こんばんは! このブログを見に来て下さった皆様、いいねや応援
など、ありがとうございます。本当に嬉しいです!今年も残り少ないで
すが、これからもよろしくお願いします。<m(__)m> 今回の作品は少々
長めですが、飽きずに最後まで読んで頂けたら嬉しいです! 読み終えて
少しでも目頭が熱くなって頂けたら、それは私の思うツボです!
ぜひ、ツボにはまってください‼ それではまた近いうちに私の声明文
を書きたいと思ってます。 karasu
奏 kanade
数日ぶりによく晴れた 穏やかな初冬のある日
花なら牡丹の花が好きだな 唐突に彼が言った 何で牡丹?
うーん、結構豪華に見えるのに薔薇みたいな自己主張もないし
今にも花の重さに耐えられずにポロっと落ちそうな不安定さとか⁈
初めて彼に出逢ったのは近所の総合病院の中庭
怪我で入院した友人の見舞いに来た帰りだった
車椅子に座り花壇の前で 楽しそうにスケッチしていた
花が好きなんだね 話かけるつもりは無かったのだが
つい気になって声を掛けてしまった
端正な横顔 まだ少年の様なその体つき
俺を見上げてにっこり笑って だって綺麗でしょ、と笑った
彼はスケッチを終えると 僕はそろそろ病室に戻るねと言った
病室まで送ろうか?と聞くと 大丈夫!慣れてるからと答えた
また会いに来てもいいかな? そう聞くと彼は驚いた顔をした
誰より驚いたのは 俺自身だった もちろん良いよ!
明日も天気が良かったらさっきの中庭にいるから
じゃあ、また! 帰り道、たぶん俺は顔がにやけていただろう
久しぶりの高揚感だった 友人と遊ぶ約束をした時とは違う何か
翌日も彼は花のスケッチをしていた 俺はすぐ傍にあるベンチに座った
彼は手を動かしながら色々な事を話してくれた
車椅子を使っているけれど足が不自由では無い事
両親は共に数年前に病気で他界している事などを普通の事の様に
どうしてそんなに平然と言えるのだろう? 答えは簡単だった
彼はすでに余命半年を宣告されていたからだった 退院は出来ないの?
うーん、どうかな? ここで最後の時を迎えたくは無いけど
行く当ても無いしね 仕方ないんじゃ無いかな?
正直、腹が立った どうしてもっと足掻こうとしないのか
どうしてそんなに簡単に何もかもあきらめてしまうのか
だったら俺の家に来れば良い! 一人だし、じきに大学も冬休みだ
彼を交えて担当医と話をした 当然の事ながら医者は反対した
それでもしつこく食い下がる俺に 医者は根負けしたらしく
何かあればすぐに連絡する事 決して一人にはしない事
その条件を飲む事で 退院を許可してくれた
それから俺たち二人の生活が始まった 時々寝込む時はあったが
思っていたよりも自分の事は自分で出来たし 何より楽しそうだった
一緒に暮らし始めて彼が俺より年上だった事、結構、意地っ張りな事
色々な事が分かった 結婚したらこんな感じかな? 彼の言葉にドキッとした
医者の言っていた半年も過ぎ、季節は初夏を迎えようとしていた
俺は大学を一年休学した 彼は反対したが 俺がそうしたかった
色々な所へ連れて行ってやりたかったが、流石に長距離の移動は難しかった
それでも毎日が楽しくて、新鮮だった このまま過ごせたらと俺は願った
けれど 確実にその日は近づいていた 一緒に暮らし始めて一年半
秋の訪れが感じられる頃 ベットで過ごす時間が日増しに増えてきた
病院に行こうと言う俺の言葉を 彼はひどく嫌がる様になった
ねえ、僕の我儘を聴いてくれる? ふいに彼が言った
どんな? 最後まで傍に居て欲しい 最後の瞬間まで
もちろん、約束しただろ? 一人にはしないよ 最後まで
その代わり 俺の願いも聴いてくれる? どんな事?
お前が逝くときには お俺の心も一緒に連れて逝ってくれ
心を? うん、そうしたら俺も悲しまなくて済む
分かった君の心と一緒にだね、ありがとう 君に出逢えて良かった
まるで寝言の様に そう呟いて彼は眠った
俺は呼吸を確かめられずにはいられなかった
翌朝、俺が目覚めると彼はすでに起きていて
甘くてミルクたっぷりのコーヒーが飲みたいなと言った
コーヒーを淹れて寝室に戻ると既に彼は息をしていなかった
今ならまだ間に合う!と思ったが 医者の言葉を思い出した
もう医師として彼にしてあげられる事は何もありません
なのにどうして安らかな寝顔の彼をたたき起こす事など出来よう
暫くの間、俺はまだ体温の感じられる彼の身体を抱きしめていた
その後の事はあまり覚えていない 警察が来たり救急車が来たり
彼の葬儀は生前約束していた通り 俺一人で見送った
そして遺骨は樹木葬と言って灰にして山に撒く方法をとった
これも彼の望みだった だって海は冷たそうだから!
俺の心は彼と一緒に旅立ったはずなのに やはり寂しい
あの朝のミルクたっぷりの甘いコーヒーはまだ捨てられずにいる
後から担当医に聞かされた あれから二年近く
彼が生きられたのは奇跡にも近いと
俺は家に戻り彼が愛用していたパジャマを見た時、初めて
自分が大切にしていた人を、失ったのだと実感した
何となく机の引き出しを開けた そこには煙草の箱が入っていた
そうだった、彼と暮らす時 煙草をやめたんだった
約二年ぶりに煙草に火を付けた 吸い込んだ途端に胸が苦しくなった
煙が目に染みて涙が止まらなかった ああ、これが喪失感ってやつか!
葬儀の後 舞い落ちてきた白い破片はいずれ雪に変わるだろうと言われていたが
それはいつしか雨に変わり、一晩中降り続いた
嘘つきだな、俺の心も連れて逝ってくれるって言ったのに
奏(かなで)それが彼の名前だった
その後、俺は大学に復学し 福祉の道を選んだ
牡丹が咲く季節に 彼の遺灰を撒いた山に行ってみた
そこは緑に覆われて 木々の間から陽が差し込んでいた
木の根元に牡丹の花を添えた 綺麗だな
たった二年足らずだったけど 楽しい日々だったよ
お前と暮らした日々が いつか良い思い出に思える頃には
俺も少しは 誰かの役に立てる人間になってられるかな?