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鏑木保ノート

ブックライターの書評、本読みブログ。

【書評】『レジェンド パソコンゲーム80年代記』佐々木潤・総合科学出版

2015年01月10日 | サイエンス
 総合科学出版の営業のひとからまた送っていただきました。


レジェンドパソコンゲーム80年代記
佐々木潤,レトロPCゲーム愛好会
総合科学出版

語り継ぎたい不朽の名作
80年代パソコンゲームの記憶


パソコンゲームの黎明期である80年代を彩ったソフトハウスと、彼らが生み出した名作の数々。そのなかには「今でも忘れられない」「忘れてはいけない」ソフトがある。実際にプレイできる機会がなくなりつつある現在、当時のパソコンゲームで遊んだことのない世代も増えていっる今だからこそ、語り継いでおかなければならないのだ!


 以前に紹介した『80年代マイコン大百科』や『エロゲー文化研究概論』につづく、総合科学出版の“黄色い表紙の本”シリーズ。

 僕たちがいま普通に使っているパソコンは、黎明期には「マイコン」と呼ばれていた。
 いまのパソコンとは違ってマイコンは各社いろんな規格が乱立してソフトなどの互換性がなかった。使いこなすにもそれ相応の知識が必要だった。そんな時代からマイコンに親しんでいたオタクたちは、現代のような軽い意味の「オタク」じゃなく、いわば、アッチの世界のアークウィザードだったんだよ。

 そんな、かつてのウィザードなそして現役の魔法使いもいるだろうオタクおじさんたち大歓喜の“黄色い表紙の本”シリーズがまた出たよー♪


 今回のテーマは80年代パソコンゲームの歴史。

 
 著者は、以前紹介した『80年代マイコン大百科』の佐々木潤氏。
 前作同様、業界の歴史を読みやすく紹介しているのはもちろん、業界のことに精通しているであろう裏事情(たとえばハドソンソフトの前身やテープ販売で躍進した事情など)がなにくわぬ顔であちこちに書いてあったり、当時の雑誌からのたくさんの写真をまじえて80年代のゲーム史をまとめている。

 また、作者にはクレジットされていないのだけれど、著者とトークショーつながりの櫛田理子氏(たしかサブカル、ゲーム畑のライターさんだったと思う。このへんはあまり詳しくなくて申し訳ない)や前に紹介した『エロゲー文化研究概論』の宮本直毅氏などそれぞれの専門をもちよっての分業体制になっているのだそうな。


 わかるひとにはわかるはず。
 ほんとすげーんだよこの本。


 いまでこそ「パソコンゲーム」といえばほぼイコールで「エロゲー」のイメージが強い。でもね、昔からこうだったわけじゃないんだ。
 もちろんエロいゲームもあることはあった。でもそれはあくまでいちジャンルとしてだった。いまのゲーマーならみんな知ってるあの『信長の野望』とか『大戦略』、『ハイドライド』や『ウィザードリィ』が最初に登場したのはパソコンゲームなんだよ?

 『ファミリーコンピュータ』つまりはファミコンの台頭など紆余曲折あって、ソフトメーカーは家庭用ゲーム専用機に流れて行ったりして、割合大人のユーザーの多いパソコンがエロゲーの最後の楽園になったという悲しい歴史があるんだよ。

 そんな歴史を、ゲーム史に残る名作ゲームや迷作ゲームたちを紹介しつつ80年代を彩ったパソコンゲームたちの歴史を紹介するのが本書。

 ゲーム史について書かれてあることを検証するだけの知識は僕にはない。
 けれど、本書にはゲーム史とともに歩んだゲーム雑誌の変遷の歴史も書かれてあって、それはもうまことに真実だった。っていうか書籍のライターをしている僕も知らないことが以下略でその部分をみても良い仕事してると思う。


 そういえば思い出した。
 パソコンゲームの最初はね、手入力だったんだ。
 なにを手入力するかって? そんなのプログラムに決まってるじゃないか。

 昔は『BASIC Magazine』とかの雑誌に書かれているプログラムを見ながらキーボードで実際に打ち込んでいったもんだよ。僕はマイコン世代じゃないんだけれど、パソコン雑誌『コンプティーク』を読んでいた(『コンプティーク』はいまでこそ戦艦の女の子や戦闘機を足に履いた女の子とニンジャが出て殺す雑誌だけれど、昔はガチのパソコン雑誌だったんだ。なんで読んでたのかはこのまえ書いたのでもう言わない)ので、ファミコンで『ファミリーベーシック』というキーボードが発売されてから雑誌『ファミリーコンピュータMagazine』とかに発表されているプログラムをぽちぽちやったもんだよ。
 もちろん入力を間違っていて動かないことがいっぱいあってね……。あれはね……悲しいもんだったよ……。


 それからカセットテープになりフロッピーディスクになり、本書のあとの時代にはCDやDVD、そしていまじゃ僕はブラウザでこの原稿を書きながら、横のタブでは戦艦の女の子とキャッキャウフフしてる
 いやー、変われば変わるもんだね。


レジェンドパソコンゲーム80年代記
佐々木潤,レトロPCゲーム愛好会
総合科学出版

【書評】『80年代マイコン大百科』佐々木潤・総合科学出版

2013年08月03日 | サイエンス
 エロゲーの通史(『エロゲー文化研究概論』)を出版した総合科学出版さんにまたもやいただきました。

80年代マイコン大百科80年代マイコン大百科
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2013-07-17

1980年代に発売されていたパソコンゲーム雑誌を中心に、おもしろトピックをピックアップ! 懐かしくて新しい80年代のパソコン事情を振り返る。当時の有名パソコンから珍品周辺機器、話題になった人気パソゲー&雑誌広告、それらを作ったソフトハウス&ゲームクリエイターまで、“マイコン時代”のパソコン情報をお届けします!
 今回はエロゲーをプレイするためのハードのほうの歴史。
 それもまだ「マイコン(マイクロコンピュータ)」と呼ばれていた時代からのパソコンゲームにハード、ソフトハウス(メーカー)の広告を本当に、それはもう本当にたくさん載せながら、その機種の特徴やその時代の背景などを解説する。
 懐かしいひとには本当に懐かしい一冊だ。
 思えば「大百科」というタイトルの本って久々見たな。


現代では、複数のメーカーから PC は発売されているものの中身はどれも似たようなもので、動いている OS も Windows に MacOS がほとんど。ソフトも目新しいものがあるわけでもなく、ワープロも表計算ソフトも、特定メーカーのものばかりが動いている。もはや80年代前半の、様々なマイコンやソフトが発売されていたワクワク感を感じることはなくなってしまった……。もちろん、その頃と比べて格段に便利になったのは間違いないのだが。
 いまの若い子は知っているだろうか?
 Windows や Mac がまだなかった時代、ハードは「マイコン」と呼ばれ、A社のあのマイコンで発売されたソフトが、B社のこのマイコンではまったく動かないなんていうのはザラ……っていうか動かないのが当たり前の時代があった。
 今だったら富士通製のパソコンでも NEC 製のパソコンでも OS が同じならばハードの能力の差こそあれ基本的に同じソフトならば動く。当然だよね。だけれど、それが当然じゃなかった時代があったんだよ。いや、ホントに。


 当時は「マイコン」と呼ばれ、すっげー高くてしかも高度な知識が必要で、本当の意味でのオタクたち(現代の二次元萌えとかサブカルをちょっと囓った程度のオタクじゃない。アッチの世界のウィザードたちのことだ)のみが操れる夢の道具だった。

 本書はそんな時代の広告やチラシを本当にたくさん収録しつつ当時を振り返る。当時、現役のオタク街道を突っ走ってた人々にはこれ以上懐かしいものってないんじゃなかろうか。
 少しでもカスるオタクどもお歴々はぜひ以下に紹介するもくじを見てほしい。あなたにはわかる言葉や単語がいっぱい書いてあるはずだ。


 あいにく僕は前半のほうはわからないんだけれど(だって75年生まれだし)、後半は『コンプティーク』誌の袋とじをはじめ TRPG の特集(その頃は『ロードス島戦記』の誌上リプレイだった)をやってたのを覚えているなぁ。あのときのあの誌面もばっちり収録されていて本当に懐かしい。
 でもなんで僕は知ってるんだろう? まだ十歳前半だったはずなのに? ……まあいいや。


80年代マイコン大百科80年代マイコン大百科
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2013-07-17

