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■東芝は米国にハメられた。原発買収で起きていた不可解なやり口 まぐまぐニュース(2017.06.16)

2022-05-13 05:20:53 | 日記

 

■東芝は米国にハメられた。原発買収で起きていた不可解なやり口

まぐまぐニュース(2017.06.16)

https://www.mag2.com/p/news/253234

 

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・東芝はアメリカにはめられた

 

今、東芝が大変なことになっていますね。

約7000億円もの損失を計上し、半導体事業などの売却を検討し、上場廃止などの声も上がっています。


下手をすれば、倒産するんじゃないかとさえ、言われています。

東芝というのは、日本を代表する家電メーカーであり、原子力事業でも国内で最大規模を誇っていました。


その巨大企業が、なぜこんな窮地に陥っているのでしょうか?

新聞や週刊誌などでは、東芝の隠蔽体質などが原因視されています。


確かに、東芝は、近年、粉飾決算などを行っており、決して問題のない会社ではありませんでした。

しかし、東芝の行っていた粉飾決算は、東芝を破滅させてしまうほどの大ごとではありませんでした。


今、東芝が窮地に陥っているのは、約7000億円にも及ぶ損失を記録してしまったからです。

この7000億円の赤字の大半は、実はたった一つの取引から生じているのです。


その一つの取引というのは、アメリカのS&W社の買収です。

東芝は、2015年の暮に、原発の建設会社だったS&W社を買収しました。


東芝が直接買収するのではなく、東芝の子会社となっていたアメリカのWH社が買収するという形になっていましたが。

このS&W社が、1年後に約7000億円の赤字を出すのです。


たった1年で7000億円もの赤字がなぜ生じたのでしょうか?

東芝は、なぜそれに気づかなかったのでしょうか?


そこには、日米の原子力政策を巡る、虚々実々の駆け引きが隠されているのです。

簡単に言えば、東芝はアメリカにはめられたということです。

 


・なぜ東芝はアメリカの原子力事業に参入したのか?

 

ことの発端は、2006年のことです。

この年、東芝は、アメリカの原子炉メーカーのWH社を買収しました。


なぜ買収したかというと、東芝はアメリカの原子力事業に参入したかったからです。

当時、アメリカは、原子力発電に再び脚光が浴びせられ、「原子力ルネッサンス」というような状況にありました。


アメリカは、1979年のスリーマイル島の事故以来、30年間、新規の原発建設を認めていませんでした。

が、環境問題の世論の高まりや、電力コスト高などの影響を受けて、原発回帰の機運が生まれてきたのです。


東芝は、この話に飛びついたのです。

東芝が、WHを買収したのは、この「包括エネルギー法」成立の翌年のことなのです。

 


・順調なWH社

 

WH社は、アメリカでは最大級の原子炉メーカーでした。


既存のアメリカの原子炉の多くは、WH社によるものであり、そのメンテナンスだけで莫大な収益を上げていました。

WH社は、アメリカの原子力政策にも精通しており、原子力発電を規制していた「アメリカ原子力規制委員会(NRC)」ともツーカーの仲だとされていました。


そのためか、東芝の買収後、WH社は、次々にアメリカの新規の原子力発電所建設を受注しました。

2008年4月、WHは、アメリカ・サザン電力の子会社であるジョージア電力(ジョージア州)と、2基の新規原子力プラントの建設に関する契約を締結しました。


さらに2008年5月には、WHはアメリカ・スキャナ電力の子会社であるサウスカロライナ・エレクトリック&ガス・カンパニー(SCE&G)と2基の新規原子力プラントの建設に関する契約を締結しました。

