彰子先生とお酒を飲んだ。
明日の彼女の仕事を考えると、そう遅くまではいられない。
そうは思いながらも、こんなに楽しい夜はなかなか手放せない。
「今日は一緒にお風呂に入っていい?」
突然の申出に僕はびっくりした。
狭い風呂の中で、彼女は僕の膝に乗っかっていた。
「私、お父さんいないの」
僕は驚いた。
別段珍しいことでは無いことなのに、
なぜか大きな衝撃を受けた。
こんなに素直におおらかに育っている人が、
家庭に恵まれなかったのかと、
少し違和感を持った。
「私が13歳の時、不慮の事故で死んだの。
それから私は、対人恐怖症になったの。
だから恋人もできなかった。
それでも父が中学校の先生だったから、私もその道に進んだ。
間違いだと感じたこともあるけど、
原田さんに出会えて、私は教師になって良かったと思うようになった。
だから原田さんは、私の恩人。
お父さんと同じ仕事ができるのは、原田さんと出会ったから」
何も言えなかった。
みんな言いたくない過去を背負っている。
こんな若い子が、一生懸命生きてきた。
恥ずかしくなる。
それから彼女はずっと何も言わなかった。
しっかりとしがみついて、僕の身体にキスをしてきた。
しっかりと抱き合った。
強い絆ができたような気がした。
「明日、早いんだろ? 仕事」
「大丈夫。若いから」
「こんなオジサンでごめんな」
「だから安心なの。なぜかわからないけど、原田さんと繋がっているとき
すごく幸せな気持ちになれる。一人で逝っちゃぁ嫌だよ。私ね、お父さんの穏やかな死に顔を見ながら約束したの。私は、結婚した人と、一緒に逝くよって。結婚する人とは、『一緒に逝く人この指止まれ』って言って一緒に行く人じゃないとダメなの。だから、原田さんは、先に逝っちゃだめだよ。この指止まって一緒に逝きたい」
彼女の涙が寂しかった。
僕にこの子を幸せにしてあげられるのだろうか。
僕はこのとき、すごく大きな恐怖感のようなものを感じていた。
一日中、彼女の言葉が忘れられなかった。
そして夕刻、いとこのご主人から電話があった。
「文子が死んだ」
僕の従姉だ。
みんな先に逝ってしまう。
伯父も伯母も、父も母も、姉も弟も。
そして今度は従姉が逝った。
みんな、この指止まれ~って、どうして言わなかったんだろう。
一緒に逝く人、この指止~ま~れって。
明日の彼女の仕事を考えると、そう遅くまではいられない。
そうは思いながらも、こんなに楽しい夜はなかなか手放せない。
「今日は一緒にお風呂に入っていい?」
突然の申出に僕はびっくりした。
狭い風呂の中で、彼女は僕の膝に乗っかっていた。
「私、お父さんいないの」
僕は驚いた。
別段珍しいことでは無いことなのに、
なぜか大きな衝撃を受けた。
こんなに素直におおらかに育っている人が、
家庭に恵まれなかったのかと、
少し違和感を持った。
「私が13歳の時、不慮の事故で死んだの。
それから私は、対人恐怖症になったの。
だから恋人もできなかった。
それでも父が中学校の先生だったから、私もその道に進んだ。
間違いだと感じたこともあるけど、
原田さんに出会えて、私は教師になって良かったと思うようになった。
だから原田さんは、私の恩人。
お父さんと同じ仕事ができるのは、原田さんと出会ったから」
何も言えなかった。
みんな言いたくない過去を背負っている。
こんな若い子が、一生懸命生きてきた。
恥ずかしくなる。
それから彼女はずっと何も言わなかった。
しっかりとしがみついて、僕の身体にキスをしてきた。
しっかりと抱き合った。
強い絆ができたような気がした。
「明日、早いんだろ? 仕事」
「大丈夫。若いから」
「こんなオジサンでごめんな」
「だから安心なの。なぜかわからないけど、原田さんと繋がっているとき
すごく幸せな気持ちになれる。一人で逝っちゃぁ嫌だよ。私ね、お父さんの穏やかな死に顔を見ながら約束したの。私は、結婚した人と、一緒に逝くよって。結婚する人とは、『一緒に逝く人この指止まれ』って言って一緒に行く人じゃないとダメなの。だから、原田さんは、先に逝っちゃだめだよ。この指止まって一緒に逝きたい」
彼女の涙が寂しかった。
僕にこの子を幸せにしてあげられるのだろうか。
僕はこのとき、すごく大きな恐怖感のようなものを感じていた。
一日中、彼女の言葉が忘れられなかった。
そして夕刻、いとこのご主人から電話があった。
「文子が死んだ」
僕の従姉だ。
みんな先に逝ってしまう。
伯父も伯母も、父も母も、姉も弟も。
そして今度は従姉が逝った。
みんな、この指止まれ~って、どうして言わなかったんだろう。
一緒に逝く人、この指止~ま~れって。