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鏑木保ノート

ブックライターの書評、本読みブログ。

【書評】『史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち』飲茶・マガジン・マガジン

2012年04月06日 | 哲学・思想
 以前当ブログで紹介した『史上最強の哲学入門』の続編が、ついに来たッ!

史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち (SUN MAGAZINE MOOK)史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち (SUN MAGAZINE MOOK)価格:¥ 1,800(税込)発売日:2012-03-14

 人気格闘漫画『グラップラー刃牙』を彷彿とさせるバキ語で語られた熱く、そしてなぜかすごくわかりやすい哲学の入門書『史上最強の哲学入門』。その続編が、カバーイラストも前著と同じく板垣恵介御大という豪華ぶりで再び僕らのもとに帰ってきた。
 いや、帰ってきてくれたのだッ!


 今回のテーマは「東洋哲学」。
 紀元前千五百年という、いまから三千五百年も昔のインド哲学にはじまった東洋哲学は、仏教、道教へと脈々と受け継がれ、東へ東へと旅を続け日本に伝わり、日本仏教、そして禅という形に結実した。

 理路整然と論理的に語られた西洋哲学とちがい、「悟り」をはじめ、「空」などの独特の感覚の世界を見つめる東洋哲学はハッキリ言って難しい。

 そりゃそうだ。
「悟りってなに?」を説明して理解できたら、仏教の修行なんていらないもんな。
 いや、それではダメ。せっかく書く機会を得たのだから、東洋哲学の「真髄」「本質」「核心」がガツンと伝わるような「史上最強の東洋哲学入門書」を目指して書くべきではないか?
 では、どうすればいい。今までの東洋哲学入門書には何が足りなかったのだろうか?
そうだ! 「バキ」分がたりなかったのだ
 そう、その言葉を待っていた!
 それでこそ前著『史上最強の哲学入門』を書いた飲茶氏だ。
 色即是空ッッ!
 空即是色ッッ!

史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち (SUN MAGAZINE MOOK)史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち (SUN MAGAZINE MOOK)価格:¥ 1,800(税込)発売日:2012-03-14

インド哲学・仏教・老荘思想・禅あらゆる東洋哲学は
なぜ東に伝わり、日本にたどり着いたのか?

おぬしに会いにくるためじゃよ!


→『史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち』飲茶・マガジン・マガジン


 前著の紹介のくり返しになってしまうけれど、もう見た感じバキバキしい表紙やまえがきにくらべ、本文は落ち着いていてとても読みやすい。

 そして本書では、
 東洋哲学のキモとも言える「悟り」の部分を「僕たち」というやわらかい文体で何度も何度も丁寧に語ってくれる。「説明」ではなく「語る」のだ。


 なかでも本文58ページからの一章はぜひ読んでいただきたい。
 長くなるので引用はしないけれど、仏教の開祖・釈迦の思想の源流となったヤージュニャヴァルキヤの語る『自己《アートマン》』の考え方の説明が、「映画」と「観客」のたとえを使ってわかりやすく解説されている。

 僕なんかがあらためて説明すると凡長になってしまうのでこれはもう「読んでくれ」としか言えないのがもどかしいのだけれど、本書に書かれている「悟り」とは、ちまたによくある東洋哲学解説書が言っている「悟り」とはぜんぜん違ってなんていうかこう、すごく「ガツン」と来る「悟り」だった。


 つまり悟りとは
「オレがガンダムだ!」
 なんだよ。

「おいおい(笑)。それが悟りかよ」とずっこけた人もいると思う。でもまあダマされたと思って読んでみてほしい。バキやガンダムを知らない人でもわかりやすい言葉で書かれているから。


 僕がいままで考えていた悟りってのは、内面的なスーパーマンのようになってあらゆることが解決するすごい境地だと思っていた。だけど、これ、ぜんぜん違う認識だったんだな(つまりトランザムしないってこと)。

 あらゆることが解決するのではなく、問題自体が「無い」。
 無いものを悩みようがないでしょ? という境地なんだけれど……うーむ、やっぱり言葉にするのは難しいなぁ。


 一応誤解のないように言っておくと、
 本書でも何度も述べられているように悟りの境地を「理屈として知る」のと「実際にそこに行く」はまったく違うことなのだろう。

 でもね、
「その境地がどれだけすごいところか」のさわりだけでも知ることができたなら、そこを目指して日々修行している仏教徒の方々の本当のすごさ、みたいなのが理解できると思う。「宗教」とか抜きの本当のすごさがね。


