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鏑木保ノート

ブックライターの書評、本読みブログ。

【書評】『真説 触手学入門』酒井童人・総合科学出版

2012年03月30日 | 萌え
 将棋やチェス、オセロの世界にルールを解説した「入門書」があり、「強くなるための中級書」、そして、「プロになるための上級書」「プロのための専門技術書」があるように、著者は触手責めにもそういうものがあってもいいと思う。
 ごめん。声出して笑った。


 えーっと、今回の書籍は表紙を……。出してもいいよね?
 一応amazonでも18禁指定にはなってないので表紙を出しても問題ないハズ……と思う。


真説 触手学入門真説 触手学入門価格:¥ 1,890(税込)発売日:2012-03-14



 ご覧のとおり触手である。
 しかもそれらが一団となってウネウネと女の子を襲う「触手責め」である。

 表紙を見て「うげー」とか、口に手を当てて「へ、変態っ!」と思ったひと。

 うん。
 その気持ちはいたって健全だよ。


 だから、とりあえず今日のところは帰ってくれないか?


 美少女にうねうねと絡みついてなんだかよくわからない液体をまき散らしたり、美少女のあんなところにこんなことをネトネトグチョグチョしたり揚げ句の果てに産卵したりする触手。そんな「責める触手」や「責められる美少女」を人知れず愛でる紳士=ショクシャーのみ先を読まれるが良い。


 本書は、
 触手の触手による触手のための触手責めを真摯に学問としてまとめ、その起源、歴史、文化、分類や効能(触手責めの実例としての挿絵とショートストーリー)をまとめたショクシャー待望の学術書である。


本書は、いつものように総合科学出版よりご献本いただきました。

 つーか総合科学出版さん、いつも以上にバカな本(褒め言葉)で攻めてきたなー。
 まったくもってけしからん。もっとやれ。



真説 触手学入門』酒井童人・総合科学出版


 まずなにより冒頭の献辞に吹いた。
本書を偉大なる葛飾北斎先生に捧ぐ。
 なにゆえ鉄棒ぬらぬら北斎先生なのか。


 それは、
 我らショクシャーの夜明けは、1814年に鉄棒ぬらぬら北斎先生が発表した『喜能会之故真通《きのえのこまつ》』という春画に始まるからだ。


 この春画は「海女に襲いかかるタコ」というモチーフで、裸の女性の全身に二匹のタコが触手をからませながら「ズウッズウッ」や「グチャグチャ」「どくどく」などの擬音を駆使して女性を責めている恐るべき春画なのだ。

 なにがすごいのかって、幕末のこの時代に、現代の触手責めに必要な要素のほぼすべてを完成してしまっているんだからさ。日本人、未来に生き過ぎだろう。
(「現代の触手責めに必要な要素ってなに?」という紳士のお歴々は本書の序章を読んでほしい。きっと巨匠、鉄棒ぬらぬら葛飾北斎の恐ろしさがわかるはずだ)

 さらに『喜能会之故真通』は海外の画家にも多大な影響を与え、いろいろ模写や翻案された。こうして、鉄棒ぬらぬら北斎先生の熱いリビドーは世界中にショクシャーの芽をばらまいた。……はず。


 鉄棒ぬらぬら北斎先生の偉大さが分かっていただけたろうか?


 では鉄棒ぬらぬら北斎先生の偉業に敬意を払いつつ、
 本書をひもとこうではないかっ(くわ)!


もくじ
序章 『触手責め』は日本発祥の文化だ!
触手責めの起源と歴史と文化
触手生物の行動と目的と分類
触手生物の機能による分類

第1章 単体で生活する触手
触手生物の活動単位
第1項・不定形触手の蠢き
第2項・不快害虫へのいわれなき批難
第3項・エイリアンがもたらしたエロス


第2章 連帯して行動する触手生物
触手と触手たちの違い
第1項・善なる触手生物の複数連帯行動
第2項・悪として複数連帯行動を行う触手たち
第3項・ヒロインを堕とす触手責めのロジック


第3章 まとめ・複合する触手たち
戦う変身ヒロインにつきまとう性的印象

おわりに 触手の蠢きはまだまだ続く
「触手ってどれも同じでしょ?」と思う諸君。あまい。キミはまだショクシャーとしては半人前以下のヒヨッコである。

 本書によれば、
 触手はその行動だけでも「行動の目的」「行動の自発性」「活動の単位」においてそれぞれ数種類に分類され、さらに複数の行動を併せ持っているタイプも存在する。さらにさらに形状だけでも十数種類、機能では九種類にわけられ、さらにそれらの中間や混合型もいることも考えれば、種類は天文学的数字に及ぶはずだ。


 もちろんこれらすべてを覚える必要はない。ないが、基本的知識として分類法だけでも頭に入れてから、『うろつき童子』や『淫獣学えゲフンゲフン(以下略)などの古典的名作を堪能してみるといい。

「そうか! このシーンではモップタイプが無数の仮足でぞわぞわといじくるのと並行して針タイプが媚薬を注入し、細引きタイプが広げ、ペニ(ゲフン)タイプがソーニューののち産卵に及んでいるのであるなっ!(眼鏡クイッ)」

 と、より一層深く作品を堪能できること請け合いである。


 そう。
 本書を読むと各触手作品の理解度がダンチなのだよっ!


