KANCHAN'S AID STATION 4~感情的マラソン論

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10年目のふるさと選手

2005年01月29日 | 駅伝時評
ふと気づいたことなのだが、男女の都道府県対抗駅伝において、社会人の選手が選手登録している陸協の所在地からではなく、出身地の代表としての出場を認めている「ふるさと選手」という制度が導入されたのは、各県の戦力の均衡を図ることで、大会運営を円滑にすることが目的のひとつだったのではあるまいか?

高校や実業団の強豪チームを抱える県と、そうではない県との実力格差が広がれば、先頭と最下位との差が広がり、繰り上げスタートを導入せざるを得なくなるからだ。箱根駅伝の実況アナは「繰り上げ」を何やら、悲劇的な匂いのする「見せ場」のごとく中継するが、本来は道路使用許可や交通規制といったきわめて「現実的な事情」が生み出した措置なのだ。

ともあれ、この制度が女子駅伝で導入されたのは、僕にとってはありがたいことだった。バルセロナ五輪の10000m代表である、今治北高出身の真木和が、愛媛代表として戻って来てくれることを望んでいたからだ。

ちょうど10年前の'95年の大会で、真木は愛媛の「ふるさと選手」として出場が決まった。活躍が期待されたが、レース当日は故障で欠場。しかし、レース2日前から宿舎に合流した。中学、高校生の選手たちにとっては、「雲の上」にいた憧れの選手が地上に降りてきたようなものだったであろう。トレーニング等について、質問が飛び交っただろうか?緊張して、何も話せなかった選手もいただろうか。愛媛に限らず、「ふるさと選手」を導入した全てのチームで、同様の交流があったに違いない。
この年、徳島代表で走った弘山晴美、秋田代表で走った浅利純子とともに、真木は翌年のアトランタ五輪の代表に選ばれた。
中・高校生ランナーたちにとって、宿舎でもらったであろうサインや、一緒に写した写真は今も、大事な宝物になっていることだろう。

真木に代わって、アンカーを走ったのは、1ヶ月前の高校駅伝で、愛媛代表として出場した松山商業のキャプテンだった。なんと、彼女にとって、公式レースで10kmを走るのはこれが初めてだったという。まったくのぶっつけ本番。

彼女は順位を三つ下げる32位でゴール。タイムは34分49秒。区間順位は、ナンバーカードと同じ38位。ほろ苦い「10kmデビュー」となった、と言っては酷かもしれない。
鈴木博美、小松ゆかり、浅利純子、麓みどり、川上優子、高橋尚子、といった面々が出ていた区間だったのだから。

真木はレース後、
「来年も呼んでくれるなら、2倍ぐらい借りを返したいです。」
とコメントした。

翌年、彼女は約束を守った。アンカーで18位でタスキを受け取り、10人抜きで区間賞。8位入賞は今もなお、愛媛県の大会最高順位である。

そして、特筆すべきは、この時の代表メンバーで、学生ランナーのうち6人が卒業後、実業団に進んだのである。

黒星郁恵(三井海上)
菅沙希世(東海銀行~TOTO)
真鍋裕子(四国電力)
黒澤奈美(ワコール~四国電力)
井上沙弥香(グローバリー)

そして、去年のアンカーは、地元の大学で競技を続けていた。もうお分かりだろう。

土佐礼子(三井住友海上)

真木の「お返し」は2倍どころではなかったと思う。彼女たちに卒業後も競技を続けようと決心させたのは、この時の真木の走りの影響も大きかったのではないだろうか?

今回、土佐は愛媛のふるさと選手としてアンカーを走った。10年前に初めて10kmを走った高校生が、五輪のマラソン代表者として、学生ランナーたちのために、「雲の上」から降りて来た。意外にも、彼女はこの大会ではこれまで、めざましい結果を残してはいない。今回、区間12位で、順位をひとつ上げたが、これが彼女にとって、この大会で最高の成績だった。
ハネムーンから帰って、練習を再開したばかりで、万全の体調ではなかったであろうが、それでも最低限の責任は果たすあたりが、彼女らしい、というのはひいき目が過ぎるか(笑)。
愛媛新聞も当然、
「四年後に向けて、好スタート」
と好意的な記事を書いていた。

ふるさと選手は1チーム2人まで、そして1人4回までと制限が加えられている。このルールには、不満の声も多い。(愛媛新聞のコラムも批判的だった。)土佐も、今回1区を走った、土佐の後輩の大平美樹も、来年以降は愛媛代表としては走れないからだ。

一定の制限が加えられている理由は理解できる。地元の社会人選手を育成する努力を怠らせないためだろう。地元で、五輪代表になれるだけの実力を身につけるだけの練習環境があれば、それに越したことはない。

故郷を離れ、東京(本場)で活躍する選手が地元に戻って来て、故郷に「恩返し」をする姿に感動するなんて、やっぱり「田舎者」の発想なのかも。

真木から土佐に受け継がれたものが、今回、誰かに受け継がれていると思いたい。

もし、来年、土佐が東京代表で出場したら、愛媛代表と、どちらを応援するか迷いそうだ。



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