言語楼-B級「高等遊民」の戯言

日本語を中心に言葉の周辺を“ペンション族”が散策する。

辞書の個性(06/10/10)

2006-10-10 22:10:01 | 辞典
  辞書を使うのは、難しい漢字の書き方や読み方、見慣れない単語の意味を調べる場合だろう。このような「辞書を引く」使い方だけでは、辞書の個性――語釈の違い――にあまり気付かないかもしれないが、辞書を「読んでみる」と、どれも同じように見える辞書に意外と違いがあることを知って驚くに違いない。

  ユニークな語釈で辞書マニアだけでなく、一般にもファンの多い『新明解国語辞典』(山田忠雄主幹、三省堂)=参考サイト。その中でも有名なのは、「恋愛」の項目だ。改訂のたびに語釈の過激度は減り、“穏健”に変わってきているが、それでも最新版の第6版(2005年1月10日第1刷)では、

   【特定の異性に対して他の全てを犠牲にしても悔いないと思い込むような愛情をいだき、常に相手のことを思っては、二人だけでいたい、二人だけの世界を分ち合いたいと願い、それがかなえられたと言っては喜び、ちょっとでも疑念が生じれば不安になるといった状態に身を置くこと】

  と独創的な語釈を示している。普通の国語辞典なら「男女間の、恋いしたう愛情。こい」(【岩波国語辞典】第5版)といった程度で済ますところだ。

  辞書の個性は、抽象的な言葉の語釈に表れやすい。例えば「右」という誰もが知っている言葉についての語義が、上記の『新明解国語辞典』と【岩波国語辞典】の二つの辞書でどう違うかみてみよう。

     【アナログ時計の文字盤に向かった時に一時から五時までの表示の有る側(「明」という漢字の「月」が書かれている側と一致)】=『新明解国語辞典』第5版
    
     【多くの人がはしや金づちやペンなどを持つ方(からだの、心臓が有る方の反対側)】=『新明解国語辞典』第3版

     【相対的な位置の一つ。東を向いた時、南の方、またこの辞典を開いて読む時、偶数ページのある側を言う】=【岩波国語辞典】第5版


  辞書によって、あるいは同じ辞書でも改訂版によって、それぞれに工夫が凝らされ、大きな違いがあることがお分かりだろう。



《参考サイト》http://www.geocities.co.jp/Bookend-Soseki/3578/