 君もショクシャーであるなら買え。
 話はそれからだ。


 あと、
 各触手絵師にショクシャーに目覚めるきっかけをインタビューしてたり、かわいいおにゃのこがいかがわしい触手に責められまくってるショートストーリーなんかもあるぞっ!(サムズアップ)。


真説 触手学入門真説 触手学入門価格:¥ 1,890(税込)発売日:2012-03-14


 しかしまぁ、この表紙……ひじょーに買いにくいとは思う。
 だがそこをグッと耐えてレジへ持って行き、ベッコウ縁の眼鏡をかけたかわいい書店員の女の子(おさげ髪だとなお好感度アップ)なんかにレジをしてもらいながら二、三分の間、羞恥の視線に晒されるのもいとわない、いやむしろ「我々の業界ではご褒美ですから」と軽く言ってのけるのが真のショクシャーの生き様であろう。

 諸君らの健闘を祈る。

→【本がもらえる】レビュープラス

●こんな本も
『萌え萌えクトゥルー神話事典』クトゥルー神話事典制作委員会・森瀬繚・イーグルパブリシング
(↑触手といえばこの神様だよね)

【書評】『仕事のマナー 「気がきかない」なんて言われるのは大問題ですっ!』就活応援アカデミー・総合科

2012年02月17日 | 萌え
 フリーで仕事をしていると、
 どうしてもマナーがおろそかになってくる。


 僕はこれでも新入社員だったこともあるのでマナーの初歩の初歩、それこそ「ホウレンソウ」からみっちりと教わった。そしてある程度基礎ができたら、そこから「わざとくずす」ことで相手に親密さをアピールしたりできることも覚えたんだ。だけど、崩しまくっていると今度はそれが定着してしまうんだよな。

 会社勤めだと怖い先輩やキチンとした部長あたりが注意してくれるのでマナーが崩れてきてもフォローが効く。しかしいかんせんフリーでやってるとそれがないんだな。
 だからといって僕はけして相手を敬う気持ちをなくしたわけではない。ただ単に省略してるうちに忘れてしまっただけなんだけれども……でも「忘れる」ってのがそもそもマナー違反なんだよな。


 そんなわけで本書。


仕事のマナー「気がきかない」なんて言われるのは大問題ですっ! (社会人1年生のお仕事サポート・ブック)仕事のマナー「気がきかない」なんて言われるのは大問題ですっ! (社会人1年生のお仕事サポート・ブック)価格:¥ 1,365(税込)発売日:2012-02-11
(※ 総合科学出版より献本いただきました。)


「萌え本かよ」という声が聞こえた気がするが、それがどうした萌え本だ。

 仕事のマナー本が萌えて何が悪いかッ。
 四月や五月あたりの朝の通勤ラッシュでみかけるスーツ姿のおにゃのこはリリンの生み出した文化の極みだよね。あの「少し慣れていない感じ」がね、もうね。……ってなに言ってんだろうか。ま、要約すると「表紙のおにゃのこ、僕はこの子がむちゃくちゃタイプなんだよコノヤロウ」である。
(本日は素の鏑木でお届けしています)


 萌えながら社会人のマナーが学べるんだぜ? この本、すげくね?
 これさえあれば、キモヲタやニートや自宅警備隊第一管区自室科連隊総司令官の要職にあるキミでも大切な警備区域を離れることなく社会のマナーを覚えることができるよね。よかったね。
(本日は素の鏑木でお届けしています(二度目))


 いつまでもだべってないで書籍の紹介を。
→『仕事のマナー「気がきかない」なんて言われるのは大問題ですっ! (社会人1年生のお仕事サポート・ブック)』就活応援アカデミー・総合科学出版


(ちょっとまじめに)
 個別の内容は後述のもくじを見ていただくとして、本書全体としては「社会人としての心構え」に始まり言葉遣い、電話対応、文書の書き方から個人事業の心構え、さらには冠婚葬祭のときのマナーまで多岐にわたって紹介している内容。


 すごいなと思ったのは後半の「個人事業」と「その他のマナー(ここに冠婚葬祭も入っている)」の二つの章だ。
 よくある社会人のマナー入門書ではあまり紹介されていないのだけれど、実際、社会人をやってると冠婚葬祭の場面ってのはけっこう多い。

 そんなとき、
 キミはマナーがわかるだろうか?

 友だちが結婚したら、ご祝儀はだいたいどのくらいが相場だろうか?
 では、それが上司だったら?
 取引先の自分担当のひとが結婚したらどうだろう?


 キミは答えられるだろうか?
 本書には書いてあったよ。
 自慢じゃないが、僕は本書を読むまでまったくわからなかったな。
(本当に自慢じゃないな)


 あと個人事業の章は秀逸。
 本書102ページの「仕事を請ける・断る」なんて個人事業主じゃなくても参考になるんじゃないだろうか。そのあと数ページの「請求書の書き方」や「依頼書の書き方」なんて、個人事業主のはしくれの僕の目から見てもカユいところに手が届いている内容に思える。そうだよ、僕らフリーのライターは日々こういう書面をやりとりしているんだよ。


 そしてそして。
 これが一番重要なことなのだけれど、


本書は萌え本である

本書は萌え本である
(大切なことなので二回ry)


 登場人物のあらましをお伝えしておく。
 主人公は熱血空回り系教師・大山健司《おおやまけんじ》24歳(おそらく童貞)。
 その妹で下縁眼鏡の女子高生、一枝《かずえ》、黒髪ロングのお嬢様で「ふみっち」こと橘文乃《たちばなふみの》、本書のヒロインにして暴走特急少女でミニスカスパッツの本城聡美《ほんじょうさとみ》の四人だ。
 主人公の教師以外は全員JKというなんともうらやまけしからん感じがとてもライトノベルちっく。とっても萌えてるよね。

 こんなJK四人のイラストがあちこちに配置されてきゅんきゅん萌えながら社会人のルールがわかるのだよ本書は。
(表紙のおにゃのこは意外なところにいたぞっ)


