり 定休日の今頃は一緒だった筈なのに

そんな事を考えていると 無性に逢いたくなってきた

スマホを取り 電話しようと思った時 部屋のチャイムが鳴った

 はい とだけ答えると

 俺だよ と言った

ドアを開けるとちょっと照れくさそうに 彼が立っていた 

おかえりと言って中にいれた 一緒に暮らしている訳では無いが

いつもおかえりと言ってしまう 

雪の降る寒い夜には やはり人恋しくなるものだなと

そう思いながら 窓のカーテンを閉めた

彼と僕が出逢って二度目の冬の日の夕暮れ

 

 


酔いどれ烏の夢物語 恋

2022-12-29 10:48:03 | ポエム

             

          

最近、夜中に目が覚める いやな夢を見て目が覚める

時計を見ると決まって午前一時三十分 何かあった訳でもない

その時間に何か心当たりがある訳でもない しかしそれは続いた

幾日も幾日も それは続いた だからと言って眠れない訳でもなく

日常に支障をきたす訳でもないのであまり気にせずにいた

そんなある日、ホームで電車を待っていた時

向かいのホームに懐かしい顔を見た いや、似ていただけかも知れない

七年前の記憶が蘇る 俺が十七歳、彼が二十二歳の時の話だ

俺の通う高校に教育実習生徒してやって来た一人の大学生

物腰柔らかな口調、優しい眼差し、そのくせ凛とした態度

モデルの様な顔つき、身長は178センチ

当然女生徒からは羨望の眼差しを受け、男性徒からは嫉妬の眼差し

気づいているのかいないのか、彼は全く気にする風もなかった

 

ある日の下校時間、帰宅部の俺は真っすぐ校門に向かっていたが

いつもは静かな道場の方が、何やら騒がしかった

気になったので俺も行ってみることにした

そこは柔道場と隣接し、弓道場があるだけだ

行ってみると女生徒がひしめき合い悲鳴にも似た歓声が聞こえた

サッカー部や野球部でもあるまいし 何を騒いでいるんだ?

そして皆が注目する先に居たのは あの教育実習生だった

紺色の弓道着を着た彼は 凛とした表情で弓を構えた

彼が弓を射るまでのほんの数秒、あたりは静まり返った

そして彼の放った矢は真っすぐ、いやほんの少し弧を描いて

的の真ん中に的中した その瞬間怒涛のような歓声と拍手が沸き起こった

彼は美しかった その外見では無く 矢を射るその姿が

ドキドキしていた 自分でも驚くほどドキドキしていた

今にして思えばあれがときめくと言う事なのだと知った

 

その後すぐに教育実習を終えた彼は学校を去った

最終日、涙ながらに先生に群がる女生徒たちを尻目に

男子たちは遠巻きにその様子を見ていた 俺もその一人だ

だが、俺は校門を出る先生を追った ただ一言いたかった

かっこ良かったと あの弓道場で矢を放つ先生が…

間に合わないのは分かっていた それでも追いかけたかった

駆け上がったプラットホームには誰も居ない 筈だった

顔を上げると彼がいた ビックリしている俺にかまわず

ちょっと待ってね、今、思い出すからと笑った

そういえばマイペースだったなと思い出す頃

そうだ、黒崎君だ! まるでパズルが解けた時の様に

嬉しそうに俺の名を言った へえー 覚えてるんだ!

 

その後カフェでお茶を飲んだ やっぱりかっこいい

先生は今、仙台の高校の教師をしているらしい

弓道部の顧問も務めていると言っていた

よく俺の事覚えてましたね、と訊くと

印象に残ってる子は覚えてるよ、特に女の娘を泣かせる様な子は

そうだ思い出した! 昼休みに告られて断った女子が居た

そういえば午後の授業中 泣いていたっけ

あの夢はあの娘への罪悪感? それとも先生に再開する予知夢?

なんにせよもう夜中に目が覚める事は無くなった

今ならわかる気がする 恋ってやつは少々もどかしい

今じゃ先生からの連絡が待ち遠しい 週に一度は逢えるけど

黒崎修司 現在二十四歳 只今恋愛中