酔いどれ烏の夢物語

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酔いどれ烏の夢物語 キャンバス

2022-12-30 20:14:01 | ポエム

 

        

       キャンバス

僕は彼の絵を描く姿を見ているのが好きだ

キャンバスに向かい考え込んだり 首を傾げたり

時には筆を持ったまま停止したりする

そんな表情を見るのが楽しいから

僕は少し離れたソファーに座り 本を読みながら彼を見ている

だが時おり絵の中に引き込まれてしまう様な気がする

そんな時は少しだけ怖い だからコーヒーでも淹れようかと声を掛ける

 

そんな彼と出会ったのは一年前 

僕はいつもの公園のいつものベンチで本を読んでいた

先ほどからスケッチブックを片手に

ウロウロしている青年がいるのは気づいていた

その青年が僕の前に来て お願いがあるんですけど と言った

彼が言うには 絵を描きたいのでモデルになって欲しいと言う

何でも辺りに散った落ち葉と 僕がとても似合っているらしい

 

何をすれば良いの?と訊いた

そのまま読書をしていて下さい そのままを描きたいんです

よく解らなかったが それなら好きに描いて良いよ

それから二月ほどしてあの青年からメールが届いた

小さなコンクールですが金賞を取れました

展示しているので一緒に見に行きませんか?

という内容だった流石に気になったので見に行く約束をした

 

出掛けた先は小さなギャラリーの様だった

中に入ると十数点の絵が飾られていた

すれ違う人たちが何故か 僕の顔をチラチラと見る

こっちです! 連れて行かれたそこには僕がいた

確かにあの日の僕だ 着ていたセーターの色も

ベンチに座った姿勢も 間違いなく僕の姿だ

とても不思議な感覚だったのをよく覚えている 写真とは違う何か

 

彼はその翌年から美大に通っている

よく家に来るので合鍵を渡したら

いつの間にか居ついてしまった 彼の私物も増えている

すみません画材に匂い気になりませんか?なんて気を使う癖に

毎日のように絵を描いている これは少し早まったかな?

そう考えて ふとあの絵を思い出した

そうか、俺は既にあの四角いキャンバスの中に捕らわれていたのか