 ただ。
 当ブログ読者に注意しておくことがあるとすれば、

 設定は萌えているけれど、本書は以前紹介した『メイド喫茶でわかる労働基準法』くらいガッツリとしたライトノベルではない。
 もしあれくらいのきゅんきゅん度を想像してワクテカしていたらきっとがっくりくると思うので先に言っておく。本書はどちらかというと「萌え絵の多い解説書」くらいに考えておいた方がいい。

 っていうか。
 あの『メイド喫茶でわかる労働基準法』は「ライトノベル解説書」という一ジャンルを築きそうなくらい特別よくできすぎている本なので、引き合いに出したら本書が可哀想なんだけれどもね。でも当ブログ読者さんには一応言っておかなければいけないと思うのだ。


●もくじ
第1章 社会人としての心構え
第2章 仕事で役立つ言葉
第3章 電話応対の基礎
第4章 ビジネス文書のルール
第5章 個人事業の場合
特別付録 その他のマナー
 結婚式・披露宴編
 ご祝儀編
 お通夜・お葬式編
 香典編
 テーブルマナー 洋食編
 テーブルマナー 和食編
 贈答品編

おわりに
SHORT STORY
 Prologue
 Episode1『せんせー、マナーってどうして必要なんですか?』
 Episode2『わたし、先行き不安です』
 Episode3『誰にも言えない』
 Episode4『先生じゃなきゃいけないの』
 Episode5『祭りは華やかに鮮やかに』
 Episode6『別れは突然に』
 Epilogue

仕事のマナー「気がきかない」なんて言われるのは大問題ですっ! (社会人1年生のお仕事サポート・ブック)仕事のマナー「気がきかない」なんて言われるのは大問題ですっ! (社会人1年生のお仕事サポート・ブック)価格:¥ 1,365(税込)発売日:2012-02-11
→【本がもらえる】レビュープラス

●こんな本も
『メイド喫茶でわかる労働基準法』藤田遼・PHP研究所

『萌☆典 拝啓、姫君様っ』安倍ちひろ・総合科学出版

2011年01月21日 | 萌え
総合科学出版のクラウド」こと、森口正宏さまより献本御礼。


〈萌訳☆〉孫子ちゃんの兵法』と、続く〈萌訳☆〉シリーズ第二弾『萌訳☆ 孔子ちゃんの論語』で中国思想の巨人、孫子と孔子を盛大に萌やし尽くして中国人民を恐怖のズンドコに叩き落とした総合科学出版。
(総合科学出版のすごさは拙記事「『〈萌訳☆〉孫子ちゃんの兵法』福田晃市・総合科学出版」に書いたので割愛)


 その総合科学出版の、今回のターゲットは日本。


 本書は、
 現代萌え文明発祥の地である日本の、その悠久の歴史に名を残した姫君様たちの物語であるっ。

 ある姫は城を守るために自ら鎧に袖を通して戦場を駆け、ある姫は愛する夫の家を守るためにその命を捧げた。
 時代に流されながらも懸命に生きた可憐な姫君様たちに萌えずして、なにが日本人かっ!

萌☆典 拝啓、姫君様っ萌☆典 拝啓、姫君様っ価格:¥ 1,575(税込)発売日:2010-12-16

 本書は、そんな日本のお姫様を集めてみたものです。 その数、総勢一六〇人。 記録に残る最初の日本人女性である卑弥呼から、徳川最後のお姫様といえる篤姫まで、時代を追ってピックアップしてみました。そして、このうち約三分の一のお姫様には、専用のページを作り、少し詳しいプロフィールを作成しています。
 ……とか、鼻息荒く読み始めたのだけれど。

 姫君様たちのプロフィールがかなり充実していて、良い意味で裏切られた。
 入門書なので各姫を一、二ページでコンパクトに紹介しなければいけないのは仕方ないとして、その限られた紙面で姫君の血縁関係や生涯、逸話、伝説までもがひと通り触れられていて、しかもそれらがとてもわかりやすいときている。萌え絵抜きでも充分に通用する歴史読み物じゃないか。

 文章は誰だろうと奥付を見ると安倍ちひろ(安倍千尋)氏とある。
 くそぅ、不覚にもノーマークだったぜ。
→『萌☆典 拝啓、姫君様っ』安倍ちひろ・総合科学出版


 本書の構成は、
 左右見開きで右ページに姫君の名前とプロフィール(別名等の呼び名、生没年、血縁関係など)、そして萌え絵。左ページにはその姫君の事績《じせき》を「解説」「出来事」「補足」の三段に分けて紹介している。

 本書のわかりやすさのキモはココにある
「解説」でその姫君のだいたいの生涯を紹介し、「出来事」で生涯を代表する事件や出来事を紹介する。最後に足りない部分を補足する「補足」の部分というつくりなのだ。


 同社の既刊『〈萌訳☆〉孫子ちゃんの兵法』を紹介したときにも僕は紙面のわかりやすさを褒めたのだけれど、『孫子ちゃん』が「パッと見てわかる」タイプのわかりやすさだとすれば、本書『姫君様』は「読んでわかる」タイプのわかりやすさだといえるかもしれない。


 ここまで書いて、社会人になりたてのころに読んだビジネス書の文章を思い出した。
「仕事を教えるときは、その仕事全体のあらまし、その仕事で絶対に外せないポイント、それらの注意点、の順番で伝えるのが鉄則」というのがそれなのだけれど、きっと人間の脳ミソはこの順番で物事を理解しているのだろうな。本書を読んでいるとたしかにすんなりとわかってしまうのだから。


 ことばで説明してもラチが明かない。
 公式動画で実際の紙面を見ていただくほうが早い。
公式動画
 こんな感じの読みやすいつくりの本だ。
 あと、ちらっと見える通り、大河ドラマでおなじみの篤姫やお江など有名どころもきちんとフォローしている充実ぶり。