もし、この時代の書籍やハードが自宅に眠っており、捨ててしまおうと思っている人がいれば、モノによっては是非引き取りたいので、 jun_march@icloud.com まで連絡を頂けると幸いだ。集まり方次第では、続編制作に動けるかもしれない

著者:佐々木潤(ささき・じゅん)
ソフトバンクパブリッシング(現・ソフトバンククリエイティブ)の PC 雑誌などを中心に執筆していたフリーライター。おもに PC 系のユニークな企画や、新旧の様々なゲームソフトレビューなどを担当していたが、今はゲーム系の Web サイトや雑誌に活動の中心を移している。
パソコンは PC-6001 時代から触れており、その頃から大量の関連書籍やソフトを購入。これらを現代に至るまで保存しているコレクターでもある。今でも月に一度はマイコンを起動し、懐かしいゲームを立ち上げては思い出に耽るのを最大の楽しみとしている。コレクター魂は現在も衰えることはなく、ありとあらゆるマイコン関連アイテムを集めようと、今日も中古ショップやインターネット上を探し続ける日々を過ごす。

80年代マイコン大百科80年代マイコン大百科
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2013-07-17

懐かしくて新しい
30年前のパソコン事情



もくじ
第1章
HARD編
懐かしのマイコンたち!!
◆八十年代のマイコン年表
◆PC-6000/PC-6600シリーズ
◆PC-8000シリーズ
◆PC-8800シリーズ PART1
◇PC-8800シリーズ PART2
◇PC-8800シリーズ PART3
◆PC-9800シリーズ PART1
◇PC-9800シリーズ PART2
◇PC-9800シリーズ PART3
◆PC-286・386シリーズ
◆MZシリーズ PART1
◇MZシリーズ PART2
◆X1シリーズ PART1
◇X1シリーズ PART2
◆X68000シリーズ
◆FMシリーズ PART1
◇FMシリーズ PART2
◆そのほかのパソコンたち
◆ジョイスティック昔物語
◆特別企画 日立Hシリーズ広告、あるだけ見せます!

第2章
雑誌編
80年代 メジャーパソコンゲーム雑誌
Pick Up

◆LOG iN
◆マイコン BASIC Magazine
◆コンプティーク
◆POPCOM
◆テクノポリス
◆まだまだある!! 一時代を築いた80年代パソコン雑誌
◆番外編 80年代パソコンゲーム関連ムック紹介

第3章
GAME編
1980-1984

ボクたちをを虜にしたソフトハウス
PART1

◆日本ファルコム
◆BPS
◆光栄
◆マイコンソフト(電波通信社)
◆ハドソンソフト
◆マイクロキャビン
◆エニックス
◆システムソフト
◆そのほかのソフトハウス

第6章
ADULT GAME編
あのソフトでボクたちはイッた!?
◆チャンピオンソフト
◆PSK
◆ジャスト
◆elf
◆グレイト
◆HARD
◆雑誌の袋とじ大公開!

第7章
そのほかの
80年代トピック編

◆今や懐かしのレンタルショップを振り返る
◆一世を風靡したコピーツール
◆激突!! ハッカー vs 任天堂の攻防
◆時代を先取り ソフトベンダー TAKERU の挑戦

<付録>
◆パソコンゲーム年表
◆アダルトゲーム年表

おわりに
<参考資料>



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『エロゲー文化研究概論』宮本直毅・総合科学出版
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【書評】『あきらめ上手になると悩みは消える』丸井章夫・サンマーク出版

2013年07月20日 | サイエンス
 よく「悩み、なさそうですね」と言われ続けて幾星霜、四捨五入するともう四十年近くも言われ続けている。


 いやね、これでもいろいろ悩みはあるんですよ?
 歳のせいか恋愛の悩みは少なくなったけれど、かわりに親の老後を考えなければいけなくなった。予定としてではなく、現実の問題として親の世話をするために仕事をセーブしたり選んだりもしている。

 親の老後の面倒を見ているとそのうち、自分の老後も考え始めるもんだ。僕は一人っ子だから本当に天涯孤独になってしまうのだろうか?

 たしかに恋愛の悩みは少ない。
 けれどもそれは自分だけの話であって、両親がまだ健在なうちにきちんと結婚をして孫の顔を見せてやるのが親孝行なのかもしれないし……かといってこんなことを考えていても相手があることだから僕一人だけでどうこうできる問題でもないわけであって……。


 ほらね。
 いっぱいあるでしょ?


 そんなわけで本書。


あきらめ上手になると悩みは消えるあきらめ上手になると悩みは消える
価格:¥ 1,365(税込)
発売日:2013-02-05



 著者は手相家にして心理カウンセラーでもある丸井章夫氏。
 まぐまぐにて殿堂入りしたメールマガジン『丸井章夫の成功心理学』の著者、といえば知ってるひとも多いだろう(メールマガジンは現在、著者のHP上で独自配信中)。

 わかりやすい占いと、それを踏まえた科学的裏付けのある心理カウンセリングで有名な丸井氏による「悩みを消す方法」をまとめているのが本書。


 悩みを消すためにはどうすればいいんだろうか?

 本書で著者は「上手にあきらめなさい」という。
三万人のクライアントと対峙《たいじ》するなかで、いつまでも悩みから抜け出せない人には、ひとつの共通点があることを発見しました。
 それは「あきらめる」のが苦手なひとたち、ということです。
 もしくは、「あきらめる」ということを悪いことだと「誤解」しているために、「うまくあきらめる」ことができない人たち、といえます。
 いや、あの、「あきらめろ」ってさぁ。
 簡単にあきらめられないから僕たちは「うーん……」って悩んでるんじゃないですか(笑)。違いますか?


 僕たちは「あきらめる」ということにネガティブなイメージをもっている。
 小さな頃から「あきらめずに最後までやれ」と教えられて育っているし、テレビや音楽でも「夢をあきらめないで」と言っている。感動のスポーツドキュメンタリーとかはたいてい「あきらめずにやったから」だ。
 だから「あきらめる」=「悪いこと」だと思っている。

 でも。
 それは違うんだと著者はいう。
 数多くの選択肢があって、かなえたいことが複数ある中で、「あきらめることと、あきらめないことを区別できない状態」??それこそが、私たちが頭を抱え、暗い気持ちにさせられる「悩みの正体」なのです。
 自分の望みをすべてかなえることは残念ながらできません。
 だから、どれが自分にとって絶対に大切なことなのかを見極め、それ以外はスッパリあきらめなきゃいけない。そうすれば悩みはあっというまに消える。


 本書のなかから例をあげるなら、
 著者のクライアントにクラブで人気ナンバーワンの女性がいた。彼女は昔からスポーツ中継のアナウンサーになる夢をもっていて、その道に進もうかどうか悩んでいた。さらに「いまのクラブでの地位を捨てたくない」とも「数年内には結婚したい」とも思って身動きが取れなくなっていた。

 アナウンサーの夢を追いかけたいのであればいまのクラブでの地位を捨てなきゃいけないし結婚だって遅くなるだろう。クラブの地位を守るならほかのふたつはあきらめなきゃいけない。結婚だってそうだ。

 自分にとって、なにが一番大切で、なにがあきらめてもいいものなのかを見極めなきゃいけない。見極めたら「それ以外」をすっぱりとあきらめる。そうすれば「どうしよう?」と悩むことはなくなるはずだ。
つまり、どちらか一方の夢をかなえるために、もう一方をちゃんと「あきらめる」はずです。
 これが著者の言う「上手なあきらめ」。

 これはぜんぜん悪いことじゃないし、
 むしろより前に進むために必要なポジティブな選択なんだ。

 これを知らない、もしくはできない人が多い。
 だから僕たちはいくつもの選択肢を並べて悩んでしまうんだ。
 しかし安心してください。
 本書を読み終わったころには、誰もが「読んでよかった」と思えるほど、「あきらめの作法」が身についているはずです。
 なぜなら、普段の生活習慣を少し工夫するだけで、誰でも「あきらめ上手」になれるからです。
 そして本書には上手に「あきらめること、あきらめないこと」を決断するための秘訣を三つ紹介するのだけれど……これはもう本書を買って読んでもらおう。


 きちんとあきらめることができたら、あなたの一番大切なことに向かって進めばいい。そのとき、あなたの悩みはすでに消えているだろうし、どんな結果が待っていたって後悔なんかしないはずだ。だってそれは、ほかをあきらめてまでやりたいことなのだから。