また中国でも2007年に4基の建設を受注していました。


ここまでは東芝の目論見通りだったといえます。

しかし、この事業計画は順調には進みませんでした。


ご存知のように、2011年に東日本大震災が起きてしまったからです。

福島第一原発の事故により、WHの原発建設の着工は大幅に遅れました。


サザン電力、スキャナ電力のいずれの原発も、2011年に着工の予定でした。

しかし、アメリカ原子力規制委員会(NRC)の承認がなかなか下りなかったのです。


もともとアメリカでは、2001年の同時多発テロの影響で、飛行機が激突しても耐えられるような厳しい設計基準がありました。

それに加えて、福島第一原発の事故を踏まえ、巨大な自然災害にも耐えられるような安全性が求められるようになったのです。


そのため、NRCの承認が下りたのは、ようやく2012年のことなのです。

そして、着工されたのは2013年です。


もちろん設計の変更や工期遅延により、莫大な追加費用が発生しました。

この費用負担を巡って発注元の電力会社や建設請負をしている会社「S&W」と訴訟騒ぎとなり、着工はさらに遅れることになりました。

 

・電力会社がS&Wの買収を要請した

 

このとき電力会社側が、ある提案をしてきます。

スキャナ電力など、アメリカの電力会社側が、東芝(WH)にS&Wの買収をすることを求めてきたのです。


電力会社側の言い分としては、「建設側の企業が入り組んだ状態となっているので、建設工事が進めにくい」ということでした。メーカーと建設業者が一体となって工事を進めることで、今後のスケジュールをスムーズに進めてほしい、というのです。


この言い分は、一見まっとうに聞こえますが、よくよく検討すると非常に不自然なのです。

原子力発電所の建設に、いくつもの企業が参加するというのは当然のことであり、一グループだけで建設をすべて請け負うのはそれほど多くありません。


だから建設側に「一体化しろ」と要求するのはおかしな話です。

しかし電力会社側は、「東芝(WH)がS&Wを買収し一体化すれば、契約金額や工事期間の見直しに応じる」とも言ってきたのです。


東芝はその甘言にまんまと引っかかってしまったようなのです。

 

・固定価格オプション

 

東芝(WH)は、S&W社を買収することに合意し、それとともに、電力会社と今後の建設費などの見直しの契約もしました。

その見直し契約には、固定価格オプションという取り決めがされていました。


固定価格オプションというのは、スキャナ電力は、工事費に5億500万ドル(約564億円)を上乗せし、2年程度、工事期間を延長する契約変更に応じますが、その後の超過コストはすべてWHが負担するというものです。


WHが負担するということは、つまりは実質的に親会社の東芝が負担するということです。

超過コストがあまり発生しなければ、東芝にうまみがあります。


でも、超過コストが発生すれば、東芝は際限なく負担を強いられることになります。

では、超過コストはあったのでしょうかなかったのでしょうか?


ご存知のような、約7000億円という莫大な超過コストがあったのです。

しかも、それは、S&Wの買収時点で、すでに発生していたのです。


東芝は、S&Wが抱えていた超過コストについて、知らなかったものと思われます。

なぜなら、7000億円もの超過コストがあるのがわかっていれば、買収などしないでしょうし、固定価格オプションなども結ばないはずです。


なぜ東芝は、S&Wが超過コストを抱えていることに気付かなかったのでしょうか?

それはアメリカ側の官民が結託した隠蔽工作があったからだと考えられます。

 

・巧みに隠蔽された巨額の超過コスト

 

S&Wは、もともとはアメリカの建設会社大手のショー・グループが所有していました。

東芝は、このショー・グループからS&Wを買収したのです。


買収する際、S&Wの持ち主であるショー・グループは、S&Wには10億ドル以上の運転資金があることを約束していました。

10億ドルの運転資金があるということは、10億円の黒字があるということです。


東芝は、それを信じてS&Wを買収したわけです。

そして、アメリカの監査法人なども、ちゃんとそれを証明しているのです。


なのに、なぜS&Wは超過コストを抱えていたのでしょうか?

