酔いどれ烏の夢物語

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酔いどれ烏の夢物語 最高のひととき

2023-03-26 23:39:24 | ポエム

      

   最高のひととき

週末の夜 軽い夕食を終えて

リビングに戻った僕は

照明を暗くしてソファーに座る

テレビをつけてヘッドホンをかける

深夜なのでこれは欠かせない

テーブルの上には数本の缶ビールと

数種類のチーズ それと最近気に入っている

アンチョビを乗せたクラッカーだ

さあ、僕の最高のひとときを初めよう!

 

目一杯ボリュームを上げたテレビから

流れる映像は世界的に有名なロックバンドだ

もう何度も繰り返し見ている

けれど見るたび僕の心を熱くする

彼らの演奏に観客は皆 陶酔していく

スタンドマイク片手にステージを動き回る

歓喜する観客をまるで煽るように

彼は呼びかける 観客はそれに呼応する

曲に合わせて足を踏み鳴らす

 

まさに会場全体が一体となり

盛り上がっていく

こんなに素晴らしいアーティストが

今はもういないなんて悔しい

僕は彼らの生の演奏を聴く事は叶わなかった

あんなにカリスマ性の高い人を僕は初めて知った

彼らの新しい曲はもう聞けないけれど

彼らの残した数々の名曲は今もこうして残っている

今夜も楽しいひとときを過ごせそうだ

 

 

 


酔いどれ烏の夢物語 詩人

2023-03-24 23:06:02 | ポエム

        

     詩人

僕はパソコンを打つのが好きだ

さして早くもないタイピングで

キーボードを叩く 内容は何でもいい

キーボードを打つのが好きだから

若い頃は小説家を目指した時期もある

けれど何かが違うと感じてしまった

今はもっと自由に 指を弾ませている

それは現実と空想が入り混じった世界

 

憧れたのは詩人の 中原中也氏

初めて彼の詩集を読んだとき

僕の心は震えた 驚嘆したのだ

何という感性なのだろう

僕の世界観は見事に崩れ落ちた

同時に憧れと嫉妬心が生まれた

彼の目に映った世界はどんな風だろう

僕も彼のように 言葉を綴ってみたい

 

僕が生まれるずっと以前に

この世を去ってしまった彼は

僕にとっての 正に遠い存在

生きた年月は追い越しても

僕は彼の足元にも及ばない

それでもやっぱり書くことが好きだ

彼の時代には無かったパソコンで綴る

僕だけの ラブ&ストーリーを


酔いどれ烏の夢物語 残雪

2023-03-20 01:18:09 | ポエム

     

       残 雪

春は苦手なんだ 彼はぽつりと呟いた

溶け残った雪が汚れて 

太陽に照らされて ただ溶かされていくのを 

待っている様で なんだか切なくなる

そう言ってグラスのウイスキーを飲んだ

毎年、今日の日を僕らはグラスを片手に語り合う

今日は彼の恋人の誕生日だ もういない彼女の

三年前の今頃の事だ 二人は結婚する筈だった

当時は美男美女のカップルと皆が羨むほどだった

幼馴染の僕から見ても そう見えていた

 

彼女が亡くなった 彼の悲しみは

今の僕には計り知れない

病気や事故だったなら まだ救いはあったのか?

だが人の手によって 彼女の命は奪われた

よりにもよって薬に精神を侵された人間が 

賑わう繁華街でナイフを振り回した結果

二人の重傷者と一人の死者 それが彼女だった

倒れた彼女を抱きかかえ 半狂乱の彼を僕は見ていた

待ち合わせていたカフェの二階の窓から 偶然にも

あの日から三年が 過ぎようとしていた

 

あの日からずっと 彼の悲しみは癒えない

俺にはどうする事も出来ずに

ただ、彼の話を聞く 友とは歯がゆいものだ

そして今年も春は もうじきやって来る

人々が希望に胸を膨らませる春が

一人の、いや二人の男の心を凍てつかせたまま

俺は二人の幸せを見守る事で ケリを付けたかった

そう彼への想いを 断ち切るために

これからも俺は友として彼を支えていくと決めた

この残酷な現状に 抗う術を知らないから

 

