新説 「三国志」の虚構と真実 (Panda Publishing) | |
満田剛 | |
Panda Publishing |
僕が『三国志』を知ったのは光栄の歴史ゲームの『三国志』の四作目か五作目でした。
それまでももちろん『三国志』自体は知っていたけれど、でもそれは学校で習った世界史程度の知識でして細かいところまでは知りませんでした。しかしまぁ、知ってみると面白いんですよね。これ。
そこから横山光輝『三国志』を読んで「曹操かっけー」となって、
さらに『蒼天航路』(王欣太・李學仁)を読んでもう痺れちゃいましたね。
そんなわけで僕は曹操ファンです。
曹操が主人公の『蒼天航路』はもちろん、横山光輝『三国志』でも赤い鎧で自分の信念というか覇道に対する確乎とした理屈をもっていて、それはときに冷徹で、でも筋は通っているっていうダークヒーローな感じだったな。のちに魏公、魏王となり三国の一角にもなる。
人望を頼られて仲間に押し上げてもらいつつ蜀の地で漢帝国の再興を目指す劉備や、江南に割拠し呉を打ち立てた武の兄と策謀の弟、孫策・孫権兄弟とか魅力的なライバルと三国の時代を築くんですよ。
カッコイイよね。三国志。
そんなわけで本書。
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『三国志演義』と歴史書『三国志』とで評価が異なる人物について、比較しながら簡潔に紹介し、レーダーチャートで能力もわかりやすく評価してみました。
また、『三国志』に関連する歴史や文学の研究が日進月歩で進んでいることを踏まえ、これまでの(私自身のものも含めた)見解・解釈とは少し異なった「歴史書『三国志』や『三国志演義』の登場人物たちの新しい姿」を紹介しようとしております。
本書を通して、最近の研究成果を基にした歴史書と小説の『三国志』の人物たちの姿に少しでも触れていただくことができれば幸いです。本書のつくりはとても読みやすかった。
まず人物の名前があって、その人物をあらわすひとことがばんと書いてある。これで三国志に詳しいひとだったら「ああ、あのときのひとね」とピンとくるんじゃないだろうか。
次に『演義』と『史実』の能力差をレーダーチャート上に重ねて書いてあって、いよいよ本編、『演義』の活躍と『史実』の記録とつづく。
ひとりひとりの分量もコンパクトにまとめられていて僕程度の三国志知識しかない人間にはとてもありがたかったな。
たとえば曹操。
【演義】“悪の美学”を貫く後漢末のアンチヒーローえっ!? 史実、ちょっとマジかよ!?
【史実】“袁紹の部下”で、“袁紹の真似ばかり”だった?
『三国志演義』での活躍は三国志を読んだひとはみんな知ってるだろうから割愛するけれど、登場から死去までの演義での曹操のうごきがコンパクトにまとめられている。精強な敵だった青州兵を自分の部隊として運用し、人格よりも能力を優先する徹底した現実主義で覇業に邁進するんだよ。曹操さまやっぱカッケーよ。
ふまえて「【史実】」だよ! 「【史実】」!
反董卓連合軍から離脱した後、揚州での募兵に失敗し、曹操は袁紹の陣営に戻っており、事実上袁紹に仕えていたと考えられる。さらに曹操が徐州の陶謙を攻撃するときも袁紹に援軍を派遣してもらっているし、呂布に攻められたときも援軍をもらい、さらには家族を避難させろとアドバイスまでもらっている。
このように見ると、袁紹は曹操のうしろだてだったということであおり(原文ママ)、曹操は“袁紹の部下”であったと考える方がよいだろう。さらにさらに。
袁紹を官渡で破ったあと天下の覇業に向かう我らが曹操さまなんだけれど
曹操に計画性があったとは思えない。袁紹を破ったあとの計画(河北に割拠して河南に攻めて天下統一)がまるまる袁紹が考えていた計画なんだそうな。
でその方針通り進めると簡単に劉表を制圧してしまったので勢いのまま孫権に攻撃をしかけ、疫病に苦しみながら、あの赤壁の戦いで大敗。
これで曹操の“借り物の”天下統一策が挫折してしまった。そしてその後はあっさりと方針を変更し、天下統一ではなく自らの権力・権威の確立にむかっていくことになったのである。
まじかー……。
三国志いちのライバルキャラも長いこと上司に仕えて戦っていたんだと思うと、なんか愛着が湧くというか、一緒に酒でも飲みたくなりますね。
『三国志演義』の主人公キャラ・劉備もそう。
演義ではその仁徳に惚れ込んだ関羽・張飛という一騎当千の武者と「桃園の誓い」を……「桃園の誓い」、史実ではやってないんだって(しょぼん)。
さらには関羽や張飛の武力、諸葛亮の知力に頼りっぱなしで、行く先々では仁徳で各陣営に受け入れられていた『演義』劉備だけれど、実際は武力もあって戦上手だった。各陣営に受け入れられた理由は軍事能力が優秀だったからで、いわゆる「さすらいの傭兵隊長」というポジションだった。
諸葛亮孔明だって劉備存命中は戦術に口出ししなかったくらいの戦上手だったらしい。
……そんなぁ……あのマジシャンレベルの「まて あわてるなこれは孔明の罠だ」がなかったなんて……。
でもでも。
戦国時代の「実は……」を扱った本(『教科書には載っていない! 戦国時代の大誤解』熊谷充晃・彩図社)を紹介したときにも書いたことなんだけれど、脚色をとっぱらった史実ってのはとても泥臭いもの。でもだからこそシリアスに生きる人々の息づかいが聞こえてくるものなのかもしれない。
意外な事実ばっかりだったけれど、でもだからって三国志のことが嫌いになったりしない。それどころか、史実を知ることで同じキャラでも血肉を備えたリアルな存在としていままでよりも近くに感じるから不思議ですね。
清濁ふまえ、知れば知るほどもっと魅力的に見える。
僕はそんなふうに読んだ。
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