実は、S&Wは、東芝(WH)から買収される時点では、「会計上の超過コスト」は発生していなかったものと思われます。


S&Wの損金が発生するのは、電力会社が固定価格オプションを発動してからなのです。

前述したように、スキャナ電力は、東芝がS&Wを買収した時点で、固定価格オプションという契約を結びました。


しかし、この固定価格オプションは、しばらく発動されませんでした。

発動するかどうかは電力会社に委ねられていたのです。


つまり固定価格オプションは、まだS&Wの買収時点では「有効」にはなっていなかったのです。


S&Wは、買収された時点で、潜在的に70億ドル程度の損失を抱えていましたが、固定価格オプションが発動されていないので、この損失は、帳簿上はまだ損失という扱いにはなっていなかったのです。


S&Wの原発建設による追加費用は、当初はS&Wにとっては売上として計上されていたはずです。

S&Wは、建設業者であり、建設工事が伸びたり、追加工事が発生すればその分、売上が増えることになります。


だから、工事の遅延代金や追加工事の代金は、当然、売上に計上されていたはずです。

この追加代金は、電力会社が払うかも知れないし、WHが払うかもしれない。


が、いずれにしろ、S&Wにとっては、追加工事は「売上」であり、損失ではなかったのです。

が、東芝が買収してから半年後、スキャナ電力は固定価格オプションを発動しました。


これにより、追加工事の費用のほとんどがWHにつけられることになります。WHにつけられるということは、つまりは東芝につけられるということです。


この時点で、S&Wは東芝に7000億円の損失をもたらしたのです。

だから、売り主のショー・グループとしては、「売却する時点では、70億ドルの損失はなかった」と強弁できないこともないのです。


こうしてみると、アメリカの電力会社とショー・グループは、一体となって東芝をはめたとしか見えないような構図です。

 

・丸儲けしたアメリカの電力会社

 

東芝が窮地に陥ったのは、S&Wという大赤字会社を騙されて買収させられたからであり、S&Wが大赤字になったのは、固定価格オプションを結ばされてしまったからです。


通常、新しい原発の建設は費用超過がつきものなので、その負担は電力会社と受注企業が分担するのが通例となっています。

しかし、サウスカロライナのスキャナ電力の場合、超過コストをほとんど負担していません。


スキャナ電力と東芝(WH)が、当初結んでいた原発建設契約の総額は約76億ドルでした。

固定価格オプションによって追加費用を支払っても、総額は約77億ドルです。


数十億の追加コストが発生しているのに、スキャナ電力の負担はほとんど増えていないのです。

東芝は、アメリカ側の巧妙な策に引っ掛かってとんでもないババを引かされてしまったのです。


しかも、さらに腹立たしいことがあります。

アメリカ側のスキャナ電力は、原発建設の超過コストを、ちゃっかりを電気料金の中に組み入れているのです。


つまり、スキャナ電力は、住民から超過コスト代をせしめていながら、超過コストの負担は一切していないのです。

スキャナ電力のあるサウスカロライナでは、電力料金は、総括原価方式という価格設定方法が採られています。


アメリカでは、州によって電力料金の決め方が違っており、大まかに言って「総括原価方式」「電力自由化」の二つの地域がありますが、サウスカロライナは、「総括原価方式」を採っているのです。


総括原価方式というのは、電力をつくるためにかかったコストに、一定の利潤をプラスして決められるものです。

当然のことながら、発電所の建設費も、この原価に含まれることになります。


東芝(WH)に原発建設を発注しているスキャナ電力は、2009年以降、電気料金を9回も値上げをし、18%増となっています。

これは、原発建設の費用がかさんだために、電気料金に転嫁するという建前になっています。


が、前述したように、スキャナ電力は、当初の原発の建設の契約額から、ほとんど上乗せはしていません。

つまりは、スキャナ電力は、丸儲けしたということなのです。


2005年から始まったアメリカの新原子力発電事業は、2010年のシェール革命によるガス発電の大躍進と、2011年の福島第一原発の事故により、大きく後退しました。

そして、建設中の原発は、巨大なコスト超過により、大きな損失を蒙りました。


現在、その損失を、全部、東芝一人が背負わされてしまったという構図になっています。

東芝が破綻しかかっているのは、それが本当の原因なのです。

 