 動画といえば、以前ツイッターでこの動画のことをつぶやいていたことがあった。
よ、義姫が! あの義姫が萌えていくるじゃないくわっ!! これでガラシャたんがいようものなら僕ぁ萌え死ぬよ。購入決定。最近の総合科学出版さんは容赦なしだな。
@loplos(Twitter)
 そう、忘れるところだった。
 本書には義姫《よしひめ》はもちろん、僕イチオシのガラシャたん(細川ガラシャ=明智玉)もいるんだぜぃ♪


 ガラシャたんは明智光秀の娘として生まれた姫君だ。
 父の「本能寺の変」以後は世間の目に晒されながらも夫・細川忠興と仲むつまじく暮らしていたのだけれど、夫の遠征中にキリスト教に入信した。これがのちに悲劇を生むことになる。

 やがて情勢が変わって関ヶ原直前、ガラシャは石田三成の軍に襲われて人質に取られそうになった。自分が人質になったら、家康側の細川忠興はまともに戦えなくなるだろう。ならば、武家の女としては自害して果てるべきなのだけれど、キリスト教で自殺は禁止されている。

 悩んだガラシャが出した答えは、家老に自分を殺させる、という壮絶なものだった。

 敬愛する女主人に殺せと命令された家老の心中は、いかばかりのものであったろうか? 記録は黙して語らない。ただ、家老は命令を遂行したあと、姫が死後も辱めを受けないために館に火薬をしかけて自刃。そして館はあとかたもなく吹っ飛んだということだけが記録に残っている。
散りぬべき 時知りてこそ 世の中の 花も花なれ 人も人なれ
 上記はガラシャ辞世の句である。
 僕には、夫にむけて「あなたの思う道を進んでください」と言っているように読めるのだが、どうだろうか。


 な、ガラシャたんって萌えるだろ?


Σ('0'*)ハッ!
 愛するガラシャたんを見たものだから、つい僕なんかの駄文で紹介してしまったではないか。詳しくは本書の58ページだ。そこに僕のガラシャたんがいるのだ。

 あとガラシャたんの絵師さまの解釈にうならされた。
 ガラシャは良家の出身で、知性と気位の高さがあったという伝承をきちんと踏まえて描かれているのだ(萌え絵だけどさ)。
 ヘタに萌え美少女化して以前からの熱心なファンの神経をさかなでしている萌え本が多い昨今、熱烈なガラシャファン(※キモヲタ成分多め)の僕を満足させちまうのだから、やるじゃないか。


 情報のまとめ方がうまいのは先にも触れたけれど、萌えの部分でもまったく手を抜いていない。それどころか、きちんと史実を踏まえて萌やしてやがる


 再起動後の総合科学出版、マジであなどれん。

萌☆典 拝啓、姫君様っ萌☆典 拝啓、姫君様っ価格:¥ 1,575(税込)発売日:2010-12-16


●こんな本も→『〈萌訳☆〉孫子ちゃんの兵法』福田晃市・総合科学出版『森田さんのなぞりがき 天気図で推理する[昭和・平成]の事件簿』森田正光・講談社

『萌え萌えクトゥルー神話事典』クトゥルー神話事典制作委員会・森瀬繚・イーグルパブリシング

2010年12月03日 | 萌え
萌え萌えクトゥルー神話事典萌え萌えクトゥルー神話事典価格:¥ 1,575(税込)発売日:2009-10-23


 表紙がエロゲのパッケージすぎて本屋の店頭で買えなかった本書。orz
 そういうときのためにあるのが我らが希望、amazonさん。旧型スクール水着ですら「おもちゃですがなにか?」と軽く言ってのけるamazonさんにかかれば、この程度の本なんか誰にも見られずに梱包されてサクッと届けられるのだ。

 さすがamazon! おれたちにできない事を平然とやってのけるッ そこにシビれる! あこがれ(ry


 予備知識として
 クトゥルー神話(クトゥルフ神話、ク・リトル・リトル神話とも言われる)とは。

 米国の作家、H・P・ラヴクラフトが書いたホラー小説がもとになっている架空の神話体系である。
 内容はいわゆるコズミックホラーと言われるものだ。
 人類とはスケールも常識も違う異質かつ絶対的な力をもった宇宙的存在に対する恐怖に、魔導書や古代に沈んだムー大陸などの要素を加えて出来上がった神話体系で、「どう考えても理解し得ない絶対者に対する恐怖感」が濃厚に漂っている。
 やがて、この神話の設定を踏まえた作品がラヴクラフトの作家仲間で書かれるようになり、作品間の設定でゆるいつながりをもったシェアードワールドに似た展開を見せた。そうして出来上がったのがこんにちの「クトゥルー神話」である。(※注・けしてエロゲではない。

 この神話は現代日本にも受け継がれていて、平成ウルトラマンの『ウルトラマンティガ』はこの神と戦ったし、最近ではライトノベルなどでも活発にクトゥルー神話が使われていたりする。つまり僕たちもけっこう見ているのだ。(※注・だからけっしてエロゲではないのだ。


 そんなおどろおどろしい狂気の神話体系、クトゥルーを「萌え」で解説したのが本書である。

萌え萌えクトゥルー神話事典萌え萌えクトゥルー神話事典価格:¥ 1,575(税込)発売日:2009-10-23
クトゥルー神話のことをもっと知りたい??だけど、怖い話はカンベン。『萌え萌えクトゥルー神話事典』が、そんなアキバ系のあなたのための手引き書になることを切に祈る。
 触手と粘液がうねうねと絡み合い、常人ならば見ただけで発狂してしまう容姿をした恐るべき神々が……萌え美少女になっとるやんけっ! うん。たしかに怖くないね。うん。