 

 

 


酔いどれ烏の夢物語 異邦人(小説ver)

2023-03-11 05:47:40 | ポエム

     

                      異邦人

 僕は玄関の引き戸を開けて「ただいま」と言ってみる。

家の中はしーんとしていて、人の気配は無い。どこかで

チリンと猫の首輪に着けた鈴の音がした。居間に入ると

黒猫のノワールが小さく鳴いた。縁側にはお気に入りの

ビーズクッションにその長身の上半身をゆだねた彼が寝

ていた。もう一度ただいまと声を掛けると目を開けて

「やあ、おかえり」と如何にもかったるそうに言った。

この人は五年経っても変わらないなと僕は思った。

 初めて彼に出逢ったのは五年前の夏。

僕は当時受験を控えた高校三年のある日、学校の帰り

道。突然のどしゃ降り、天気予報には雨のマークは無

かった筈だ。当然傘もなく、丁度住宅街に差し掛かっ

た頃。雨宿り出来そうな場所も無いので、ひたすら家

に向って走っていた。公園の近くまで来て「確か東屋

があったな!」僕は東屋に向って走った。そこに彼は

居たのだ。東屋の中にあるベンチではなく、外のベン

チに彼は居た。どしゃ降りの中 仰向けに横たわり目

を閉じていた。顔色は青白く、来ていたシャツは肌に

張り付いていた。僕は鼓動が高まるのを感じた。生き

ているのだろうか? そう思うのと同時に、彼の端正

な顔立ちに見とれていたのだ。

 恐る恐る近づき声を掛けてみた 「大丈夫ですか?」

彼は少しだけ目を開けて僕を見た。「やあ、学生君」

「大丈夫ですか?」僕はもう一度言った。すると彼は

「心配してくれたんだね、有難う。僕は大丈夫だよ!」

そう言ってにっこりと笑った。何なのだろうこの人は。

彼はベンチから立ち上がると、「心配させちゃったお

詫びに何か暖かい飲み物を御馳走するよ!何が良い?

コーヒー、それとも紅茶。ココアも良いね、着いて来

て。俺の家、すぐそこなんだ。」そう言って歩き出し

た彼の後ろを歩きつつ、僕は感じていた、関わっては

いけない人に接触してしまったのだという事を。

 彼の家は本当にすぐ近くだった。それは意外な事に

一軒家だった。建物自体は古くは無いのだが、作りは

昭和の時代を彷彿させる平屋作りの家だ。勿論、昭和

の時代にもマンションなどは普通に存在していた。つ

まり、それ以前の様式の家だった。

 彼の後に続いて中に入った僕を出迎えてくれたのは

黒猫のノワールだけだった。とても綺麗なブルーグレ

イの瞳をしていた。彼は嬉しそうにその猫を抱き上げ

ると「ただいま、ノワール」と言った。それはまるで

映画のシーンの様に見えた。美しさというものは互い

に引き合うものなのかと。

 僕は彼が作ってくれたココアを飲みながら、最初の

疑問をぶつけた。

「こんなに近くに家があるのにどうして雨の中、あの

公園に居たんですか?」すると彼はこうに答えた。

「いやぁ、最初は僕も早く帰ろうと思っていたんだ。

でもね、あの公園に着くまでにずぶ濡れになったんだ。

だったら、いっそ天恵をこの身に目一杯受けてやろう

と思ってね」と言った。天恵?確かにこの暑い晴天続

きの夏には嬉しい雨かも知れないが、植物でも農家で

もない僕達が喜ぶべき事か?