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■東芝は米国にハメられた。原発買収で起きていた不可解なやり口
まぐまぐニュース(2017.06.16)
https://www.mag2.com/p/news/253234

 


■富士フイルムの米ゼロックス買収に仕掛けられた罠 ~カール・アイカーンが富士フイルムに対して仕掛けた罠~ 論座(朝日新聞)2018/04/03

2022-05-13 05:20:33 | 日記

 


■富士フイルムの米ゼロックス買収に仕掛けられた罠

~カール・アイカーンが富士フイルムに対して仕掛けた罠~

論座(朝日新聞)2018/04/03

https://webronza.asahi.com/judiciary/articles/2718040300002.html

 

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かつての名門会社である米ゼロックス社の経営陣は、大株主であるアイカーンや他のヘッジファンド株主たちから圧力を受けて、死に体の複写機市場でもがき苦しむ現状から「なんとかして」価値を創造するために、ゼロックスのぎりぎり過半数(50.1%)の経営権を買ってほしいと富士フイルムに泣きついてようやく合意にこぎつけた。


ただし、残りの株式49.9%は、アイカーンやヘッジファンド等の一般株主の手中に残ったままだ。

これに対してアイカーンは、富士フイルムが提示した購入代金の金額について「足りない」と文句を言い、大いに騒ぎ立てて買収の妨害を企てている。アイカーンがゼロックス株式の表向きの価格の吊り上げに成功するか否かは、やがてわかる。


だが実は、富士フイルムにゼロックスの50.1%を買わせることは、二部構成の舞台の第一幕に過ぎない。

アイカーンにとっては第二幕こそがクライマックスである。


第二幕では、「少数株主の権利」について訴訟あり、もっともらしい発言ありと、いろいろあるだろう。

そして、残りの49.9%についていっそうの高い値を引き出そうとしてくるにちがいない。


とかく優れた罠は、何の疑いも持たない獲物からは無害に見える。

古森会長のように日本国内の規範に慣れている日本企業の重役たちの目には、第一幕のあとのゼロックスの株主構造――すなわち上場企業(ゼロックス)が別の上場企業(富士フイルム)により管理される一方で、少数派として一般の株主(アイカーンら)がいるという構図――に何の怪しさも感じないだろう。


日本の上場企業(全3,000社)のうち、約300社がまさにこの所有構造をとっていて、一般的に「親子上場」と呼ばれている。

親子上場は、日本の財閥、グループ系列、その他安定株主を擁しての「戦略的」な株式持合いといった同様の会社所有構造の一つの変形パターンにほかならない。


しかし、アメリカではそうではない。

アメリカには親子上場などほとんど存在しない。


日本ではよく見受けられる、そうした構造が「子」の少数株主と「親」との間にきわめて厄介で、法的にも違法となり得る利益相反を生み、賢明なコーポレートガバナンスの原則に反するとアメリカで考えられていることが、アメリカに親子上場がほとんどない主な理由である。

そのことを日本企業の重役らは知らない可能性がある。

アイカーンは、富士フイルムとゼロックスの交渉が発表されて以来何通かの書簡を出しているが、その中ですでに第二幕を予告している。


買収後は「兄」となった富士フイルムがゼロックスの50.1%を握る支配株主としての地位を悪用して大邸宅に住みロールスロイスを乗りまわすかたわら、弟は掘っ立て小屋に住んで古くて壊れそうなハッチバックに乗るという、おどろおどろしい絵を描いている。


第二幕においてアイカーンは、日本の「兄」が支配株主の権限を悪用してゼロックスの資産とテクノロジーを搾り取ってアメリカの「弟」に不利益をもたらしているとして富士フイルムを訴えようと、すでに頭の中で訴状の下書きを進め、陪審員に向けての最終弁論の練習までしているのではないか。


さらに皮肉なことに、富士フイルムがこの買収スキームを正当化する理由として、さまざまなコスト削減と富士フイルムとゼロックス両社の価値を高める「シナジー」につながると主張しているのに対し、アイカーンは、富士フイルムがゼロックスの資産、テクノロジー、顧客および社員を盗もうとしているとか、ゼロックスを過小評価しているなどと主張して、たえず訴訟をちらつかせている。