 それどころかこの本、解説がかなり的確だ。
→『萌え萌えクトゥルー神話事典』(クトゥルー神話事典制作委員会編・森瀬繚監修・イーグルパブリシング)

もくじ
旧支配者
クトゥルーアザトースヨグ=ソトースナイアーラトテップ(以下略)
旧神
星の戦士ノーデンス[大いなるもの]
独立種族・奉仕種族
「深きもの」「バイアクヘー」「古きもの」ショゴス(以下略)
Column
旧支配者の系図
四大元素と旧支配者
設定上の混乱
クトゥルー神話の魔術
旧神の設定
レッツ・SANチェック!
クトゥルー神話 資料編
クトゥルー神話とはなにか
クトゥルー神話の「原典」
クトゥルー神話スポット
邪神が駆る者たち
邪神を狩る者たち
クトゥルー神話の作り手たち
クトゥルー神話書籍ブックガイド
 スペースの都合上、個別の神の項目の引用は割愛させていただいたのだけれど、本書にはこんな感じで合計43種類もの神々やその眷属たちが萌え絵で紹介されている。 なかでも主神、クトゥルーたんの萌えっぷりは一見の価値ありである。あのタコヅラ……もとい、粘液と触手にまみれた「大いなるクトゥルー」がこうなるのかっ!


 さて、肝心の内容について。
 本書のメインディッシュであるそれぞれの神についての解説は、だいたい1~2ページくらいの文章にまとめてある。プラス萌え絵。
 パッと見の文章量は少し多めなのだけれど、それに反して内容はとてもわかりやすい。きっとツボを踏まえたサブタイトルが付いているせいだろう。本文を読む前に「あ、こんな感じなのね」と思えるサブタイトルが理解を深めてくれるのだ。

 メインの神々の紹介以外にも、もくじにもあるようにクトゥルーに関連したコラムや背景に関した読み物も充分に用意されていて、本書を読めば「クトゥルー神話」のだいたいが理解できてしまうだけの情報量がそろっている。クトゥルー神話入門書としては充分な出来である。


 そして本書のもっともすごい点は、
 きちんと伝わるだけの情報を載せながら、それでいて萌えにもまったく手を抜いていないところだ。

 こういう萌え入門書って情報か萌えかのどちらかに偏る傾向があるのだけれど、本書にはそれがなく、タイトルの『萌え萌え』も『事典』も両立してしまっているのがすごい。


 看板に偽りなしの本書はオススメである。


 ちなみに。
 僕のお気に入りはイタカたん。
 雪の夜にやってくる、ねじ曲がった焼死体のようなショッキングナンバーワンな姿をしたイタカが、こんな美少女になるとはっ! その解釈のしかた、お見事である!

萌え萌えクトゥルー神話事典萌え萌えクトゥルー神話事典価格:¥ 1,575(税込)発売日:2009-10-23


 本書でクトゥルー神話に興味を持ったなら、創元推理文庫『ラヴクラフト全集 (1)』からはじまるシリーズを読んでみるといい。
 本書の知識があれば、この身の毛もよだつ神話をすんなりと理解できるだろう。



●こんな本も→『這いよれ!ニャル子さん』逢空万太・ソフトバンククリエイティブ
→『巫女さん入門 初級編』神田明神監修・朝日新聞出版
→『萌える☆哲学入門』造事務所・大和書房
→『〈萌訳☆〉孫子ちゃんの兵法』福田晃市・総合科学出版

『ユリイカ2010年11月号 特集=猫 この愛らしくも不可思議な隣人』青土社

2010年11月05日 | 萌え
 こんな顔見せられたら、買うしかないじゃないかよっ。

ユリイカ2010年11月号 特集=猫 この愛らしくも不可思議な隣人ユリイカ2010年11月号 特集=猫 この愛らしくも不可思議な隣人価格:¥ 1,300(税込)発売日:2010-10-27

→『ユリイカ2010年11月号 特集=猫 この愛らしくも不可思議な隣人』(いつもより大きめの画像で紹介してみた)


『ユリイカ』を知らない読者のために少し説明すると、
『ユリイカ』とは青土社から出ている文学・芸術総合誌のこと。サブタイトルは「詩と批評」。

 毎号、ある作者やテーマを取り上げて特集を組むスタイルの月刊誌なのだけれど、最近では「詩と批評」というより「サブカル路線の文学雑誌」というイメージが強い。初音ミクとか荒木飛呂彦とかの特集号もあったしね。
→『ユリイカ2008年12月臨時増刊号 総特集=初音ミク
→『ユリイカ2007年11月臨時増刊号 総特集=荒木飛呂彦


 そんでもって今回の特集は「猫」。
 角田光代と西加奈子の猫話対談に始まり、阿部穣二・町田康・池内紀などの執筆陣の猫エッセイがあり、さらには古今東西の短編猫文学アンソロジーが収録されていて、最後には猫が登場する本が大量に紹介されている。
 猫好きと本好きを併発している僕のような末期患者には垂涎の特集が190ページも続くのだ。

 はうー。

→『ユリイカ2010年11月号 特集=猫 この愛らしくも不可思議な隣人
ユリイカ2010年11月号 特集=猫 この愛らしくも不可思議な隣人ユリイカ2010年11月号 特集=猫 この愛らしくも不可思議な隣人価格:¥ 1,300(税込)発売日:2010-10-27



