KANCHAN'S AID STATION 4~感情的マラソン論

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アーカイブス「マラソン春秋」vol.11

2007年03月22日 | 「マラソン春秋」アーカイブス
愛媛の南海放送ラジオの人気番組で「ザ・イナゾー」というクイズ番組がある。あらかじめ電話で参加登録をしたリスナーを抽選して電話をかけ、三者択一のクイズを出題し、3問連続正解すると賞金5000円(タイトルは新渡戸稲造から取っている。)授与する、というのがルールである。

昨年、これまでに出題した問題を集めた本が刊行された。その中に、土佐礼子に関する問題もあった。

(問)アテネオリンピックの女子マラソンで5位入賞した土佐礼子が、中学校まで所属していた部活動は何?

①バレーボール部
②バスケットボール部
③ソフトボール部

解答は本稿の末尾に掲載するが、その本の土佐を紹介する記事に下記のような記述があった。

「(アテネ五輪代表に)選考直後は一部高橋ファンの心無い中傷を受けたが・・・」

それは違う、と思った。3年前にネットの掲示板等で土佐(あるいは坂本直子)を中傷したり、2人の所属企業や強化本部長の勤務先に嫌がらせの電話やメールで迷惑をかけた輩は、希代の名ランナー、高橋尚子のファンなどではありえない!ただの付和雷同の烏合の衆だ。

「スポーツには無数の劇的な“もしも”が存在する。」
と書いたのは、沢木耕太郎氏だが、3年前に僕も1つの「もしも」を考えてみた。

「もしも、名古屋で土佐が負けていたら。」

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もうひとつの、別の世界の「土佐日記」
at 2004 04/25 16:52

  3月14日(日)

名古屋国際女子マラソンのビデオを見る。結果は既に知ってしまった。トサレイコは2位。タナカメグミが優勝したという。それでも、前半トサは健闘していた。積極的に先頭に立つ姿は故障上がりと思えぬほどだった。そしてライバルとタナカもオオミナミタカコもハシモトヤスコも、牽制しあうことなく、速いペースで集団を形成していた。初マラソンであるトサの後輩、オオヤマミキもいい走りだ。

気温は上がっていき、集団がしぼられていく。ハシモト、オオミナミ、フジカワアキが落ちてゆく。30km過ぎてタナカとトサのマッチレースになった。上り坂でタナカがスパート!

トサは・・・、追いつけない。サングラスをかけていてもその顔が苦痛に歪んでいるのが分かる。万事休すか?タナカの走りは優雅ささえ感じる。「走る貴婦人」と称したマラソンファンがいたのもうなずける。差は広がっていくが大きな失速ではない。3位のフジカワとの差はまだあるようだ。独走するタナカ。トサも粘るが追いつけない。去年のロンドンでザハロワのスパートにつけなかったシーンを思い出した。
結果を知りつつも、がんばれ、と声が出た。

トラックに入り、サングラスを外し、満面の笑みを浮かべゴール。タナカ初優勝。トサは2位。ゴール後のトサは安堵感から笑顔が見えた。僕が望んでいたのはこの笑顔だ。負けてもいいから、笑顔のゴールを見せて欲しかった。

3位にはフジカワ。4位で帰ってきたオオヤマと思わず抱き合った。その時は泣いているようだった。エドモントンでのシブイとの抱擁シーンを思い出した。スタンドではそんな二人を指差して笑うシブイの姿をテレビカメラが捉えていた。

優勝したタナカは、笑顔で、
「アテネへ行きたいです。」
とアピールしたが、優勝タイム、2時間24分47秒は微妙だ。サカモトナオコの大阪での優勝タイムには勝っているものの、ノグチミズキのパリでのタイムには負けている。彼女を指導しているコーチのクドウカズヨシも手放しでは喜べない、と言いたげな表情だ。

ともあれ、トサのアテネへのチャレンジは終わった。彼女と親密な間柄の知人に、
「惜しかったね、でもよくあそこまでがんばった!」
とメールを出した。返信には応援のお礼とともに、宿舎で彼女が大泣きしたと書かれていた。アテネへ行きたい気持ちは強かったようだ。

  
  3月15日(月)
スポーツ紙の休刊日特別版はタイガースのオープン戦のことばかりで、名古屋の扱いは小さい。
「タナカ初優勝も代表入りは微妙?」
とのことで、タカハシナオコの代表入り確定、と伝える新聞もあった。

午後のラジオで、代表発表を聞く。

男子はクニチカトモアキ、アブラヤシゲル、タカオカトシナリが代表入りで補欠はスワトシナリ。女子はノグチ、サカモトにタカハシ。補欠はチバマサコ。タナカは補欠にさえ入っていなかった。

代表選考レースの優勝者が代表に選ばれないとは、バルセロナの時のモリタシュウイチと、タニガワマリの二の舞じゃないか。こういう結果は予想されたが、やはり後味が悪い。モリタの指導者だった、シロウズ監督、今回のスワの落選をどういう思いで聞いたか。そして、もう一人のシロウズ門下生のクドウ、彼もソウル五輪のマラソン代表選考では涙を飲んだが、愛弟子のタナカにも同じ悔しさを味わう結果となってしまった。