このような状況下ではとうてい富士フイルムがえがく「シナジー」が実現できるはずもない。

一つ一つの取引について「公正」か、「アームズレングス」な条件で行われるかといったことを証明しなければならないだろう。


そんな心配をすることなく、両社が一つの会社のように共に考えて行動しないかぎりシナジーは生まれない。

ゼロックスの親子上場の株主構造では、この取引の売り文句であるシナジーを実現できなくなる。


アイカーンの考えているであろうフィナーレは、第二幕で少数株主の権利を声高に主張して、富士フイルムにゼロックスの残りの株式をさらに高値で買わせようとすることだ。

そうと知りつつ、私は古森会長に次のように尋ねたい。


「ゼロックスが素晴らしい会社だとおっしゃるならば、いっそ丸ごと買ってはいかがですか?」。

これに対して本音──ゼロックスがもしかしたらそこまですごい会社でないかもしれない、そのリスクは少数株主にも共有してもらいたい──で古森会長が答えようものなら、まさにアイカーンの思う壺というわけだ。


富士フイルムがゼロックスのぎりぎり過半数を取得する計画には、日本企業による海外M&Aについてしばしば論じられる懸念もはらんでいる。

すなわち、価格が高すぎること、そして日本企業側に買収した外国の会社を経営する能力が足りないことである。


その上、富士フイルムが馴染みのない外国の法的環境の中で「親子上場」の株主構造に隠された落とし穴を読み違えはしないかという点はそれら毎度の心配を増幅する。

 

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■富士フイルムの米ゼロックス買収に仕掛けられた罠
~カール・アイカーンが富士フイルムに対して仕掛けた罠~
論座(朝日新聞)2018/04/03
https://webronza.asahi.com/judiciary/articles/2718040300002.html


■電通の英国企業買収に3つの疑問:日本企業の海外M&Aの陥穽 電通は次の野村証券か? 論座(朝日新聞)2012/09/25

2022-05-13 05:20:12 | 日記

 


■電通の英国企業買収に3つの疑問:日本企業の海外M&Aの陥穽

電通は次の野村証券か?

論座(朝日新聞)2012/09/25

https://judiciary.asahi.com/fukabori/2012092000008.html


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電通が英国の広告代理店イージスを約4千億円で買収するという。

残念ながら、この事例は、ここ数年間の日本企業の海外M&A(企業の合併や買収)に共通する悪いパターンにぴたりと当てはまる。


日本企業と海外企業を合体させただけでは、グローバルな大手ライバルと対等には競争できない、というのが第一点。

第二点として、日本企業側の海外企業に対する経営能力と、両社の組み合わせのシナジー効果が疑わしい。


そして、最後の第三点は、買収価格が高すぎるという問題だ。

 