 冒頭の対談もそうだけれど各執筆陣のエッセイは「みんな猫が好きなんだねー」と思わせてくれるものばかりだった。

 本当の猫好きほど猫を「猫かわいがり」しないものだ。
 もちろん愛してはいるけれどベタベタするっての、あんまり好きじゃない。
 猫好きはこんな感じの一種独特のツンデレ感をもっているのだけれど、各エッセイの執筆陣にもみんなそれぞれ自分なりの「猫と付き合う掟」みたいなのがあって愛猫とどこか一定の距離を置いている。そういうのが出てくるたび「うん。わかる。わかるぞ」とニヤニヤしながら読んでしまった。はうー、萌え死ぬ。


 エッセイのあとは充実した古今東西の短編猫文学アンソロジーがあって、つづいて猫本が大量に紹介されてある。
 それはもう本当にすごい数の猫本が紹介されていて、僕の本はこのあたりが付箋でハリネズミのようになってしまったじゃないか。あぁ、また積ん読本が増えてしまうなぁ……と嬉しい悩みに悶絶中である。


 これでしばらくはネコ充(猫生活が充実した人間)決定だな。


 結論。

 猫充人間になりたければ本書を買え。
 異論は認める。


ユリイカ2010年11月号 特集=猫 この愛らしくも不可思議な隣人ユリイカ2010年11月号 特集=猫 この愛らしくも不可思議な隣人価格:¥ 1,300(税込)発売日:2010-10-27



 ちなみに、表紙の美猫は角田光代宅のトトちゃんである。

 電車で吊革につかまりながら本書を読んでいたら、前に座っていた小さな女の子に「ねこー!」と指をさされた。はいそうですよー猫さんですよー。
 お母さんは「これっ! 失礼でしょ」と叱りつつ僕に謝っていたけれど、いいんですよ気にしてませんから。それよりお嬢ちゃん、立派な猫好きに育つんだぞー♪


関連本
→『ポテト・スープが大好きな猫

『〈萌訳☆〉孫子ちゃんの兵法』福田晃市・総合科学出版

2010年10月08日 | 萌え
『スラムダンク孫子』の紹介を書いてから『孫子』の勉強を始めた。


 勉強とか言うんだったらせめて原文くらい読んどけよな、という話で資料集めにジュンク堂書店さんに行ったのだけれど、「中国思想一般」の棚で『〈萌訳☆〉孫子ちゃんの兵法』に遭遇。

 孫子……ちゃん?
( =_=) ジィー……
〈萌訳☆〉孫子ちゃんの兵法価格:¥ 1,575(税込)発売日:2010-09


 やっぱり孫子「ちゃん」って書いてある。
 しかも〈萌訳☆〉。

 ジュンク堂さんの人文科学書の中国思想の棚って、四書五経の原文とかが平気で並んでいてそれはもうとてもハードなのだけれど、そのなかで微笑む孫子ちゃん。
 黒っぽい色をした専門書の間で、ひときわ異彩を放つピンク髪の孫子ちゃん。


 孫武先生、ごめんなさい。
 こんな日本でごめんなさい。
orz


 もちろん買ったけどさ
〈萌訳☆〉孫子ちゃんの兵法




 本書は総合科学出版社の四十周年記念企画の第二弾として出版された。ちなみに第一弾は『なわとロープと結びの方法。』で、ロープワーク界騒然の萌え本であったそうな。


 総合科学出版さんといえば、『木炭の博物誌』とか『甲骨文名句選』とかのように、ハードな内容をわかりやすくまとめている専門書を書かせたらうまい出版社だと思っていたのに……いったいなにがあったんだ!?

 ホームページを確かめてみたら「おかげさまで40周年!総合科学出版再起動」というロゴと一緒に「企画、絵師、募集!!」という文字が。

Sougoukagakusyuppan

 え、絵師、だと……
 やる気だ。やつら、絶対ほかにもやる気だっ!


 なんてすばらしいんだ総合科学出版


 総合科学出版さんの今後にワクテカしつつ本書を読む。

〈萌訳☆〉孫子ちゃんの兵法価格:¥ 1,575(税込)発売日:2010-09
この本では『孫子』の中から要点をピックアップし、できるかぎり分かりやすく説明することによって、『孫子』のエッセンスを手軽に学べるように工夫しました。また、少しでも理解の幅が広がるようにするため、歴史の例も紹介しています。さらに、少しでも親しみがわくようにするため、イラストもマンガもついています。

→『〈萌訳☆〉孫子ちゃんの兵法』福田晃市・総合科学出版


 本書の基本は、見開き二ページを上下にわけ、『孫子』の核心部分を上下でふたつ紹介するというつくり。ページの右端には孫子ちゃんの「つまりこういうこと」というセリフとともに内容を踏まえた萌え絵四コマ漫画がある。

『孫子』引用部分は漢文からの書き下し文なのでちょっと難しいのだけれど、それぞれに付けられた日本語タイトルがとても分かりやすいのですいすい読めてしまう。たとえば、
百戦百勝は、善なる者に非ざるなり。
戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり。
 という有名な一節には
戦わないで勝つことを目指そう
 というタイトルがついている。
 これなら書き下し文に慣れていない読者でも、この部分が何を言おうとしているのかなんとなくわかるだろう。最初におおよそのことが分かったら理解はとても早くなるものだ。うむ。入門書の勘所が分かってる丁寧な仕事ぶりだ。

 かんじんの本文も、孫子独特の用語を現代語に置き換えているのがわかりやすい。たとえば冒頭の五事(道、天、地、将、法)はそれそれモラル、タイミング、ポジション、リーダー、システムと言い換えて説明してくれているのだ。これなら誰でもわかるのではないだろうか。


 あと。
 巻末付録で『孫子』全13篇の全文訳が掲載されていて驚いた。しかも内容はほぼ合っているじゃないか。
 僕が知っている孫子入門書で全文をいっぺんに載せているのはちょっと記憶にない。ひょっとして、これはすごいことなんじゃないだろうか。〈萌訳☆〉なんて言ってるが、なかなかどうして侮れないな。