あらかじめ、タカハシの代表入りを見越して用意されていた民放各局の特別番組、タカハシとコイデ監督の記者会見は大盛況だった。特にコイデ監督は
「だから言っただろう。専門家の人たちは皆分かってたんだよ。」
と言いたげな、満面に笑みを浮かべた表情。そんな中、タカハシは
「もう一度、金メダルに挑戦するチャンスを与えて下さり、ありがとうございます。」
と、コメント。タナカやチバに気を遣っているのかと思えたほどだ。過去の彼女のレースのハイライトが流される中、昨年の東京のレースは流れなかった。いずれ、あのレースは彼女のキャリアの中からは「汚点」として、忘れ去られるのだろう。

一方、タナカの記者会見の模様も流れた。当然ながら沈痛な雰囲気が漂う。
「選考レースの優勝という結果が評価されずに、残念だ。」
と監督が語り、タナカも
「補欠にも選ばれなかったのは、トラックでもアテネが狙えるから、ということだと思いますので、トラックでの入賞を狙います。」
と語った。その凛としたたたずまいに、今後、彼女の人気が拡大するかと思わせた。

いずれにしても、トサはアテネに出られない。それは事実だ。まあいいか。五輪のマラソンだけが、マラソンでもないし、五輪に出られなかった名ランナーはいっぱいいる。それは僕も自分のHPで訴えてきたことだ。むしろ、タカオカの走りが楽しみだ。


  3月16日(火)

「トサ、惜しくも代表に届かず」が愛媛新聞の見出しだ。今回の代表選考について、やはり、日本記録保持者であり、前回メダリストという実績が高く評価された結果という分析がなされていた。ネット上では
「なんでタカハシが選ばれた?」
という書き込みで一部の掲示板が閉鎖されたほどだという。

早速見てみると、タカハシの応援掲示板は閉鎖されていた。マラソン関連の掲示板にも
「タナカが可哀想だ。」
の書き込みが目につく。僕のやっているトサの応援掲示板は静かなもので、いつも来てくださる人から、
「残念、でも健闘しましたね。」
「次は秋の海外で!」
という激励がいくつか来た程度だ。

  3月19日(土)
今週発売のいくつかの週刊誌は、またしても、
「マラソン代表選考に異議あり!」
として、
「なぜ、ガス欠のタカハシが代表に?」
との特集が組まれ、
「初めから、タカハシを代表に入れることを第一の目的とした、曖昧な選考基準」を批判していた。さらには、チバに決まりかけていたのに、土壇場になってタカハシに変わったとの憶測記事も。タナカの元には激励のメールが多数寄せられているという。元代表選手のアリモリさんもナカヤマさんも、
「陸連は何も変わっていない。」
と失望を口にしていた。
「選手がメダルを取りさえすれば、結果オーライというものでもないでしょう。」
さらには、タナカの所属が去年陸上部を立ち上げたばかりの新興チームであることも、落選の要因という憶測も取り上げられていた。

いずれにしても、サクライ専務理事が強調していた、
「あくまでも、選考レースの結果を重視。」
というのは、陸連幹部の総意ではなかったようだ。

しかし、これでタカハシが落選していたら、どうなっていたのかな。騒ぎはこんなもんじゃないと思うけど。しかし、ラドクリフは内心安心しているのじゃないか?自分の目の前で、タカハシの失敗を見ているだけに、
「恐るるに足らず。」
と見ているだろう。東京で優勝したアレムもまた。

  3月某日

スポーツ紙のスクープ記事に驚いた。

「トサ、入籍!」
トサが大学の先輩である恋人と、入籍していたというのだ。これには驚いた。いや、彼女に恋人がいることは知っていた。愛媛の陸上関係者の間では有名な話だ。先に書いた、「トサと親密な間柄の知人」とは彼のことである。

「監督から
『アテネが終わるまでは入籍は待ってくれ。』
と言われていたので、この機会にと。」
ということだが、これで引退してしまうわけではない、という。
「尊敬するヒロヤマハルミさんみたいに、結婚しても世界を狙うレベルで走り続けたいです。」

4年後、彼女は現在のタカハシと同い年だ。まだまだやれる。

彼氏にお祝いのメールを送る。
「ハネムーンは、ベルリンかシカゴですか?ベルリンでサブ20狙って欲しいですね。」
返信が届く。
「やっぱりアテネですよ。シブが
『トサ先輩が出られないから、また、トラックでアテネる気持ちが湧いてきた。』
と言っているので、応援も兼ねて。」

ラジオで聞いた、芸能レポーターの情報によれば、タナカの元に芸能関係からのオファーが殺到していて、五輪のレポーターにという依頼も来ていたそうである。もちろん、
「現役選手ですから。」
とお断りしたらしいが、自社CMに出演の予定もあるとか。


もし、名古屋での「土佐礼子の涙の大逆転」が無ければ、五輪の代表選考はどうなっていたかを想像してみた。言うまでも無く、全ては僕の妄想の世界のことであって、登場する固有名詞は実在するものとは全く関係ありません。

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12日の陸連理事会で、世界選手権のマラソン代表に、強化指定選手のランクとともに、新たな強化本部長も発表された。澤木啓祐本部長が専務理事に就任し、後任にバルセロナ五輪400m入賞者の高野進氏が就任した。男子マラソン強化部長の河野匡氏、女子マラソン強化部長の金哲彦氏と並んで、僕と同世代の名指導者が日本の陸上競技の強化を託された。来年の今頃、高野氏が苦渋に満ちた表情で記者会見のテーブルに座ることがなきことを祈りたい。

(クイズの解答は②です。)



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