・市場、競争のグローバル化


電通の悩みの原因は、野村証券、メガバンク、キリン、味の素など海外売り上げを拡張しようとしている他の日本企業と同じであるように見受けられる。

すなわち、国内マーケットの少子高齢化、経済成長率の低下である。

それらに対処するため、各社は、成長率の高い発展途上国のマーケットに参入しようとしている。


国内需要の縮小は海外へ出るきっかけではあるが、より根本的な問題は、マーケットがグローバル化されていることだ。

様々な事業分野において、世界のそれぞれの地域に競争力を持つ本格的なグローバルカンパニーが登場してきた。

競争の土俵が全世界であれば、その一部だけを守ろうとする作戦はたいてい失敗に終わる。

イギリス、フランス、イタリアの自動車メーカーのように、ただのリージョナルプレーヤーはもはや生き残ることはできない。

日本の国内需要だけに頼る企業は、そのうちグローバル企業に追い込まれる。

日本のマーケットを防御するためにも、最終的には、日本企業は全世界で競争しないと生き残れない。

この意味において日本企業の外への進出は命がけだ。


バドワイザーで有名な世界のビール最大手アンハイザー・ブッシュ・インベブは、市場のグローバル化への対処に成功した企業と言えよう。

10年前世界のビール会社の上位10社は全世界の34%のシェアを占めていたが、現在その比率は74%に拡大した。

インベブは全世界のシェアの20%以上を持ち、売り上げは地域の経済規模の比率に近い。

北米32%、南米40%、アジア20%、欧州8%、そして各地域でナンバー1かナンバー2のシェアを持っている。

日本企業でも本格的なグローバルプレーヤ―(トヨタ、キヤノン、クボタ)は同じように総売り上げの配分が各地域のGDPにおおむね見合っている。


電通はイージスと組んでも世界No.5にとどまり、売上総利益の58%は日本国内が対象である。

電通の売上総利益の84%は日本国内で、残りの16%の大部分は日本企業の海外広報活動のお手伝いだ。

残念なことに、海外広告に関してほとんどの日本企業の大手は電通を相手にしていない。

日本国内で通用する広告のスタイル、味付けは異文化の環境では通用しにくいからだ。

これとまったく同じ問題で、日本の証券会社、銀行、保険会社、渉外法律事務所、その他のサービス業も困っている。

サービス業の場合、日本人同士の国内マーケットで通用する価値観、スキル、人脈、言語は、それをそのまま海外に持っていっても使い物にならないことが多い。


では、電通とイージスを合体させると、この問題は解決されるか? 

電通の売上総利益は3328億円である。

一方、イージスの売上総利益1418億円は西ヨーロッパ(47%)、日本を除くアジア(25%)、北米・南米(19%)など、電通があまり活躍していない区域での売上総利益を含んでいる。

この結果、統合会社の売上総利益の日本国内の割合は84%から58%に減り、日本以外の割合は16%から42%に増える。


確かに合体の結果、数字の上では、問題はやや緩和される。

しかし、これだけでは本格的なグローバルプレーヤーになったとは言えない。

世界のGDPの8%しか占めない日本が売上総利益の58%を占めているということはバランスがまだ大きく偏っているということだ。

しかも、2社を合体しても、グローバルな土俵で成功するための規模としてはまだ小さすぎる。

電通とイージスの売上総利益を足した4700億円では、世界大手のWPP(1.3兆円)、オムニコムグループ(1兆円)、ピュブリシス(6,122億円)、IPG(5,460億円)より少ない。

日本以外でのスケールは世界No.1のWPPの8分の1にすぎない。

WPPのスケールと売上配分のバランス(北アメリカ 35%、イギリス12%、ヨーロッパ25%、その他の地域 28%)に比べて電通・イージスの存在感は薄い。

 

・シナジーのなさ


シナジー効果のなさも弱点の一つとして指摘せざるを得ない。

ソニーを具体例として考えよう。

ソニーは電通を日本国内の広告代理店として使っているが、海外では商品と地域によって複数のグローバル大手代理店のサービスをつまみ食いしているようだ。

電通がイージスと一緒になったことを理由に、ソニーがいきなり海外広告ビジネスをイージスに変えるはずはない。

ソニーにとって、イージスがたまたま電通の子会社であることは、客観的なサービス内容や品質と関係ない要素だ。

同様にイージスのクライアントの紹介で電通の日本国内のビジネスが大きく増えることはないだろう。

半年前まで、電通は、イージスより4倍大きいピュブリシスとの間で、相互的なシナジーを狙った独占的提携関係にあったが、ピュブリシスが十分電通に仕事を回してくれなかった不満が提携関係の解消の重要な原因となった。

イージスが電通の子会社となれば、ピュブリシスと違って、イージスの経営陣は電通の指示に従わなければならない立場になるが、電通を使うかどうかは最終的にイージスが決めることではなく、クライアントが自由に判断することだ。

クライアントにとって電通とイージスの統合の魅力はどこにあるのか?