 そういうあたりも含めて、きちんと伝えてくれる良書だ。

 今回もとても楽しめた。
西田 なァ、道元さん、一緒に散歩しながら哲学してみましょうか
道元 クックックッ、西洋哲学者って奴ァ……とろけそうなほど甘い 哲学したいと言うなら黙って座っていればよろしい……このようにッッ!
ロラン・バルト そうやって死ぬまで仁のエクリチュールを貫き通すつもりかい
孔子 ニィ……
ロラン・バルト バカだぜ、あんた……


 もくじ
まえがき

東洋哲学とは何か?(1)
——東洋哲学は「ピラミッド」である

第一章 インド哲学 悟りの真理
01 ヤージュニャヴァルキヤ
  東洋哲学は「自己の探求」から始まった
02 釈迦
  「私」は存在しない
03 龍樹
  すべては「空」である

東洋哲学とは何か(2)——東洋哲学は「ただの耳」である

第二章 中国哲学 タオの真理
諸子百家
戦国時代に登場した哲人たち
04 孔子
  「仁」と「礼」に込めた熱い思い
05 墨子
  自身を愛するように他人を愛しなさい
06 孟子
  政治の根本は礼である
07 荀子
  政治の根本は「礼」である
08 韓非子
  国家を強くすることが政治である
09 老子
  万物は道から始まる
10 荘子
  言葉によって境界が生まれる

東洋哲学とは何か?(3)
——東洋哲学は「うそ」である

第三章 日本哲学 禅の真理

日本仏教の歴史
聖徳太子~徳川幕府

11 親鸞
  念仏による「他力」の心境へ

禅の歴史
東洋哲学のエッセンス

12 栄西
  「思考」を通さずに物事を理解する
13 道元
  「問題」を破壊し、飛び越える

十牛図
悟りを越えて

あとがき
 次回予告にある第三の哲学体系、中東からの史上最強の哲学者もすんごく気になるじゃないかッ!

史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち (SUN MAGAZINE MOOK)史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち (SUN MAGAZINE MOOK)価格:¥ 1,800(税込)発売日:2012-03-14

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●こんな本も
『史上最強の哲学入門』飲茶・マガジン・マガジン
『萌える☆哲学入門』造事務所・大和書房
『超訳 ブッダの言葉』小池龍之介・ディスカヴァー・トゥエンティワン


4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
表紙が…すっごく……ビスケットオリバに見えました。 (くじら)
2012-04-08 08:08:50
表紙が…すっごく……ビスケットオリバに見えました。

精神医学で悟りを定義すると「完全に狂った」状態だと何かで聞いた気がするんですけど、哲学者の多くが最後は狂っていくのも悟りを開くのに失敗したからなのかも知れないなと思いました。
返信する
>くじらさん (鏑木保(ろぷ))
2012-04-08 11:29:38
>くじらさん


 本書によれば、
 西洋と東洋の哲学はその形がまったく逆になっているそうです。

 西洋哲学は「誰も見たことのない真理」を目指してひとつひとつ論を積み重ねていきますよね。「前の人はこう言ったけど、ココはこうしたほうが真理に近いよね」とアップデートをくり返していきます。

 対する東洋哲学は「あ、俺、真理を悟ったから」と言ってしまう超人が現われ、その超人の境地を弟子に伝える、という形をとっています。だから宗教に発展する部分もあるんですね。


 こう考えてみると、
 西洋哲学は目的地がわからない(っていうか誰も見たことがない)ので、あんまり突き詰めちゃうとなかにはアッチのほうに行っちゃうひとが出てくる可能性もあるのかもしれませんねぇ。いや、まあそんなのはごく一握りでしょうけれど。


 あと表紙はあの板垣恵介氏のイラストですからね。顔にまで筋肉ついてるのがデフォルトです。はい
返信する
その違いがあるとき、ある人物を境にして作られた... (くじら)
2012-04-09 11:48:43
その違いがあるとき、ある人物を境にして作られた価値観でしかないという批判が、フリードリヒ・“狂人”・ニーチェの必殺拳「神は死んだ」です。
返信する
"人間狂気"、"神殺し"のニー... (鏑木保(ろぷ))
2012-04-10 00:18:39
"人間狂気"、"神殺し"のニーチェは前著の無印『史上最強の哲学入門』に出てきましたね。
 本書のバキバキしい雰囲気の影響で、半裸で筋肉ムキムキのヒゲオヤジを想像したのは秘密。

 あと「ツァラトゥストラ」は舌噛みそうになりますね。
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