 ちなみに冒頭に書いた僕の悩み、もう答えが出たよ。
 考えてみれば本当に簡単なことで、「なんで僕はあきらめなかったんだろう?」と思ったくらいにとても単純な問題だった。

 気付かせてくれた著者に感謝。


あきらめ上手になると悩みは消えるあきらめ上手になると悩みは消える
価格:¥ 1,365(税込)
発売日:2013-02-05

悩み方によって結果が大きく変わる??つまり、悩みには「正しい悩み方」と「間違った悩み方」があるのです。そして正しい悩み方を身につけさえすれば、悩みというのはちゃんと解消されるのです。

→『あきらめ上手になると悩みは消える』丸井章夫・サンマーク出版

もくじ
はじめに

第1章 なぜ「重い気分」がよくならないのか
悩みってなんだろう?
新幹線のなかで突然あらわれた赤いポツポツ
三万人のクライアントのなかで成功した人、しなかった人
「あきらめなければ夢はかなう」は幻想だ
なぜいま「宗教ブーム」と「結婚ブーム」が起こっているのか?
万葉集に記された「あきらめ」の美しい意味
誰にでも生まれつき「あきらめの才能」は備わっている
「すっぱいブドウ」に手を伸ばしてはいけない
あきらめ上手になれば、いつも人生に満足できる

第2章 悩みの原因は三つしかない!
「重い気分」が消えないのは「安定化作業」が原因
「心軽」より「身軽」をめざせ!
「選択肢」を減らせば悩みは一瞬で消える
不安を放っておくと「ファンタジー」に成長する
「かもしれない」はすべて「こうなるだろう」に変換せよ
“らしくない”とガッカリされる、スーツ姿の占い師
「あきらめ下手」な人は二つの罠に気をつけろ!
心残りは「リフレーミング」で解決できる
友人の意見を受け入れる人ほど「あきらめ下手」になる

第3章 タイプ別にみる「あきらめ上手」になる極意
日本を列強諸国から救った徳川慶喜の秘策
たった五分の自己診断テストで、自分のタイプを知ろう!
くりぃむしちゅー・上田晋也の最大の持ち味とは?
信長が「コントローラー」なら秀吉は「プロモーター」
結婚かキャリアかの二択で、結婚を選ぶのはこのタイプ
“サポ男”は家族と仕事のどちらが大事?
現状維持かチャレンジかで迷ったらどうすればいいか?
「儲かるほうを選ぶ」のは決して悪いことではない
東京か地元かで悩んだ「注目の若手シェフ」の決断
一番悩みが少ないタイプは価値観重視タイプ
4つのタイプのまとめ

第4章 誰でもできる「あきらめ上手」になる習慣
だった三つの習慣で、毎日が驚くほど変わる!
「選択肢」をとことん減らす習慣
 「一日のやることリスト」をつくる
 メールチェックは一日二回まで
 「ノン・ダイレクト法」で勢力図を変える

「ファンタジー」を消し去る習慣
 デスクまわりを整理整頓する
 音楽や旅行で気分転換する
 困難な人生を送っている人の話を聞く

「自分まかせ」になる習慣
 新しいお店に入ってみる
 「尊敬するあの人ならどうするか」と考える
 「人生は自分のもの」と考える

「明らめた瞬間」が明るい未来への第一歩
二番目、三番目に大切なことより、一番大切なことを
人生は「あきらめ半分」がうまくいく

おわりに


あきらめ上手になると悩みは消えるあきらめ上手になると悩みは消える
価格:¥ 1,365(税込)
発売日:2013-02-05


手相家まるちゃん 鑑定HP
丸井章夫(Twitter)


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『心の力を活かす スピリチュアルケア』ウァルデマール・キッペス・弓箭書院
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【書評】『世にも奇妙な人体実験の歴史』トレヴァー・ノートン・文藝春秋

2012年08月25日 | サイエンス
世にも奇妙な人体実験の歴史世にも奇妙な人体実験の歴史
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2012-07-06
マッド・サイエンティストの世界へようこそ
 まず表紙を見てほしい。
 なんだか怪しげな機械に自信満々に入っているおっさ……もとい、科学者がいる。

 このタイトルと表紙を見て思い浮かんだあなたの答えはたぶん正しい。

 本書のいう「人体実験」とは、「科学者が(自説を証明するために)自分で実験台になる」という意味においての「人体実験」だ


 なんだかもう、これだけで僕なんかはわくわくしてしまうのだ。
 拙ブログで何度も触れているけれど、こういう頭の良いバカって僕ぁ大好物なんだよ。


 ちなみに原題は『SMOKING EARS AND SCREAMING TEETH(煙を吐く耳、悲鳴を上げる歯)』。サブタイトルは『A Celebration Of Self-Experimenters(自己実験者への称賛)』だ。


 なんでこんな奇妙な題名がついているのか。
 答えは第13章に出てくるジャック・スコット・ホールデンという研究者の偉業(?)を読むとわかる。

 潜水病の解明のため、彼は特製の加圧器を使っての加圧減圧の実験をした。
 彼が被験体に選んだのはこの分野の知識が豊富にあって自分の研究に理解を示してくれる人物だった。そう、ジャック・スコット・ホールデン。つまり本人だ。
ジャックが体験した最速の「潜水」は、九十秒間で一気圧から七気圧まで気圧を上げるというものだった。この気圧の変化は、飛行機が音速の二倍の速さで垂直に急降下したときのそれに匹敵する。急激な「浮上」はさらに危険だった。
 この実験のさなか、ジャックの歯の治療の詰め物のなかに僅かな空気が入っていて、急激な「浮上」による減圧で歯が口の中で爆発した。
 鼓膜にも穴があき、とうとう穴がふさがらなくてタバコを吸うと煙が出たそうだ。耳から。(ドリフかよ)

どこで安全が終わり、どこで危険が始まるのか、我々は知らないし、知ることもできない。
??ウォルター・チャニング博士
 ちょっとまじめな話をするならば、自然科学の世界ではいくら理論を重ね計算ではじき出せても最後の最後は実際に試してみなきゃわからない事例は多い。新薬だってそうだ。数限りない実験のあとで「臨床試験」といういわば人体実験がおこなわれて安全の証明をしている。

 そういう先達の積み重ねがあって今日《こんにち》の僕たちは医学や科学の恩恵を受けているわけだから、本来ならば本書はとても崇高な偉業をまとめた本のはずなんだけれど……でも、なんだろうね、この感じ。本書にただよう言いようのない「マッド・サイエンティスト感」は一体なんだろうか? 出てくる学者がみんなして、ドリフ的方向に「マッド」なんだよ。
ヒーローは周りの誰もが理性を失っているときにもそれを失っていないかもしれない。だが、失うだけの理性が元々彼にあるかどうかは不明である。
??ラドヤード・キプリングの誌のもじり
 たとえば、第1章の淋病と梅毒の話では。

 淋病と梅毒を研究していたジョン・ハンターは、同時に罹患する事例が見つからないところから、淋病と梅毒は同じ病気で症状の段階が違うだけだという仮説を立てた。症状の軽いのが淋病で進んだのが梅毒なんだと思った。

 ハンターは考える。
 この説を証明するためにはどうしたらいいか。
 淋病にも梅毒にもかかっていないことが確実にわかっていて、経過観察のために性器を毎日気軽に診察できる患者を用意して実験するしかない。でもそんな患者は……あ、俺がいるじゃん。

 で、どうしたか。
 彼は自分のペニスに傷を付け、そこに淋病患者のペニスから出た膿を塗りつけた。
 ……おい、お前……。


 ただ。
 このおっさ……もとい、ハンターはひとつだけミスを犯していた。
 淋病の膿を提供した患者がすでに淋病と梅毒の両方にかかっていたのだ。探し求めていた事例はじつはここにあったんだけど、彼はその点はチェックせずに実験に臨んでしまった。

 かくして。
 ハンターは見事、淋病と梅毒の両方にかかり、これで「淋病と梅毒は別の病気だ」と証明されることになりました。


 いやまあ、結果を精密に調べるために知識を持った人間、つまり自分がやったほうが早いとは思うけどさ。自然科学の発達にはそういう人体実験が不可欠であって、その身を捧げた彼らはほんとうに尊敬されるべき人たちのハズ……ハズなんだよね。きっと。