 ライト層はもちろん、
 読み方次第ではかなりハードな内容にも踏み込んでいける入門書である。


 欠点は、
 本の中の絵があんまり萌えなかったことだ。(くやしくなんか、ないんだからっ)
 さらに〈萌訳☆〉と銘打ってはいるけれど、本文もオーソドックスな文章でとくにキャピキャピした萌え文でもない。(くやしくなんか、以下略)

 そのぶん一般人でも読める本に仕上がっているのはいいことだとは思うけれど、でもこれって「萌訳」というタイトルからは外れているんじゃなかろうか?(くや(ry


 まとめると、
 本文は「孫子で萌え」というよりも、「手軽な読み物で『孫子』を学べる本」と思って読んだほうがよいと思う。表紙はかなり萌えてるけど良くできた入門書である。

 オススメ。


 ……ま、買うときに表紙の孫子ちゃんに抵抗が無ければ、の話だけれどもさ。

〈萌訳☆〉孫子ちゃんの兵法価格:¥ 1,575(税込)発売日:2010-09


〈萌訳☆〉孫子ちゃんの兵法
(;´Д`)ハァハァ

『巫女さん入門 初級編』神田明神・朝日新聞出版

2010年04月16日 | 萌え
 酒の席で
「巫女さんっていいよな。きちんとした服装をして黒髪でさ。神様に仕えるからちゃんと礼儀もわきまえていらっしゃるし、古いしきたりも大事にしている。いいよな。萌えるよな。な? な?」
 と本心を吐露していたら
「そんなに巫女さんがいいなら、鏑木くんは巫女さんのところの子になっちゃいなさい! もう知りませんから!」
 と怒られた。


 なんで怒られたのか、
 いまだに理由がわからない。


 そんなわけで。

巫女さん入門 初級編』(神田明神監修・朝日新聞出版)を読む。

 本書は萌えのメッカ秋葉原を氏子《うじこ》にもつ神田明神が、ちまたにはびこる勘違いした巫女さん観に対して「ほんとうはこうなんですよ」と写真入りでわかりやすく、そして静かに語りかけている。

 けっして難しい内容ではないし語り口もおだやかなんだけれど、それだけに僕はなんだか神田明神の本気を感じてしまうのだ。

巫女さん入門 初級編巫女さん入門 初級編価格:¥ 1,470(税込)発売日:2008-07-18

→『巫女さん入門 初級編』(神田明神監修・朝日新聞出版)

 冒頭の神田明神のことばより。
美しい黒髪をわざわざ金髪に染めて派手な化粧をしたコスプレ巫女たちが我が物顔で町を闊歩《かっぽ》する様子を見て、神社として大きなショックを受けました。
 そうだろうと思う。
 あこがれたりモチーフにしたりして仮装するのはかまわないだろうけれど、ひとつの宗教の姿を理解せずに好き勝手にいじくるのはいけないことだ。それは宗教を、ひいては信じているひとを侮辱しているのと同じである。


 僕がちまたのコスプレメイドやコスプレ巫女を不快に感じるのはこういうところなのかもしれない。彼女たちは原点を理解せずただ単に「私アレンジ」という名前で着崩すだけの外見をしているからだ。

 あのね。
 メイド服はそれ一着ですべてを兼ねた究極の作業着なんだよ。
 なのにオムライスを作るときにメイド服の上からエプロンなんかするのはなんでさっ! そんなのおかしいだろっ! その服に付いてるフリフリエプロンは飾りなのかよ!? え? ちょっと責任者出せやごるぁ!


 あ、いや、
 本稿は僕のメイドさん巫女さん観を語るのが目的ではなかった。失礼。気を取り直して神田明神のことばの続きを引用する。
 こうした風潮に対して、若い女性に本当の巫女の姿と日本文化を少しでも知ってほしいと願い、(略)「巫女さん入門講座ー初級編ー」を開催したところ多くの方々から反響をいただきました。
そこで今回、講座に参加できなかった方でも内容をわかっていただけるよう、解説に図版を多用するなどの工夫をして一冊の本にまとめてみました。
 本書の内容はほぼすべてこのとおりだ。神田明神というその道のプロ、ホンモノの神職が主宰する若い子にもわかる巫女さん講座。それが本書である。

 巫女裳束《みこしょうぞく》のくわしい形と身につけ方といった初歩の初歩から巫女さんの基礎知識である神道をわかりやすくていねいな語り口で教えてくれる。


 冒頭の口絵の巫女裳束のつけ方からして本当に詳しい。
 足袋の履き方、襦袢《じゅばん》の着方、小袖の着方に緋袴《ひばかま》の穿き方。これらすべてが絵といっしょに解説されていて、モノさえあれば僕でも着付けができるだろうと思えるほどの充実ぶりだ。

 巫女さんが緋袴を穿くとき、帯のしたに付いている白い縫い目が見えるように結んでいるとあなたは知っていただろうか? 僕はそもそもそんな縫い目があることすら知らなかった。今度巫女さんに会ったら見てみよう。うん。


 あと「巫女さんになるためにはどうしたらいいか」ということもきちんと書かれていた。

 神田明神の巫女への道は意外と簡単、といったら失礼だけれど、ごくふつうに求人誌と学校募集などで採用しているのだそうだ。
 必要なのは人柄と神様への「こころ」らしい。

 巫女さんを目指す女子はぜひご一読を。ぜひ神様に仕えてほしい。


くそう、僕ももう十年若ければ……


 むつかしい話を少しだけ。

 僕は神道を信じているし、神道関係のわりと難しい本もいくつか読む。それで思うのだけれど、神道というのはふつうの知識の人々にことばで説明するのが難しいことがたくさんあるのだ。