 やがて彼は話し始めた。ノワールが少しづつ僕への

警戒心を解くみたいに。彼は小説家だと言った。まだ

駆け出しで雑誌に短編小説かエッセイを書いていると

の事。そして原稿料だけでは生活できないのでアルバ

イトとしてホストの仕事をしているという事。そして

彼の住んでいる家は彼の両親が残してくれた遺産だと。

正直、親のすねをかじっている高校生の僕には重すぎ

る話しだ。だが少しだけ納得がいった。彼の魅力だ。

その造形の美しさは遺伝的なものかもしれないが、内

面の美しさは彼自らが身に着けたものに違いないと。

 僕はその美しさに囚われ、大学に入学した後、この

家に移り住んだ。この美しく、だが目を離してはいけ

ない異邦人たる彼の傍に。

 あの日から五年が経ち、彼は少しずつ本業に追われ、

ホストの仕事を減らしていった。正直ほっとしている。

何故かは自分でも解らないが、彼の顧客らしい女性か

ら幾度か脅迫めいたお言葉を頂戴していたからだ。彼

は思っていた通り、あまり周りを気にしないタイプで

勿論、僕と一緒に居る時もそれは変わらない。まるで

ノワールを抱き上げる時の様に僕を抱きしめる。

 僕は戸惑いながらも、それを受け入れていた。ある

日、僕は小学生の時の夢を見た。夢と言うより回想と

言うべきか。幼馴染みの一人の女の子が小四の時に、

僕に言った。「ずっと好きだったの、だからこれから

は特別な関係になりたいの。私と付き合って下さい」

 正直、意味が解らなかった。女の子は男の子より精

神的な成長のペースが速いと聞く。それでも僕には理解

できなかった。彼女の事はどちらかと言えば好きだった。

だからと言って他の幼馴染と区別は出来ない。皆好きだ

った。だから僕の想いを告げた時、彼女の目からあふれ

出した涙の意味が解らなかった。

 僕はふと、自分は長生きできないのかも知れないと

思った。もしかしたら後ろから誰かにナイフで刺され

て、死んでしまうのかも知れないと。

 僕の実家は山梨にあって、小さな果樹園を経営して

いる。姉夫婦が後を継いでくれているから、僕は何の

心配もなく東京の大学に進学できた。姉夫婦には感謝

している。一度、彼の写メを姉に送ったところ、大そ

う喜んでいた。返信メールに♡マークが沢山ついていた

ので、どうやら彼を気に入ったらしい。今度、彼を連れ

て行こう。

 大学卒業後、建築科を先行していた僕はそこそこ大手

のゼネコンに就職した。会社が終わると彼から送られた

買い物リストを見ながら買い物をして帰宅。或いは彼と

待ち合わせをして外食をしたりと、普通に楽しく暮らし

ている。時々、ホスト時代の後輩が訪ねて来て一緒に呑

んだりもする。彼らはとても楽しい。

 肝心の彼は相も変わらず、縁側でノワールと寝ている

事もあれば、パソコンの前で意識だけどこか遠くにいる

事もある。屋根の上で夜空を眺めていた時には、流石に

驚いたが、それにも最近は慣れた。

 こうして異邦人と猫と僕の生活はこれからも続いて行

くのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


酔いどれ烏の夢物語 宝物

2023-03-05 20:02:54 | ポエム

   

     宝 物

抱きしめると壊れてしまいそうな

けれどとても暖かくて重い命

その重みは懸命に生きている証

力強く、時に弱弱しく危うげで

自分の頼りなさに不安を抱きつつ

小さな寝息に安堵する日々

守らなければと心に誓ったあの日

愛おしいという気持ちを初めて知った

あの冬の朝から何年経ったのだろう

 

気づけば君は笑い、泣き、怒り

それは感情表現であり成長

走って転んで泣いて、立ち上がる

そして立ち止まり振り返る

満面の笑みは幸せをくれた

高熱に慌てふためき

眠れぬ夜が続いて不安になった

そんな心配など忘れさせてしまうほど

小さかった君は立派に成長して見せた

 

抱きしめるたび愛おしさを感じ

どんな困難も乗り越えて

生きて欲しいと願っていた日々

気がつけば、そんな毎日こそが

大切な宝物だったのだと知った

小さかったその手はやがて

巡り合う友と手を繋ぎ

しっかりと自分を信じて生きている

この世の中でこんなに幸せな事は無い