 本書を読みながら何度「おい、なにやってんだよ、おっさん」と言ったかわからない。黄熱病が経口感染しないことを証明するために黄熱病患者が吐いた黒い嘔吐物を飲んでみたりとか……。


 もう、なんていうかね。
 頭がいい命知らずどもに感謝するよ。


 お前ら、人類に貢献しちまうほど最高にバカだぜ。
(褒めことば)
世にも奇妙な人体実験の歴史世にも奇妙な人体実験の歴史
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2012-07-06

→『世にも奇妙な人体実験の歴史』トレヴァー・ノートン・文藝春秋
はじめに マッド・サイエンティストの世界へようこそ

第1章 淋病と梅毒の両方にかかってしまった医師??性病

第2章 実験だけのつもりが中毒者に??麻酔

第3章 インチキ薬から夢の新薬まで??薬

第4章 メインディッシュは野獣の死骸??食物

第5章 サナダムシを飲まされた死刑囚??寄生虫

第6章 伝染病患者の黒ゲロを飲んでみたら??病原菌

第7章 炭疽菌をばら撒いた研究者??未知の病気

第8章 人生は短く、放射能は長い??電磁波とX線

第9章 偏食は命取り??ビタミン

第10章 ヒルの吸血量は戦争で流れた血よりも多い??血液

第11章 自分の心臓にカテーテルを通した医師??心臓

第12章 爆発に身をさらし続けた続けた博士??爆弾と海鮮

第13章 ナチスドイツと闘った科学者たち??毒ガスと潜水艦

第14章 プランクトンで命をつないだ漂流者??漂流

第15章 ジョーズに魅せられた男たち???サメ

第16章 超高圧へ挑戦し続けた潜水夫??深海

第17章 鳥よりも高く、速く飛べ??成層圏と超音速

あとがき 究極の自己犠牲精神をもった科学者たちに感謝
謝辞
解説 特別集中講義『人体実験学特論』へようこそ仲野徹(大阪大学大学院教授)
訳者あとがき
参考文献
追伸:
 第8章にある、偉人伝で有名なキュリー夫人の逸話はとても面白かった。
 当時、放射線の知識がまだなかった頃に研究していた彼女は、遺体からもいまだに放射線が検出されるらしい。
 彼女の偉人伝は読んだことあるけれどその逸話は知らなかったな。カットされてたのか僕が忘れたのかはわからないけれど、命を縮めて科学の礎になったことは知っておくべきだな。

世にも奇妙な人体実験の歴史世にも奇妙な人体実験の歴史
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2012-07-06


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『聖書男(バイブルマン) 現代NYで「聖書」の教えを忠実に守ってみた一年間日記』A・J・ジェイコブズ・阪急コミュニケーションズ
『Mad Science ー炎と煙と轟音の科学実験54』Theodore Gray・オライリー・ジャパン
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【書評】『なぜ人はキスをするのか?』シェリル・カーシェンバウム・河出書房新社

2012年08月11日 | サイエンス
なぜ人はキスをするのか?なぜ人はキスをするのか?
価格:¥ 2,100(税込)
発売日:2011-04-19

 人間は、なぜキスをするのだろうか。
 キス。
 口づけとも接吻《せっぷん》ともいうあの行為。
 親しいもの同士(僕は「恋人同士」という表現をあえて避けてる)が、口と口、もしくは口とほっぺたなどにブチュッとやるあれ。ぶっちゃけて言うなら「チュー」だ。

 この「チュー」。
 よくよく考えてみたらとっても不思議な行為じゃないだろうか。だって「口と口を」あわせてるんだよ? こんな動物、人間のほかにいるだろうか?


 さらにいうなら、口の中(口腔)には幾万ものバクテリアが棲んでいるわけだからして、口どうしのキス、しかもディープキスなんかした日にゃ数え切れないほどのバクテリアその他が唾液によって相手の口腔に侵入するわ、相手の口腔にうじゃうじゃいるバクテリアもこちらに侵入してくるわでもとてもリスキーなことをやっている。っていうかハッキリ言ってものすんごく不衛生だ。

 だけど僕たちは日常的にキスをしているし、キスすることにとても魅力を感じてもいる。そりゃもちろん僕も気になるあのひととキスしてみたいよ。っていうかぜひお願いしますよ。まずは食事でもご一緒にどうですか。友達からはじめましょうよ。ついては土曜の夜なんてどうでしょうか。ねえ?


 あ、いやちがう。
 話がそれてる。元に戻そう。


 僕たちはこの行為(キスのことだよ)に、なんでこんなにも魅力を感じているのだろう?
 それにはなにか、特別な意味でもあるのだろうか?


 そんなわけで本書だ。
なぜ人はキスをするのか?なぜ人はキスをするのか?
価格:¥ 2,100(税込)
発売日:2011-04-19

進化的に見て、人間は本能にしたがってキスするのか、あるいはキスは愛情表現の学習行動なのか
 アメリカなどでは軽いキスが親愛のしるしとして挨拶になっている。同性間でもすることを考えれば握手の発展型のような文化的な愛情表現として受け継がれてきた学習行動なんだろうか。

 いやしかし。
 カップルのあいだではキスは欠かすことのできないスキンシップのひとつだ。「キスをしないけどカップル」なんて僕は聞いたことがない。
 ならばキスは生殖に関連した本能なのだろうか?


 話は一筋縄ではいかない。
その理由は、科学者にもはっきりとはわからない。キスとは何かという定義さえ決まっていないため、人間がキスする理由に確信が持てないのだと思う。
 まずなにをもって「キス」と言うんだろうか。話はここからはじまる。

 口と口を付けたらキス?
 だったらオデコにチューするのは? 騎士が姫の手の甲に口づけするのはキスとは言わないの?
 ジャングルの奥地の部族では口と口は合わせないけれど、鼻と鼻をこすり合う風習があるけれど、これはキスの範疇にはいるんだろうか?


 著者(とっても美人さん!)のなにげない疑問から始まった本書は、文化人類学や生物学、脳機能や解剖学などのいろいろな学問のあいだをすり抜けながら、ときには著者(とっても美人さん!本日二度目)の体験も踏まえつついろいろな視点から「なぜ人はキスをするのか?」という疑問の旅に僕たちを連れて行ってくれる。

 根本的な問題なのにとても読みやすくていろいろな雑学まで教えてくれるのはきっと著者の人柄なんだろうな。(なにしろとっても美人さんだしな。本日三度目。いいかげん数えるのに飽きたのでやめる)



 結論を書いちまおう。
この段落に書くキスの結論は本書のネタバレじゃないのでご安心を。本書のキモはもうちょっとあとにあるのだ)

 キスとはおそらく、
 生殖のために自分により適合した DNA を見つけるための手段として発展した、恐ろしいまでによくできたメカニズムなのかもしれない。何十万年もの進化の歴史で洗練されてきた非常に込み入ったセンサーと匂いや味によるこの無言の会話は、洗練されているがゆえに文化や環境に溶け込み交配相手のみならず仲間を判断する手段としても世界各地の文化や挨拶に組み込まれていった。


 なんだか僕が紹介するととても難しい文章になってしまって申し訳ないんだけれど、実際は著者(とっても美人さん!)のわかりやすい文章でつづられているので安心してほしい。生物学に詳しくない女性でもきっと読めると思うよ。


 憧れのあの人にとって、あなたは相応しい人間だろうか?

 それは、キスをすればわかる。



 そこにことばなんていらない。
 匂いや味、肌触りその他五感があなたの繁殖に関わる DNA のすべての情報を相手に伝えてくれているのだから。

 いまパートナーがいるあなたはならば心配ご無用。
 パートナーはあなたとキスした結果、あなたを認めてくれているはずだ。
 
キスはカップルがこれまで経験したことない驚きを与えてくれるだろうし、科学的に理解することでキスの瞬間は以前にも増してよくなるだろう。
  うん。だからリア充は安心して爆発しろ。


 ただ、問題なのは。
 いま独り身、もしくは恋愛初期でどうにかキスまでこぎ着けたい人だ。

 そう、僕たちだよ!


 僕たちははたして、あの人にとってふさわしい DNA をもっているのだろうか? もしもダメだったら……?
 おいおいカンベンしてくれよ。 DNA なんて努力でどうにかなるシロモんじゃねぇだろ。生まれつきダメなやつはダメってことかよ? え? DNA レベルからして「ただしイケメンに限る」なのかよ? っったく、リア充なんて爆発しちまえばいいんだよっ!