 たとえば「死」と「穢れ」の神道独特の考え方とか「神社の森」とか「食べる」ことの意義とか。どれひとつとっても言葉にならないくらいむつかしくて、見て感じてもらう以外に伝えようがない。禅宗の言う「不立文字《ふりゅうもんじ》」に近い。

 なかでもとくに「食べる」というのは神道の……、なんだろう? 仏教でいうところの「戒律」とか旧約聖書のモーセが神と契約した「十戒」とか、あんな感じの宗教の根幹にかかわるものすごく重要なことである。
 お正月の鏡餅は神様に食べていただくために置くのだし、神社への賽銭の「初穂料」は初めて取れた稲の穂を神様に捧げるという意味だ。さらに天皇が一生のうちで一番大切な儀式は即位後はじめて食べ物を神に祀る大嘗祭《だいじょうさい》。

 こんなふうに神道は「食べる」ということをものすごく重視しているのだけど、それが本書を読むとわずか数ページでその言わんとしていることがなんとなく伝わってしまうのだから不思議だ。僕は読みながら何度も「そうだよ、そういうことだよ!」と膝を打ったかわからない。


 本書は巫女さん志願者の本としてはもちろんだけれど、神道の入門書としてもかなり良質である。
 さすが本職、神田明神監修の本だ。

巫女さん入門 初級編巫女さん入門 初級編価格:¥ 1,470(税込)発売日:2008-07-18



追伸:
 本書のうしろのほうにあるマンガ「巫女の一日」は一読の価値有り。儀式や舞の奉納などのほかにパソコンでのデータ入力のような事務仕事もあって、巫女さんはいろいろいそがしいのだ。

『萌える☆哲学入門』造事務所・大和書房

2009年12月20日 | 萌え
 いつのまにか「萌えて覚える○○」というのが、入門書のいちジャンルとして定着したようだ。

 書店の棚に並ぶそうそうたる萌え本たちは、『萌え萌え銃器事典』とか『現代萌衛星図鑑』とか、いかにも萌え層男子が好きそうなジャンルを「萌え」で解説してくれている。なかでもびっくりしたのが『萌え萌えクトゥルー神話事典』。これの表紙は、触手に襲われている美少女である。おいー(笑)。こんなのエロゲームのパッケージにしか見えないぞ。そりゃあまあ触手っぽいやつが多いけれども。


 ものはためしと、『萌え』から一番遠いジャンルを選んでみた。


萌える☆哲学入門』(大和書房)
萌える☆哲学入門 ~古代ギリシア哲学から現代思想まで~萌える☆哲学入門 ~古代ギリシア哲学から現代思想まで~価格:¥ 1,470(税込)発売日:2009-06-20


 本書の内容は、
 ギリシアの古代哲学から現代思想までの偉人哲人を、ひとり見開き二ページで紹介したもので、左ページには大きく二次元美少女……ではなく、ご本人のイラストと簡単なプロフィールと生涯がまとめられている。右ページにはその偉人が主張した哲学的テーマが載っていて、最後に案内の萌えっ娘キャラ(「ソフィア」アテネ生まれの16歳。父は哲学者)が一言添える。という展開。

 人物以外では、古代ギリシアから続く長大な哲学史を「古代」「中世」「近世・近代」「現代」の四章と番外編的に「東洋の哲学」に分け、それぞれの時代の思想的系図と大まかな流れをこれまた二ページ程度でまとめてあるので簡単に歴史の流れが掴めて読みやすい。
 おかげで哲学超初心者の僕でも、哲学というのは神以外のものを事象の原因に考えることから始まり、やがて宗教と融和し、そして現代では本当に広い思想全般に影響をあたえているだなー、という流れがよくわかった。


 二ページにまとめる、というこの方法のせいで落ちている部分もかなりあるだろう。しかし初心者にはこの程度の情報量でちょうどいいのだ。

 入門書の役割は初心者にそのジャンル全体の「もくじ」を見せることであって、個別の詳しい内容はそれぞれの専門書に任せればいい。つまり、「ここのところの専門書を読んでみたいな」と思わせるのが本当に良い入門書だと言える。

 本書の巻末には、そのために使える「読書案内」も用意してある。
 挙げられているのが良書かどうか僕には判断できないけれど、入門書のセオリーに則《のっと》った丁寧な仕事を感じた。「萌え本だから」と安易に手を抜かない姿勢に好感がもてる。


●総括
 本書を読んで、僕はカントとライプニッツの専門書籍を読んでみようと思った。
 これって哲学入門書としては満点に近いのではなかろうか。




 ここまで誉めたのであえて苦言も書いておく。

 本書は「萌え本」としては二流以下である

 だって萌えが少ないのだ。
 萌え要員といえば、案内役のソフィアちゃん(アテネ生まれの16歳。父は哲学者)くらいなもので、哲学者の絵がぜんぜん萌えない。とてもくやしいがきちんとした健全なイラストなのだ。
 宗教思想としてキリストやブッダや空海なども出てくるので、おいそれと萌え美少女化できないという事情もわかるけど……それを考えても、「萌え」と題名に付けるにはいま一歩萌えが足りないのではないか?


タイトルを見て、僕ぁてっきり『一騎当千』(三国志の美少女化)みたいなのを想像して、一人部屋で読みながら「アリストテレスたんは俺の嫁」とか「マキャベリたんのツンに萌えたー!」とか「ジェームズは文学」とか言いたかったのにさっ。僕のワクテカを返せっ。

萌える☆哲学入門 ~古代ギリシア哲学から現代思想まで~萌える☆哲学入門 ~古代ギリシア哲学から現代思想まで~価格:¥ 1,470(税込)発売日:2009-06-20