クライアントが野村証券とリーマンの統合による付加価値を感じなかったことは、まさしくその失敗の重大な原因だった。

例えば、破たん前のリーマンのクライアントが複数の市場で証券を発行する案件の場合(いわゆるグローバルプレースメント)、リーマンは組織的に、ニューヨークをはじめ、それぞれの主要市場でアンダーライターとして証券を投資家に売り込み、アフターマーケットでサポートする能力を持っていた。

しかし、野村証券がリーマンから引き継いだ組織は、アメリカを除くリーマンのヨーロッパとアジアにおける雇用関係に過ぎなかった。

ヨーロッパとアジアに居住するリーマンの人材がいくら優秀であっても、ニューヨークにベースのないアンダーライターはグローバルプレースメントのマンデートは取れない。

その人材の雇用主が日本の業界の一番手であることはクライアントにとって無意味な要素だ。

その人材がリーマン破たん後、高収入を得続けるために転勤した、ただの傭兵に見られたことは逆にクライアントにとってマイナスだった。

同じように、電通による買収のニュースを聞いて、「よかった、これで、より頼もしい相手になった」と思うイージスのクライアントがいるとは思えない。

逆にイージスが電通に圧迫され、元来のイージスのスタイルやサービス内容が失われて、日本的なものに変わってしまうのではないかと心配するクライアントは大勢いるだろう。


本当の意味のシナジーをもたらすために、電通とイージスのそれぞれの経営幹部、クリエーティブ(広告コンテンツの制作部門)、営業スタッフが全世界をスムーズにカバーできる一つのチームにならなければならない。

しかし、野村証券社員となった元リーマンのインベストメント・バンカーと野村証券とのこじれた関係でわかるように、日本人経営陣は、クリエーティブかつ高収入のプロフェッショナルな人々をうまく使いこなせないだろう。

イージスの一番優秀なスタッフがもっと自由な空気を吸える職場に脱走することが予想できる。

少なくとも電通がオーナー・親分的な態度でイージスを仕切ろうとすれば、イージスの一番大切な資産である才能ある人々はきっとすぐに会社を離れる。


最終的に日本企業、特にサービス業のグローバル化の勝敗は人事問題で決まる。

新発売商品の広告のグローバルキャンペーンを遂行するためにはその企業が有する複数の拠点、異文化の人間から一つのチームをまとめることは不可欠だ。

複数のタイムゾーンをつなぐビデオカンファランス(テレビ会議)は現在のグローバルビジネスの基本になっている。

事実として、日本人はこのようなカンファレンスコール(電話会議)は苦手。英語でブレーンストーミングできる日本人はあまりにも少ない。

 

・莫大な買収価格、借金


3955億円の買収価格がイージスの過去5年の平均営業利益110億円の36倍で、買収発表直前の市場株価の45%プレミアム乗せであることも気になる。

これだけ高い買収価格であれば、ROI(投資収益率)はたった2.25%になり、電通の極めて低い6.6%のROE(自己資本利益率)を下回り、電通と他の広告代理店大手のROEの格差をさらに広げることになる(ちなみにWPPのROEは12.82%、オムニコム 27.73%、IPG 23.41%、ピュブリシス 18.55%)。

電通が全額を銀行から借りるイージスの買収代金は電通の現在の5,600億円の時価総額とほぼ同額だ。

イギリス・欧州の不安定な経済ベースのイージスが売り上げと収益性を将来にわたって伸ばせるという保証も、ゼロ金利が永遠に続く保証もない中で、電通の経営陣の株主に対する説明責任は重大だ。

どう見てもリスクとリターンが見合わず、正当化ができない。グローバル経済についてこれから悪化する色々な消極的な可能性を考慮すると、イージス買収のための莫大な借金で電通は次の危機を乗り越える余裕を無くしたかもしれない。


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■電通の英国企業買収に3つの疑問:日本企業の海外M&Aの陥穽
電通は次の野村証券か?
論座(朝日新聞)2012/09/25
https://judiciary.asahi.com/fukabori/2012092000008.html