 でも大丈夫。
 涙を拭くんだ兄弟。

 本書の結論を踏まえたうえで、著者(とっても美人さん!)は救いを用意してくれているのだから。


 おまたせしました。
 これこそが本書の最大のキモである
 相手にキスをするとホルモンや嗅覚などはどのように働くかをふまえておけば、ファーストキスが成功する見込みは高くなるだろう。そういう意味では、科学は有利な立場に立たせてくれる。
 そう、本書を読み終えた我らの科学力は圧倒的なんだよっ。
 人がキスをする理由がわかったところで、いよいよキスの知識の応用編に移ろう。忘れられないキスを交わすには、どうすればいいだろうか。(略)次の一〇項目は、この本で検討してきたキス科学から読み取れる教訓で、とくにつき合い始めた人と初めてキスをするときに役立つ。科学的根拠があるだけに、どの教訓も見逃せないし、説得力があると思う
 大事なこの項目はもちろん本書を買って読んでほしい。
 とにかくこの一〇項目を刮目して読め。穴の開くほど読め。読むんだ、兄弟。
 そして諸君らの健闘を祈る!

なぜ人はキスをするのか?なぜ人はキスをするのか?
価格:¥ 2,100(税込)
発売日:2011-04-19

 この本から、どんなメッセージを受け取ってくれただろうか。「恋愛をあきらめないで」。ぜひ、このようにとらえてほしい。
キスはカップルがこれまで経験したことない驚きを与えてくれるだろうし、科学的に理解することでキスの瞬間は以前にも増してよくなるだろう。
 明日からキスをするのが少し怖くなる。
 怖くなるけど、明日からもっとキスしたくなる。

 そんな不思議な本だ。


 あと、著者はとっても美人さんだよ!

SHERIL KIRSHENBAUM(←ほらね)
→『なぜ人はキスをするのか?』シェリル・カーシェンバウム・河出書房新社


もくじ
まえがき
はじめに

第1部 キスの起源を突きとめる
  第1章 最初のふれ合い
  第2章 動物もキスをするのか
  第3章 人類とキスの歴史
  第4章 世界のキス文化

第2部 キスしているときの身体
  第5章 キスの解剖学
  第6章 男と女はキスをどう考えているのか
  第7章 男性の匂い
  第8章 キスとホルモンの働き
  第9章 「バイキン」のようなものがいる

第3部 キスの魔力
  第10章 キスしているときの脳
  第11章 未来社会のキス
  第12章 恋人の心をつかむキスとは?
  第13章 キス研究のこれから

あとがき
謝辞
訳者あとがき
参考文献
なぜ人はキスをするのか?なぜ人はキスをするのか?
価格:¥ 2,100(税込)
発売日:2011-04-19
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●こんな本も
『女は男の指を見る』竹内久美子・新潮社
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【書評】『みんなの原子力発電』青山智樹・総合科学出版

2011年06月10日 | サイエンス
 総合科学出版の「営業の人」こと森口正宏氏よりご献本いただきました。(毎度ありがとうございます)


 今回は、
 原子力と原子力発電をほんとうにわかりやすく解説した本である。

みんなの原子力発電みんなの原子力発電価格:¥ 1,470(税込)発売日:2011-05-23

 東日本大震災にともない発生した福島原発の一連の事故で、連日ニュースなどで報道されていて思うのだけれど、原子力関係の用語ってむつかしい

 ベクレルやシーベルトなんかの数字を伝えてくれるのはありがたいのだけれど、その数字が実際どれほどのものなのか感触としてぜんぜんわからない。


 こんなの、40℃の気温を知らないエスキモーのひとに「40℃を超えました。熱中症に注意してください!」と言っているようなもので、なんにも伝えていないに等しいのだ。

 40℃になるとなぜ熱中症になるのか。熱中症はどういうしくみで体に悪影響を及ぼすのか、その状態はどれほど危険なのか。よってその予防策は。と、順を追って説明しないといけないはず。


 でもテレビのニュース番組なんかを見ていると、いまだに「放射線」「放射能」「放射性物質」の三つを混同して伝えていたりしていて、僕はなんだかゲンナリしてしまう。「あ、このひとたちも知らないんだな。知らないけど原稿に書いてある数字を読んでるだけなんだな」とか思うのだ。


 なら、
 テレビを切ってわかるひとに説明してもらおう。


 そこで本書。
→『みんなの原子力発電』青山智樹・総合科学出版
「原発なんて、わたしには関係ないことと思ってた」では済まされない!
短絡的にYES、NOをいうのでなく、わたしたち「みんな」には覚悟が必要なテーマになってしまった(いや、本来なら以前から。)そのために、いま一度、科学的な知識から「いくつもの?を!にする」材料を提供した本である。
 著者は『世界一わかりやすい放射能の本当の話』(宝島)や『手にとるように物理学がわかる本』(かんき出版)などを書いている青山智裕氏。タイトルからも想像できる通り、彼の文章は本当にわかりやすい。

 さらに図版も多用されていて、「原子力とは」「放射能とは」が直感的にわかるしくみだ。


 すこし引用してみる。
まずここでは、放射線というのは「ビーム」、あるいは「遠赤外線」のようなものであると仮に考えてください。怪獣映画に出てくるビームです。あるいは懐中電灯でも構いません。
もしビームを一ヶ所に集中させたらどうなるでしょうか? 何らかの反応が起こるのは想像いただけるでしょう。
 懐中電灯はつけたり消したりできます。(略)放射性物質ではそういうことはできません。
 放射性物質は何もせずにビームを発している物質なのです。
 ビームを発している物質を一ヶ所に集めたらどうなるでしょうか。
 同じページには【放射線は光のビームのようなもの】というタイトルの図版があって、それを見ると「懐中電灯が放射性物質だとすると出てくる光が放射線、光を発する能力が放射能にあたるんだな」というのがよくわかる(14ページ)。
 ここまでわかりやすい説明を、僕はちょっと見たことがない。


 本書はこういった原子力や放射線の初歩の初歩から、被曝したときの人体の影響、さらには福島第一原子力発電所がなぜこうなったのかという説明と今後の課題、代替案となるクリーンエネルギーの問題点などもわかりやすく解説してあって、この一冊で「原発とエネルギー問題」の「どうして?」がすんなり理解できる。


 ご献本いただいた書籍をあんまり褒めると「嘘だろ?」と思われそうで気がひけるのだけれど、でも本当にわかりやすいのだからしかたがない。
「原子力」と「放射能」のいろいろな疑問を、ここまで広くわかりやすく集めた本って、ほかにはちょっとない。


 原発関係で「?」と思ったことがあったら、まずこの本を読んでみればいいんじゃないだろうか。
 オススメ。

みんなの原子力発電みんなの原子力発電価格:¥ 1,470(税込)発売日:2011-05-23

→『みんなの原子力発電』青山智樹・総合科学出版

もくじ
第1章 原子力はどうして発電できるのか
1 原子力といっても、しくみは“巨大な蒸気機関車”
2 原子炉の正体は“制御された核反応”である
3 原子炉はどうやって熱を起こしているのか
4 代表的な原子炉の種類
5 原子炉と建屋の構造はどうなっているのか
6 原子炉はどのようにコントロールするのか

第2章 「核」のことを少し知っておこう
1 元素の“性格”がわかる周期表
2 「放射線が出る」ということ
3 「不安定な物質」ということ
4 核分裂はなぜ起こるのか
5 ウランが核分裂するとき

第3章 放射能はどれだけ怖いのか?
1 見えないから怖い放射線
2 放射線によって被曝するとどうなるのか
3 なぜヨウ素ががいつも問題になるのか
4 特定が難しい放射性元素
5 放射能からどのくらい逃げれば安全なのか

第4章 福島第一原発でなにがあったのか?
1 「想定外」の原発事故
2 明らかに重大事故……これも想定外の「炉心溶融」
3 さらに「想定外」……使用済み燃料プール
4 これもまた「未曾有」の原子力事故レベル
5 「福島第一原子力発電所」の今後は
6 放射性廃棄物はどうなるのか
7 今後の放射能はどうなるのか
8 「いまは危険ではない」という言葉の本当の意味

第5章 原発の現状とその他の発電方法
1 原子力発電の現状はどうなっているのか
2 火力・水力発電の技術革新
3 従来と同様にタービンを回した動力で発電する方法
4 化学的な反応を電気に変える方法
5 ポイントは大規模電力の供給
 本書を読んで。
 僕個人的には、「濃縮ウラン」についてと「放射線被曝」のしくみについて知ることができたのが助かった。


 ニュースで「濃縮ウラン」と聞くたび、僕は90%とか100%に濃縮された純ウランみたいなものだろうと思っていたのだけれど、実際はそうではないらしい。
九〇%濃縮などという大袈裟なものではなく、二%から三%の低濃縮ウランを使っています。これだけ薄いと原爆のような爆発的な連鎖反応は起こりません。
 さらにメルトダウンすれば、まわりのいろいろな金属も一緒に溶けて不純物の割合が増えるのでさらに反応は起こりにくくなる。有毒物質が漏れているので不安は消えないけれど、でも「核爆発するかも!?」とか過度に悲観的になる必要はないわけだ。

 放射線被曝にしてもそう。
「白血病とかガンを引き起こす、なんだか得体の知れないもの」ではなくて、その実態は原子レベルの小さなカケラが散弾銃のように飛んでいるようなものだ。銃口の近くにいけば被害が大きくなるだろうけれど、離れれば威力は落ちる。だからきちんと避ける方法もある。


 たしかにこれを知っても安心はできないとは思う。

 でも僕たちはもう、そういう世界に足を踏み入れてしまったのだからしかたがないじゃないか。かくなるうえは、きちんと怖がって上手に避けることが必要なのだ。

「原発なんて、わたしには関係ないことと思ってた」では済まされない!
短絡的にYES、NOをいうのでなく、わたしたち「みんな」には覚悟が必要なテーマになってしまった(いや、本来なら以前から。)そのために、いま一度、科学的な知識から「いくつもの?を!にする」材料を提供した本である。
 パニックやヒステリーを起こしても、 いいことなんてなんにもないんだからね。
みんなの原子力発電みんなの原子力発電価格:¥ 1,470(税込)発売日:2011-05-23

→『みんなの原子力発電』青山智樹・総合科学出版

『探査機はやぶさ7年の全軌跡』Newton別冊『小惑星探査機 はやぶさの大冒険』山根一眞・マ

2010年08月27日 | サイエンス
毎日jp2010年8月4日付ニュースより
はやぶさ:カプセル、11月以降に全国で展示…副文科相 7年間の宇宙の旅を終えて帰還した小惑星探査機「はやぶさ」のカプセルが11月以降、全国の博物館や科学館で巡回展示されることになった。7月末に初公開された相模原市立博物館で最大4時間待ちの大人気となったためで、中川正春副文部科学相が4日の会見で明らかにした。 展示されるのは、小惑星イトカワの物質が入っている可能性がある容器部分を除いた、カプセルの耐熱カバーやパラシュート、試作機など。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が8月中に応募要領を決めて展示を希望する施設を公募、10月中に貸出先を決める。
 「たん」を付けろよでこすけやろぉ


 消え去ったあとでもこれだけ愛されている探査機がいままであっただろうか。


 2010年6月13日夜。
 満身創痍になりながらも故郷に帰ってきた探査機「はやぶさ」の、最後の姿に涙したひとも多かっただろう。
 さまざまなアクシデントに見舞われ、当初四年だった計画は七年にも延び、行方不明になりながらも細く弱い電波で地球と交信しつつ愚直にプログラムに従い帰ってきた「はやぶさ」。
 七年ぶりの故郷の空で、その身を光に変えながらも使命をまっとうした「はやぶさ」。

 たかが機械。
 と言ってしまえばそれまでだけれど、そのけなげな姿に、僕はどうしても感情移入してしまうのだ。


 彼(とあえて擬人化して書かせていただく)がなしとげたこと、そして残したものは素晴らしいことばかりであった。なにしろ、あの NASA ですら成し遂げられずにいたことがほとんどなのだ。それを資金も潤沢とはいえない日本のいち宇宙機関がなしとげてしまったのだから。

 そのすごさを伝える書籍はないものかと本棚を見る。


探査機はやぶさ7年の全軌跡ー世界初の快挙を成し遂げた研究者たちのドラマ (ニュートンムック Newton別冊)探査機はやぶさ7年の全軌跡ー世界初の快挙を成し遂げた研究者たちのドラマ (ニュートンムック Newton別冊)価格:¥ 2,415(税込)発売日:2010-07-27


小惑星探査機 はやぶさの大冒険小惑星探査機 はやぶさの大冒険価格:¥ 1,365(税込)発売日:2010-07-29



 前者『探査機はやぶさ7年の全軌跡』は、自然科学グラビア雑誌界の大御所『Newton』が特別編集したムック本である。さすが老舗《しにせ》なだけあって、美しい写真とわかりやすい CG を多数使った「見てわかる本」というつくりはさすがだ。
 今回「はやぶさ」が成し遂げた快挙のひとつである「歴史上最もくわしく小惑星表面をとらえた写真」をはじめ、小惑星「イトカワ」の多数の写真はどれも美しい。


 後者『小惑星探査機 はやぶさの大冒険』は、ノンフィクション作家山根一眞さんが、「はやぶさ」がまだ「MUSES-C(ミューゼス・シー)」と呼ばれていたころからの取材をもとに書き上げた七年がかりの一冊。
 入念な取材はもちろん、「JAXAはやぶさチーム」の方々に深く寄り添った文章は「なかのひと」でないとわからない心の動きまで伝えてくれる。


 視点が違うだけでどちらも間違いなく「はやぶさ」の軌跡である。
 僕にはどちらか選ぶことができなかったので、今回は二冊いっぺんに紹介する。
 まずは一冊目。
探査機はやぶさ7年の全軌跡ー世界初の快挙を成し遂げた研究者たちのドラマ (ニュートンムック Newton別冊)探査機はやぶさ7年の全軌跡ー世界初の快挙を成し遂げた研究者たちのドラマ (ニュートンムック Newton別冊)価格:¥ 2,415(税込)発売日:2010-07-27


 タイトル通り、「はやぶさ」がやったことを時間順に写真と CG でわかりやすく解説しながら、その要所要所に、「はやぶさチーム」の方々へのインタビューを挟んでいる作りは読んでいて飽きない。

 写真は見ていただくしかないのが残念だけど、本当に綺麗だ。
 月のようなクレーターがある地形だろうと想像されていた小惑星イトカワの姿は実際、まったく違っていた。地球上の渓谷の断崖のように小石や砂利のあるゴツゴツとした地形だったのだ。それを数センチ単位の解像度で撮影した写真はもちろん世界初。必見である。

 また、本書には特別付録として「はやぶさ」&「イトカワ」の大きなポスターが付いている。暗闇の中からぬっとあらわれるイトカワの、不気味にすら思える写真や、あの有名な「ラストショット」(「はやぶさ」が燃えつきながら最後に送信したと言われる、送信が途中で中断された地球の画像)も収録されている。


 七年前のミッション初期のころ、小惑星はレゴリス(月面にあるような細かな砂)が堆積してクレーターのある地形だろうと想像されていた。だから想像図もそのように描かれていたのだけれど、今回の発見によってその想像図が書き換えられたのは有名な話。
 本書はその初期の絵とミッション後の絵を並べて見ることができる。

 科学というのは、こうやって少しずつバージョンアップしながら進歩していくのだな。



 もう一冊。
小惑星探査機 はやぶさの大冒険小惑星探査機 はやぶさの大冒険価格:¥ 1,365(税込)発売日:2010-07-29


 こちらは写真がぐっと少ないのだけれど、なんというか、いきいきとした「心」を感じた。


 工学実験探査機「ミューゼス・シー」、のちの探査機「はやぶさ」が打ち上げられた内之浦宇宙センターは世界一ボロだと言われていた。
「追跡管制室」は、古びた工事現場の作業員宿舎のような建物だった。小さなドアを開けると、普通の家庭の玄関ほどのたたきにチームの人々が脱いだ靴がぎっしりと並んでいた。
 人類史上、もっとも遠く最も小さい天体を目指した探査機の打ち上げ管制室がこのボロさ加減なのだ。でもこれで驚いてはいけない。この「管制室」では全員がヘルメットをしているのだけれど、その理由が以下にある。
万一、ロケットが打ち上げに失敗して空中で爆発すると、その破片が飛んできてこの管制室の建物の屋根を突き抜けてくるおそれがある。
「おそれがある」どころの話ではないだろう。工事現場のプレハブ小屋レベルの建物の上で燃料を搭載した宇宙ロケットが爆発したら、間違いなく破片は突き抜けてくるだろうし、燃料の熱も浴びるだろう。命に関わるほど危険なはずだ。

 そのなかで打ち上げを遂行した「はやぶさチーム」がすごいのはもちろん、著者の山根さんもすごい。なんとこの「管制室」に同席して取材していたのだから。いやはやもう本当に好きなんだな。きっと。


 本書にも「はやぶさチーム」へのインタビューが収録されているのだけれど、前掲のNewtonムックとはまったく違う雰囲気が楽しめた。
 それは親密で、ぶっちゃけていて、なんというか、仕事が終わったあとの打ち上げの席で「あの時はこうだったよね」と話している感じなのだ。

 考えてみたら、著者の山根さんは打ち上げから七年も取材をしているわけで、もうほとんど「はやぶさチーム」のメンバー同然だろうからインタビュー相手もリラックスしているのだろう。
 こういうのって、いちジャーナリストしては公正を欠く姿勢なのかもしれないのだけれど、でも僕は好きだな。だって、世界でトップクラスの頭脳と技術を持ったオヤジたちがみんなで「うちの子」の話をしているのだから。
 こんなインタビュー、他では聞けない。


 「はやぶさ」が宇宙で迷子になったときは数ヵ月ものあいだ毎日ずっと呼び続けて返事をまっていたし(本書第八章「行方不明の冬」)、旅の無事を祈って神社へ行ってお札をもらってきたりした(九章「そうまでして君は」)のだけれど、……これってカンペキに我が子への態度じゃないか?

 デパートで子供が迷子になったら親は大声で名前を呼んで捜し回る。見つからないからといってあきらめる親はいない。
 子供が夏休みに初めてひとりで遠い親戚のおばさんの家に行くとなったら、見送った親はもう神様に祈るくらいしかできないだろう。
 ほら。いっしょじゃないか。


 一部では、「探査機を擬人化して『はやぶさチーム』の功績を無視するのは良くない」という意見も聞かれるのだけれど、本書を読んで僕は「べつに擬人化してもいいんじゃない?」と思えてきた。

 だって「はやぶさチーム」の方々自身がすでに擬人化して話していらっしゃるし、そもそも親だったら「お宅のお子さん、すごいですね」と言われたら素直に嬉しいんじゃないかな?
 僕はそう思うんだけど。


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 おかえり。
 よく帰ってきたね。はやぶさ。


探査機はやぶさ7年の全軌跡ー世界初の快挙を成し遂げた研究者たちのドラマ (ニュートンムック Newton別冊)探査機はやぶさ7年の全軌跡ー世界初の快挙を成し遂げた研究者たちのドラマ (ニュートンムック Newton別冊)価格:¥ 2,415(税込)発売日:2010-07-27



小惑星探査機 はやぶさの大冒険小惑星探査機 はやぶさの大冒険価格:¥ 1,365(税込)発売日:2010-07-29

『Mad Science ー炎と煙と轟音の科学実験54』Theodore Gray・オライリー・ジャパン

2010年07月30日 | サイエンス
 ブクログ談話室にて『夏休みに読みたい!『夏の一冊』教えてください!【しおりプレゼント!】』をやっていた。


 夏休み。
 それは宿題の季節である。

 たしか小学校三年生くらいの夏休みだったと思うのだけれど、自由研究で「肉まんはどこまで耐えることができるのか?」を調べようと肉まんを電子レンジに放り込み、分指定ダイヤルをぐりぐり回して見ていたことがある。
 肉まんは約十分を過ぎたあたりから色が変わって煙が出はじめ、だんだんと炭化して静かになった。肉まん(であった物体)の反応がなくなったので「なんだつまんねー」と思った僕は電子レンジのダイヤルをそのまま放置してファミコンをはじめた。

 と、突然。
 電子レンジからばごん!という音とともに鼻を突く黒煙がもくもく昇って部屋に充満。あわや消防車、という惨事になった。(もちろん母にこっぴどく叱られた)
 あとから見たら電子レンジの内面がへこみ、肉まん(であった物体)が粉々になってまだ黒煙がぶすぶすと出ていた。

 あの夏。
 我が家の電子レンジのなかではいったいなにがおこったのだろうか?


 そんな夏の思い出がよみがえったのがこの本。

Mad Science ー炎と煙と轟音の科学実験54Mad Science ー炎と煙と轟音の科学実験54価格:¥ 2,940(税込)発売日:2010-05-24


 本書は、トンデモ実験をすることで有名なブロガー Theodore Gray 氏が、科学雑誌『Popular Science』誌上に連載していたコラムをまとめた日本語訳である。
 日本語版サブタイトルは『炎と煙と轟音の科学実験54』。


 なんか、
 おもわずにんまりしてしまうタイトルぢゃないか。
→『Mad Science ー炎と煙と轟音の科学実験54』Theodore Gray・オライリー・ジャパン

 まずひとつめの実験からしてイカれてる(褒めてます)。
危険すぎる製塩法
 金属ナトリウムの入ったボウルの上に網に入れたポップコーンを吊るす。そして金属ナトリウムにガスボンベから気体塩素を吹きかけて反応させる……という実験。
ナトリウムは、軟らかく銀色の金属で、水に触れると激しく爆発し、ごくわずかな湿気にも反応して皮膚にやけどを負わせる。塩素は、窒息の恐れがある黄色の気体で、第一次世界大戦の最前線では毒ガス兵器として使用された。ただし敵とほぼ同数の味方が死んだとされ、成果はいまひとつであった。このナトリウムと塩素が出会うと激しく反応し、火の玉となって炎を上げ、白煙が立ち昇る。この煙は塩化ナトリウム(NaCl)、すなわち食塩であり、反応現場の上に吊り下げた網の中のポップコーンに、塩味を加えるために使用される。
 作者のウェブサイトに実験の動画が載っているのでまあ見ていただきたい。
Making Salt the Hard Way

</object>

「Foo♪」「Hahaha!」じゃねぇよ(笑)
 反応の熱でポップコーンの網が溶けて燃焼中のナトリウムがまわりに飛び散ってるし!
 この実験の成果が「ポップコーンに(新鮮な)塩味をつける」ってんだからイカしてる。いやイカれてる。心底本気でイカれてる(だから褒めてますってば)。


 本書ではこんなトンデモ実験がカラー写真付きで合計54本収録されている。
「オレオクッキーはカロリーが高いんだから、そのカロリーを直接熱量に変換したらロケットを飛ばせるよな?」的な実験(本書26P「クッキー・ロケット」)とか「日本には、お燗できる缶入り日本酒があるそうだが、あの原理を使えば風呂を沸かせるよな?」な実験(本書230P「石灰温泉」)などどれもこれもいい具合にイカれまくり。

 最後の「石灰温泉」では、ガスマスクをしつつ200キログラムの石灰を駆使して完成させたお風呂に子供と一緒に入浴して写真を撮っている始末で、「おいオヤジ、奥さんに怒られないか?」と心配になってしまった。


 Theodore氏のそのすがすがしいマッドサイエンティストぶりがカラー写真付きで読める本書はぜひ一読の書なのである。
(でもよい子は真似しちゃダメだぞ)

Mad Science ー炎と煙と轟音の科学実験54Mad Science ー炎と煙と轟音の科学実験54価格:¥ 2,940(税込)発売日:2010-05-24

科学の歴史では、数多くのアマチュアサイエンティストが自宅の地下室や作業場で実験を行い、驚くべき成果をあげてきました。本書『Mad Science』はその伝統を継ぎ、エクストリーム(過激)な実験を通して、科学の原理と楽しさを伝える書籍です。すべての実験はプロの写真家によって撮影され、読者は『オレオクッキーを燃料にしたロケット』『コップ一杯の水と電池で水素を作る方法』『シャボン玉爆弾』『雪の結晶を永久保存する方法』など、54本の実験の決定的な瞬間を安全に楽しむことができます。十分な経験を持つ読者なら、実験を実際に行うことも可能です。

『女は男の指を見る』竹内久美子・新潮社

2010年07月24日 | サイエンス
 タイトル買いした一冊。


 男性に、女性のパーツのどこに惹かれるかと聞くとたいてい「唇」とか「おっぱい」とか「おしり」とか、あと「太モモ」といった性的アピールのある部分を挙げるひとが多い。反対に女性に男性のどこに惹かれるかと質問すると「指」や「手」と答えるひとが目立つ。

 この差はなんだろう?
 と僕はつねづね思っていた。


 これは僕の交友関係中のデータなのでただの思い込みやマグレなのかもしれない。もしかしたら女性も本当は男性の股間のもっこりとか胸板とかをチェックしているのだけれど、答えるのが恥ずかしいから無難な「手」と答えているだけなのかも。それとも本当に手に魅力を感じているのだろうか? もしそうなら異性の魅力をチェックする項目ってのはかなり性差が出るのではなかろうか。

 このあたり、
 一度調べてみたいよな、と思っていたら書店で本書に出くわした。


女は男の指を見る (新潮新書)女は男の指を見る (新潮新書)価格:¥ 714(税込)発売日:2010-04

 そのまんま直球のわかりやすいタイトルはさすが新潮新書。そう、僕が探していたのはこれなんだよ。


 本書59ページにインターネットサイト『All About』がやったアンケート結果が出ていた。それによれば「女性が気になる男性のパーツ」の第一位は「手(指含む)」なのだそうな。

 やっぱり。
 僕の思い込みじゃなかったんだな。


 本書を僕なりに理解したところでは、顔、胴体、腕、足といった体の各パーツは、同じHox遺伝子というヤツを上から順番に読んで設計されるらしい。

 そう、上から順番。

 だから男性は女性の唇に魅力を感じたり、女性は男性の指先にドキッとしたりする。なぜなら設計図が同じなのだからそこの出来具合を見ればあそこの出来具合を推し量ることができて以下略。
女は男の指を見る』(竹内久美子・新潮社)
もくじ
第1章 人類最大の発明と繁殖の掟
第2章 女は男の指を見ている ー Hox遺伝子の話
第3章 ハゲの発するメッセージ ー テストステロンの話
第4章 「選ばれし者」を測ってみると ー シンメトリーの話
第5章 いい匂いは信じられる ー HLAの話
第6章 浮気するほど美しい ー 浮気と精子戦争の話
第7章 日本人はあえて「幼い」 ー ネオテニーの話
 なんだかんだ言いつつ前半で書名のネタバレを盛大に書いてしまったわけなのだけれど、これには理由がある。

 もくじをみてもらってもわかるとおり、本書はこれだけの話題では終わらないのだ。男女のあいだのあれやこれやを動物行動学と遺伝子の話で説明してしまう手腕がすごい。面白い動物ドキュメンタリーの特番を連続で見ているようだ。

 たとえば第一章では、より良い遺伝子を持った相手を選んでさまざまな遺伝子タイプを持った子供を作る、というのは生命体として当たり前。人類のすごいところははさらにその上を行っていて、霊長類に見られる「子殺し」を防止する方法を発明してしまったらしいのだ。そしてそれを今、人類は実際に使っている。なぜなら排卵とおっぱいの関係から……。

 気になった方は本書を読んでいただきたい。
 もうこの内容だけで新書を一冊書けるんじゃなかろうか。


 第四章では、なぜイケメンは顔が良いのか。っていうかなぜ顔が良い男性が選ばれるのか。つーか女性が良いと感じる男性の顔はなぜああいう顔ばっかりなんだ? という内容。

 これも動物行動学で説明できてしまうのだ。
 論理的に説明されていて納得せざるを得ない……、チクショウ、モニターがにじんで見えやがるぜ。





 本書をまとめるなら、「男女のあいだの、ちょっと気になる理科(生物)の話」という感じだろうか。
 新書だから生物学の知識がゼロでも理解できるように書かれているので万人にオススメしたい。
「まあ読んでみてよ」と言える一冊。


 難しいことをやさしく説明するというのは、そのことを本当に理解しているプロにしかできない職人芸なのだ。


女は男の指を見る (新潮新書)女は男の指を見る (新潮新書)価格:¥ 714(税込)発売日:2010-04

 この本は、自分の遺伝子のコピーをいかに残すかを根本にすえる動物行動学ーーその考え方と成果を整理し、最新情報も盛り込んでお届けしようとまとめたものです。動物行動学は最近雑誌などで目にする、「表情から相手を読む術」であるとか、「合コンテクニック」などという記事にまで実はまぎれこんでいます。

『月のかぐや』JAXA(宇宙航空研究開発機構)・新潮社

2010年03月12日 | サイエンス
 いいタイトルだ。
竹取物語』の後日談のような文学的響きを感じる。

竹取物語』のクライマックスで並み居る帝《みかど》の軍勢を金縛りにし、嘆き悲しむ翁《おきな》と媼《おうな》に別れを告げて月へ帰ったかぐや。
 彼女はそのとき、どんな景色を見ていたのだろうか?


 千数百年後の長月、
2007年09月14日10時30分01秒
 彼女の名を継いだ人工衛星が種子島を飛び立った。
 ハイビジョンカメラをはじめガンマ線分光計や月磁場観測装置など14もの最新科学の目をもった二代目は、先代の姫が見たであろう景色を地球に送信した。


 本書はその二人のかぐやが見た故郷の記録である。


 ジャケ買いならぬタイトル買いをしてしまった一冊だ。


月のかぐや月のかぐや価格:¥ 1,365(税込)発売日:2009-11-06

月のかぐや

 構成は全篇カラーページで前半四分の三ほどがかぐやの送ってきた写真とその解説、後半四分の一がプロジェクト推進者やエンジニアのインタビューやかぐやの機能を解説したコラムとなっている。


 かぐやの映した鮮明な月面写真は、ともすれば打ちっぱなしのコンクリート壁を間近で見ているような錯覚に囚われる。考えてみればコンクリートも月も細かい砂と石なのだから似ていて当然といえば当然なのだけれど、こんなたとえしかできない自分の筆力がもどかしい。


 コラムにはかぐやのおかげで月生成の有力な証拠が見つかったとか「南極の永久影」ことシャクルトンクレーターの内面の撮影にはじめて成功したとかいろいろなことが書いてあって興味深い。

 なかでも月の高低差には驚いた。
最高地点は裏側の赤道近く、エベレストより高い標高10・75km。最低地点はアントニアディ(クレーター)の中、深さ9・06km。地球の4分の1の大きさしかない天体に、地球と同等以上の高低差がある。
※注
 地球のデータはというと、エベレストとマリアナ海溝がともに以下の通りだ。
公式には8,848m
無人探査機「かいこう」が記録した10,911mが最高であり、それ以上の値はまだ確実とは言いがたい。
 アポロが旗を立てた平原の映像を見ているせいか、月ってのはのっぺりとした丸い天体なんだと勝手に思いこんでいたのだけれど実際はもっと荒々しい地表なのだな。


 そして、これら最高地点と最低地点はどちらも月の裏側にある。
 かぐやはその観測に成功した。つまり、測定のためにかぐやは月の裏側に廻り込んだということだ。裏側は当然電波が届かない。それでも地球と交信できるように、かぐやは本体に付いていた子衛星を分離して電波を中継させていたのだそうだ。
 子衛星の名前は「おきな」と「おうな」。

 かぐやを助ける子衛星として、
 これほど適した名前はないだろう。
 やるなJAXA。


2009年06月11日03時25分10秒
月へ落下
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 かくして。
 仕事を終えた二代目かぐやは、ウサギの耳をずっと伸ばした先にあるギルクレーターの近くへと「還って」いった。


 中継衛星「おきな」と「おうな」はどうなったのか。

 JAXA内のかぐやのページを見ると、「おきな」については一足先の2月12日に月の裏側へと制御落下したという情報があるのだが「おうな」情報が見当たらない。本書も読み返してみたが「おうな」の最後は書いていない。


 ひょっとして、
 連れ合いと娘が去った月の夜空を、
 媼《おうな》はたったひとりで飛んでいるのだろうか?

 いまだに地球を廻っている
 忘れられたスプートニクの犬のように。


 冷たい月の夜空を
 これからも、たったひとりで廻るのか。


 だとしたら。
 僕は悲しい。


月のかぐや月のかぐや価格:¥ 1,365(税込)発売日:2009-11-06



 村上春樹『スプートニクの恋人』が読みたくなった。


※注 「km」は原文では一文字。


参考資料
JAXA :かぐや
Wikipedia